観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
這い寄る混沌3
瞬間だった。白うさぎは今までとは別の笑い声を響かせながら体が膨らんでいった。巨大化していくにつれ体が影に浸食されていく。
足はなくなり胴体が地面から生え、巨人の上半身が、土を盛り上げたような形で現れた。
その巨体、影絵のような黒い体は体育館の天井に届くほど。細い両腕をゆらゆらと揺らし、首のない顔には二つの目が浮かび上がった。
「ハッハハハ! ソウダ、好奇心ダヨ白ノ王」
口のない顔から声が出る。いくつもの声が重なったような、独特な重低音が室内に広がった。
「私ハタダ楽シミタイダケダ。他ノ者タチガ慌テフタメク様ニ胸ガ踊ル。故ニ壊ソウ。混沌ト、狂気ニ満チタ素晴ラシキ新世界ダ。オ前モ興味ガ湧クダロウ、白ノ王?」
「分かりかねるな」
ニャルラトホテプの視線、それは狂気以外のなにものでもない。魔性を帯びたその視線はメタテレパシーを遥かに凌駕する精神攻撃を持っている。彼は深層世界の中でも最上位の邪神だ。
好奇心は時に猫をも殺す。このことわざの通り、好奇心には興奮と同時に危険が混ざっている。
下手をすれば死に追いやる心の麻薬。それがニャルラトホテプという人格であり、混沌と狂気を振り撒いている。
「私ハ支配シナイ。王ニモナラナイ。タダ混沌ヲ生ムノミ」
ニャルラトホテプが上体を曲げてホワイトを見下ろす。山のような巨体はホワイトの頭上を覆い尽くす。
「私ハ、誰ニモ止メラレナイ」
言葉の後、ニャルラトホテプの全身からいくつもの手が伸びた。それらは鞭のようにしなり、地面を、壁を、窓ガラスを破壊し体育館中を蹂躙した。
無数の腕が生み出す空気の乱れに強風が吹き破片が宙を舞う。圧倒的な力を誇示し、己の強靭さを見せつける。世界の革新、好奇心に突き動かされる暗黒の邪神が、混沌の誕生を歓迎している。
しかし、ホワイトは言った。
「いや、ここで終わりだ」
「計画ハ進ンデイルノニ?」
「関係ない」
「何故ダ?」
「俺が倒す」
「倒スダト?」
ホワイトは見上げる。そこにいる強大な敵を前にしてしかし怯えも見せず。
「好奇心。這い寄る混沌ニャルラトホテプ。故に、人ではお前を殺せないだろう」
ニャルラトホテプはアリスの好奇心が実体化した存在だ。故に、誰も彼を殺せない。
「しかし、遊びは終わりだ」
それでも、彼は諦めていなかった。ニャルラトホテプを前にしても、倒せると確信しているのだ、彼、ホワイトは。
「アリスに害なすものならば、俺はなんであろうが排除する」
這い寄る混沌、ニャルラトホテプを前にホワイトは宣言する。世界すら変えようとする邪神を倒さんと、ホワイトは冷淡な口を動かした。
「使うぞ、世界の意思を知るといい」
そして続ける、彼は言葉を紡ぎ始めた。瞬間。
世界が、軋んだ。
「螺旋に組み込まれた歯車よ、何故回る。それほどまでに生きたいか。生きる意味も知らぬのに」
彼が言葉を紡ぐ度、黒い世界が捻じれ、そこから眩い光が溢れ出す。そして、ホワイトは片手を突き出した。
「生にしがみ付く哀れな者よ、ならば与えてやろう。生きること。それは痛みを知ること。踊れ、お前は今生きている。歓喜しながら泣き叫べ。
これが欲しかったんだろうッ!?」
ホワイトの呼び声に応じるように白い光は焔に変わり、炎は像を作り出す。
「こい、熱傷の痛みを教えてやれ。クトゥグア!」
足はなくなり胴体が地面から生え、巨人の上半身が、土を盛り上げたような形で現れた。
その巨体、影絵のような黒い体は体育館の天井に届くほど。細い両腕をゆらゆらと揺らし、首のない顔には二つの目が浮かび上がった。
「ハッハハハ! ソウダ、好奇心ダヨ白ノ王」
口のない顔から声が出る。いくつもの声が重なったような、独特な重低音が室内に広がった。
「私ハタダ楽シミタイダケダ。他ノ者タチガ慌テフタメク様ニ胸ガ踊ル。故ニ壊ソウ。混沌ト、狂気ニ満チタ素晴ラシキ新世界ダ。オ前モ興味ガ湧クダロウ、白ノ王?」
「分かりかねるな」
ニャルラトホテプの視線、それは狂気以外のなにものでもない。魔性を帯びたその視線はメタテレパシーを遥かに凌駕する精神攻撃を持っている。彼は深層世界の中でも最上位の邪神だ。
好奇心は時に猫をも殺す。このことわざの通り、好奇心には興奮と同時に危険が混ざっている。
下手をすれば死に追いやる心の麻薬。それがニャルラトホテプという人格であり、混沌と狂気を振り撒いている。
「私ハ支配シナイ。王ニモナラナイ。タダ混沌ヲ生ムノミ」
ニャルラトホテプが上体を曲げてホワイトを見下ろす。山のような巨体はホワイトの頭上を覆い尽くす。
「私ハ、誰ニモ止メラレナイ」
言葉の後、ニャルラトホテプの全身からいくつもの手が伸びた。それらは鞭のようにしなり、地面を、壁を、窓ガラスを破壊し体育館中を蹂躙した。
無数の腕が生み出す空気の乱れに強風が吹き破片が宙を舞う。圧倒的な力を誇示し、己の強靭さを見せつける。世界の革新、好奇心に突き動かされる暗黒の邪神が、混沌の誕生を歓迎している。
しかし、ホワイトは言った。
「いや、ここで終わりだ」
「計画ハ進ンデイルノニ?」
「関係ない」
「何故ダ?」
「俺が倒す」
「倒スダト?」
ホワイトは見上げる。そこにいる強大な敵を前にしてしかし怯えも見せず。
「好奇心。這い寄る混沌ニャルラトホテプ。故に、人ではお前を殺せないだろう」
ニャルラトホテプはアリスの好奇心が実体化した存在だ。故に、誰も彼を殺せない。
「しかし、遊びは終わりだ」
それでも、彼は諦めていなかった。ニャルラトホテプを前にしても、倒せると確信しているのだ、彼、ホワイトは。
「アリスに害なすものならば、俺はなんであろうが排除する」
這い寄る混沌、ニャルラトホテプを前にホワイトは宣言する。世界すら変えようとする邪神を倒さんと、ホワイトは冷淡な口を動かした。
「使うぞ、世界の意思を知るといい」
そして続ける、彼は言葉を紡ぎ始めた。瞬間。
世界が、軋んだ。
「螺旋に組み込まれた歯車よ、何故回る。それほどまでに生きたいか。生きる意味も知らぬのに」
彼が言葉を紡ぐ度、黒い世界が捻じれ、そこから眩い光が溢れ出す。そして、ホワイトは片手を突き出した。
「生にしがみ付く哀れな者よ、ならば与えてやろう。生きること。それは痛みを知ること。踊れ、お前は今生きている。歓喜しながら泣き叫べ。
これが欲しかったんだろうッ!?」
ホワイトの呼び声に応じるように白い光は焔に変わり、炎は像を作り出す。
「こい、熱傷の痛みを教えてやれ。クトゥグア!」
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