マイライフ

星河☆

友達

 宿泊まりを始めて二週間が経った。誠の読み書き勉強は大分進んだ。誠は教えられた事を次々と吸収していき、勉強のセンスの片鱗を見せた。


「良し! 今日はここまで。誠凄いな~もう高校生レベルまで来ちゃったよ。まだ誠は小学生の年齢なのにな。勉強楽しいか?」
「うん! 楽しい! 知らなかった事がいっぱいで凄く勉強になる!」
「そっか。今日はもうお終いだから自由にして良いよ」
「分かった! メロニケスおいで!」
 誠はペットのピクシーの名をメロニケスと名付けた。名の由来は読み書きを習い始めて魔法語にも触れるようになってから誠が響きと意味が格好良いからだと言った。意味は『未来』誠がシャードと触れ合うようになってから自身の未来を考えたいと思うようになり家族というペットに未来と名付けたのだ。
 この二週間シャードと誠は学校の事、誠が抱える恐怖をどう克服していくかを何度も話し合ってきた。まだ答えは出ていない。しかし着実に前には進んでいた。その結果が誠の笑顔が増えた事だ。だがやはり他人の前に出ると体が震えてしまい恐怖が前に出てしまう。誠もそれを自身で感じ取っている為自分でも治したいと思い自ら進んで買い物に出たりと努力をしている。






 誠はメロニケスとじゃれあっている時にシャードはパソコンを取り出して仕事をしていた。ここ二週間シャードはギャオレルー魔術学校の来年度の新たな授業プログラムを作っていた。
 シャードは仕事の傍ら誠に読み書きを教えている事に安らぎを感じていた。自分と同じ境遇で自分に初めて心を許してくれた少年に息子と同じような愛情が湧いていた。それは誠も同じだった。誠はシャードを自分の父親同然に感じていて他の大人と違い二週間で本当の親子のような親近感が感じられるようになったのだ。
 通常であればたった二週間でそんな親密な関係になれるわけがない。しかし誠は大人から愛を受け取った記憶がない。その為シャードによる寵愛は誠にとって重要な事だった。




 メロニケスとじゃれあう誠を見て微笑みながら仕事をするシャードだが、時計を見てパソコンを閉じた。
「誠、夕飯を食べに行こう」
「分かった。今日は何食べるの?」
「何が良い?」
「オムライスが良い!」
「またか~。分かった。でもオムライス以外にも美味しい食べ物はいっぱいあるぞ?」
「オムライスが良いの!」
「はいはい。分かったよ」
 誠の押しに負け、今日もオムライスに決まった。二週間前誠が初めてオムライスを食べて以降オムライスが大好物となりオムライスを食べ続けている。シャードはいい加減飽きているが誠が食べたいと言っている以上食べさせないわけにはいかない。




 宿から出てしばらく歩き、二週間前オムライスを食べた店の前に着いた。
 そして二人は店に入り、いつも通りオムライスを二人前注文した。この店はオムライス専門店の為オムライスしか置いていない。
 誠が自ら恐怖を克服しようとしてからはこの店に入れるようになった。それは何度も通っているからであって初めての店などではやはり恐怖が出てしまう。


 「やぁ、今日も来てくれたんだね。誠君だったね。今日も大盛りのオムライスを作ってあげるからね」
 店員は二週間毎日来る客を嫌でも覚えた。一週間前にシャードと店員が話して自己紹介もした為誠の名前も知っていた。


 「は、はい……」
 毎日来る店、毎回同じ店員でも恐怖とまではいかないが、目も合わせられず緊張で声が出なくなる。
 「シャードさんは普通だよね。じゃあ少々お待ちください」
 店員は注文を厨房に伝えに去っていった。
 店員が去ると誠は大きく息を吐いてリラックスしようと深呼吸を繰り返した。


 「返事頑張ったな。偉いぞ」
 シャードが言うと誠は小さく頷いた。
 二週間前の誠からすればこれは大きな進歩だった。大人が前にいるだけで恐怖が前に出てしまう状況だったのに今では恐怖をなるべく抑えるまでに成長した。




 「お待たせしました~。オムライス大盛りと並みです」
 大盛りのオムライスが誠の前に来ると誠は満面の笑みで直ぐにがっついた。
 この笑顔が見たくてシャードは飽きてもここに来るのだ。


 誠は自分のオムライスをスプーン五杯分程小皿に分けてメロニケスに食べさせる。メロニケスも主人と同じくオムライスが好物のようで、スプーン五杯分など直ぐに無くなってしまう。その為大盛りオムライスの四分の一程はメロニケスに取られてしまう。しかし誠はそんな事お構いなしにメロニケスに食べさせている。幼いながらに自分がされてきた仕打ちを決してさせない。そんな事を考えながらメロニケスと接しているのだ。




 「よし。じゃあ行こうか」
 食事を終えると素早くシャードが言った。
 名残惜しそうに誠は頷くがシャードはまた明日も来るんだろうなと思いながら会計を済ませた。


 「メロニケス、そんなにお皿舐めてないで早く行くよ」
 会計時メロニケスがいないことに気づいた誠は席に戻るとメロニケスはお皿に残った調味料の痕を舐めていた。
「キュイ?」
「ダメ。帰るよ」
「キュー……」




 「ごちそうさま」
 その瞬間誠、シャードは立ち止まった。
 誠が大人に向かってしゃべった。誠はどうして自分が大人に向かって話せたのか理解できていない。しかし現にごちそうさまと一言しゃべったのだ。
 「とにかく出よう」
 シャードは店の出入り口を封鎖している事に気づき慌てて誠の背中を押して店を出た。


 「誠! 話せたじゃないか! しかも普通に!」
 店を出て直ぐにシャードは周りを気にすることなく大声で誠の両肩に手を当てて喜んだ。
 誠は未だに状況が理解できずにボゥっとしている。


 「誠良くやった……。後ちょっとだな」
 シャードは喜びのあまり泣き出し、誠をギュッと抱きしめた。
 誠が何故大人に向かって普通に話せたのか全く分からない。しかしシャードと誠の努力がこうして実を結んだのだ。






 やっと泣き止んだシャードは誠と共に宿へ帰り、これからの事を話していた。


「第一歩を踏み出したな。本当に良くやった。今気持ちに変化はあるか?」
「うん――。何か気持ちが軽くなった感じがする」
「そうか――。そうか――」
 シャードは既に誠の本当の父親になっていた。誠もシャードが本当の父親なのではないか。そんな事を思い始めている。そんな中第一歩を踏み出した。シャードにとってこの上ない喜びだった。


 「じゃあ今日はもう休もうか」
 シャードは優しく誠にささやき笑顔で誠を撫でた。
 「うん。お休みなさい」














 秋が一層深まる中新たな人生を待っている一人の少年がいた。
 少年の名は外伊誠。魔術師にして頭も良い優秀な少年だ。しかし少年は赤子の頃に親が行方不明になり親戚の家をたらい回しにされてきた。そんな暗い過去を持つ彼は人に心を開く事が出来ないでいた。そんな中自分の中にある特殊な力に目覚め親戚の家を飛び出した。
 そして洞穴で独り暮らす少年の下に一人の男が現れた。男は魔術師と言い、魔術学校の教師だと言って誠を魔法界に連れ出そうとしていたが大人に対する恐怖がある少年は男を拒絶した。しかし男は家族、仲間、絆を聞かせて少年を納得させた。
 同じ境遇を持った者同士惹かれあったのか、少年は男に心を許し魔法界に出る決意をした。
 そして魔法界に赴き学校に入学する為に読み書きを勉強し、大人に対する恐怖を克服しようと二人三脚で努力してきた。


 そして一ヶ月が経った……。


 「いよいよだな誠。今日で私とは一旦お別れだけど学校で会えるから。またね」
 シャードは大きな駅の前で自身の身長の半分ほどしかない少年、誠に笑顔で話しかけていた。誠も笑顔でシャードの話しを聞いており右肩に乗っているピクシー妖精、メロニケスも耳を傾けているように見える。


 「僕まだ不安はいっぱいあるけど頑張るから。シャードにいっぱい教えてもらって色々分かったし大人に対する恐怖も抑えられるようになったから。シャード、本当にありがとう」
 誠の言葉に今にも泣き出しそうなシャードだが必死でその涙を堪えた。
「何だよそのお別れの挨拶みたいなのは。学校で会うんだからな。ほら、乗り遅れるぞ。行ってこい」
「うん! ばいばい!」
 誠は大きく手を振ってシャードと別れ大きな荷物を引きずりながら駅舎に入っていった。
 シャードは学校で会えると分かっていながらも我が子同然の誠を送り出すと名残惜しそうにその残像を見続けていた。


「シャード、そんな顔してるんじゃない。学校で会えるじゃないか」
「ダグシン校長、いらしてたんですか。寂しいのではないのです。嬉しいのです。誠が一ヶ月でこんなにも変わってくれた。ところでいつから見ていらしたのですか?」
「洞穴から全てだ」
 シャードが振り向くとそこには誰もいなかった。
 「あの方らしいな――」
 シャードは少し微笑み駅を後にした。








 「一番線に停車中の電車はギャオレルー魔術学校行きの急行電車です。十分後に発車いたします」
 誠はアナウンスを聞いて一番線に停まっている電車に乗った。




 電車の中は既に多くの少年少女で埋まっていた。
 一瞬誠の顔が曇ったが直ぐに深呼吸をして落ち着かせた。
 なるべく人の少ないところに行こうと空いている部屋を探して車両を歩き始めた。


 程なくして誰もいない部屋を見つけ、扉を開けて中に入った。


 「キュキュキュイ」
 メロニケスは始めての列車に興奮気味に部屋の中を飛び回っていた。
 すると部屋の前に一人の少年が立ち止まってドアを開けた。
 「I'm sorry, which may be sitting here?」
 誠は英語は少し勉強したがまだ話せるまでは分からずその場で固まってしまっていた。
 しかし直ぐに鞄から小さい補聴器のような機械を取り出して耳につけた。
「ごめん。オフトメタオミ付け忘れてた。もう一回言ってくれる?」
「どこも空いてなくてさ、ここ座っても良い?」
「勿論良いよ」
「ありがとう。僕は入学生のシェシル・ホード。よろしくね」
「僕も入学生の外伊誠だよ。よろしく」
 二人は握手をして向かい合って座った。
 シェシルはペットを持っていないようでメロニケスをまじまじと見ている。
 シェシルの視線に気づいたメロニケスはびっくりして誠のポケットに隠れてしまった。
 「ごめんね。僕ペット持ってないんだ。家が貧乏農家で飼う余裕がないんだ」
 シェシルがそう言うと人間の言葉を理解するピクシー、メロニケスはシェシルの所に飛んでいって短く鳴いた。
「可愛いでしょ?」
「うん。僕ずっとペット欲しいんだけどね――。ごめんね、こんな話してもしょうがないよね」
「大丈夫だよ」
 すると列車は動き出した。
 ホームには見送りをしている親などが手を振って子供たちに別れを告げていた。


「シェシル君の親は見送りに来てないの?」
「うん。余裕のない農家だから少しも休むわけにはいかないからね。それと日本ではどうか知らないけど外国では君なんてつけないからシェシルって呼んでよ」
「分かった」
「そう言えば誠の親は見送りは?」
 すると誠の顔が一瞬曇ったが直ぐに晴れた。
 「駅の外で別れたんだ。まぁ、本当の親じゃないんだけどね」
 誠がそう言うとシェシルは申し訳なさそうに謝った。


 「ねぇ、そう言えば学校までどの位で着くの?」
 誠がシェシルに聞くとシェシルは手持ち鞄から冊子を取り出した。
「嘘~!」
「何!?」
「丸一日掛かるんだって!」
「長……」
 すると二人は腹を抱えて大笑いした。メロニケスは不思議そうに二人を見つめて首を傾げている。




 「僕たち車内販売はいかが?」
 突然ドアが開かれて老婆が手押し車を見せながら聞いてきた。


「僕は良いや」
「全部の種類二つずつ頂戴」
「そんな! 良いよ」
「良いの。これからよろしくって事で」
「ありがとう」
 老婆は全種類二つずつ置いていき、会計に移った。




 二人はその場に固まっていた。手押し車はそこまで大きくなかったので全種類と言っても多くはないだろうと思っていたが罠だった。手押し車には魔法が掛けられており見える範囲以外に大量のお菓子が入っていた。


 「お会計は三千ドルだけど本当に買う?」
 老婆は高額な買い物に少年たちを気遣い尋ねた。


 「やっぱり僕良いよ」
 シェシルは払えるはずもない高額さに遠慮したが誠は大きく首を振った。
 誠は大きな鞄から封筒を取り出した。
 「我は主人なり。ここに命ずる、開け」
 すると封筒は自然に開き中には大量の紙幣が入っていた。


 「はい」
 三千ドルを支払うと老婆もシェシルも呆然として誠を見つめていた。


 直ぐに我に返った老婆はドアを閉めて次の営業に向かった。


 「誠、君魔法もうそこまで使えるんだね。しかも何そのお金。君お金持ちなの?」
 矢継ぎ早にシェシルが質問し誠は笑ったが直ぐに質問に答えた。


「魔法は四歳の時に始めて使った。それ以降は自分の意思で使って一人で生活してたからね。魔法には慣れてるんだ。お金は僕のいなくなった本当の両親が僕に遺産を残してくれてたんだって」
「そうなんだ~」
 シェシルは目を丸くして誠の話しを聞いていた。
 しかし直ぐにお菓子に目をやり食べて良いのかと戸惑いながらチラチラ誠を見ていた。
 「ほら、食べなよ。僕も食べるからさ。これからよろしくね」
 そして二人でお菓子を食べ始めた。










 「そんな過去があったんだ――」
 お菓子を食べながら誠はシェシルに自分の身の上話をして大人への恐怖なども話していた。
 「僕は両親もいるし貧乏だけど幸せなんだ。誠の気持ちが分かるって言ったら嘘になるけどこれだけは言えるよ。もう僕と誠は家族だよ」
 シェシルは口の周りにお菓子のくずを付けながら笑顔で言った。
 「ありがとう」
 シェシルの言葉が嬉しかったのか、誠は照れ隠しをするように必死でお菓子を食べ続けた。
 メロニケスも誠から度々お菓子をもらい、食べている。


 「そう言えば誠さっき魔法使った時日本語みたいだったけどこれからは魔法語で魔法を使ったほうが良いよ」
 お菓子をほおばりながらシェシルは誠に言った。
「どういう事?」
「魔法はいろんな国の言葉でも使えるけど、魔法語で呪文を唱えるよりも効果は弱くなるんだって。パパが言ってた。学校では基本魔法語で魔法を使うんだってさ。パパもママもギャオレルーの卒業生なんだ」
「そうなんだ――」
「でも誠は今既に魔法をそこまで扱えてるから魔法語でも凄い魔術師になりそうだね」
「そんな事ないよ」
 誠はシェシルの言葉が嬉しすぎて笑顔を隠せずに笑顔で話し続けていた。



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