ネルバ・ハリクラーの特殊な学校生活

星河☆

事件

 ネルバ・ハリクラーが入院して一日が経った。ネルバは昨日の事を完全には理解できていない。それどころか夢なんじゃないかと思い始めていた。
 しかしそんな時にネルバの病室に二人の男が尋ねてきた。




 「おう! ネルバ! 具合はどうだ? 今日は学校の副校長が来てくれているぞ!」
 そう言って入ってきたのは昨日ネルバに自身が特殊能力者だと言うことを教えたバイオ・ザインドだ。
 そしてバイオが紹介したのはメルクルンの副校長でジョン・マクリーナだ。


 バイオがまず入り、次にマクリーナが入った。ネルバは挨拶したが、戸惑っていた。
 ネルバ自身夢じゃないかと思っていた時だったからだ。しかし、そんな事は知らない二人はネルバが寝ているベッドの隣に座った。
 「改めて、僕はメルクルンガンヅ学校の副校長のジョン・マクリーナだ。よろしく。君のご両親とは仲良くさせてもらってたんだ」
 マクリーナはそう言うと握手を求めて手を差し出した。
 「僕の両親は生きているんですか?」
 ネルバは握手を無視して聞いた。
 マクリーナは差し出した手を少し惜しそうに戻した。
 「いや、君のご両親は亡くなっている――」
 マクリーナは悲しげに答えた。ネルバは予感していたかのような顔をしていた。
 「そうですか。両親の事も忘れているので良かったら教えてください」
 ネルバは少し笑い、マクリーナに聞いた。
 「勿論だ!」
 マクリーナも笑顔になりそう答え、話し始めた。


 「君のご両親と初めて会ったのは学校なんだ。君のご両親が入学してきた時に僕はご両親の寮の担当だったんだ。もの凄く優秀で勇敢だった、二人ともね。卒業してからも二人とは連絡を取り合っていてね、二人が結婚すると聞いた時は嬉しかったな~。結婚式にも呼んでくれてね、その時には君はお腹の中にいたんだよ。しかし君が生まれて直ぐに亡くなってしまったんだ」
 最初はいきいき話していたマクリーナだが最後には口調も暗くなり、話を切ってしまった。
 「何で亡くなったんですか?」
 当然の質問だがマクリーナとバイオは少し戸惑っていた。マクリーナは、あー、そのー等と言葉を濁していたがネルバが怪訝そうな顔をしたのですかさずバイオが答えた。
 「君のご両親は交通事故で亡くなったんだ。不慮の事故だった」
 バイオの言葉を聞いてネルバはそうかと頷いて再び質問した。
 「両親の名前は何ですか?」
 するとマクリーナは笑顔に戻り答えた。
 「君のお父さんはヴェルだ。そしてお母さんはマリネ。本当に素晴らしい人だったよ二人とも。そして君はその二人の遺伝子を受け継いでいる。君も素晴らしい能力者になれるよ!」
 マクリーナはそう言うと不意に立ち上がった。
 「ごめんね。僕は午後から授業があるから今日はこれで帰るね。君が入学してくれることを心から願ってるよ」
 そう言ってマクリーナは握手を求めて再び手を差し出した。今度はネルバもガッチリと握手をしてマクリーナを見送った。
 「バイオさんでしたっけ? まだ良く理解できていませんのでもう少し詳しく話を聞きたいんですが――」
 ネルバがバイオにそう尋ねるとバイオは笑顔で頷いた。
 「勿論だよ。まず学校の歴史から話そうか――」
 そう言ってバイオは静かに語り始めた。


 「ガンヅの歴史は長い。メルクルンの名前の由来はな、大昔にメルクルンという地名があってそこに五人の能力者が集まった。錬金術師のニコラス・フラメル。魔術師のアンバルス・チェッカー。結界師のガンベル・バルベル。召喚師のサトル・アンドウ。そして全能師のペルシア・ダイゴウ。この五人がメルクルンを創設したんだ。そして今でも寮の名前としてこの偉大な五人の名前は残っている。」
 そう言った後、バイオは自分の鞄から水筒を取り出し、飲み始めた。そして水筒の蓋を閉じてネルバに向き直り、咳払いをして再び話し出した。


 「そして学校に入ると自分の能力によって授業内容が変わる。錬金術師の場合は錬金術をメインで学ぶ。それから必須科目、あとは自分で科目を選ぶ事が出来る。そして何と言っても三日に一回ある試合が行われる。何だと思う?」
 バイオがネルバに尋ねた。ネルバは知るはずもないと言わんばかりに首を振った。その様子をみてバイオは微笑んで続けて話した。
 「そりゃあ知るわけないよな! 寮生の何人かとチームを組んで他の寮と能力ごとに試合をするんだ。その試合というのが、簡単に言えば武道会のようなものだ。例えて言うなら俺のチームがあるとする。俺は錬金術師だから相手も錬金術師になる。そして戦いが始まるんだ。勝ち負けは相手が倒れれば良いんだが殆どはポイント制だ。どれだけすばやく術が使えるかの技術点、試合中に術のミスがないかの完成点、相手にどれだけ多くの攻撃が出来るかの優勢点、そして一番が相手に素晴らしい一撃を与えた場合に与えられる撃攻点があるんだ。一試合毎の時間は一人十五分与えられているんだ。この試合が学校のメイン行事のようなものだ。そして嬉しい事に試合で活躍出来ればスポンサーも付くんだぞ! おぉっと言い忘れてた、一年間で通算点というものがあってな、それは何種類かに分かれていてな、まずは個人通算点。これは試合での自分の総合点数、授業や日常生活で先生方から点を与えてくれる事もある。勿論悪い事をすればマイナスされてしまうから気をつけるんだぞ? 個人通算点は年間四回表彰されるんだ。トップから三人までが表彰の対象だ。素晴らしい賞品がもらえるぞ! もちろんスポンサーが付いていればスポンサーからも定期的に何かがもらえるぞ! 次にチーム総合点。これは試合でしか獲得できないんだ。簡単に言うと全てのチームの中でトップから三番目までが表彰される。次に寮総合点だ。これは個人点、チーム点、これらを全て寮ごとの総合得点が一番高かった寮がその年の最後に表彰される。あぁ、ちなみにチーム点も年四回の表彰だ。何か質問はあるか?」
 しばらく続いた話が一段落してバイオは再び水筒に手をつけた。
 ネルバは頭の整理がつかず最初は目が泳いでいたが直ぐに目を輝かせた。
 「何か凄い! いっぱい質問あるけど良い?」
 ネルバのキラキラした目を見てバイオは嬉しそうに頷いた。
 バイオのネルバを見る目はまるで自分の子供を見ているかのような目をしていた。
 「何でも質問しろ!」
 「じゃあ、その試合のチームはどうやって決められるの?」
ネルバはもの凄い好奇心でいっぱいだ。
 「まずは立候補するんだ。大体立候補すればチームに入れる。なんたって立候補しない人が居ないくらいだからな! そんで能力ごとにチームが分けられる。一チーム五人だ。錬金術師、結界師、魔術師、召喚師、忍術師。大体この五人で分けられるんだ。ネルバが立候補するならどれにでもなれる。なんたってお前さんは全能師だからな! 今から待ち遠しいよ! 他に質問はあるか?」
 その後も日が暮れるまで二人の会話は続いていた。ネルバはバイオの話を聞いていくに連れて一層好奇心が高まり、楽しみになっていった。バイオもネルバと話していくに連れてネルバの今後を楽しみに思っていた。




 「どうだった? 彼は入学してくれそうか?」
 学校に戻ったバイオは校内に入るなり副校長のマクリーナに尋ねられた。二人は歩きながら話していた。


 「あの子は来ますよ。今日学校の事を話したら凄く興味を持ってくれていました」
 バイオは病室でのネルバの様子をマクリーナに話しているとマクリーナも嬉しそうに頷いていた。
 「そうか。来てくれると良いな――」
 大広間に向かう途中に話していた二人だが広間に行くに連れて二人は黙り込んでしまった。理由は不明だが何か重い空気を感じているようだった。
 生徒がいつもより少ない大広間に二人は着き、感じ取った。何か異様な空気が流れている。マクリーナは午後授業があったのだが国際ガンヅ連盟に呼び出されていて学校内に居なかった。バイオはネルバの見舞いで病院に居たので何が起きたのか分かっていない。しかし二人とも何かがあったと感じていた。


 「サイトウ先生。何かあったのですか? 生徒が少ないように思えますが」
 マクリーナはサイトウと呼ばれた教授に尋ねた。サイトウは小声で話した。
 「今日の試合で重症者が出てしまいまして。何と言っても今日は年間優秀チームの最終戦だったので盛り上がっていたのですがその第二戦にお互いが闇の魔術を使ってしまい、それが跳ね返って一年生に当たってしまいました。今メイナー先生が懸命に治療を行っていますがまだ意識は戻っていません」
 バイオ、マクリーナは息を呑んだ。闇の魔術は試合で使うのは禁止されている。それが生徒の間で使用された。しかも関係のない一年生に跳ね返ってその生徒は重症。
 マクリーナは少し何かを考えて大広間を出て行った。
 「バイオ教授。そちらは何をなさっていたのですか? 学校には居なかったんですよね?」
 サイトウがバイオに尋ねた。バイオはサイトウの席の隣に座り答えた。
 「校長から言われていたお使いをしていました。しかしそんな事があったなんて――連盟にどう説明するんですかね――」
 バイオはネルバの事どころではないと感じていた。国際ガンヅ連盟はメルクルンと同様異界にあり、能力師たちがセルン界(普通の人が暮らす世界)違法な事をしていないか監視したり、ガンヅオーベル・ウォーの世界大会を主催したりなどガンヅ界の政府のような立場なのだ。
 「しかし、こんな事って今までにあったんですか?」
 今度はサイトウがバイオに尋ねた。サイトウはセルンだ。しかしセルンの歴史に精通しており校長のベンが教授にとスカウトしたのだ。
 「いえ、自分が知る限り初めてです。試合で闇の魔術を使うなんて――」
 バイオはガックリとうなだれ、悲しんでいるように見えた。


 しばらく大広間に静寂が広がっていた時にマクリーナが入ってきた。そのまま教授達が座る上座まで行き、生徒達を見渡した。生徒達も何か聞けるんじゃないかとしっかり耳を傾けている。マクリーナはしばらく生徒達を見た後口を開いた。
 「諸君も知っている通り今日、あってはならぬ事が起こってしまった。しかし過去をどう悔やんでも仕方がない。皆はいつも通りの生活をしてくれれば良い。しかし、ガンツオーベル・ウォーの祝祭は無し。チームの表彰、寮の表彰、個人の表彰も無しだ。自粛という事だ。分かってくれ。以上! 食事の時間だ!」
 食事が運び込まれるが誰一人手をつける者はいない。それもそのはずだ。今まで年間表彰がなくなったことなど無いからだ。生徒は落胆の気持ちもあるが当たり前だという気持ちもある。闇の魔術が学校で使われたとなれば校長の立場も危うい。




 結局生徒達は食事を食べ、寮に戻っていった。上座の教授達は動かない。その中で一人、席をたった教授が居た。マクリーナだ。
 「先生方。校長からの伝言です。なるべく生徒達にショックを与えないように授業を続ける事。明らかにショックを受けている生徒がいたら直ぐに授業を中止して生徒を寮に戻し、当該の生徒をマダムメイナーの所に連れて行きショックを和らげてもらうようにするように。との事です。よろしくお願いします」
 マクリーナはそう言った後再び椅子に座った。すると大広間の扉からメイナーが走って入ってきた。顔が青ざめている。
 「大変です! マルスが息を引き取りました。それにあの二人が自分で魔法をかけて意識不明です!」
 そう言った途端に全教授が席を立ちメイナーの後に続いて走ってその場へ向かった。


 「何だこれは――」
 サイトウの言葉だった。試合で闇の魔術を使った二人、ジョニー・マウントとウォルス・マインダが倒れていた。それを見たサイトウはつい言葉に出てしまったのだろう。外傷は見られない。しかし何らかの魔法で自分を傷つけたのだろう。
 「マダムメイナー。媒介道具は没収したんですよね?」
 マクリーナが鋭い目つきでメイナーに聞いた。メイナーは勿論ですと何度も何度も頷いた。
 「それでは何故魔法が使えたんだろうか――」
 マクリーナは一人で考え込んだ。魔術師は魔法を使用するにあたって自分で決めた道具を媒介にして魔法を使う。つまり媒介具を取ってしまえば魔法は使えない。いや、上級者は使えるがこの二人のようなまだ中学年の生徒には不可能だ。媒介具は壊れるまで一生使い続けるのだ。媒介具を簡単に変えることも勿論出来ない。
 「メイナー。取りあえず治療をしてください。緊急職員会議をします。ザインド、マルスの親御さんにご連絡差し上げて。僕は校長に連絡して指示を仰ぎます。皆さんこれは緊急事態ですので警戒を怠らないで下さい」
 マクリーナはそう言うと踵を返して保健室を出て行った。他の教授はどうしようかと迷っていた。その時にサイトウが声を上げた。
 「すみません。何が緊急事態なのでしょうか? セルンの私にはとんでもない事をした青年が悔いて自害しようとしたとしか思えないのですが――良かったら誰か教えてください」
 戸惑った様子でサイトウは話した。
 「バイオ。説明してあげなさい」
 デルト・マックイーン教授がバイオにそう言ってマクリーナを追うように部屋を出た。その他の教授も部屋を出ていった。治療をしているメイナー、バイオ、サイトウを除いて。
 「サイトウ先生。魔術師は媒介具が必要なのは知っていますよね?」
  バイオはサイトウに同意を求めた。サイトウは頷いて同意した。
 「二人の媒介具を没収したのに何故か魔法で二人は倒れた。勿論魔法は使えないはずです」
 バイオがそこまで言うとサイトウはまさかと声を上げた。
 「じゃあ、何者かが二人に魔法をかけたと?」
 サイトウは目を丸くして開いた口が塞がらないと言わんばかりに口を大きく開けている。信じられない。サイトウが口にした。
 「勿論そうと決まったわけではありませんが媒介具無しに魔法を使うのは上級技術です。二人のような中学年に出来る芸当ではありません」
 そう言ったバイオ自身も信じられないといった風に首を振った。


 今この学校に何が起きているんだ――
 バイオが今思っている事だった。

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