観測者と失われた記憶たち(メモリーズ)
出会い4
「それでアリスさん、さきほど何をお話になろうとしていたのですか?」
それで思い出し、私は昨日のことを振り返った。
「実は昨日、学校から帰る途中に三人の男に声かけられて」
「あら」
私は昨日の、あの嫌な出来事を話すが、久遠から出てきたのは明るい声だった。
「そんなんじゃないわよ。最悪。私何度も断ったのに諦めないし。強引だし。手まで握ってきたのよ」
「あら」
同じ言葉が久遠からもれるが、今度は声音が下がっている。その後、すぐに心配そうに私を見つめてきた。
「それでアリスさん、大丈夫だったのですか? 乱暴なことはされませんでした?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。そういうのはなかったんだけれど」
久遠からの心配が嬉しい。そういうことになりそうだったけど、そうならなかったのは良かった。
「それにしても迷惑な殿方もいるものですね。レディの扱いにはもっと気を遣って欲しいですわ」
「え、ええ。そうですわね。おほほほ……」
殿方、レディ。やっぱり久遠はすごいわ。うん、すごいですわ。
「そういうのはわたくしも嫌いですけれど、アリスさんは、どのような方がお好きなのですか?」
「え、私の好きなタイプ?」
「はい」
私の疑問に久遠がにっこり笑う。もしかして私の好きなタイプも久遠の好奇心の範囲内なのだろうか。
好きな男のタイプ、か。そりゃあ、私にだってあるけれど。私はそうねー、と顎に人差し指を当て、視線がやや上になる。
「まあ、いろいろ気にする点はあるけれど、やっぱり一番気になるのは」
「気になるのは?」
私のもったいぶった言い方に久遠が顔を寄せてくる。興味があるようで表情はやはり楽しそう。そんな彼女を気にするでもなく、私は一番の重要条件を口にした。
「やっぱり、経済力よね」
「お金ですか……」
しかし、答えを聞くなり彼女の表情が萎んでいった。ちょっと、それどういうことよ!?
「だ、だって! お金は重要よ。大切よ。お金がないと生きていけないんだから!」
「そうですけれど……」
私の弁解を久遠が残念そうに見つめている。心外だ。というか、久遠と私は違うのよ。お金の大切さを私は知っているもの。
「今月だって、私結構きびしいんだから」
「あ、そういえばアリスさんは一人暮らしをされているんですよね。確か、叔父さんからの仕送りで」
「そうよ」
久遠は合点がいったように両手を胸の前で合わせている。顔も納得してくれたようで安心した。
私の生活費をまかなっているのは叔父さんからの仕送りだ。ひと月暮らすには十分な、けれど決して多くはない仕送りが私の収入源。
ぜいたくは出来ないけれど、ちょっと遊びに行くことくらいは出来る金額。けれどたまには辛い月というのはあるもので、私は自分の分くらいアルバイトで稼ごうとしたこともあるけれど、叔父さんが認めてくれなかったのだ。
学生たる者、勉学に励むべし、とのこと。叔父さんには面倒を見てもらっているという大きな恩があるので、私は言葉通りに勉強は人並み以上にしている。
順位もまずまず。隣人には負けるけれど。
「それで話を戻すけれどね、昨日のこと。その、不思議なことがあって」
「不思議なことですか!?」
失言だった。私が口にした言葉に過剰反応としか思えない勢いで久遠が顔を寄せてくる。ちょっと待って、近い!
それで思い出し、私は昨日のことを振り返った。
「実は昨日、学校から帰る途中に三人の男に声かけられて」
「あら」
私は昨日の、あの嫌な出来事を話すが、久遠から出てきたのは明るい声だった。
「そんなんじゃないわよ。最悪。私何度も断ったのに諦めないし。強引だし。手まで握ってきたのよ」
「あら」
同じ言葉が久遠からもれるが、今度は声音が下がっている。その後、すぐに心配そうに私を見つめてきた。
「それでアリスさん、大丈夫だったのですか? 乱暴なことはされませんでした?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。そういうのはなかったんだけれど」
久遠からの心配が嬉しい。そういうことになりそうだったけど、そうならなかったのは良かった。
「それにしても迷惑な殿方もいるものですね。レディの扱いにはもっと気を遣って欲しいですわ」
「え、ええ。そうですわね。おほほほ……」
殿方、レディ。やっぱり久遠はすごいわ。うん、すごいですわ。
「そういうのはわたくしも嫌いですけれど、アリスさんは、どのような方がお好きなのですか?」
「え、私の好きなタイプ?」
「はい」
私の疑問に久遠がにっこり笑う。もしかして私の好きなタイプも久遠の好奇心の範囲内なのだろうか。
好きな男のタイプ、か。そりゃあ、私にだってあるけれど。私はそうねー、と顎に人差し指を当て、視線がやや上になる。
「まあ、いろいろ気にする点はあるけれど、やっぱり一番気になるのは」
「気になるのは?」
私のもったいぶった言い方に久遠が顔を寄せてくる。興味があるようで表情はやはり楽しそう。そんな彼女を気にするでもなく、私は一番の重要条件を口にした。
「やっぱり、経済力よね」
「お金ですか……」
しかし、答えを聞くなり彼女の表情が萎んでいった。ちょっと、それどういうことよ!?
「だ、だって! お金は重要よ。大切よ。お金がないと生きていけないんだから!」
「そうですけれど……」
私の弁解を久遠が残念そうに見つめている。心外だ。というか、久遠と私は違うのよ。お金の大切さを私は知っているもの。
「今月だって、私結構きびしいんだから」
「あ、そういえばアリスさんは一人暮らしをされているんですよね。確か、叔父さんからの仕送りで」
「そうよ」
久遠は合点がいったように両手を胸の前で合わせている。顔も納得してくれたようで安心した。
私の生活費をまかなっているのは叔父さんからの仕送りだ。ひと月暮らすには十分な、けれど決して多くはない仕送りが私の収入源。
ぜいたくは出来ないけれど、ちょっと遊びに行くことくらいは出来る金額。けれどたまには辛い月というのはあるもので、私は自分の分くらいアルバイトで稼ごうとしたこともあるけれど、叔父さんが認めてくれなかったのだ。
学生たる者、勉学に励むべし、とのこと。叔父さんには面倒を見てもらっているという大きな恩があるので、私は言葉通りに勉強は人並み以上にしている。
順位もまずまず。隣人には負けるけれど。
「それで話を戻すけれどね、昨日のこと。その、不思議なことがあって」
「不思議なことですか!?」
失言だった。私が口にした言葉に過剰反応としか思えない勢いで久遠が顔を寄せてくる。ちょっと待って、近い!
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