生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。17話




「零央くん、お誕生日おめでとう!」


母さんが、誰よりも楽しそうに零央の誕生日を祝う。テーブルにはたくさんの手料理が並べられ、完全にお祝いムードだ。

「わ、すげー美味そう」

零央は用意された料理を見て言う。

「零央ももう18歳か、早いもんだなぁ」
「ほんとあっという間よねぇ。真澄もいつ早かったわぁ」

母さんと巧さんは、感慨深いというように笑った。

こんなに賑やかな誰かの誕生日って、いつぶりだろうか。幼い頃に父親が亡くなってからは、母さんも仕事で忙しくしてたし、たった二人の家族じゃ、誕生日なんてあっても年に2回で。

「こうやって祝えるの、いいよな」

俺が言うと、巧さんも同じことを思ったのか、うんうんとうなづいてくれた。

「家族が増えて嬉しいよ。恵美、真澄くん、こんな奴だけど零央の事よろしく頼むな」
「んも~なぁに?巧さんったら、こっちのセリフよ。ねえ、真澄?」
「うん、巧さんには迷惑かけると思うけど、楽しくやっていけたらいいね」

3人でうなづくと、零央は呆れたような顔で笑った。

「みんなしてなに浸ってんのさ?早く食お」
「浸るくらい良いだろ?こっちに引っ越してきてからは、まだそういう会も出来てなかったしな?」
「そういう会ってどういう会よ巧さん~」


また賑やかな食卓になって、零央の誕生日の夜は、家族で盛大に祝った。まるで年越しみたいに盛大で、零央の誕生日というのは、ただ集まって楽しむための口実のようにも思えた。

























「へぇ、それで、ヤった?」
「なぁ誠、おまえ直球すぎないか?今俺が話してたこと聞いてないだろ」
「聞いてたって。まさか誕生日を家族で祝いましたで終わりじゃないだろ」

誠はじっとこちらを見つめてくる。俺はその視線の真っ直ぐさに勝てず目を泳がせた。

「あっ、目泳いだ。マスター、こいつとうとう処女卒業しましたよ」

誠は、カウンターに向かってそんなことを言うので、俺はテーブルの下で足を蹴ってやった。他にお客さんがいなくてよかった。

「真澄くん、義弟くんとうまくいってるんだ?」
「ま、まぁ…振り回されっぱなしですけどね…。あっ、そうだ。マスターにも相談したいことあって」

俺は思い出して、声をあげた。

「誕生日プレゼント、買おうと思うんですけど。何もらったら喜びますかね?」
「うーん、僕はその義弟くんのことはよく知らないからなんとも言えないな」
「で、でも、ほら…俺なんて、男友達にちゃんとしたプレゼント渡すことないですし…マスターなら、何か思いつくかなぁって」

俺は、ごもごもと口元で喋った。

マスターが今まで男の人と付き合ってきたなら、少なくとも同性へのプレゼントに慣れてるんじゃないかという、俺なりの考えだ。

マスターは察したのか、真剣に考えてくれた。すると、誠がテーブルに頬杖をついて聞いた。

「マスターは、今まで付き合った彼氏に何プレゼントしてきたんすか」

今付き合ってる誠が、よくなんの躊躇もなく聞けたものだ。無頓着というかなんというか、そういうところは誠らしい。

「そうだね…うーん、ペアリングとかあげたかな。そういうのは、すっごく喜んでくれたよ」
「ペアリング…」
「マスターの家の中に昔のペアリングごろごろありそうですね」

誠は笑いながらそんなことを言った。

「別に僕は遊び人ってわけじゃないんだけどなぁ」

マスターは苦笑いをする。でもたしかに、マスターは今までいろんな人との経験がありそうだ。

「…よし、決めた。ペアリングにしようかな」
「いいの?こんな案で」
「すっごい参考になりました。俺、今から出かけてきます」
「おー行ってこい」

俺は誠とマスターに見送られて、喫茶店を出た。

今日はバイトも講義も無いので一日フリーだ。零央へのプレゼントを買いに行こう。どうせあいつに聞いても要らないとしか言わないし、マスターに聞いて正解だったな。

そんなことを思って、俺は電車に乗った。電車の中で誠からメッセージが届いて、見てみると、何やらアクセサリーショップの場所が書いてあった。マスターが教えてくれたそうで、ここならどっちもメンズサイズのペアリングを作ってくれるらしい。たしかに、そこら辺のアクセサリーショップに行ったところで、女性用のペアリングを作られてしまうのがオチだ。自分から、男と付き合ってます、なんて言うのはかなりハードルが高かったので、ありがたい。

教えてもらったお店まで行くと、外観も中身も普通のアクセサリーショップで、男女のお客さんもいるようだった。俺は恐る恐る店内に入ると、ペアリングのサンプルが展示されているのが目に入ったので、俺はなんとなくそれを見てみる。

いろいろな形のペアリングがあって、どれもいいなって思ってしまう。零央が持っててくれたら、たしかに、嬉しいかもしれない。

そんなことを思っていると、店員さんが声をかけてきた。

「ペアリング、お作りになられますか?」

女性の店員さんが、微笑んでこちらを見た。

「あ、はい、あの…」

なんて言ったらいいのか分からなくて黙ると、俺が言うよりも先に、店員さんは口を開いた。

「お相手は、同性の方ですか?」

察してくれたのか、店員さんはそう問いかけてきた。俺は、思わず何も言えないでコクリとうなづいた。

「こちらに座ってお待ちください」

そう言われ、俺はそばにあったテーブルのイスに腰掛ける。しばらくすると、店員さんがいくつかサンプルを持ってきてくれた。

「デザインはどんなものがお好みですか?」
「えっと…あ、これとか」

どれもメンズ用のペアリングで、俺はその中からひとつ、指さした。黒とシルバーでセットのシンプルなデザインだった。

「シンプルでいいですよね。ペアリングは、指につけられますか?ネックレスの形にすることもできますよ」
「じゃあ、ネックレスの形にしてもらえますか」

零央はまだ高校生で、指につけてたら言われるだろう。首にかけてれば隠せるし、その方がありがたい。

そこで俺は、ふと気になったことを聞いてみる。

「…あの、よく、来るんですか?同性にプレゼントって…」

俺が聞くと、店員さんは笑顔で答えてくれた。

「はい、来られますよ。女性でしたら友人同士でペアリングを買いに来られる方もいますし、もちろん恋人に、という方も」
「そうなんですか…」

案外、俺が知らないだけで、同性と付き合ってる人っているのかもしれないと感じた。

すると、店員さんが何かひそひそ話をするように小声で言った。

「ここだけの話、この店を経営してる方が、同性の方とお付き合いされてるそうで。だから積極的にサービスを行うよう心がけているんですよ」
「…へぇ、すごいですね。嫌に、なったりしないんですか?そういうの…」

店員さんに聞くのもおかしいと思ったが、なんとなく聞いてみる。

「嫌になんてなりませんよ。ペアリングを買いに来る方は幸せそうな方たちばかりですからね?この店で働くようになって、性別がどうとかあまり気にしなくなったんです」

心からすごいと思った。こういうふうに、どこかで関係が認められるなら、疎外感なんて感じずにいられるんだろう、なんて。

零央は自由奔放で社会の目とかは気にしなさそうだし、いつだって自分のしたいようにしてる。そういうところは、素直に尊敬してるんだ。


リングは数時間でできると言うので、テキトーに街をブラブラして時間を潰してから、リングを受け取りに行った。完成したペアリングはとても綺麗で、早く零央に見せたくなった。

「…けど、恋人にプレゼントなんて、したことないしなぁ…」

情けないことに、彼女だってできたことなかったし…零央だったら、こういうのかっこよくこなしちゃうんだろうなって思う。

誰もいない公園で、不甲斐ない自分が情けなくなった。早く渡したいっていう気持ちが抑えられなくて、俺はもうすぐ学校が終わるであろう零央に、メッセージを送った。すぐに返信が返ってきて、この公園で待ち合わせることにした。




しばらく待ってると、零央がやって来た。学校帰りなので制服を着ているが、余計高校生らしさを引き立たせている。


「おにーさん、お待たせ。なに、珍しいじゃん、そっちから連絡くれるって」

零央は笑いながらそう言った。近づくなりふいにぎゅっと抱きしめられ、心臓が飛び出そうになった。

「な、なんだよ、急に…誰か見てるかも…」
「いいじゃん、ちょっとだけ。エネルギー補給?」
「……なにそれ」

ちょっとだけとか言いつつ、だいぶ長い時間抱きしめられていた。俺は解放されるなり、持っていた紙袋を零央に差し出した。零央は少し目を丸くしてこちらを見た。

「なにこれ?」
「…誕生日プレゼント、やっぱ、何か渡したくて」
「……なんだよそれ、めちゃくちゃ嬉しい」

零央はそう言って、紙袋を受け取った。

「開けていい?」

俺がコクリとうなづくと、包装を緩めて中の小箱をパカッと開いた。中身を見るなり、零央は驚いたような顔をしてこちらを見つめた。

「これ、ペアリング?」

俺はなんだか恥ずかしくて、黙ってうなづいた。

「すげー、イニシャルも入ってる。これ、高かったんじゃねーの?」
「…別に、バイトしてても使い道なかったし。受け取れよ」

俺がそう言うと、零央は素直に受け取ってくれた。

「おにーさん、付けて?」

俺に背を向けて言った。仕方なく、俺はペアリングを手に持って、後ろから零央の首に回した。ネックレスの金具をはめると、零央は自慢げにペアリングをこちらに見せてきた。その表情が、なんとも言えない幸せそうな顔で、心臓がドキッとした。

零央は基本的にポーカーフェイスなところあるけど、たまに素直に表情見せてくれて嬉しい。

「おにーさんのも、付けてあげる」

零央はシルバーの方のネックレスを俺の首にかけた。

「ん、似合ってる。おにーさんの割にはセンスいいじゃん」
「なんだよその上から目線…母さんたちにはバレないようにしろよな」
「はいはい分かってるって。おにーさんこそ、失くしたりしないよな?」
「んなことするかよ」

服の中にリングをしまって、俺らは公園を出た。家に帰る道中、なんだか幸せを実感してしまった。


零央には幸せをもらってばかりだな、なんて、絶対に言ってやらないけど。





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コメント

  • あんこ、

    通知来て飛んできました三└(┐卍^o^)卍ドゥルルルル

    3
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