観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
覚醒5
そして、その時は来た。
気が付けば、私は黒い世界にいた。ここは広大で果てがない。天井もあるのか分からない。そして、無数に広がるいくつもの扉。聞こえてくる、少女の声。
「助け、て。タスケ、テ……」
どこかから聞こえてくる少女の声に、私は力強く頷いた。
大丈夫。今度こそ、見つけてあげるから。
私は走った。黒い地面を蹴り、スカートの裾を翻す。そして、ここに少女の姿があると信じて、私は目につく扉を思いっきり開いた。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
扉の先、そこには空白の世界が続く。
私は諦めず走り続ける。扉を開け続ける。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
なんで?
私の中でどんどん不安と焦燥が高まっていく。変化が見られない。兆しもない。
もしかして、無駄なの? 今回も、助けられないの?
私は走り続け、いくつもの扉を開けていく。大丈夫、今度こそ助けられると。この悪夢を終わらせると。
けれど、駄目だった。
「はあ……、はあ……!」
息が荒い。肺が破裂しそう。足が痛くて、立っているのも辛い。
ついに私は立ち止まってしまい、息を整える。少女をのぞけば静かな黒い世界に、私の熱い呼気が溶けていく。
駄目だ。このままでは駄目だ。今度こそ、彼女を救い出せると思ったのに。
そう思うのに、疲れ果てた私の身体は動かない。動いてくれない。
そして夢が終わることを告げるように、正面の扉の裏から、白うさぎの少年が現れた。タキシード姿に黒のシルクハット。いつもと同じ格好。いつもと同じ微笑。
駄目、駄目。駄目なのに。助けてあげないと駄目なのに。なのに、けっきょく変わらなかった。何一つ。
そんな私に、いつものように白うさぎがお辞儀をする。帽子が落ちないように片手を当てて。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへと行こう。扉が――開いたよ」
「え?」
今、なんて言ったの?
私は顔を上げる。驚愕を表情に表して、目の前でお辞儀している白うさぎを見つめる。
けれど、急に私の意識が遠のいていく。薄くなっていく。でも待って。変わらなかったはずの世界で、いつもと同じ夢の中で、あなたは今、なんて言ったの?
今でも、少女の声が聞こえてくる。悲しくて、辛そうな声が暗闇に響く。私が助けると決めた、少女の声が。助けてあげると決めたの。だから待って。
待って、待って、待って――
「待ってー!」
バッ、と私は体を起こした。朝の空気に向かって片手を伸ばしながら。大声を出して。気づけば隣からビリリリと目覚ましのベルが鳴っていた。けれど私は呆然としていて、数秒してからようやくボタンを押した。そして、今日見た夢のことを振り返る。
「確かに、言った……」
そう、言った。聞き間違いなんかじゃない。白うさぎは確かに、扉が開いたと言った。この数年で初めてのことだ。
気が付けば、私は黒い世界にいた。ここは広大で果てがない。天井もあるのか分からない。そして、無数に広がるいくつもの扉。聞こえてくる、少女の声。
「助け、て。タスケ、テ……」
どこかから聞こえてくる少女の声に、私は力強く頷いた。
大丈夫。今度こそ、見つけてあげるから。
私は走った。黒い地面を蹴り、スカートの裾を翻す。そして、ここに少女の姿があると信じて、私は目につく扉を思いっきり開いた。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
扉の先、そこには空白の世界が続く。
私は諦めず走り続ける。扉を開け続ける。
開ける。駄目。
開ける。違う。
開ける。ここでもない。
なんで?
私の中でどんどん不安と焦燥が高まっていく。変化が見られない。兆しもない。
もしかして、無駄なの? 今回も、助けられないの?
私は走り続け、いくつもの扉を開けていく。大丈夫、今度こそ助けられると。この悪夢を終わらせると。
けれど、駄目だった。
「はあ……、はあ……!」
息が荒い。肺が破裂しそう。足が痛くて、立っているのも辛い。
ついに私は立ち止まってしまい、息を整える。少女をのぞけば静かな黒い世界に、私の熱い呼気が溶けていく。
駄目だ。このままでは駄目だ。今度こそ、彼女を救い出せると思ったのに。
そう思うのに、疲れ果てた私の身体は動かない。動いてくれない。
そして夢が終わることを告げるように、正面の扉の裏から、白うさぎの少年が現れた。タキシード姿に黒のシルクハット。いつもと同じ格好。いつもと同じ微笑。
駄目、駄目。駄目なのに。助けてあげないと駄目なのに。なのに、けっきょく変わらなかった。何一つ。
そんな私に、いつものように白うさぎがお辞儀をする。帽子が落ちないように片手を当てて。
「やあ、ご機嫌ようアリス。一緒にワンダーランドへと行こう。扉が――開いたよ」
「え?」
今、なんて言ったの?
私は顔を上げる。驚愕を表情に表して、目の前でお辞儀している白うさぎを見つめる。
けれど、急に私の意識が遠のいていく。薄くなっていく。でも待って。変わらなかったはずの世界で、いつもと同じ夢の中で、あなたは今、なんて言ったの?
今でも、少女の声が聞こえてくる。悲しくて、辛そうな声が暗闇に響く。私が助けると決めた、少女の声が。助けてあげると決めたの。だから待って。
待って、待って、待って――
「待ってー!」
バッ、と私は体を起こした。朝の空気に向かって片手を伸ばしながら。大声を出して。気づけば隣からビリリリと目覚ましのベルが鳴っていた。けれど私は呆然としていて、数秒してからようやくボタンを押した。そして、今日見た夢のことを振り返る。
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