君と俺の一年

星河☆

結果発表

 前田が言っていた教員会議の翌日……




 「おはよう!」
いつも通り俺はまりあの家の前でまりあに挨拶した。
 「おはよう」
まりあは少しダルそうに言った。
 「どうした? ダルい?」
まりあの体調が悪い時の挨拶だったので俺は心配になって聞いた。
 「うん。ちょっと悪い時の波が来ちゃって……」
そう言って
 「でも大丈夫!」
そう言って笑った。
 「辛くなったら言うんだよ?」
俺はそう言ってまりあと歩き始めた。




 「昨日教員会議だったから、今日結果知らされるんだよね?」
まりあがそう俺に聞いてきた。
 まりあはこの花火大会をひどく気にしている。
 その本当の理由は分からないが、楽しみにしている事は確かだ。


 「今日だね……前田と佐藤を信じた甲斐はあったかな……」
俺がそう答え、何かを考えるように空を見上げた。
 今日の空は雲一つない綺麗な青空だった。


 「星河君は好きな子居るの?」
え? どうしたんだろう急に……
 まりあがこんな事聞くなんて……
 「え? その……えっと……」
俺は嘘が下手で答えに戸惑っている。
 まりあの前では好きな人居ないなんて言えないし、居るとも言いずらい……


 「冗談だよ! 気にしないで!」
まりあはそう笑って言った。
 まりあが冗談か……
 まりあを見ると顔は赤くなっていない。
 という事は本当に冗談なのかな……




 「おいっす!」
匠達に挨拶して四人で歩き始めた。




 「今日なんだろ?」
匠がおそるおそるといった感じで聞いてきた。
 匠が言ってるのは多分花火大会の中止か決行かの判断が今日知らされるという事だろう。


 「うん。今日の放課後の集まりで言うってこの前佐藤が言ってた」
俺がそう答えると
 「もし、中止になったら私たちでボイコットしちゃおうか!」
奈津美がそう言ってはしゃぎ始めた。
 「お~! お前ボイコットなんて言葉知ってるのか!?」
匠がからかうように奈津美に言った。
 俺とまりあ、匠は笑っているが、奈津美はふてくされている。


 「大丈夫だよ。きっと先生達が頑張ってくれたはず!」
まりあは奈津美にそう言ってガッツポーズした。
 まりあは最近本当によく話してくれるようになった。
 俺には勿論、匠、奈津美、由美ともよく話すようになった。
 まりあの病気は俺と匠しか知らない。




 まりあのガッツポーズを笑って見ていると
 「何? 何かついてる?」
まりあが気づいて顔を少し赤くして聞いてきた。
 「ううん。何でもない!」
俺は笑ってそう言い、まりあの頭をポンポンと優しく叩いた。
 「何よ……」
顔を真っ赤にして俯いてまりあは言った。
 俺にも何でまりあの頭を叩いたのか分からない。
 ただ無性にまりあが可愛く見えた。
 まぁ、最初から可愛い事は分かってはいるが。




 「じゃあね~。またお昼に!」
奈津美とは別れて三人は教室に向かった。




 「じゃあ、出席取るぞ」
HRが始まって出席を取り始めた担任の前田だが元気がない。
 まさか花火大会中止が決まったのか?
 思わずまりあの方を見たらまりあも俺を見た。
 ヤバイんじゃないの? そのような顔をするとまりあも少し悲しそうな顔をした。








 「確かに前田の様子おかしかったもんな……」
昼にいつものメンバーで飯を食べていて花火大会が中止じゃないかと話していると、匠が言った。


 「でも、まだ分からないでしょ?」
由美がそう言ってまりあの方を見た。
 「うん……ただ前田先生の様子がおかしかったのも本当だし……」
まりあはそう言って俯いてしまった。
 またまりあは悲しそうな顔をしている。
 俺に出来る事があれば良いんだけど……
 そう思ってはいるが実際出来る事なんてたかがしれている。


 「まりあ……」
名前は呼んだが続きが出てこない……
 こんな時に俺は情けない……


 屋上の俺たちが居る所の空気は重くなってしまった。
 そんな気持ちが現れたように空も曇ってきた。




 判決を待つ被告人はこのような気持ちなのだろうか……


 放課後の花火大会実行委員の集会が始まった。


 「皆揃ってるな……」
担当の佐藤がそう切り出した。
 佐藤も心なしか、少し暗く感じる。
 やっぱりダメだったのか……
 俺だけでなくここに居る実行委員のメンバーは同じ気持ちだと思う。




 「昨日教員会議でこの花火大会の中止を反対する議案が出題された。勿論発案者は俺と前田先生だ。まず、中止にしようとした理由が、花火大会当日は休日で、例年は教職員が参加出来ていたんだが、今回ばかりは皆予定で埋まっていたんだ。この花火大会は警察や地域の方々が警備してくださるとはいえ、学校の教職員が出ないのはいかん。そういう事で今回は中止にしようという事が言われていたんだ。そして、その中止案を撤回するべく、俺らが立ち上がった訳だ。カップルとかの楽しみな行事だしな。カップルだけでなく、普通の学生も、地域の方も、小学生も楽しみにしている。ただ、皆この撤回案は反対した。」
 そう言って話を一旦止めて佐藤は会議室の皆を見回した。
 やっぱりダメだったのか……
 まりあを見ると沈んだ表情をして俯いて目を閉じていた。




 しばらくの沈黙の後、佐藤が口を開いた。








 「皆……喜べ!!! 花火大会は決行だ!!!」
佐藤が手を大きく広げてそう言った。


 「やった~!!!!!」
この場の全員が立ち上がって喜んだ。
 俺も、まりあも。
 「まりあ~!」
俺はそう言ってまりあに抱きついた。
 まりあも興奮して俺の背中を叩いている。
 まりあは俺が抱きついている事も忘れているみたいに喜んで飛び跳ねている。
 勿論俺も興奮して飛び跳ねている。


 「は~い皆一旦席に着け! まだ話は終わってないぞ!」
佐藤は皆を見て笑顔で言った。


 俺は慌ててまりあから離れ、ごめん……と言ってまりあを見た。
 まりあは顔を赤くしているがとても嬉しそうに笑っている。
 花火大会が決行と聞いてまりあは本当に嬉しいんだろう。




皆落ち着き始め、席に座った。


 「じゃあ、続きを話すぞ! 花火大会に出席する教員は俺と前田先生だ! 皆感謝しろよ~」
そう笑って言った。
 予定があると言っていたのにこうして生徒の為に自分の時間を削って出てもらえることになった。
 生徒の為に自分の時間を削るのは教師として当たり前なのかもしれないけど、俺は今もの凄く佐藤と前田に感謝している。


 「ありがとうございます!!!」
この場の皆が揃ってお礼を言った。
 俺は高校生活で教師にこんなに感謝した事はないだろう……
 何度も何度もお礼を言って感謝を伝えた。






 「良かったね! まりあ!」
帰り道、俺が隣で一緒に歩いているまりあに言うと
 「うん! 本当に良かった!」
まりあは笑顔でそう言って。
 「でもはしゃぎすぎて気分悪くなっちゃった……」
笑いながらまりあは言った。
 「大丈夫? ちょっと休む?」
確かにあれだけはしゃいでいたらまりあだと体調が悪くなってしまうだろう。
 心配になって休むか聞いたが大丈夫と答えて続けた
 「でも本当に嬉しい! ありがとうね!」
何故かまりあは俺にお礼を言った。
 「俺? 何かした?」
特に俺は何もしていないはずだ。
 「星河君が最初動かなかったら教員会議もなかったかな~と思ってさ!」
まりあがそう答えた。 
 確かにそうかもしれないが何かまりあに正面切ってありがとうと言われると照れる……




 「まりあは本当に嬉しいんだね!」
俺がそう言うとうん。と力強く頷いた。




 こうして一難が過ぎた……
 よく、一難さってまた一難と言うけどそんなのどうでも良い。
 まりあの最高の笑顔が見れた。
 それが凄くうれしい。
 俺までつられて笑顔になれる。




 まりあと別れて一人で歩いている時に空を見上げてみた。
 すると、昼間の曇天が嘘のように雲一つない綺麗な茜色の空になっていた。

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