マイライフ

星河☆

全ての始まり

 ごつごつした岩が少年の周りを囲んでいる。少年は枯葉や枯れ木を種に火を燃やし、暖を取って過ごしていた。
 そして朝日が海面から顔を出す前に狩に出かける。鹿を狩り、その場で捌いて内臓など必要のない部分は土に埋め、肉と一部の骨だけを洞穴に持って帰る。骨はナイフに加工するなどして使うのだ。
 現在は決して石器時代などではない。平成の今だ。


 彼には親がいない。そして現在一人で洞穴で暮らしている。
 なぜ彼に親がいないのか、なぜ彼はこんな人里はなれたところで一人で暮らしているのか。


 彼の名は外伊誠そといまこと。十歳の少年だ。誠がまだ赤子の頃両親は突然蒸発した。最初は親戚に引き取られたが、物心付いたときには親戚の家をたらい回しにされていた。そして八歳になった頃自ら家を出て放浪の身となった。


 何故放浪の道を選んだのか? それは彼自身の身の異変にあった。


 彼は魔術師だった。親戚の家に身を置いていた時交通事故に遭遇した。誠が四歳の頃道路を横断しようと横断歩道を渡ろうと道路に踏み込んだときトラックが誠の目の前に突っ込んできた。が、トラックは誠に当たらず誠に当たる直前で宙に浮き、逸れた。
 それがきっかけで親戚からは気持ち悪がられてたらい回しにされたのだ。
 それ以降誠は自分自身以外の者は信用せず自分だけを信じて生きてきた。その結果が洞穴で誰にも干渉されずに生活するというものになった。
 誠は自分が普通ではないと気づいている。その特別な力に気づいたのが家を出る前だった。その力に気づいたからこそ一人で生活する事が出来ているのだ。




 「今日も鹿が取れた――。これで一週間は持つ」
 今日も生きていく為の食料を獲りに狩りへ出かけて、鹿を一匹仕留めていた。
 肉は腐らないのかという疑問が出るが、誠にその疑問は愚問である。洞穴の岩面に特殊な力で空間を作り、その空間に冷気を流す事で冷蔵庫の役割を成しているのだ。
 誠は狩りから帰ると既に捌いてある肉を冷蔵庫にしまい、今食べる分を常に燃やされている焚き火に乗っている網に乗せた。


 しばらくして肉が焼け、それを口にすると嬉しそうに食べながらラベルがないペットボトルに入っている水を飲んだ。
 誠の楽しみは食事だった。洞穴で何もする事がない誠は山に散歩に行くか洞穴で寝るしかない。山はいつも行っている為新鮮味がなく飽きてしまう。食事も毎日同じような物だが食事をしていると気持ちが落ち着き、幸せな気持ちになるのだ。






 食事を終え、肉に付いていた骨を埋めにいく為に洞穴を出た。
 いらない肉は獲物を捌くときに捨てるが、食事をするまで取れない骨もある。その為骨が出るたびにいらない骨は捨てに行くのだ。




 いつものゴミ捨て場に着いた。しかし目の前に木が一本あるだけで周りには何もない。すると誠は木の根元に手をかざした。
 「掘れ」
 誠は土に向かってそう言うと一瞬のうちに根元に穴が開いた。そこには大量の骨が埋まっており、その他にもゴミが埋まっていた。
 誠はその穴に骨を放り投げると再び穴の上に手をかざした。
 「埋めろ」
 すると自然に穴に土が被さり先ほど同様何もない地面になった。
 誠は息をフッと吐き、踵を返して洞穴に向かった。
 また退屈な一日が始まる。そう思うと誠の心に穴が開いている様な気分になる。






 山に面している崖には大量の洞穴があるが、誠は迷うことなく一つの穴に向かっている。
 そして真っ直ぐ進んだ先の穴の前に立つと目を閉じた。


 「開け」
 そして穴に向かって一歩踏み出した。
 目には見えないが穴の入り口には誠が施した動物除け等がある。施した本人であってもそのまま進むことは出来ない。その為入り口で施しを解かなければいけない。




 誠が住居にしている洞穴は全長が長い。日の光が中まで届く事もない。しかしこの洞穴には明かりが付いていなかった。それはこの洞穴に慣れている誠は目が見えなくてもそのまま先に進むことが出来るからだ。だが自分の生活地にはしっかりと明かりが付いている。


 入り口を抜け、しばらく進むと焚き火の光が見えてきた。自分の場所に戻ってきた安心感から少し気を許したその時――


 「やぁ、君がマコト・ソトイ君かね? まぁそうだろうけど」
 誠は不意を付かれて驚きと共に後方へジャンプし、身構えた。
 「誰だ! ここには入れないはずだ!」
 誠が叫ぶがまだ先ほどの声の主の姿は見えない。
 ジリジリとすり足で焚き火がある方へ近づいていくと焚き火の前にある丸太で出来た椅子に外国人風の丸帽子を被った男が座っていた。


 「やぁ、私はシャード。シャード・リューオだ」
 男は帽子を取って挨拶をし、焚き火の前にあるもう一つの椅子に座るように促した。


 「立ったままで良い。あんたは何者だ。ここには入ってこられないはずだ。どうやって入った」
 誠は身構えたままシャードに聞いた。警戒しているが誠の指先は震えていた。自分の施した術が破られたという事に恐怖を感じていた。


「そうか。座って話し合いたかったんだがね。まぁ良い。まず第一の質問から答えよう。私は何者かだったね。私はギャオレルー魔術学校の教師だ。そして魔術師。君も魔術師だろ?」
「魔術師? それかは分からないけど特別な力は持ってる。それより早く質問に答えろ」
「はいはい。え~と、そうだ。どうやって入ったかだったよね。そんなのは簡単だ。魔法で君の掛けた魔法を破って入った。子供が掛ける魔法なんて大人からしたら簡単なものだよ。まぁ君の住処に勝手に入った事は申し訳なく思ってる。すまなかった。それで他に質問はあるかい?」
 シャードは再び帽子を取ると頭を下げて誠に謝罪し、誠の答えを待った。


 誠は身構えたまま質問があるかどうか考え始めた。
 考える間も目の前にいる男から目を離す事はなかった。


 数分後誠は口を開いた。
 「魔術学校なんて本当にあるのか分からないけどもしあるのならどこにあるんだ? その教師が僕に何のようだ? 僕を殺しに来たのか」
 誠がそう言い終えると誠の体はさらに震え、顔は真っ青になっていた。
 今まで親戚から受けていた仕打ちから、大人という生き物が恐怖でしかも目の前にいる男は魔術師。そして自分よりも格上の魔術師だ。
 誠の目はシャードを見ているが、恐怖からその目も虚ろになっていた。


「大丈夫だよ。私は君を殺したりしない。襲ったりもしない。安心してくれ」
「そんな事信用できるか!」
 誠は大声で叫んだ。するとシャードが立ち上がり、誠を落ち着かせようと近づいた。


 「来るなー!!! ファイア!!」
 誠は恐怖に勝てず両手をシャードに向けて大きな火の玉を放った。
 しかしシャードは両手でそれを受け止め小声で呟いた。
 「シムシフルスモス相殺
 すると大きな火の玉は一瞬で消えた。
 誠は後ずさりし、腰が砕け、尻餅をついて体を守るように両手で顔を覆った。


 「大丈夫だよ。君を落ち着かせようと立ち上がっただけなんだ。驚かせてごめんね。大丈夫だから。本当だよ。じゃあ僕はまた座って質問に答えるからね」
 そう言うと再び焚き火前の椅子に座り、誠の質問に答えた。


 「まずギャオレルー魔術学校がどこにあるのかだよね。魔法界というところにある。今ここにいる人間界とは別のところだ。次に僕が君に何の用事かだけど、君にその学校に入学してもらう為に来たんだ。君には魔法をコントロールしてもらう為に入学してもらうんだけど既にコントロールしてるね。でも魔術師は入学する決まりになっているから入学してもっと勉強して欲しい。君は本当に辛い思いをしてきたんだね。でももう大丈夫だよ。誠、君が入学すれば仲間という家族が出来る。独りじゃないんだ。さぁ僕と魔法界に行こう」
 シャードはそう言うと誠を驚かせないようにゆっくりと立ち上がって手を差し出した。


 「僕は行かない……行けない」
 誠はもう驚く事は無くなったがまだ恐怖と感情の高ぶりで顔は彩られている。


「どういう事だい?」
「僕はお金がない。学校に行くお金もないしここから離れたくない。僕の家はここだ」
「お金の事は心配ないよ。君のご両親が残してくれた遺産があるからね。それに――」
「僕の親を知ってるの!?」
 誠は突然出てきた両親という言葉に鋭く反応した。
 自分を捨てた親、親のせいでこんな生活になってしまったが、それでも自分の親なのだ。
 「いや、知ってるわけではないんだ。すまない。でも銀行に記録が残っていて君のご両親が遺産を残してくれているんだ」
 シャードの言葉に一瞬落胆したが直ぐに顔を上げて言い放った。
 「お金があっても僕は学校には行かない。あんたの事も信用できない。僕の家はここだ」
 シャードは誠の気持ちが分かると言わんばかりに何度も頷いた。
 そしてシャードは誠の前に胡坐をかいて座り、話し始めた。


 「私もね家族がいなかったんだ。私は魔法界生まれだから誠とは少し違うけど、とにかく生まれたときから家族がいないんだ。でも十歳になったときに魔術学校の先生が尋ねてきたんだ。今の私のようにね。しかも今の誠と同じように他人を信用できなかった。子供の頃どんなに周りに助けてくれと言っても誰も助けてくれなかった。皆見て見ぬ振りをして私を遠ざけた。そんな時に学校の先生が来て僕を学校に入学させてくれた。最初は本当に嫌だった。でも次第に友達が出来て先生も本当に親身になってくれて話を聞いてくれた。私は救われたんだ。家族が出来た。誠、君も殻に閉じこもってばかりじゃなく私みたいに家族を作らないかい? 魔法界、学校は楽しいよ」
 シャードはそう言うと優しく誠の頭を撫でた。笑顔で今までの誠の苦労を労った。そして優しく誠を抱きしめた。


 「じゃあ行こうか」
 誠は何も言わなかった。だがそれは同時にシャードに心を許した証でもあった。同じ境遇の人に出会い、恐怖の塊であった大人でも優しい人がいた。自分を想ってくれる人がいた。そう思うだけで誠は気持ちが軽くなった。


 そして二人は光に包まれた――。

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