生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。36話



「見て、恵太さん。あれなんかすごい形してないですか」
「ほんとだ、何をテーマにしたんだろうね」


週末、俺たちは高坂さんに誘われた展示会に訪れた。ホール内には数々のアート作品が置かれていて、どれも俺には作れなさそうな独特な個性がある。素人なので作品を見ても優劣はつけられないが、どれもきっと生徒一人一人が向き合って作ったものなんだろう。

「結構自由なんすね、テーマが同じでも作る人によって全然違う作品になってる」
「どれも活き活きしてるよね。いいな、僕も学生の頃に戻りたいよ」
「恵太さんまだ若いじゃないっすか」
「今の学生からしたら三十路は十分おじさんでしょ?」

恵太さんは優しく笑ってそう言う。しかしそうは言うものの、今日のように私服を着ればいつもよりかなり若く見える。

そんなことを思っていれば、ふと後ろから聞き覚えのある声に話しかけられる。


「マスター、誠さん、来てくれたんですね」

そう言ってこちらに笑いかけたのは高坂さんで、後ろには同じく専門学校の生徒らしき女の子が数人連れ添っている。

「お二人一緒に来てくれるなんて、本当に仲が良いんですね」
「ちょうど予定も合ったし、ね?誠くん」
「あ、はい。こういう展示会初めて来るんで、楽しみにしてました」

俺がそう言えば、高坂さんは嬉しそうににこりと笑った。

「せっかくなんで、私も一緒に見てまわっていいですか?」

高坂さんが恵太さんに尋ねると、恵太さんは顔を伺うようにこちらに視線を移した。きっと俺の意思を優先したいのだろう。

「いいんじゃないすか、一緒にまわりましょうよ」

ここで断るのも不自然だろう。

なんだか断れる雰囲気でもなかったので俺は潔く了承すると、恵太さんもうなづいた。高坂さんの友人であろう女の子数人も一緒に展示を見てまわることになって、俺はなんだか女の子に囲まれているこの状況に少し落ち着かなかった。さすが恵太さんは、何らいつもと変わらない穏やかな雰囲気で展示を歩き見ている。

「誠さんって言うんですか?」

ふいに高坂さんの友人であろう一人に尋ねられ、俺はうなづいた。

「高坂さんとバイト先が同じで。あ、って言っても高坂さんはもう辞めちゃってるんすけど」
「知ってます、喫茶店ですよね?」
「愛花がよく話してるよね、コーヒーが美味しいとか」
「カフェオレとかレモンティーとかもおすすめだって、あと簡単なスイーツもあるらしいから行ってみたいな〜」
「最近ずっと喫茶店の話だよね、本当に好きみたい」

どんどん他の女の子も会話に加わってきて、もはや俺がいなくても話は進んでいく。店の事をよく知っている様子を見ると、高坂さんは本当に頻繁に店の話をしているらしい。

「ぜひ、暇でもあれば来てください。マスターがもてなしくてくれますよ」

俺がそう言えば、周りのテンションはどんどん上がって自然と話題も盛り上がっていく。するとふいに、女子生徒の一人が腕を掴んで前に進もうとする俺を制止する。

「あと、もう一個聞いてるんです」
「……え?」

訳が分からずぽかんとすると、別の子が話し出した。

「愛花、マスターのことが好きらしいんです」
「歳上って聞いてたからちょっと身構えたけど、なんだかすごく優しそうな人だよね〜」
「うんうん、愛花が歳上狙ってるなんてびっくりしたー」

俺が何も言わなくてもまたもや話が進み、みんな揃って、いつの間にか少し先の方を歩く恵太さんと高坂さんを見つめた。

「でも、接点が無いらしいんです。バイトも辞めちゃったし、もうお客さんとしてお店に行くくらいしか出来ないって」
「だから私たち、今日は協力してあげようって思って!こんな機会滅多にないし、今日だけでも展示会二人っきりでまわらせてあげようって!」

必死の眼差しで見つめられ、なんだか彼女らの言おうとしていることが分かった。

「よかったら誠さんも、今日一日だけ協力してくれませんか?」

俺は囲まれ、期待の視線でじっと見つめられる。

こんなところで断ってもまた不自然だし、どう考えても断れる雰囲気じゃない。それにここで恵太さんと俺の関係をカミングアウトするわけにもいかない。

俺は半ばついていけないまま、こくりとうなづいた。

「よかったー!じゃあこのまま、気づかれないうちに別のブース行きません?」
「それいいね。誠さん、案内しますよ!」

そう言って上機嫌な彼女たちに連れられ、俺は恵太さんと高坂さんから静かに離れることになった。

なんでこんなことになったのか、まだよく理解してないけど、とりあえずなんか、予定外だ。本当は今日は俺と恵太さんの初デートなはずだったけど、そういう訳にもいかないらしい。

恵太さんは女の子には興味が無いらしいけど、気が変わったりはしないのだろうか。俺を溺愛する恵太さんのことだから、そんなことは心配していないのだけど、なんだかやはり気持ちは晴れない。

連れられたブースでは、さっきのアート作品とはまた違って、アニメーション作品や小さな家の模型など、たくさんの作品が置いてあった。どうやら高坂さんとは別の学科の生徒たちのブースらしい。俺が喋らなくても終始賑やかだったので、退屈することは無かった。

ある程度展示作品を見尽くすと、女の子の一人がスマホを取り出して言った。


「愛花がウチらのこと探してるってー」
「え~もお?進展したのかな愛花〜」
「告白しちゃえばいいのにね、なんだかあのマスター草食そうだしー」

俺はただ呆然とその会話を聞いていた。

あの人が草食系のフリして内に肉食獣を飼っていることを、彼女たちはもちろん知りもしない。

俺もふいにスマホを見ると、恵太さんからメッセージが来ていた。

"どこにいるの?"

そう一言、居所を問う内容が送られていた。返信しようとした時、後ろから高坂さんの声が聞こえた。

「もー!みんなどこ行ってたの?」

そう言って近づいてくる高坂さんと、後ろには恵太さんがいる。

「……変な気まわさなくていいんだから…!」

友達に小声でそう言ってから高坂さんは、俺に視線をやった。

「ごめんなさい友達が!誠さんに迷惑かけちゃって…」

その眼差しは一瞬、悲しそうなものに見えたが、すぐにいつもの調子に戻ったので気のせいだったのかもしれない。

「いや、俺も楽しかったし、へーきっすよ」

俺がそう答えれば高坂さんは安心したようで、よかった、と言った。

高坂さんが恵太さんへ好意を持ってるのは知ってたけど、その気持ちを伝えたのだろうか。それとも何も無かったのだろうか。

今は無性にそれが気になって仕方ない。

「じゃあ、今日はありがとう、楽しかったよ」

恵太さんが俺の隣に来て、高坂さんにそう告げた。
 
「はい、こちらこそありがとうございました。今度お店、みんなで行きますね」

高坂さんは明るくそう言って、帰る俺たちに手を振った。


帰り道になると、恵太さんはふと俺に問いかけた。


「楽しかったの?」

そう一言だけ尋ねられ、しばらくその問いかけの意図が掴めずに俺はぽかんとした。けれど少しして、それがさっき俺が何気なく言ったことに対してだと理解した。

「…退屈ではなかったです。けど、やっぱ恵太さんとまわりたかった」

俺が笑ってそう言えば、恵太さんは複雑そうな顔をして俺を見た。悲しんでるのか怒ってるのか、どうとも読み取れない表情だ。

「ごめんね、いないことにすぐ気づけなくて」
「いや、こっちこそ、勝手に離れたりしてすみませんでした。でも断れなくって」
「…断る?」

俺の言葉の意味を確認するように、恵太さんは尋ねてきた。

「…高坂さん、恵太さんのこと好きらしいっすね」

俺が単刀直入にそう言うと、恵太さんはしばらく黙った。それでからゆっくりと口を開く。

「聞いたよ、本人から」
「…告白されたんですか」
「…でも、付き合ってほしいとは言われなかった」

恵太さんは真剣な眼差しでどこかを見つめた。駅までの帰り道は、日が落ちかけてオレンジ色に染まっている。

「たぶん、分かってたんじゃないかな。僕たちの関係」
「…え?」

恵太さんの言うことが本当なら、さっきの高坂さんの視線は気のせいではなかったのか。

俺がぼーっと考えていると、恵太さんが俺の目の前に立ち塞がった。俺は思わず立ち止まって恵太さんを見上げる。

「僕が誠くんを裏切ることはないよ」
「…………ふふ、別に、心配してないっすよ。だって恵太さん、俺のことめちゃくちゃ好きじゃないですか」
「…ちょっとはヤキモチ妬いてくれてもいいんだけどな?」
「まったく妬いてないわけじゃないですよ?俺だってちゃんと、恵太さんのこと好きなんですから」

俺がそう言えば、恵太さんはバツが悪そうな顔をして俺の腰をぐいっと寄せてから耳元で囁いた。

「そういうのは、二人っきりのときに言ってほしいな。…今すぐ誠くんを抱きたい」

外なのにも関わらず、恵太さんは小声でそう囁く。幸い見ている人は誰もいないようで安心した。

抱きたい、なんてストレートな言葉を恥ずかしげもなく言われ少し心拍数が早くなる。俺は腰にまわされた恵太さんの手のひらを握って、じっと目を見つめた。

「早く、帰りましょ」

俺がそう答えると、恵太さんは俺の手を引いて駅まで早足で歩いた。恵太さんのマンション近くの駅で電車を降りて、ようやく恵太さん宅に着くと玄関に入ったところで、靴を脱ぐよりも先に、唇を奪われる。


「んっ、…ふ……っ」

壁に追い詰められるように迫られ、俺は受け入れるがままに恵太さんのシャツを掴んだ。痺れるような濃厚なキスに息が止まりそうになりながらも、ようやく離れると、俺は俯いてまたキスしようとする恵太さんを制止した。

「っは………ちょっと、待って恵太さん……ベッド、行きましょ…」

俺がそう訴えれば、恵太さんは素直にこくりとうなづいた。俺は恵太さんの手を引いて寝室まで行く。恵太さんがジャケットを脱いでいる間に、俺は自らベッドに仰向けに倒れた。

「…恵太さん、ほら、今日は恵太さんの好きにしていいですよ?」

俺が笑ってそう投げかければ、恵太さんはちょっと驚いたようにしてからすぐに、鋭い眼差しで俺を貫いた。

恵太さんが獰猛な肉食獣に変わるこの瞬間が、堪らなく好きだ。

恵太さんは眼鏡をはずして、俺に覆いかぶさるように何度も何度もキスをした。どんどん服を脱がされ、首から胸、腹、それから腿にまでキスをして舌を這わせた。

「っ、は………も、そこはいいですから、」

恵太さんがしつこく俺の胸に舌を這わさて弄ぶので、俺はもういいと訴える。しかしそれでも言うことを聞いてくれない恵太さんは、歯を立てて更に弄ぶ。

「んぅっ、ぁ……っ」

あっという間に恵太さんによって開発された俺の身体は、乳首だけでも大袈裟に声を上げてしまって恥ずかしい。

「ふふ…かわいい」

すごく愛おしそうに熱のこもった視線を向けられ、心臓がトクリと鳴る。

恵太さんの手が俺のズボンのベルトに触れ、カチャカチャと金具をはずしていく。既に張り詰めていた俺のものが露わになると、恵太さんの指がそれを愛撫する。

「ん……っ、ぁ」

すぐに達しそうになるのを耐えて、恵太さんを目を見ると、バチッと目が合って思わずビクッと身体が反応してしまう。行為中、ずっと恵太さんは俺の顔をじっと見つめてくる癖があるのだ。

すると次に指が後孔にあてがわれ、ゆっくりと押し込められていく。

「っん」

自分の声とは思えないくらい鼻にかかった甘い声が出て、耳を塞ぎたくなる。それでも構わず恵太さんの長い指が中を拡げるように動く。指がもう一本入ってきたところで、狙ったように中の一点を擦られ、ビクリと身体が跳ねる。

「ぁっ、ん……っ、………はっ……」

知り尽くしていると言わんばかりにそこばかりを攻められて、身体が震えるような快感に追い詰められていく。

「…かわいい、誠くんすごくかわいい」
「ぁっ、……け、たさん、そればっか………っ」
「…こういうことしてるときだけは、ポーカーフェイスな誠くんの乱れた顔、見れるから、ね…?」

そう言って、三本目の指をゆっくりと中に押し込んでいく。しつこいくらい何度も中を擦られ、頭の中が何も考えられないくらい真っ白になっていく。

「誠くん、大丈夫?」

名前を呼ばれて、飛びそうになった意識を何とか恵太さんへ向ける。

「ぁ……っ、も、いい…いれて、くださ、」

このままじゃセックスをする前に意識がどこかへ行ってしまう。

俺が必死に訴えれば、恵太さんは指を抜いて熱く熱を持った自分のものをそこにあてがった。

「…あんまり煽らないで、優しくできなくなるから」


苦しそうにそう言う恵太さんの声を最後に、俺の意識はどんどん遠のいて行った。





















目を覚ませば、隣で恵太さんが穏やかな表情でこちらを見つめていた。俺はゆっくりと瞬きをして霞む視界で恵太さんを見る。


「おはよう、誠くん」

そう言ってさりげなく俺のおでこにキスをした。朝の大人な雰囲気を纏った恵太さんは、穏やかに俺にほほ笑みかける。

「………おはよ、ございます」

掠れた声が、昨夜どれだけ鳴かされたのかを物語っていた。

「ごめんね、目元も腫れちゃったね」

少し心配そうに俺の目元を指先で撫でた。

「……すみませ、また俺…意識飛んで…」

全く記憶が無いわけじゃないが、いつもいつもゴール地点の記憶は曖昧ではっきりと覚えていない。

「ううん、すごくかわいかったから大丈夫だよ。無理させてごめんね」

別にそんな心配はしてないのだけど、と突っ込もうと思ったが、恵太さんがあまりにも幸せそうな顔をしているので何も言わないことにした。

にしても、恵太さんの体力についていけず、俺の身体は悲鳴をあげている。これはもう、まる二日は動けない。


「…恵太さん、愛してます」

俺がふいにそう言えば、恵太さんは少し驚いてから柔らかく笑った。

「僕もだよ、誠くん」






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