観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
探索
私は真っ暗な世界を走っていた。不気味な世界を一人っきりで。でも、こんなことはあり得ない。私は確かに自分の部屋で寝ていたのだから。そう、だからこれは現実ではない。
これは夢だ。
黒い世界を私は走る。もう何度目になるかも分からない悪夢を永遠と見続ける。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
見つからない少女を何度も探して、助けを求める彼女を何度も救えなかった。
これはなに? いじめられていた私の心が生んだ世界? それとも別のものなの?
今日も彼女は救えない。無数の扉は墓標のように立ったまま、私は黒い世界に立ち尽くす。
でも、諦めない。ここで救えなくても。きっと助けてあげる。
「助けて……、タスケ、テ……」
「ええ、助けてあげる。必ず」
私は黒い世界を見上げながら宣言するように呟いた。そして言葉を言い終わった後、扉の裏から白うさぎが現れる。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへ行こう。ついに、――その時だ」
瞬間、私の意識が遠ざかる。眠りに落ちていくように。抵抗に意味はない。何度も試したけれど無駄だった。ただ、私は抗うように思い続けていた。
助けてあげる、必ず。
「あなたを、助けてあげるから……」
黒い世界は悠然と、存在しながらも遠くへと消えていった。
朝、目が覚める。カーテン越しの日差しと小鳥たちの小さな会話、そして、目の前の女の子の息遣いを感じながら、私は朝を迎えていた。
上体だけを起こして久遠を見下ろしてみる。安らかな寝息を立てて寝ている顔は見ていて愛らしい。けれど。私は久遠の肩に手を伸ばした。
「久遠、起きて。朝よ」
「う~ん……、もう朝ですか?」
肩をゆすり久遠の口から寝むたそうな声が出る。目を擦りながらゆっくりと体を起こし白い髪がさらりと肩から落ちる。そして私を見ると、にっこりと笑った。
「おはようございます、アリスさん」
「ええ、おはよう」
彼女の笑顔、透き通った綺麗な笑みで朝の挨拶を受ける。いつもとは違う特別な光景に私の胸は浮ついてしまう。このまま二人で遊びに行けたらどれだけ楽しいだろう。
でも、それはまた今度。どれだけ望んでもやらなければならないことがある。目的を履き違えてはならない。
「行こう、久遠。私の夢はまだ終わっていないから」
久遠は私の言葉に「はい」と、笑顔のままで元気に答えてくれた。
私たちは学生服に着替え、母校である小学校に着いていた。そこにある懐かしい校舎を見上げ思わず声が出る。
「うわ~」
「ここがアリスさんが通われていた小学校なのですね」
「うん、懐かしい。何年ぶり? 三年かな、ぜんぜん変わってない」
私は目を輝かせて正門の向こう側をのぞき込む。正門を通った奥にある、三階建ての白い、ちょっと汚れの目立つ校舎。
さらに奥には校庭があって広いグラウンドがある。
人気はなく静かだが、そこはかつての思い出が補完してくれる。思い出そのものとも言える場所に、アルバムとはまた違った感慨深さがある。
昼休憩は外で遊ぶのが決まりで、みんなで縄跳びしたのを思い出す。それは確か小学二年生の頃だと思うけど。
「どうですかアリスさん、何か思い出しましたか?」
「うん、思い出したは思い出したんだけど……」
これは夢だ。
黒い世界を私は走る。もう何度目になるかも分からない悪夢を永遠と見続ける。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
見つからない少女を何度も探して、助けを求める彼女を何度も救えなかった。
これはなに? いじめられていた私の心が生んだ世界? それとも別のものなの?
今日も彼女は救えない。無数の扉は墓標のように立ったまま、私は黒い世界に立ち尽くす。
でも、諦めない。ここで救えなくても。きっと助けてあげる。
「助けて……、タスケ、テ……」
「ええ、助けてあげる。必ず」
私は黒い世界を見上げながら宣言するように呟いた。そして言葉を言い終わった後、扉の裏から白うさぎが現れる。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへ行こう。ついに、――その時だ」
瞬間、私の意識が遠ざかる。眠りに落ちていくように。抵抗に意味はない。何度も試したけれど無駄だった。ただ、私は抗うように思い続けていた。
助けてあげる、必ず。
「あなたを、助けてあげるから……」
黒い世界は悠然と、存在しながらも遠くへと消えていった。
朝、目が覚める。カーテン越しの日差しと小鳥たちの小さな会話、そして、目の前の女の子の息遣いを感じながら、私は朝を迎えていた。
上体だけを起こして久遠を見下ろしてみる。安らかな寝息を立てて寝ている顔は見ていて愛らしい。けれど。私は久遠の肩に手を伸ばした。
「久遠、起きて。朝よ」
「う~ん……、もう朝ですか?」
肩をゆすり久遠の口から寝むたそうな声が出る。目を擦りながらゆっくりと体を起こし白い髪がさらりと肩から落ちる。そして私を見ると、にっこりと笑った。
「おはようございます、アリスさん」
「ええ、おはよう」
彼女の笑顔、透き通った綺麗な笑みで朝の挨拶を受ける。いつもとは違う特別な光景に私の胸は浮ついてしまう。このまま二人で遊びに行けたらどれだけ楽しいだろう。
でも、それはまた今度。どれだけ望んでもやらなければならないことがある。目的を履き違えてはならない。
「行こう、久遠。私の夢はまだ終わっていないから」
久遠は私の言葉に「はい」と、笑顔のままで元気に答えてくれた。
私たちは学生服に着替え、母校である小学校に着いていた。そこにある懐かしい校舎を見上げ思わず声が出る。
「うわ~」
「ここがアリスさんが通われていた小学校なのですね」
「うん、懐かしい。何年ぶり? 三年かな、ぜんぜん変わってない」
私は目を輝かせて正門の向こう側をのぞき込む。正門を通った奥にある、三階建ての白い、ちょっと汚れの目立つ校舎。
さらに奥には校庭があって広いグラウンドがある。
人気はなく静かだが、そこはかつての思い出が補完してくれる。思い出そのものとも言える場所に、アルバムとはまた違った感慨深さがある。
昼休憩は外で遊ぶのが決まりで、みんなで縄跳びしたのを思い出す。それは確か小学二年生の頃だと思うけど。
「どうですかアリスさん、何か思い出しましたか?」
「うん、思い出したは思い出したんだけど……」
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