ネルバ・ハリクラーの特殊な学校生活

星河☆

闇……

 この一週間で世間は夏休みに入った。それは今学期が終わるのを意味していた。病室で特に何も起こらない外の景色を見ているネルバは深くため息をついた。一週間の間に何も変わった事はないのだが、それがネルバにとっては不安だったのである。メルクルンガンヅの教授、バイオは来れないかもしれないとは言っていたがやはり不安である。ネルバはついさっき起きたばかりだが再び眠りに落ちた。






 「この一週間何も収穫がないんです。あの森には何もないのでは?」
 メルクルンの校長、ベンにそう詰め寄ったのはバイオだ。しかし当のベンは何食わぬ顔でバイオを見ていた。
 「校長。バイオの言うとおりです。一週間探して何もでないんですよ?」
 今度はメルクルンの教授であり、ベンの息子でもあるブルンが言った。しかし息子の言葉ですら聞こうとしない。
 「心配無用じゃ。あの森に何かがある。それともわしが何か間違った指示をしたのかのう?」
 ベンのような偉大な人物にそこまで言われてしまうとバイオ、ブルンは黙り込んでしまった。その二人の様子を見てニッコリと笑い、頷いた。
 「それでよい。あの森に何かがある。それに間違いはない。二人は下がってよいぞ。あぁ、ザインド。ジョンを呼んできてくれ」
 二人は頭を下げてベンの部屋を出て行った。二人が出て行った後ベンはタバコに火を点けた。半分ほどが灰になった時にマクリーナが部屋に入った。
 「お呼びでしょうか校長」
 マクリーナは低姿勢でベンに尋ねた。
 「学校も終わった事じゃしそろそろネルバのもとに行ってはくれんかのう?」
 ベンはそういい終わるとタバコを一口吸った。マクリーナははいと一言言い、頭を下げた。
 「もう直ぐ退院のようなので退院したら全ての荷物を揃えてホテルなどに泊まらせます。よろしいでしょうか?」
 「それで構わんよ。頼んだ」
 そう言ってタバコを消した。マクリーナは頭を下げて部屋を出て行った。ベンの部屋の中は煙で充満しているがベンは一切気にする気配もなく、窓から見える景色をずっと見続けていた。








 「もう直ぐ退院ですね! 学校に通われるんですよね?」
 病院の一室で看護士がネルバに聞いた。看護士などは学校の事を良く知らない。ただの身寄りがない人の学校だと思っているのだ。ネルバは看護士の調子に合わせて笑顔を作っていた。
 「楽しみですよ! そこの学校の教授がお見舞いに来てくれて学校の説明をしてくれるんですけど本当に楽しみで」
 ネルバ自身話しているうちに本当の笑顔になっていた。看護士がネルバに付いている点滴を全て取り、医者に合図をした。すると医者はニコッと笑い、ネルバに話しかけた。
 「よし! あと三日位で退院出来るからね! この三日で体力をつけて秋から学校頑張ってね!」
 そう言ってネルバの肩を叩いて検査室からネルバを出した。
 「じゃあ病室に戻ってお休み下さい。もう三日のうちに検査はないのでゆっくり休んでて良いですよ」
 看護士はそう言ってネルバと別れた。




 病室に戻ったネルバは誰かが居るのに気づいた。一瞬身構えたが直ぐにそこに居る人物の正体が分かり安心してベッドに戻った。マクリーナがベッドの隣の椅子に座りながら居眠りをしていた。
 「お久しぶりです」
 ネルバは優しく声をかけるとビクンと背筋を伸ばしてマクリーナは起きた。マクリーナは目をパチパチさせて何が起きたのかを必死で理解しようとしている。すると直ぐにマクリーナの表情が和らいだ。
 「やぁ、久しぶり。元気にしてた?」
 マクリーナは笑顔でそう言うとA4サイズの封筒を取り出した。それをネルバに渡すと開けるように促した。
 ネルバは封筒を開け中を見るとネルバの顔に笑顔が広がった。
 「退院したらそれに乗っている教科書とか道具を揃えるからね」
 マクリーナも笑顔でネルバに言った。


 ネルバ・ハリクラー 殿 全能師
 右記の者はメルクルンガンヅ学校に入学を許可された事をここに報告致します。
 各自能力ごとに揃える物は異なるので別紙の荷物参照を確認してください。
 2015年8月3日  メルクルンガンヅ学校校長 ベン・ルーナー


 ネルバは何度も何度も四行の文字を見続けていた。それを読むたびにネルバの笑顔は増えていく。
 「全能師用の別紙も良く読んでおいたほうが良いよ」
 マクリーナが優しく言うとネルバは大きく、何度も頷いて何枚かあるうちの一枚を引っ張り出した。


 全能師が揃える物
 教科書名      学科
 ガンヅ界の光と闇  ガンヅ史学
 体術書2014     体術学
 闇の能力の弱点   闇の能力に対する耐性学
 自分の体を知る   保健学
 右記が必須科目の教科書です。
 魔界の生物2014   魔物生物類学
 魔法呪文集2014Ⅰ   魔法学
 科学A2014Ⅰ     科学、化学
 化学A2014Ⅰ     科学、化学
 天からの闇、光   陰陽学
 忍びの極意2014   忍体技学
 右記の中から受講したい授業の教科書を購入の上、ご用意下さい。
 その他の持参してよいもの等は別紙参照。


 「いつ退院なのかな?」
 ネルバは笑顔で答えた。
 「三日後です」
 「そうか。じゃあ三日後に私がまた来るからそしたらガンヅ界で荷物を揃えようね。今日はこれで帰るね」
 マクリーナはそう言って手を振って病室を出て行った。
 ネルバはマクリーナが去っていった後も渡された封筒や中身の紙をずっと見続けていた。




 その頃メルクルンでは――


 大きな木々が生い茂る森でバイオとブルンはベンに言われた通り探索を続けていた。
 先に歩いているのが森を良く知るバイオで後ろから続くのがブルンだ。バイオがコンパスを時々見ながら進んでいると、突然立ち止まった。
 「どうしたんだ?」
 「いや、何かここら辺磁場がおかしいんです。コンパスがいう事効きません」
 バイオがブルンにそのコンパスを見せるとコンパスの針はグルグル回っていた。ブルンは不思議そうな顔をしてバイオに尋ねた。
 「これはどういった事が考えられるんだ?」
 「はい。磁場を扱う魔物が居るか、何か特殊な魔具が近くにあるかもしれません。円視術を使って辺りに何か無いか探していただきませんか?」
 円視術とは忍術師が使う術で術者ごとに探索範囲は異なるが、いわゆる探索術である。
 「分かった。範囲はどのくらいだ?」
 「この磁場の強さだと百メートル程でお願いします」
 するとブルンは目を瞑り、両手を合わせた。辺りに何も変化は無いがブルン自信の頭の中には辺りの映像が流れているのだ。ブルンは術中無防備になるのでバイオは辺りを警戒しながらブルンを守っていた。




 「終わったぞ。三十メートル先に何かある。異様な魔力が流れている。ここは一旦引いて増援を呼んだほうが良いかもしれないな」
 ブルンはそう言うと疲れが溜まったのか、首をコキっと鳴らした。
 「分かりました。じゃあここに目印つけておきます」
 「いや、その必要は無い。俺が円視で目印をつけたから迷わずに行ける」
 バイオは了承し、二人は学校に戻っていった。この時、遠い後方から二人を狙う目が光っているのを気づいた者は居なかった。






 「そうか――では連盟から増援を呼んで対処するようにしよう。ご苦労じゃった。ありがとう」
 バイオ、ブルンの二人はベンに森での報告をした。二人は今後どうするか尋ねた。
 「そうじゃのう――。二人は増援部隊に着いていってほしい。ザインドが居なければ森から無事に生還する事は不可能じゃしブルンが居なければ例の魔具にたどり着くのに時間が掛かってしまう。しかし来学期の準備もしなければならないのも事実――。どうしたものかのう――」
 ただ学期が新しくなるのだったら準備はあまりいらないが学年が変わる新学期には準備が必要なのだ。二人は教授であるため準備をしなければならない。ベンは二人に準備もしてほしいが増援部隊の先導もしてほしかったのだ。すると二人は同時に同じ事を言った。
 「心配いりませんよ」
 するとその答えを持っていたかのような笑みをベンは浮かべた。二人ならそう言うと確信していたのかもしれない。ベンは満足そうに何度も頷いた。
 「増援部隊を今から呼ぶ。着くのは恐らく三日後であろう。増援が着いたら直ぐに出発できるように準備をしておいてくれ。では解散」
 ベンはそう言ってタバコに火を点けた。二人は頭を下げて部屋を出て行った。ベンはタバコを吸いながら窓から見える変わらない景色を見ていた。






 「気づかれてしまいました。いかが致しましょう」
 たいまつの火で明かりを灯している、薄暗い部屋でしわがれた声が尋ねた。
 「お前の責任だ。お前が学生二人を始末して魔具も始末していればこんな事にはならなかった。お前が全て始末しろ。歯向かう者全てだ」
 部屋が薄暗く両者の顔は見えない。かろうじて声で男ということは分かるが他は一切分からない。
 命令された男は承知しましたと一言言ってその場から消えた。
 「あの忌々しい学校を崩壊させてる――」
 男の憎しみがこもった声が薄暗い部屋に響き渡った……

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品