観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
浸食する悪夢
「あっ」
翌朝、私はたたき起こされたように瞼を開けていた。驚きのあまり身動きがとれずじっとしている。
「……どうして」
終わったはずの悪夢。しかし悪夢は私をあざ笑うかのようにあり続けていた。
どういうことなのか。ホワイトなら知っているかもしれない。彼に聞かないと。私は飛び起きてベッドから降りる。が、すぐにしまったと気付いた。
「もう、だからいろいろ教えてって言ったのよ!」
私は彼の連絡先を知らない。まさかこんな事態になるなんて思っていなかった。終わるものとばかり。
でも、それじゃどうしよう。どうしよう。私は床をぐるぐる回る。頭がぐるぐる回る。けれどどうすればいいのか分からない。
結論として、とりあえずは学校だ。
私はもやもやとした焦燥を胸に秘めながら学校の制服に袖を通した。問題はある。やらなければならないことも。なのに何も出来ない気分に憂鬱とも苛立ちともつかない思いに揺れる。
朝から散々だ。寝る前とは大違い。ぬか喜びとはこのことで、期待した分落胆の衝撃は大きい。
黒い世界、あれはいったいなんなのだろう。私はなぜあの夢を見るのか。あの夢はなんなのか。助けを呼ぶ少女もそう。あの子は、私ではないの?
悪夢は、終わったはずではないのか。
暗い気持ちに視線が下がる。そのまま私は玄関の扉を開けた。
そう、それはいつもと同じはずの朝。数年見ている夢を今日も見ただけ。そう、これが私の日常だった、はずなのに。
「え?」
誰が想像するだろう。たかが夢、その夢が、世界を変えるなんて。
『アリス死ね!』『消えろアリス!』『アリスウザい』
アパートの二階、そこから見える住宅街の景色。その壁や道路に書かれた数々の言葉が、私の目を抉ってくる。
「なに、これ……。え、なによこれ。なんで……」
その光景に、声が震えていた。それは。
街一面が、私の悪口でびっしりと埋まっていたのだ。
『メモリーが出現したことにより本来交わることのなかった表層世界と深層世界が重なり始めている。このまま放置しておけばこの世界とワンダーランドが融合し、トラウマが表層世界にまで反映されただ事ではなくなる』
ホワイトの言葉を思い出す。いじめを受けた私の心が世界に反映されている? 嘘!
私は走った。信じたくなった。せめてここだけだと思った。それを確認するために、私は急いで駅前へと出る。が、そこはすでに、私の知っている街並みではなかった。
大通りを選挙演説する車が通っていく。
『皆さん! アリス、黒木アリスを絶対に許してはなりません! 皆で無視をしてよりよい社会を目指しましょう!』
大きなビルには私の顔写真が掲げられ、写真の上から大きくバツと書かれている。
道には悪口が書かれ、私を模した人形がずぶ濡れの状態で捨ててある。
他にも、他にも、他にも。町ぐるみで私を否定する。
「なによこれ……」
いつもと同じ街。しかし、私の知らない街だった。私は吐き気を覚えながらも歩道に立ち尽くす。
唖然となる。この光景が、信じられなくて。だって、こんな、こんなことってある!? ここは夢じゃない! ワンダーランドじゃない! なのに、なのに!
知らず、私は泣いていた。悲しいから? 辛いから? 怒っているから? それすらも分からない。
「うっ、うう」
私は手で涙を拭う。分からない。自分の感情すらも、ここでは何ひとつ。
「ねえ、あれアリスじゃない?」「ほんとだ、ウザ」「なんで生きてるの?」
そこで、聞こえ始めた声に気づき辺りを見渡した。そこには行き交う人々が私を見つめ何かを呟いている。冷たい目。私を拒絶して、否定するいくつもの目と口がある。
目を抉る視線と鼓膜を破りたくなる声が、私に浴びせられる。私は瞳に涙を浮かべて後づさる。
翌朝、私はたたき起こされたように瞼を開けていた。驚きのあまり身動きがとれずじっとしている。
「……どうして」
終わったはずの悪夢。しかし悪夢は私をあざ笑うかのようにあり続けていた。
どういうことなのか。ホワイトなら知っているかもしれない。彼に聞かないと。私は飛び起きてベッドから降りる。が、すぐにしまったと気付いた。
「もう、だからいろいろ教えてって言ったのよ!」
私は彼の連絡先を知らない。まさかこんな事態になるなんて思っていなかった。終わるものとばかり。
でも、それじゃどうしよう。どうしよう。私は床をぐるぐる回る。頭がぐるぐる回る。けれどどうすればいいのか分からない。
結論として、とりあえずは学校だ。
私はもやもやとした焦燥を胸に秘めながら学校の制服に袖を通した。問題はある。やらなければならないことも。なのに何も出来ない気分に憂鬱とも苛立ちともつかない思いに揺れる。
朝から散々だ。寝る前とは大違い。ぬか喜びとはこのことで、期待した分落胆の衝撃は大きい。
黒い世界、あれはいったいなんなのだろう。私はなぜあの夢を見るのか。あの夢はなんなのか。助けを呼ぶ少女もそう。あの子は、私ではないの?
悪夢は、終わったはずではないのか。
暗い気持ちに視線が下がる。そのまま私は玄関の扉を開けた。
そう、それはいつもと同じはずの朝。数年見ている夢を今日も見ただけ。そう、これが私の日常だった、はずなのに。
「え?」
誰が想像するだろう。たかが夢、その夢が、世界を変えるなんて。
『アリス死ね!』『消えろアリス!』『アリスウザい』
アパートの二階、そこから見える住宅街の景色。その壁や道路に書かれた数々の言葉が、私の目を抉ってくる。
「なに、これ……。え、なによこれ。なんで……」
その光景に、声が震えていた。それは。
街一面が、私の悪口でびっしりと埋まっていたのだ。
『メモリーが出現したことにより本来交わることのなかった表層世界と深層世界が重なり始めている。このまま放置しておけばこの世界とワンダーランドが融合し、トラウマが表層世界にまで反映されただ事ではなくなる』
ホワイトの言葉を思い出す。いじめを受けた私の心が世界に反映されている? 嘘!
私は走った。信じたくなった。せめてここだけだと思った。それを確認するために、私は急いで駅前へと出る。が、そこはすでに、私の知っている街並みではなかった。
大通りを選挙演説する車が通っていく。
『皆さん! アリス、黒木アリスを絶対に許してはなりません! 皆で無視をしてよりよい社会を目指しましょう!』
大きなビルには私の顔写真が掲げられ、写真の上から大きくバツと書かれている。
道には悪口が書かれ、私を模した人形がずぶ濡れの状態で捨ててある。
他にも、他にも、他にも。町ぐるみで私を否定する。
「なによこれ……」
いつもと同じ街。しかし、私の知らない街だった。私は吐き気を覚えながらも歩道に立ち尽くす。
唖然となる。この光景が、信じられなくて。だって、こんな、こんなことってある!? ここは夢じゃない! ワンダーランドじゃない! なのに、なのに!
知らず、私は泣いていた。悲しいから? 辛いから? 怒っているから? それすらも分からない。
「うっ、うう」
私は手で涙を拭う。分からない。自分の感情すらも、ここでは何ひとつ。
「ねえ、あれアリスじゃない?」「ほんとだ、ウザ」「なんで生きてるの?」
そこで、聞こえ始めた声に気づき辺りを見渡した。そこには行き交う人々が私を見つめ何かを呟いている。冷たい目。私を拒絶して、否定するいくつもの目と口がある。
目を抉る視線と鼓膜を破りたくなる声が、私に浴びせられる。私は瞳に涙を浮かべて後づさる。
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