観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
残酷な真実
誰もいない教室で、けれど私は立ち尽くす。見つけたものなど一つもないのに。私は唖然と立ち尽くす。
「ここって……」
そう、私は戻って来たんだ、ここへ。きっと、ううん、もう二度と来たくはなかったこの場所へ。
三年二組の教室、私がいじめを受けていた現場。覚えてる、私の席は右から二番目の、後ろから四番目。教室のわりと中央にある席だ。
私はかつての自分の席に近づき、机に触れてみた。視線を下げればそこには何も書かれていない。当然か、あれから六年も経っているのだから。
私は懐かしむような忌避するような、複雑な心境で机を見つめる。自然と目つきが細くなる。この席で、私は……。
すると、何も描かれていなかった机にいきなり文字が浮かび上がった。黒のマジックで、いくつもの言葉が浮かび上がる。
「なに!?」
驚いて手を離す。そこには、
『死ね』『バカ』『クサイ』いくつもの悪口が書かれていた。
「なんで……?」
あまりのことに後ずさる。しかし今度は黒板に、チョークで大きく文字が現れた。
『アリス出てけ』
でかでかと、一面に。私に向かって書かれた悪意が。私は顔を横に振る。けれど、文字から目が離せない。
今度はひそひそと、どこからか話し声まで聞こえてきた。
『おい、アリスが来たぜ?』『うわー、急にクラスが臭くなった~』『誰だよ臭いやつ~』
声だけが教室に現れる。見えない人が教室にいるように。あちらこちらから、声が聞こえる。
『なあ、みんなでアリスのこと無視しようぜ?』『さんせー』『アリスに声かけたやつゼッコーだからな?』
ひそひそが、ざわざわに変わる。小声が反響して、大声になって聞こえてくる。
「やめて……」
いつしか、私の唇は震えていた。聞こえてくる。知りたくもない、思い出したくもない言葉が耳に入ってくる。
「嫌、嫌……」
私は両手で耳を塞ぎ、目を閉じた。
「嫌ぁあああ!」
気持ちが、締め付けられる。悲しくなってくる。なんで? なんでこんなヒドイことをするの?
なんで、こんなことが平気で出来るの?
湧水のように溢れる記憶が、私の傷口を広げていく。その度に泣きたいほど悔しくて、悲しい思いに襲われる。
私は拒むように耳と目を閉じる。けれど、ここに来て記憶を思い出していく。当時に味わった、いじめの記憶を。
その、時だった。
「オオオオオン!」
教室にまで辿り着いたメモリーが入口を破壊して入ってきた。頭から突っ込み、大きな口を開け赤い目を光らせる。エメラルドグリーンの触手を蠢かし、私に近づいてきた。
「あ」
私は後退しながら、メモリーを見つめる。恐怖が、悲しみも悔しさも呑み込んでいく。
メモリーは存在している、今もこうして。私を取り込み記憶に戻ろうとしている。
その正体はトラウマの記憶。私はいじめられていた、辛い思いをした。その時の記憶は思い出した。
でも、それだけじゃないの? 私はまだなにかを思い出していない。なに? 私はなにを忘れているの?
私は壁際まで下がっていた。もう下がれない。そんな中、近づくメモリーを見つめながら、私は必死に考える。
「ここって……」
そう、私は戻って来たんだ、ここへ。きっと、ううん、もう二度と来たくはなかったこの場所へ。
三年二組の教室、私がいじめを受けていた現場。覚えてる、私の席は右から二番目の、後ろから四番目。教室のわりと中央にある席だ。
私はかつての自分の席に近づき、机に触れてみた。視線を下げればそこには何も書かれていない。当然か、あれから六年も経っているのだから。
私は懐かしむような忌避するような、複雑な心境で机を見つめる。自然と目つきが細くなる。この席で、私は……。
すると、何も描かれていなかった机にいきなり文字が浮かび上がった。黒のマジックで、いくつもの言葉が浮かび上がる。
「なに!?」
驚いて手を離す。そこには、
『死ね』『バカ』『クサイ』いくつもの悪口が書かれていた。
「なんで……?」
あまりのことに後ずさる。しかし今度は黒板に、チョークで大きく文字が現れた。
『アリス出てけ』
でかでかと、一面に。私に向かって書かれた悪意が。私は顔を横に振る。けれど、文字から目が離せない。
今度はひそひそと、どこからか話し声まで聞こえてきた。
『おい、アリスが来たぜ?』『うわー、急にクラスが臭くなった~』『誰だよ臭いやつ~』
声だけが教室に現れる。見えない人が教室にいるように。あちらこちらから、声が聞こえる。
『なあ、みんなでアリスのこと無視しようぜ?』『さんせー』『アリスに声かけたやつゼッコーだからな?』
ひそひそが、ざわざわに変わる。小声が反響して、大声になって聞こえてくる。
「やめて……」
いつしか、私の唇は震えていた。聞こえてくる。知りたくもない、思い出したくもない言葉が耳に入ってくる。
「嫌、嫌……」
私は両手で耳を塞ぎ、目を閉じた。
「嫌ぁあああ!」
気持ちが、締め付けられる。悲しくなってくる。なんで? なんでこんなヒドイことをするの?
なんで、こんなことが平気で出来るの?
湧水のように溢れる記憶が、私の傷口を広げていく。その度に泣きたいほど悔しくて、悲しい思いに襲われる。
私は拒むように耳と目を閉じる。けれど、ここに来て記憶を思い出していく。当時に味わった、いじめの記憶を。
その、時だった。
「オオオオオン!」
教室にまで辿り着いたメモリーが入口を破壊して入ってきた。頭から突っ込み、大きな口を開け赤い目を光らせる。エメラルドグリーンの触手を蠢かし、私に近づいてきた。
「あ」
私は後退しながら、メモリーを見つめる。恐怖が、悲しみも悔しさも呑み込んでいく。
メモリーは存在している、今もこうして。私を取り込み記憶に戻ろうとしている。
その正体はトラウマの記憶。私はいじめられていた、辛い思いをした。その時の記憶は思い出した。
でも、それだけじゃないの? 私はまだなにかを思い出していない。なに? 私はなにを忘れているの?
私は壁際まで下がっていた。もう下がれない。そんな中、近づくメモリーを見つめながら、私は必死に考える。
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