生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。30話




「……えー……っと…」


見舞いに来てニコニコとこちらを見つめる零央の親友らしき人物と、なぜか機嫌の悪そうな零央に挟まれ、俺の顔はひきつる。

「相良くん…だっけ?えっと、わざわざ見舞いにまでありがとう」
「ちょっとおにーさん、いいよ礼なんて言わなくて。っていうかなんでそいつ家に入れたわけ」

眉をひそめてそう言う零央に、相良くんはあははと苦笑いをした。

「まったく冷たいなー零央は。せっかくノートも写してきてやったのに、もうちょっと感謝してくれてもいいんじゃない??」
「別に頼んでないし、むしろ来て欲しくなかったんだけど」

あからさまに相良くんを嫌う零央の態度に、俺は訳が分からずポカンとしてしまう。

…親友なはずじゃ、なかったのか…??

そんな俺を見かねたのか、相良くんはコンビニ袋からゼリーやら飲み物やらを取り出しながら言う。

「なんでこんなに嫌われてるのかって聞きたいんですか?お兄さん」
「えっ…あ…ま、まあ…」

見舞いにまで来て、ノートも代わりに取って、心配してくれてるというのに。なかなかいないだろう、そこまでしてくれる友達っていうのは。

「なんで嫌われてんですかねぇ、俺も分からないですけど」
「は?明確だろ。相良がなんでもかんでも俺の真似してつっかかってくるから、めんどくさいんだよおまえ、ほんとに」

零央は嫌悪を前面に出してベッドから起き上がった。

「真似って、別にそういうつもりじゃないけどさー。ただ単純に好みが合うんじゃん?聴く音楽とか服の趣味とか、好きな子とか、かぶっても仕方ないですよねそんなの?」

相良くんは当然とでも言うように俺に話を振って問いかけてきた。

「えっ?…えぇ…っ?」

零央の、肯定するなというような鋭い視線が横から突き刺さる。

「あっ、あの…好きな子が被るって…っ?」

求められたYesNoの返答を避けるため、俺は苦し紛れに話題をすり替えた。にしても、そのすり替えた話題の先が悪いにも程がある。すぐ数秒後に、俺はその話題を選んだことを酷く後悔した。

「まぁそれが一番の嫌われてる原因っていうんですかねぇ。俺とこいつ、ほんとこれでもかってくらい好きな子がかぶるんですよね。まぁ結局いつも上手くいくのは零央の方なんですけど」

呑気な口調で、明るい色の髪の毛を揺らして笑った。零央は不満そうに口を閉ざしているようだった。

「そんな話しに来たならマジで帰れって相良、だからお前だけは家に来て欲しくなかったんだよ」

零央はため息をついて、どこか余裕のない様子で珍しい。

そんなに嫌なのか…?彼のことが。

今の話だって、結局零央が好きな子と上手くいってたんだろ?なら、嫌いたいのは相良くんの方なはずだ。

けれどその相良くんは、まったく零央を嫌っている様子もなく、むしろ好いているように見える。俺なんかよりもずっと零央のことをよく知っていそうだ。

「あ、俺、お茶いれてくるね」
「いやぁすんません、お気遣いなく」

相良くんは愛想良く笑ってそう言う。零央とはまるで正反対で礼儀正しい。キッチンに行こうと立ち上がったところで、零央から鋭い視線が飛んできたが無視してお茶をいれに行く。

零央に友達が多いのはなんとなく知ってたけど、いい友人を持ってるじゃないか。最近は遊びにも行かないし正直心配だったけど、こうして見舞いにまで来てくれる親友がいてよかった。

俺は久しぶりの来客に少し気分を上げてお茶をいれる。二階に戻って零央の部屋の前まで行く。なにか喋っているようだが、どうせ零央がまだ相良くんを追い返そうとしているのだろう。

ガチャリと扉を開けて中に踏み入る。

「お茶いれてきたけ……ど……」

扉を開けた先には思わぬ光景が目に入って、俺は思わず入り口で硬直した。


「はな、せっ…馬鹿野郎!」

珍しく零央が顔を真っ青にして怒鳴った。ベッドに寝込む零央を、相良くんが覗き込んでいた。それを零央は思いっきり頬を殴りつけると、相良くんはその勢いで後ろに倒れ込む。ドタッと物騒な音に俺はビクリと肩を揺らした。

まったく状況が掴めない。なんだ、どうなってる。

だがしかし、俺は確かに見てしまった。今、明らかに相良くんは、零央にキスしていた。

零央の怒りようや真っ青な顔から、今見たものがどんどん確信に近づいていく。俺がそのまま動けずに呆然としていると、バチッと零央と視線がぶつかった。

「……ちょっと…、おにーさんまさか変な誤解してないよね?」

零央がきまりの悪そうな顔でこちらを見つめた。俺は思わず視線を泳がせて黙り込む。

「…いってー…んなマジで殴んなくても…」
「おい相良、お前マジで何しに来た…早く帰れって…」

零央は口元を拭いながら、ギロリと相良くんを見た。そう言われた相良くんは怯む様子もなく、はいはいと面倒臭そうに返事をして立ち上がった。零央に余程の力で殴られたのか、口の端から赤く血が滲んでいる。

「ちょ、ちょっと待って、相良くんっ…!」

俺は思わず反射的に、帰ろうとする相良くんの腕をグイッと掴んで引き止める。するとその反動で、相良くんがバランスを崩した。

「えっ、」

俺は、相良くんの体がこちらへ迫ってくるのを最後に、俺はぎゅっと目を閉じて身構えた。耳元にバンッと壁を叩く音がして、思わずビクッと体を強ばらせるとしんと部屋が静まり返った。

「…………うわっ、」

ゆっくりと瞼を持ち上げると、視界いっぱいに相良くんの顔があって、俺は思わず腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。

「…えっと…お兄さん、大丈夫です…?なんかすんません、事故とはいえ、すげー勢いで壁ドンしちゃったんですけど……、お兄さんって結構大胆なんですね?」

相良くんは、なんともないような顔でそんな冗談を言った。俺はそれを聞いてかあっと体の温度が一気に上がった気がした。

「ごっ、ごめ、ごめん…!いや、違くて…その、」

俺が思わぬ事故に慌てふためいていると、相良くんは座り込む俺にさりげなく手を差し伸べてくれた。俺がその手を取ろうとすれば、すかさず零央がベッドから出てきて俺たちの間に割って入る。

「…ちょっと、さっきから状況掴めてないんだけど、なに?なんなの」

それはこっちのセリフだ、一体どういう状況なんだこれは。

「さ、さっき、今!ふたりが、き、…キス…してたから…!」

さすがにそれは見てられないと、つい相良くんを引き止めてしまった。事故だというのに、今の壁ドンを零央は根に持つような鋭い視線を向けてくるし、相良くんには申し訳なくてとてつもなく恥ずかしい。

「お兄さん、俺と零央がキスしてたら、何か不都合なことでもあるんですか?」

少し見上げた相良くんは、平然とした顔でそう俺に問いかけてきた。まるで何か試されているような、嫌な視線が上から降ってくる。俺は想定外の問いかけに言葉を失ってしまう。

「……不……都合…っていうか…」

零央と俺との関係をここで言ってしまっていいのだろうかと、俺は何も返せないで俯いた。

「……おい、相良おまえ何考えてる」

零央が訝しげに相良くんを睨んだ。

「別に何も?けど好きになった人を手に入れたいと思うのは当然のことだよね?零央」

なにか揺さぶるかのようにニコリと笑みを浮かべて、相良くんは零央をじっと見つめた。俺には、彼の考えていることは全く想像できない、さっぱりだ。

「じゃあ、お大事に」

そう一言だけ残して、相良くんはその場から立ち去って行った。俺は放心状態で何が何だか分からないまま立ち尽くしていた。しばらくすると、隣からチッと舌打ちが聞こえた。

「……あいつ、マジでぶん殴る」
「も、もう殴ってたけど…」

もし本当に、相良くんが零央のことを好きだというのなら、俺はどうしたら…。いや、どうするもなにも無いよな…。……っていうか…零央は女子だけじゃなくて男からも好意を寄せられることがあるのか…?

「…おにーさん、何考えてるの」
「……えっ………、…相良くん…のこと」
「あれは事故だよ、ただの事故…男とキスとか最悪。風邪菌移ればいい」

俺も男なんだけどなぁ……。

事故と言ったって、あんなの、好意以外の何物でもないじゃないか。

「……とにかく、おにーさんはアイツと接触禁止ね。すげーめんどくさくて危険人物」

眉をひそめて、零央は俺にそう言いつけた。それはこっちのセリフだ。俺からしたら零央の方が相良くんに近づいて欲しくないのに。

「あっ……れ、零央!おまえ寝てろ馬鹿!」

熱だというのを完全に忘れていた。






























「こんにちはー、お兄さん」


語尾が調子よく上がって、ニコニコと機嫌のよさそうな彼が玄関の前に立っていた。

「………………えっ…と…相良くん…?なんで、今日もうちに…?」

休日の朝、俺は玄関の扉を開けて呆然とした。

「零央、熱まだ下がってないんですよね?また見舞いに来たんです」
「…………そ、そっか…わざわざありがとう…」

相良くんはそう言って、当然のように家の中へ上がり込む。俺は追い返すわけにもいかず、仕方なく苦笑いで彼を見た。

「あ、そういえばこの前聞き損ねたんですけど、お兄さんって零央と付き合ってるんですよね?」
「えっ」

廊下で唐突にそう問いかけられ、俺は思わず立ち止まる。ここで否定したとしても、彼相手には何も説得力がない気がして、俺は素直にうなづいた。

「あーですよね、まあ、確認です確認。薄々分かってはいましたし」
「………………相良くんは……零央が、好きなんだよね……?」

複雑な心境で、俺は俯きながら小さな声で呟いた。相良くんはそれも聞き漏らさずにこちらをじっと見つめた。

「……はい、って言ったら、お兄さんはどうするんですか」
「…………ど…どうにも、できないかな……」

俺の恋愛偏差値じゃ、そんなハードルの高い闘いなんかできるはずない。

「零央が俺に盗られてもいいってことですか」
「っ、そ、れは…いいわけない…!」

俺が少し上にある相良くんの目を強く見つめて言うと、相良くんは一歩こちらへにじり寄って来てクイッと俺の顎を掬った。

「じゃあ、取引しません?ね、お兄さん」
「っ……と、取引……?」
「零央を盗られたくなかったら、お兄さんが俺と遊んでくださいよ。アイツはなかなかしぶといでしょ、俺が何したってダメなんですよ。俺もそろそろ飽きてきちゃったんで、ね?もし俺のこと、零央に近づいて欲しくないって思ってるんなら、乗りませんかこの話」

つらつらと並べられる話に、俺の頭はフリーズしかけた。歳上相手なのに物怖じせず取引を持ち掛けるとは、なんてメンタルの強さなんだ。

「いいでしょ、遊びましょう?お兄さん」


唐突に、嵐のように俺の前に現れた彼は、何か楽しむようにそう微笑む。そんな持ち掛けられた危険な取引に、俺の頭はくらりとした。





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