観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
覚醒6
「変わった」
それはたった一つ、しかも小さな変化だった。台詞が変わっただけの。だけど、今までの不変だった数年間に比べれば、大きな進展だ。
「うん。いける……」
どういけるのか、それは分からない。けれど変えられるのだと私は知った。変えられるなら、終わらせることも出来るはず。
私はベッドからフローリングに足を下ろす。カーテン越しに日差しが入り温かい空気が部屋に満ちている。小鳥の歌声に太陽の光が、私を包み込む。
「……いい朝ね」
私はどこか、決意と自信に溢れた声で呟く。やる気というか、達成感すら覚えるほど、私の胸は強い意思を持っていた。
そのまま私は朝の準備に取り掛かる。夢は変化したが日程は変わらない。今日も学校だ。
私は制服に着替え部屋を出る。快晴の青空。春の穏やかな風が私の黒髪をふわりと持ち上げる。
そうして私は今日も学校に向かい歩き出した。駅に着き電車に揺られる。いつもと同じ朝。けれど、頭の中では夢のことが消えてなくならず、ずっと考えていた。あれはいったい、どういう意味なんだろう。
「扉が開いた……」
走る電車の窓から見る街の景色が視界から通り過ぎていく。私はぼうと見つめながら、思案する。
扉といえば、真っ先に思い付くのは夢に出てくる無数の扉だ。でも、今まで鍵が掛かっていたことはない。まだ開けたことのない扉なのだろうか。
それとも、無数の扉とは別の扉? もしかしたら比喩や暗示で、私と別の場所が繋がったということ? 占い師の人も、扉とはこことは違う場所への入口と言っていた。
私は考える。いくつか推測は浮かぶ。けれど、たしかな答えかは分からなかった。
*
それは深海を思わせる暗闇の空間だった。果てしなく広く、空気は重い、光のない黒の世界。
「忌ミ子ヨ忌ミ子、ドレダケオ前ガ叫ンデモ、声ハ母ニハ届カナイ」
そこに、声が響いた。
「アア、忌ミ子ヨ忌ミ子、捨テラレタ哀レナ子。ソレホドマデニ母親ヲ欲スルカ」
生命どころか音も存在し得ない、この世ならざる場所で、しかし、そこには蠢く何者か、湧き上がる怨嗟にも似た叫びが、いくつもあった。
それは声。
それは祈り。
それは本能。
生まれてきたものには意義があり、あるべき場所があるのなら。
叫びを上げる彼らは間違いなく、ここにいるべきではなかったから。
「ナラバヨシ」
叫ぶ彼らとは別の声が、彼らに道を示す。
それは言葉。
それは計画。
それは願望。
存在するものには目的があり、叶えるべき望みがあるのなら。
彼らを導く彼は間違いなく、己の願いを形にしていた。
「私ガ連レテイコウ、母親ヘ」
そして、彼は、彼らを、この暗闇の牢獄から母の元まで届けるために、この世界から姿を消していった。
それは行動。
それは変化。
それは遊戯。
これが、始まり。
それはたった一つ、しかも小さな変化だった。台詞が変わっただけの。だけど、今までの不変だった数年間に比べれば、大きな進展だ。
「うん。いける……」
どういけるのか、それは分からない。けれど変えられるのだと私は知った。変えられるなら、終わらせることも出来るはず。
私はベッドからフローリングに足を下ろす。カーテン越しに日差しが入り温かい空気が部屋に満ちている。小鳥の歌声に太陽の光が、私を包み込む。
「……いい朝ね」
私はどこか、決意と自信に溢れた声で呟く。やる気というか、達成感すら覚えるほど、私の胸は強い意思を持っていた。
そのまま私は朝の準備に取り掛かる。夢は変化したが日程は変わらない。今日も学校だ。
私は制服に着替え部屋を出る。快晴の青空。春の穏やかな風が私の黒髪をふわりと持ち上げる。
そうして私は今日も学校に向かい歩き出した。駅に着き電車に揺られる。いつもと同じ朝。けれど、頭の中では夢のことが消えてなくならず、ずっと考えていた。あれはいったい、どういう意味なんだろう。
「扉が開いた……」
走る電車の窓から見る街の景色が視界から通り過ぎていく。私はぼうと見つめながら、思案する。
扉といえば、真っ先に思い付くのは夢に出てくる無数の扉だ。でも、今まで鍵が掛かっていたことはない。まだ開けたことのない扉なのだろうか。
それとも、無数の扉とは別の扉? もしかしたら比喩や暗示で、私と別の場所が繋がったということ? 占い師の人も、扉とはこことは違う場所への入口と言っていた。
私は考える。いくつか推測は浮かぶ。けれど、たしかな答えかは分からなかった。
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それは深海を思わせる暗闇の空間だった。果てしなく広く、空気は重い、光のない黒の世界。
「忌ミ子ヨ忌ミ子、ドレダケオ前ガ叫ンデモ、声ハ母ニハ届カナイ」
そこに、声が響いた。
「アア、忌ミ子ヨ忌ミ子、捨テラレタ哀レナ子。ソレホドマデニ母親ヲ欲スルカ」
生命どころか音も存在し得ない、この世ならざる場所で、しかし、そこには蠢く何者か、湧き上がる怨嗟にも似た叫びが、いくつもあった。
それは声。
それは祈り。
それは本能。
生まれてきたものには意義があり、あるべき場所があるのなら。
叫びを上げる彼らは間違いなく、ここにいるべきではなかったから。
「ナラバヨシ」
叫ぶ彼らとは別の声が、彼らに道を示す。
それは言葉。
それは計画。
それは願望。
存在するものには目的があり、叶えるべき望みがあるのなら。
彼らを導く彼は間違いなく、己の願いを形にしていた。
「私ガ連レテイコウ、母親ヘ」
そして、彼は、彼らを、この暗闇の牢獄から母の元まで届けるために、この世界から姿を消していった。
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これが、始まり。
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