生意気な義弟ができました。

鈴木ソラ

生意気な義弟ができました。14話




「だから、なんで…?」


俺は、誠とマスターを交互に見て問う。

「いや、流れで?なりゆき?っていうかさ」
「なりゆきで付き合われても困るんだけどね、僕は結構本気だから」
「いや、いきなり惚気ないでください」

なにがどうなってるのか、親友まで男と付き合い出す始末。しかも、マスターが実は男が好きっていうのは、予想外すぎて言葉も出ない。

「と、とりあえず分かったけどさ、マスターいいんですかこんなやつで」
「こんなやつって失礼な」

俺は誠を無視して話を進める。

「いつもテキトーだし、取り柄なんてマスターのコーヒー好きなとこくらいですよ」
「あはは、十分だよ。誠くん可愛いしね」
「可愛い?こいつが?どこ見て言ってんですか…??」

俺は誠をビシッと指さして言った。

「可愛いよ、すっごく可愛い」
「マスター、目がマジっす」
「はぁ〜なんだよ俺は惚気を聞きに来たのかよ」

俺はテーブルに突っ伏して嘆く。すると、誠は興味のなさそうな声で俺に問いかけた。

「そっちはどうなの、零央くんと」
「……どーもこーも…別に何も変わりはないけど…」
「零央くんって子、僕も会ってみたいな。今度ここに連れて来たらどうかな?美味しいもの作るしね?」

マスターは楽しそうにそう言った。

「あいつの気が向いたらそうしますね、気分屋なんで」

…………で、俺は唯一気になることがあって。

小声で、誠に耳打ちするようにして顔を近づけた。

「……おまえってさ、その……上なの、下なの…?」

それを聞いて、誠はプッと笑った。

「聞こえてるよ真澄くん」
「あっ、すみませ、気になって!」

マスターにも笑われ、俺は恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になっていると思う。

「僕的には誠くんを抱きたいんだけど、もし誠くんが嫌って言うなら考えるよ」
「うわ〜優しいんですねマスター…零央なんてなりふり構わない横暴っぷりですけど」
「んー、俺は正直どっちでもいいかな。あんまこだわりないし」
「男前だね、誠くんは」

こいつはいつでも男前だ、尊敬するぞそこまで潔いのは。

「なんで?真澄は嫌なの、抱かれるのが。ってかもうヤった?」
「…遠慮ないなおまえ。……ヤ……って、ないけど…別に、嫌っていうか…まだ考えられないっていうか…」

嫌なわけじゃない、と思う……けど、まだ零央に抱かれるとか想像できないし、零央を抱くなんてもっと想像できない…。そもそも俺には女の人とでさえ経験が…。

「……うわー…………死にたい、ほんと死にたい…」
「まぁ、男同士って大変だよ?とくに君たちは、ノンケだったんだからね」

マスターは優しくそう言って、サービスのコーヒーを出してくれた。僕も急ぐつもりは無いしね、とひとこと言ってカウンターへ戻って行く。すると、俺のポケットでスマホがブーッと揺れた。

「…零央が、もう学校終わるって……俺、コーヒー飲んだら行くな」
「平日までデートか、ラブラブなこった」
「べ、別に、学校6限で終わるから遊ぼうって…暇なんだよ、あいつ」
「それにいちいち付き合ってあげちゃうおまえもおまえだな」

誠は、ニヤニヤしてそう言う。俺はムカつく誠を無視してコーヒーを飲んだ。













学校の前まで来ると、零央と同じ制服を着た生徒たちが門から出てくる。楽しそうに喋りながら駅の方に向かったり、どこからかは、運動部の勇ましい掛け声も聞こえてくる。

……零央…まだ出て来ないのかな……。

俺は校門の柱に背をもたれて、スマホの画面を見つめた。返信は返ってこない。

「ねぇあの人、他校の人かな?」
「どうだろ?誰か待ってるのかな〜」

女子高生たちが、こちらをチラチラと見てそう話してるのが聞こえた。俺は女の子たちの話題にされていることには少しドギマギする。

……そりゃ、私服の奴がこんなとこ立ってたら目立つよな……落ち着かないし、場所変えようかな……。というか、私服なのに高校生だと思われてるんですけど…これでも俺成人してるし。

そう思っていたところで、向こうから誰か駆け寄ってくるような足音がした。

「おにーさん、待った?」
「…待ったよ」
「担任の説教くらって、ちょっと引き留められた。ごめん、なんか奢るからさ」
「いいって…義弟に奢られるとかなんかやだ」

零央について行くようにして歩き出すと、零央はこちらを振り向いて勝気な表情で笑った。

「義弟じゃなくて、彼氏の俺が奢るの。いいでしょ」

俺はそんなことを堂々と言われ、かーっと顔が熱くなる。周りの誰かに聞こえてるんじゃないかと、内心ドキドキした。

「………な、ならいい、なんか美味しいもん…奢って」

俺が苦し紛れにそう言うと、零央はそんな俺の気を知っているのか知らないのか、りょーかい、と言って俺の顔を覗き込んできた。

…………ち、ちょっとイケメンだからって…調子乗りやがって……。

生意気なこいつにいちいちドキドキしてる俺自身にも、ムカつく…。


























「おにーさん、歌わねーの」

零央はそう言って、こちらにマイクを渡す。

「……カラオケなんて、久しぶりすぎて何歌っていいかわかんないし…」

慣れないカラオケの空気に、俺は少々戸惑っていた。美味しいクレープ奢ってくれて、ゲーセンでちょっと遊んで、カラオケ来て。

「なんか…すごい高校生みたいなことしてる、俺…」
「なにそれ?」
「高校生のときでさえこんなことしてなかったのに…」
「うわでた、陰キャ発言。いーじゃん、だったら今楽しめば?」

そう言って笑うと、ちゅ、とさりげなくキスしてきた。俺はしばらくフリーズした後、俯いて零央の肩にワンパン入れてやる。

「はは、顔真っ赤」
「や…やめろ、そういうの…いきなりすんな…」

もちろん俺の力の入ってないパンチなんか効くわけもなく、笑って流される。すると、零央は何か思いついたようにしてマイクを置いた。

「ねぇ、ぶっちゃけ大会しない?」
「……………………なにそれ」
「そのまんま、ぶっちゃけるんだよ、本当のこと。じゃあ、おにーさんが先ね」

……な、なんか始まった…なにそれ、何をぶっちゃけろって言うんだよ。

零央は構わず話を続ける。

「ぶっちゃけ、おにーさん俺のこと最初どう思ってた?初めて会った時」
「…えー………」

これは、本当のこと言っていいのか?まぁ、ぶっちゃけ大会っていうくらいだしいいよな…。

「…陽キャオーラすごいし、めちゃくちゃ生意気だし、とことんムカつく奴だなって…………まぁ…今もそんな変わんないけどな」
「はは、ひでぇ言われよう」
「どうせ、おまえも同じようなこと思ってたんだろ?」

俺が聞くと、零央は少し考えるようにしてから答えた。

「んー、まぁね。歳上の割にひ弱そうだし、根暗そうっていうか。しかもなんか俺のことめちゃくちゃ嫌そうだしさ?いじめたくなったかな」
「おま、ほんと、なんて性格してんだよ…」

心底、なんで俺はこいつと付き合ってるんだろうと疑問に思う。

「でも実際おちょくってみたら、すげー反応いいし面白くなっちゃって」

やっぱ始めっから遊ばれてるじゃねえか俺……。

「おまえな……、酒、酔って帰ってきたろ。あれはほんとに、怖かったんだからな」

思い出すだけでヒヤッと背筋が凍る。

「あー、あれは、ちょっとやりすぎたっていうか…。正直言うとさ、アリだわって思っちゃったんだよね、おにーさんのこと」

流し目で俺のことを見て、ニヤリと笑った。俺はその顔にビクリと肩を揺らす。

「キスしただけで腰砕けちゃうような童貞だけど、感度は良いし顔真っ赤にしちゃって可愛いよね」

零央はソファに手をついてこちらへ詰め寄ってくる。

よね、って…共感を求めるな。

「あの人に取られそうになった時は、ちょっと焦ったかな…らしくないけど」

ちょっと真剣な顔をして、俺のことをじっと見つめた。俺はその視線に耐えきれずに目を逸らす。

あの人っていうのはたぶん、麻海さんのことだろう。

「…うそ、今のは無し、聞かなかった事にしといて。かっこつかないわ」
「……別にかっこつけようとしなくていいんだけど…」
「嫌だね」

零央は子供みたいにそう言って、自分の足の間のソファをポンポンと叩いた。俺は仕方なく、零央の意思通りにそこに座ってやる。そうすると零央は、後ろから俺に抱きついてきた。

…………なんかすげー…恋人同士みたい……、いや、恋人…なんだけどさ。

そんなことを思って、恋人、というワードになんだかムズムズした。ピタリと背後にくっついた零央の気配に、体温が少し上がる。内心のドキドキが伝わらないように、なんとか深呼吸をして心を落ち着かせた。

零央は後ろから俺の手のひらを、弄ぶようにして握った。肩に零央の呼吸を、やけにリアルに感じた。

「…どうしたの零央…なんか今日、すげー子供っぽいっていうか」
「俺まだ子供だけど?」

そんなこと言って笑う。子供のフリしたり大人のフリしたり、いつも振り回されてばっかだ。

「たまには甘えてもいいじゃん、ね?おにーさんも甘えてくれていいんだけど?」
「気が向いたらな」

歳上で義兄の俺に、よくそんなことが言えたもんだ。

「最近の俺のオカズ、おにーさんなんだけどさ」
「っ!?な、それっ、この前も聞いたしっ、なんなんだよ急に…!?」

突然の話に、俺は心臓が飛び跳ねる。

「だーかーら、やばいんだよね、なんかもう」
「……な、なにが……」

零央は、俺の耳元でどこか気だるげな声で喋る。

「妄想の中のおにーさんが、可愛すぎて、やばい」

顔がかぁっと一気に熱くなるのが自分でもわかる。俺はできるだけ顔を見られないように俯いた。

「そ、そんな話…聞いてない、し………」
「俺が頭ん中でおにーさんのことどういうふうにしてるか、聞きたくない?」
「き、聞きたくない…!ってか、は、ずかしすぎて………聞けない…………っ」

俺が全力で阻止しようとするも、零央は構わず話を続けた。耳を塞ぎたくても、手のひらは零央にガシッと握られているせいで何も出来ない。

「もー、すげーよ。俺、性欲強いからさ…止めらんなくて」

わざとらしく耳元でそう囁く。耳に息がかかるたびに、背筋がゾクッとする。明らかな悪意を感じるその行為に、俺は何も言えなくてただ黙った。

「何回も何回も…酷くしたけど、おにーさん、最っ高だったよ」

意地が悪い言い方だ。まるで、本当にしたみたいに…。

「………どう?想像した?」
「っ、ば、バカ、ほんとバカ、まじで、ぶん殴る……!」
「できないくせに?」

勝ち誇ったみたいな顔でそう言う。でも実際、喧嘩なんてしても勝てないから悔しい。

「か、勝手に、ぶっちゃけてるし、聞いてないのに…」
「……あー…限界。ちょっと、寝ていい?5分だけ」
「えっ?眠いのかよ、なら、家帰って、」
「いい、ここで寝る」

そう言うと俺に抱きついたまま、すぐに眠りに落ちたようだった。耳元で微かに寝息が聞こえる。

…………そういえば、受験生だったなこいつ……テスト近いらしいし、昨日も夜遅くまで勉強してたみたいだ。

そう思うと、こうして少しでも俺との時間を作ってくれているあたり、やっぱり彼氏としてかっこいいと思う。…ちょっと、惚れ直すかな、そういうとこ。

………………なんか……零央につられて眠くなってきた……。

























「もう9時じゃん。起きたらおにーさんも寝てるからびっくりした」
「つ、つられて…………てか、一緒に帰ったら不自然じゃない?」
「そう?駅で会ったってことにしとけばよくない?」

カラオケでふたりして爆睡し、退室時間を知らせるコール音で目を覚ました俺たちは、そんな言い争いをして家までの帰路を辿った。家に着くと、母さんと巧さんがリビングでくつろいでいた。

「ただいま、母さん、巧さん」
「あら、零央くんも一緒なのね。おかえりなさい」
「こら零央、学校はとっくに終わってるだろう?なにしてたんだ」

巧さんは、叱り口調で言う。零央はそれ面倒くさそうな顔して答えた。

「図書館行って勉強してた」

よくも平気な顔でそんな嘘を……。まぁ、俺と遊んでたなんて言えないけどな。

「ご飯あるわよ?まだ食べてないでしょう二人とも」
「やった、腹減ってたんすよ。食べようおにーさん」
「はいはい。おまえは制服着替えてこい、あっためといてやるから」

俺がそう言うと、零央はテキトーな返事をして2階へ上っていった。すると、ソファに座る母さんと巧さんが、なんだかにこやかにこちらを見つめていた。その二人の表情は気味が悪いくらい似通っている。

「ほんとあっという間に仲良くなっちゃって〜嬉しいわねぇ巧さん」
「あぁ、あんな奴だから少し心配していたけど、真澄くんなら大丈夫そうだなぁ」
「…………あ、あはは」

ムカつくところはいっぱいあるけどなアイツ……。

苦笑いをして、おそらく今日の夕飯であろう鍋の中のビーフシチューを温めていると、巧さんが突然なにか思い出したように声をあげた。

「あっ、そういえば、来週は零央の誕生日だったな?」

俺は唐突なその言葉に、一瞬手を止めて巧さんを見た。

「え、零央の?」
「そうそう、9月28日がね」
「あら、じゃあケーキ買ってお祝いしなきゃね?」

そう言って話していると、着替えて戻ってきた零央がリビングに顔を出す。

「なに、俺の話?」
「ほら零央、もうすぐ誕生日だろう?ケーキ買って祝おうって話してたんだ」

それを聞くと零央は思い出したように、あぁそうだっけか、と言った。自分の誕生日なのに、冷めた反応だ。

誰かの誕生日って、なんかちょっとワクワクするよなぁとか。そんな子供っぽいこと思っちゃったのは内緒だ。












































「塾長、お先に失礼します」
「あぁ、おつかれさま」

休憩室で教材の整理をしていた塾長に声をかけてから、俺は自習室を経由して塾を出る。

そう、何事もなく家へ帰るはずだった。

こいつに名前を呼ばれるまでは。


「橋場?」

自習室のど真ん中、久しぶりにその名前で呼ばれ俺は立ち止まった。

「あー…人違いじゃねーよな?」

少し不安がるようにしてそう言った、声の主の方へ俺は振り向く。その人物は、他の生徒と同じように自習室の席に座っていた。

「……………えっと…」

どこかで見たことあるとは思いつつも、パッと名前が出てこなくて俺は目を泳がせる。服装は派手めなものの、髪色は地毛なのか妙に落ち着いていて少し違和感を感じる。

「まさか忘れたわけ?俺だよ、高校のとき同じクラスだっただろ」
「……あ。…あぁ……早見はやみ、くん…」

俺がそう呼ぶと、彼はそうそう、と言ってうなづいた。

…忘れるわけがない。この早見はやみ 亮介りょうすけという男は、医者の息子で頭もいい上に金持ち、いつもクラスの中心にいる人気者だった。

「人違いかと思った、それ」

そう言って、俺の胸元のネームプレートを指さした。そこには鴨野と書かれている。

「あっ、はずすの忘れてた……親が再婚したから、名前変わったんだよね…」

俺は苦笑いでネームプレートをはずしながら、何度目かのその説明をした。早見くんは興味無さそうに、そうなんだ、とだけ言った。

「…ぇっと…なんで、早見くんが、ここに?」

高校生のときの癖か、同級生の前では声が小さくなる。

「ここの塾長、俺の叔父でさ。家じゃ勉強捗らねーからここ借りてんの」
「そ、そうだったんだ……俺は、ここでバイトしてる…」
「だろーな、見りゃわかる」
「だ、だね…あはは…」

なんで…よりにもよって、コイツと会わにゃならんのだ…。塾長、早見くんの親戚だったのか………。

俺は愛想笑いを浮かべて、一刻も早くこの場から逃げ出したいと思った。

「じゃあせんせー、勉強教えてよ」
「…………え、」

早見くんは、意地の悪そうな笑顔を浮かべて俺にそう言った。同じクラスのとき、散々この笑顔を浮かべるこいつにからかわれてきた。

「は、早見くんってたしか、医者目指してたんだっけ…医学部のある有名な大学受験したって聞いてたけど」
「そうそう、俺、医学部生」

……俺よりずっと頭いいくせに、勉強教えてとかふざけてるだろ……。

「橋場は?どこの大学行ってんだよ」

気にせず前の名前のまま呼んでくるのは、早見くんらしい。別にどっちでもいいんだけど。

「俺は…普通の大学だよ…」
「ふーん、普通の」

……こいつ…全然変わんないな、相変わらず嫌な奴だ…。

「おまえ、全然変わんねーな」
「…はっ?」

一瞬、自分の心の中を見透かされたみたいでドキッとした。

「やっぱ根暗そうだし、キョドってるし?」
「っ、……ご、ごめん……もう俺、帰んなきゃだから…」

俺はそれだけ言い残して、塾を去った。最後にあいつがどんな顔をしてたかは知らないけど、とにかく俺が苦手な奴だっていうのは変わりない。

……くっそ、ほんと嫌な奴……もう二度と会うことないと思ってたのに…。


あの気のいい塾長を、少しだけ恨む。





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コメント

  • あんこ、

    ふぉ!今回もいい感じのラブラブっぷりが見れて良かったです!!w次も頑張って下さい(*•̀ᴗ•́*)و ̑̑

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