君と俺の一年

星河☆

突然の・・・

 楽しかった夏休みが終わり、二学期が始まって一ヶ月がたった10月。




 「ま~りあ! おはよう!」
朝、俺はいつも通りまりあの家の前に行き、まりあに挨拶をした。
 しかし、まりあは何も言わずに俯いている。
 俺はまりあに近づいて肩を叩いた。


 「まりあ? どうした?」
バタン……
 まりあが倒れた。
 「まりあ!!!」
インターホンを直ぐに鳴らしてまりあのお母さんを呼んだ。
 「まりあ! しっかりしろ! おい! まりあ!」
まりあを揺すったり少し叩いたりしているが全く反応がない。
 どうしよう……
 まりあが……


 「まりあ! 星河君! 救急車!」
お母さんが出てきてそう言って俺に携帯を投げた。
 お母さんは注射のような物を出してまりあに注射している。


 救急車を呼び終わってお母さんに携帯を返して
 「あの……まりあは……」
俺はそう言うと
 「分からない。動悸が凄くゆっくりしてる。こんなの初めて……」
お母さんも少し戸惑っていた。


 「星河君は学校に行って? 病院が決まったら直ぐにメール入れるから! ね?」
 「でも……」
お母さんはそう言っているが俺はまりあに付き添って行きたい。
 俺はまりあを見て再びお母さんを見た。


 「まりあは大丈夫だから! ね? まりあの為にも学校に行って?」
お母さんは切願するように言った。
 俺に何か知られたらまずい事があるのだろうか……


 「分かりました。 先生には体調不良で休むと言っておきます」
俺が折れてそう言うとお母さんは首を振って
 「ううん。先生は知っているから正直に言っても大丈夫よ」
 「分かりました。今日の放課後に匠達と行きますから病院が決まったら絶対に教えてください」
俺はそう言って一礼した。
 「うん。分かった。 行ってらっしゃい」
お母さんはそう言って見送った。




 突然まりあが倒れた……
 キャンプでまりあが言った言葉が思い浮かんだ
 『私ね……余命宣告されてるの』
 そんな事考えたくない。
 急性リンパ性白血病は治る。
 まりあは治る……
 そう信じている。
 しかし、現にまりあは俺と出会ってから4回も倒れている。
 しかも今回は救急車まで呼ぶ事態になっている。
 俺は何も出来ない自分に嫌気がさしていた……
 キャンプが終わったその日に俺はHPを立ち上げて募金活動を始めた。
 白血病の治療には高額な治療費がかかると言われている。
 その為に少しでも俺が役に立てればと思って始めたのだ。
 まりあ……………
 失いたくない……
 きっと大丈夫。
 そう思っているがやはり心配になってしまう。
 俺は弱い……




 「遅かったな~! どうしたんだ? 渡辺も居ないな?」
匠達と合流した時に匠が言った。
 「後で話す」
俺はそれだけ言って歩き始めた。
 匠は察してくれて頷いて一緒に歩き出したが
 「星河兄ちゃん! まりあ姉ちゃんは?」
奈津美は愛くるしい笑顔で、何も知らないその笑顔で聞いてきた。
 「風邪だってさ」
匠が代わりに答えてくれた。
 この匠の優しさにいつも救われている。
 奈津美はふぅんと言っていつも通りいきいきと歩いている。








 「で? どうしたんだ?」
昼、屋上で匠が聞いた。
 奈津美には今日は別の所で食べてもらっている。
 「今日また倒れて今日は救急車で運ばれた」
ため息をつきながらそう言うと
 「そっか……病院は?」
 「携帯にメールがいってるはずだから確認してみる。奈津美は連れてきちゃダメだぞ?」
俺がそう言うと
 「多分俺行けないな……奈津美は絶対に着いて来る。由美も星河の様子を見て俺に聞いてきたよ。渡辺に何かあったんじゃないかって」
由美は匠と付き合う事になった。
 やっぱり俺はまりあが居ないとそんなにおかしく見えちゃうのか………
 「そっか……ここまで来たら隠し通せないかもしれないな……」
 まりあは日に日に体調が悪化しているように見える。
 このまま入院となったら皆に隠し通せない。
 どうしようか考えていると
 「今日渡辺に聞いてみろよ。これ以上隠し通せないって」
 「うん……言ってみる」




 今こんなに慌しいのに空は何もないように青空が広がっている。








 「鈴木! ちょっとこの後残ってくれ!」
HRの終了間近の時に、担任の前田が俺に言った。
 俺は一刻も早くまりあの病院に行きたい。
 そんな時間も勿体無い。
 俺が返事をしないでいると
 「鈴木! 直ぐに終わるから!」
何かを知っているような前田は優しい顔で言った。
 「分かりました」






 「悪いな鈴木。お前は渡辺と仲良いよな?」
前田がそう聞いてきた。
 俺が頷くと前田は続けて
 「病気の事も知ってるんだよな?」
再び俺は頷いた。
 何でこんな事を聞くのだろう……
 俺が疑問に思っていると前田は続けた。
 「ネットサーフィンをしていたらお前のHPを見つけた。募金を募集しているようだな?」
募金活動などを生徒がやるには学校の許可が必要なのだ。
 怒られるのか……
 俺がそういう顔をして前田を見ていると
 「まぁ、落ち着け……お前が募金するより学校が募金運動をした方が集まりやすい。どうだ?」
前田は怒るどころか逆に提案をしてくれた。
 でもまりあは名前を出される事を嫌うだろう。
 「名前は出さないでもらえますか? まりあもそう思うはずです。というかまりあは俺が募金活動している事は知らないんですけど……」
前田は俺が言う事をうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれている。
 俺は前田をバカにしていた。
 花火大会の時もそうだったがこの先生は生徒を第一に思ってくれている。
 他の先生だとこんな事しないだろう。


 「先生、絶対に名前は伏せてください。まりあにも気づかれるとマズイと思います。それどころか自分のせいで等と思ってしまいます」
俺が何とか頼む! と思って言うと
 「うん。分かった。先生方は渡辺が深刻な病気だという事は知っているし、鈴木、お前の気持ちも汲んでくれるはずだ」
前田はそう言って俺の頭を優しく撫でた。
 俺は涙が出そうになったが堪えた。
 今泣く訳にはいかない。
 まりあが治って、一緒にスポーツしたり、皆とまたキャンプできた時の為にとっておかないと。
 「先生! お願いします!」
俺は深く頭を下げて言った。
 この先生に任せておけば大丈夫だ。
 根拠はないけどそう思う。






 下駄箱に着くと匠が待っていた。
 「奈津美は帰ったのか?」
奈津美が居なかったのでそう聞くと
 「あぁ、帰らせた。ふてくされてたけど、帰ってから一緒にゲームやれば機嫌直してくれるだろ」
匠はそう言って笑った。


 「悪いな……いつもいつもありがとう」
俺はいつも匠に助けられている。
 そのお礼を言うと
 「何だよ! 変な奴! 帰るぞ!」
匠は照れて慌てて言った。


 「前田は何て?」
歩いていると匠が聞いてきた。
 俺が募金活動をしていて、学校にバレたけど学校側が主催して募金活動をしてくれる事になった。
 そう言うと匠は少し考えて
 「ん~……渡辺が学校に戻ってきたらバレないか?」
 「何とか俺が誤魔化すよ!」
俺が自信満々に言うと
 「お前は嘘が下手だから無理だな!」
笑って一蹴された。
 匠もちゃんと考えてくれてる。
 そう思うとまりあは一人じゃない。
 俺だけがまりあを助けようとしている訳じゃない。
 俺は心強く感じた。


 「じゃあ、渡辺によろしく言っておいてくれ!」
分かれ道になり、匠はそう言って手を挙げて帰っていった。




 「お帰り~! ちょっと買い物行ってきて欲しいんだけど良い?」
俺が家に入ったとたんに母さんが走ってきて言った。
 そんな暇はない。
 「ごめん。時間無いんだ」
俺は大雑把おおざっぱに説明すると
 「そっか……渡辺さんそんな大変だったんだ……」
母さんにはまりあが病気だとは言っていたが白血病とは言っていなかった。
 「だから今から病院に行ってくる。ごめんね!」
そう言って俺は自分の部屋に行き直ぐに携帯を見た。
 「病院は埼玉中央病院です。お願いします」
と書かれていた。
 直ぐに着替えて準備をし、ある物を持って部屋を出た。




 「星河! 待ちなさい! これで花束でも買って持って行きなさい! 菊はダメだからね?」
玄関で靴を履いていた俺を止めて母さんが言った。
 「菊? そんなの買うわけないじゃん! 俺は一応小説家目指してんだからそういうのは勉強してるよ!」
母さんが出してくれたお金を受け取ってお礼を言って家を出た。




 バスを待っている間にまりあに見せようと思い、持ってきたある物を出して見てみた。
 うん。よく出来てるんじゃないかな……




 まりあが待つ病院へ向かった………

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