生意気な義弟ができました。
生意気な義弟ができました。1話
「…それ、重そうだけど、手伝おうか?」
大きなダンボールを抱えた新しい義弟に、俺は思いきって声をかけてみた。昔から陰キャで人見知りな俺には頑張った方だ。
「あ、いや。おにーさんの腕が折れちゃったら困るんでへーきっすよ」
そいつは、涼しい顔してそう言った。しかもちょっと馬鹿にしたような含みのある笑顔で。いや、ちょっとどころじゃない、完全に馬鹿にされている。
…………折れるって…??そんなひ弱に見えるか俺が??いやまぁ、昔っから文化部にしか所属したことがないのは事実だけど!全く筋肉ついてないわけじゃねえし!?!?
なんて心の中で反論しながら、階段を上がっていくそいつの背中を、俺は眺めた。悲しいことに義弟の体つきは俺よりもずっとよく、きっとサッカーとかバスケとかしてるタイプだ。
どうやら新しくできた義弟はめちゃくちゃ生意気みたいで。
俺がもし高校3年生であいつと同い歳だったら、絶対に関わることもなかったであろう。教室の真ん中でいつも友達に囲まれてるのが容易に想像できる。彼女も軽く5人はいそうだ。(俺の勝手な偏見だけど)
とりあえず誰か助けてください、このままだと義弟にいじめられちゃいます俺。
「真澄、何ぼさっとしてるのよ?暇なら零央くんの荷解き手伝ってあげたら?」
「…えー…」
今のところあまり良いイメージのないあの義弟の荷解きを手伝えと。いやまぁ、いいんだけど。別に嫌いなわけじゃねえよ?歳下に喧嘩売られたって相手にする俺じゃないし?別に気にしてないし??
「零央くん今年受験生なのに引っ越しなんて、ちょっとタイミング悪かったかしらねぇ?」
「そんなことないさ。あいつ昔から要領は良くてな、我ながら自慢の息子なんだけどね」
「そうかしら?巧さんが言うなら安心だけど……あ、そうだわ。真澄、零央くんに勉強教えてあげたら?」
「あぁそれは助かるな。真澄くん、たしかバイトで塾の先生してるんだっけ?」
母さんと巧さんは、期待の目でこちらを見る。2人のその似通った眼差しが俺には少し痛く感じられ、俺は曖昧に苦笑いした。
「…ま、まぁ…必要になったら、付き合いますよ」
俺が勉強を教えようと言ったところで、いらない、の一言で片付けられるのが想像出来なくもないがな…。
「荷解き?いい、一人でやれる」
ですよねー。
せっかく俺が手伝ってやるって言ってるのに、とことん素直じゃない奴だ。いらないならそれはそれでいいけど、もうちょっと他に言い方があるだろ…。
もともと物置部屋だった部屋が今では綺麗に片付けられ、すっかり見覚えのない部屋になってしまった。俺は半分くらい開いた扉からその部屋を眺めて溜息を吐いた。
「…零央く…零央は、今年受験生なんだろ?」
歳上で義兄なのにくん付けもどうかと思って、思いきって呼び捨てにする。
「あーまあ、一応」
予想通りの素っ気ない返事が返ってくる。
それでも俺はめげずに言葉を紡いだ。
「勉強、もし困ったら言えよ。…俺だって一応現役学生だし、ちょっとなら教えてやれるから」
俺がそう言うと、零央はしばらくじっとこっちを見つめて黙った。俺は、何かまずい事でも言ったかと、内心少し焦りながら向こうの返答を待った。
「…あー、そーですね。塾とかそういうの嫌いだし、教えて欲しいかも、勉強」
無表情で返ってきたその意外な言葉に、俺は思わず呆気にとられてしまった。
少なくとも、今日だけで悪態に対してこびりついた負のイメージとは、かけ離れた素直さが垣間見れたような気もする。
…意外と素直なとこもあるじゃん…。
とか、ちょっと気分が良くなっていると、零央が再び口を開いた。
「まぁ、おにーさんの教え方にもよるけど」
…………。
またあの意地の悪いような含み笑いで笑った。まるで上げて落とすかのようなそれに、明らかな悪意を感じる。
「…そう…まあ…なんでもいいけど…?…じゃあ、いろいろ大変だろうけど、頑張って」
俺はなんとか笑顔を作って必死の言葉を取り繕った。そのあと閉めて去った扉にはさぞ力がこもっていたことだろうけど。
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