異世界ぶらり。

ノベルバユーザー172170

俺、野生児っぽい。

 さて、日が暮れる前にしなければならないことが2つある。
 1つは焚き火の用意。
 そして2つ目はキャンプの作成である。

 焚き火は獣避けになるので、早急に作らねばならないだろう。
 2つ目のキャンプづくりは少し手間がかかる。
 必要なのはとりあえず寝床の準備くらいだ。
 他のものはいつでもできる。だが、焚き火が無ければほとんど何もできないだろう。
 故に焚き火の用意は素早く行わなければならない。

 ……さて。
 では、どのように火を作るのか。
 答えは至って簡単である。

 まず、火種の餌となる燃えやすい枯葉などを集めてくる。
 濡れて水分を含んだものはだめだ、火が弱まる原因になるし、なにより水分を含んだ枝を火にくべると、枝の中の水分が蒸発して水蒸気爆発が起こり、飛び火の原因になるのだ。

 焚き火の近くで寝返りを打って飛び火にあたった日には、大惨事確定の深刻な未来が待っているだろう。

 というわけで、森の中で枯れ葉を拾ってくる。

 ヤシの木があるということは、この地域は亜熱帯だ。
 亜熱帯はケッペンの気候区分によれば温暖湿潤気候、もしくは熱帯モンスーン気候に分類される。
 ヤシの木があるということは温暖湿潤気候、つまり空気が湿っているため、乾いた枯れ葉を見つけるのは難しいだろう。

 何せ、森の中は大樹の葉で日陰ができている。
 空気が湿っているおかげで地面は比較的しっとりしていたし、地に落ちた枯れ葉を見つけるのは至難だろう。

 ……まあ、こういうときの裏技として、乾かすというまあ至極当たり前な方法があるのだが。

 ……そういえば。
 話は脱線するが、ヤシの木があるということで気候がどのあたりかわかったように、ここが地球の何処かであるなら、だいたい南緯何度、もしくは北緯何度という予測が立てられる。

 ここが地球の何処か、と言ったのは、つまりこんな摩訶不思議な展開で(主に俺の性転換、のみならず肉体の改造)、本当にここが現世生きていた地球なのかちょっと疑わしくなってきたからだ。

 ……まあ、のみならずラノベを読んでいた俺の脳みそが、異世界転生を夢見て期待しているというのも、要因の1つではあるが。

 それはさておき。

 ここが地球の何処かであるなら、おそらく北回帰線、もしくは南回帰線付近20度から30度の地域であると推測できる。

 この緯度の地域は、大陸の東岸においてはモンスーンの影響を受けるため非常に湿潤となり、熱帯モンスーン気候や温暖湿潤気候など熱帯や温帯に属する気候となる。

 対して、西岸においてはモンスーンの影響を受けないため、亜熱帯高気圧の影響下でほとんど雨が降らず、乾燥帯となる。

 このことから、この地域は少なくとも乾燥帯ではないので大陸の東側――つまり、東南アジア付近か、もしくはミクロネシアあたりのどこかだろうと推理できる。

 植物はいろんなことを教えてくれるのだ。

 道に迷ったときには植物を観察しろとはこのことである。

 ……え?
 そんな話聞かない?

 まあいいじゃないか。

  ○●  ○●

 俺は先ほど森から拾ってきた枯れ葉や枯れ枝を、河原の石で作った簡易的なコンロに敷き詰め始めた。

 この敷き詰め方には1つコツがある。
 それは、枝を円錐形に並べて立てることだ。

 火は振動数が高いために軽く、上に上にと登る性質を持つ。
 このように円錐形に枝を配置することによって、この性質を利用して火の威力を強めてあげることができる……らしいのだ。

 中学生の頃、林間学校で先生に教えてもらった。
 あれは確か、飯盒炊爨のときだったか。

「懐かしいな……」

 ポツリ、と口から言葉が溢れる。

 思い出すとカレーが食べたくなってきた。
 そういえばまだ食料を調達していない。
 お腹も少し減ってきたし、火の準備ができたら燃料調達とキャンプ用の素材集めついでに食料も調達しないといけないなぁ。

「……飯、何にするか」

 こういうときは、近くに川があるということで川魚を調達するのがいいだろう。
 銛突きはしたことがないが、やり方はテレビを見て知識としては知っている。

 多分なんとかなるだろう。

 ……魚か。
 そういえば近くに海があった。
 海水を蒸留して沸騰させて、塩でも採るか?

 ……いや、夕飯の時間には間に合わなさそうだ。
 なにより、日が暮れる前にすべてを終わらせなければならない。
 塩はまた今度調達するとしよう。

 あー、でもそうなると内陸に向かって歩くわけだから、なるべく早くに海水がほしいところだなぁ。

 ……容器か何かあればいいんだが。

 まあ、まだ難破船の物色が済んでいないんだし、ここを離れるのはそれからにして、それまでになんとか塩をゲットすればいいだろう。

 運が良ければ、地面を掘れば岩塩が採れるかもしれないし。

 俺はうんと頷くと、今度は割れたグラスを持って川に向かった。

 ……え?
 何をするのかって?

 今から火をおこすんだよ。

 ……火をおこすのになぜ水を汲む必要があるのか?
 なぜだと思う?

 ……何かに引火したときに火を消すため?
 違う違う、この水を使って火をつけるんだよ。

 理科の実験で小学生のときにやらなかったか?
 こう、虫眼鏡を使って太陽光を収束させて、黒い紙を燃やしたりする実験。

 そう、今からやるのはそれなんだ。

 収斂発火しゅうれんはっかという。
 凸レンズが太陽光を収束して、火をおこすことだ。
 これが原因で火災になることもあるが、この場合は収斂火災という。

 やり方を説明しよう。

 まず、割れたグラスの中に水を淹れる。
 次に、手頃な石の上にここに登ってくる前に採取したヤシの木の皮を、事前に割いて繊維質なふわふわの木屑にしたものを設置する。
 そして、グラスの位置を調節して日光を収束させ、木屑に収斂させる。

 あとはそのまま放置だ。
 しばらくすると煙が出るので、グラスの水滴が火種に落ちないよう注意しながら、その火種を先程作った簡易コンロにくべる。

 くべながら、火が消えないように手で風を送り、息を吹きかけて火種を成長させるのだ。

「おし、一発でついた」

 慣れていないと何回も試すことになりそうだなと思っていたが、どうやら杞憂だったみたいだ。

 問題なく火は成長し、コンロの中で燃料を食べて揺らめいている。
 夏場だということもあり、近くにいると結構暑い。

「よし、これで水と火の確保ができた。
 あとはキャンプの設営と食料だな」

 飯の用意は……どうしよう。
 今から獲りに行くか?
 それともキャンプの準備してからか……。

「んー、とりあえず腹減ってきたし、魚でも獲りに行くか」

 森がないから、手掴みで捕ることになるけど。

 The 野生児幼女誕生だな。

 俺は、我ながら少しも笑えない冗談であることに微妙な笑みを浮かべると、川に向かって歩を進めることにした。

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