ガチホモの俺がお嬢様学園に入学させられてしまった件について 

湊湊

54.「学園脱出計画とその後の周辺ーやはり天上ヶ原雅には敵わないⅠ」



「しかしまあ……俺たち生徒会役員までもが、このような雑務に従事させられることになるとはな。少なくとも計画実施直前までは『世にも恐ろしい拷問』を受けるか『退学』になるかの2択だと考えていたからよ。正直驚きが大きい。だが……この経験も何かの役には立つんだろうな」


「その通りです会長閣下。この単純作業はいずれ築く覇道への一歩になるでしょう」


「ならばよしっ!」


「また会長と木葉はそんなことを言って。……こんな経験はしないに越したことはありませんよ。今回の一件に関して後悔は無いですし、結果的には二宮さんの悲願は果たされたので良しとしますが……しっかりと猛省し今後は絶対に学園の規律を破らないように努め、生徒達の見本になるように精進しましょうね!」


「わかってるって。絶対規律を破らないようにねって。絶対だね。絶対だよ美春っち」


「何だか、猛烈に規律を破る予感しかしないんですけどっ!あの、今後は絶対に規律は守りますからねっ!?嘘じゃないですからね!?」


 生徒会のメンバーは今日も愉快だった。相変わらず小鳥遊先輩は面白い人だ。しかし一方で我がクラスの方はと言えば……


「はぁ……マジでしんどいんですけど……櫻井。あんたマジでこの作業終わったら学園ポイントでスイーツ各種マジで奢ってね?」


「お前には既にお礼してんだろうが……けどまあ……お前が文句を言いたくなる気持ちは分かるわ。暑いよな……」


「……だしょー。マジ辛いわー」


「くっ!……まさか、この私までもが庶民と同様の作業に従事させられるとは……天上ヶ原家の人間とは言え……許すまじ」


「その通りです。これはいつか復讐を」


「月夜ばかりと思うな天上ヶ原雅」


「こらこら……ってか、今回の懲罰内容に関しては天上ヶ原雅が嫌いな俺でも納得することが出来たぞ。あと……花京院……ちょっとこっちに来い」


「なんですの?」


「おい櫻井芳樹……お嬢様に必要以上に近づくな」


「来栖お嬢様が櫻井芳樹に蹂躙されてしまう……私たちはどうすれば」


「お前らの中での俺の認識はどうなっているんだよっ!いい加減少しは俺のことを信頼してくれませんかね!?一緒に学園脱出計画を成功させた仲じゃん!……ちょっと耳貸りるぞ」


 俺は花京院の耳元でそっと言葉を囁いた。


「……いいか?二宮はああ見てもお前とは違う一介の庶民の出自だ。だからあんまりお前の家柄とかを鼻に掛けていたら本当に嫌われるぞ。その辺りに関してよく考えろ」


 実際その程度のことで二宮が花京院を嫌うようなことはないだろうが、聞いていて、あまりいい気分がしないのは確かだろう。
 それにこんな感じで家柄の話をされて喜ぶ奴はいないだろうからな。今後花京院がそうした発言をして敵を作らない為にもと俺は忠言をしたのだ。


「なっ……彼女が庶民?」


 まあ、花京院の驚きは当然のことだった。二宮はマジで金持ちの家の深窓の令嬢っぽいからな。俺だって最初はどこの貴族かって思ったし。それと……改めて言っておこう。


「あとな……二宮はああ見えても、誰よりも友情だとか愛情だとかを大切にする立派な人間だ。だからこれからも仲良くしてやってくれ」


「……そうですの……ってそんなことを貴方に言われるまでもありませんわっ!」


「そうか……だったら大丈夫だな。宜しく頼むぞ花京院」


 二宮が今まで素顔で人と接することが出来なかったように、花京院もまた素直ではない。初めの頃花京院は単純に性格が悪いと思う部分も幾らかはあったんだけどな。
 けれど中身をよくよく見てみれば、不器用さと尊大な自尊心故に素直になれない……そんな普通の人間だった。そんな奴だからこそ、俺は二宮の友人に相応しいと思う。ありふれた普通の人間同士として仲良くなれるんじゃないか。
 二宮は……今まで不幸過ぎたのだ。両親は不運の事故で亡くなり叔父は最低な人間で、担任はことなかれ主義。そしてかつての友人たちは皆、裏切るといった有様。……二宮の周りには信頼出来る人間なんていなかった。
 唯一の例外として二宮を支えていたのは布川さん。だけど布川さんでは些か年齢が違い過ぎる。もっと身近で彼女のことを支えることが出来る人間が必要だったのだ。
 だからきっとこれからの生活で花京院の存在は掛けがえの無いものになるのではないだろうか?俺も二宮と生きる上での盟友だと考えているが、花京院のような同性の友人の存在も必要となるだろう。何故なら二宮を裏切って来た多くの人間は同性代の女だろうから。だからこれから頼むぞ花京院。
 っと俺がそんなことを考えながら作業の手抜きをしている合間に一人の人物がやってきた。


「やあ櫻井君。お疲れ様」


「おお。三枝。お疲れ様。お前の懸命な草むしりのおかげで早く済みそうだ」


「いやいや。僕は大したことはしていないよ」


 いつものように三枝は謙虚だった。そして三枝に続いて間もなく俺は声を掛けられた。


「櫻井君……裏庭近辺の作業は大よそ終了したわ」


「ああ。お疲れ様、二宮」


 二宮の方を向くと二宮の額は少し汗ばんでいるのが伺えた。流石炎天下というところだろう。気温は既に三十五度近くに達していることを考えると、すっかりと真夏に至ったのだろう。
 俺はグラウンド全体を俯瞰し、作業工程を大雑把に確認する。……うん。これだけ毟れば天上ヶ原雅も満足していることだろう。


「皆。とりあえずこれで作業は十分だろうっ!解散にしようっ!」


『了解―(はーい!)(貴様が指示をするな)(いつから自分が偉いと錯覚していた)』


 多種多様な返答によって作業を終えることになった。つーか取り巻き二人……。
 実は今回の懲罰内容である『草むしり』は俺の裁量で開始と終了を決めるという特例的な形が取られていた。……俺と二宮が学園に帰還した後の顛末は一週間前に遡るのだった。



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