仲間荘の想い
バイトの苦悩
高校入学から一週間が経った。サークル活動は以外にも楽しいものがあった。
部長や桜井さんが書いた小説を読めるし自分でも書いてみたいっていう気持ちにもなる。
「じゃあ今日はこれでおしまい。また明日ね」
岸谷先生がHRの終わりを告げると生徒は部活に行ったりバイトへ行ったり友達とおしゃべりしたりしている。
「亮君、行こ」
「ごめん桜井さん、今日はバイトなんだ」
「そうなんだ――。分かった。じゃあ頑張ってね。また明日!」
「うん。ばいばい」
今日から伯父さんの紹介で入った何でも屋のバイトが始まる。
何でも屋っていう位だから何でもするんだろうけど何をするのか良く分かっていない。
一度面接で社長に会ったけど良い人そうだったし心配はいらないかな。
五時からバイトだから今から自転車ですぐに向かう。
会社は小手指駅から自転車で五分ほどの場所にある。
古ぼけた築年数五十年はいってるのではないかと思うくらいのボロさで二階の窓には『片平万屋』と書かれている。
こ、ここだよな?
面接は伯父さんの家でやったから会社に来たのは今日が初めてだ。
「失礼しまーす」
ビルの二階の一室に意を決して入った。
すると女性が近寄ってきて俺を舐めまわすように見てきた。
「お客様ですか? 何かご依頼でも?」
「あ、いえ、違います。今日からお世話になります南亮です。よろしくお願いします」
深く頭を下げた。
初回の挨拶は完ぺきだ――。ところが。
「何だ、客じゃないのね。今社長たち仕事で出払ってるから待ってて。君の席は用意されてるから。そこよ」
何か冷たい態度だな――。
案内された席は窓際の狭い机だった。でもしっかりした机でよく教室で先生が使っているような机だ。
「ちょっと来て」
女性は俺が座るとすぐに俺を呼んだ。
「これに着替えて頂戴。ここの制服だから。私は片平万屋の経理兼事務をしています根岸美咲です。あなたの事は社長から聞いてるわ。まぁ社長が帰ってくるまでコーヒーでも飲んで待ってて頂戴。コーヒーは飲み放題だから」
「あ、分かりました。これからよろしくお願いします」
それから五分ほどで俺のコーヒータイムは終わりを告げた。
「帰ったぞー」
事務所のドアが開き、三人の男性が入ってきた。
一人は社長の片平さんだ。
「お、もう来てたか。すまんな待たせてしまって。紹介しよう。こいつは椎羅雄大、ここの社員だ。そんでこいつは吉平吉平。名前と苗字が同じだ。笑っちゃうだろ? まぁ吉平はバイトで大学四年生だったな。で、皆、こいつは今日からうちで働く南亮だ。高校一年生だ。よろしくやってくれ」
「よ、よろしくお願いします!」
「「よろしくっす」」
吉平さんも椎羅さんも人が良さそうで良かった。でも椎羅さんは少し顔が怖い――。
「早速だが亮、今日から現場に出てもらう。ゴミ屋敷の掃除だ。今日中にやらなきゃいけないんだ。もう五時半だからすぐに行かないといけない。椎羅と吉平と亮で行ってくれ」
俺たち三人は返事をしてすぐに荷物をレンタルのトラックに積んで乗り、出発した。
「亮だっけ?」
運転をしている椎羅さんが聞いてきた。
そうですと答えると続けてこう聞いてきた。
「何でうちに来たの? コンビニのバイトとかすれば良かったんじゃない? うちは結構きついんだよ? 社員バイト含めて現場に出られるのは亮含めて四人しかいないしな」
「実は高校入ったらバイトするって決めてたんですけどそれを伯父さんに話したら片平社長を紹介してもらったんです。ここがどういう仕事をするのか聞いてなかったんですけど――」
「社長も罪な人だな~。高校生にはきついと思うぜ」
「頑張ります!」
そうこう話している間に現場のゴミ屋敷に到着した。
椎羅さんは車を止められる場所を探してくると言って俺と吉平さんを下して走って行った。
「臭うな」
吉平さんがポツリとこぼした。
「確かに臭いますね。平屋建てだし家もそんなに大きくないから時間はあまり掛からないですよね?」
俺がそう聞くと吉平さんはうーんと唸って首を傾げた。
「どうだろうな。ゴミの量にもよるからな。あ、椎羅さんが来た」
「悪い、待たせたな。十時までには終わらせるぞ!」
「「はい!」」
こうして俺は意を決して家の中に入った。
中に入ってまず、鼻を突く刺激臭がたちこめた。
何だこの臭いは――。酷すぎるぞ――。
「亮、つっ立ってないでさっさと始めるぞ!」
「す、すみません!」
玄関のごみを片付け始めた。
玄関のごみはさほど多くなく、三人で十五分ほどで終わった。
「中に行くぞ!」
椎羅さんの掛け声で玄関から中へと踏み出した。異臭が凄い。
俺と吉平さんは二人でリビングの片付けを始めた。
椎羅さんは一人でキッチンの片付けをしている。
しかしごみの量が半端じゃないぞ――。
俺は腕まくりをして一層ペースを上げた。
次々とごみを袋に投げ入れ、ペースを上げていくと椎羅さんがいるキッチンの方で短い悲鳴が聞こえた。
俺と吉平さんはすぐにキッチンへ駆け込んだ。
「椎羅さんどうしたんですか?」
椎羅さんに声を掛けると椎羅さんは震える指をキッチンの奥の風呂場に指した。
吉平さんと俺は首を傾げながら風呂場へ向かった。
――嘘だろ……。
手首を切った女性が裸で湯船に浸かっている。その周りにはハエやらなんやらの虫が多く飛び回っていた。
一目で死んでいると分かった。
「亮、警察に電話だ」
吉平さんは冷静に俺に命じた。
しかし俺の耳に吉平さんの声は入ってこない。
いや、入っているのだが体が受け付けない。
この家に入ってきてからの刺激臭はこれだったんだ。
俺には両親がいない。事故で死んだ。俺を残して。きっともっと生きたかったんだと思う。俺の、息子の成長を傍で見たかったはずだ。なのに死んでしまった。
しかし目の前にいる女性は違う。自分で命を絶ったのだ。許せるはずがない。きっと辛かったんだろう。でも生きたくても生きられない人はたくさんいるのに自分から命を投げ出すなんて――。
「亮! 警察に電話しろ!」
吉平さんが俺の肩を揺すって俺を現実に戻した。
「あ、はい」
この女性はまだ二十代だろうか、化粧はしているが若い。
湯船が真っ赤に染まっている。
俺はため息をつきながら警察に連絡した。
五分ほどで警察が到着した。
その頃には腰が抜けた椎羅さんも元に戻っていた。
しかしこの場にいる三人ともショックでまともに事情聴取を受けられずにいた。
それはそうだろう。死体をこの目で見てしまったんだから。
「では今日はこの辺にしましょう。今日はゆっくり休んでください。明日また御社へお伺いしてお話をお聞きしますのでよろしくお願いします」
制服警官と椎羅さんがやり取りしている間俺と吉平さんは家の外で一服していた。勿論俺は煙草はすっていない。
「帰ろう」
椎羅さんが警官から解放され、車で戻ってきた。
三人車に乗り、走り出した。
でも何か引っかかるな――。
普通自殺しようとする人が化粧なんかするか? いや、するかもしれない。
俺は両親の分まで生きると決めたから自殺しようとする人の気持ちなんて分からない。分かりたくもない。
「お帰り。大変だったな。今日は上がっていいぞ。亮、吉平ちょっと来い」
会社に戻り、社長に出迎えられいきなり呼ばれた。
「大変だったな。今日は色を付けといたから。おいしいものでも食べて今日のことは忘れてくれ。すまなかったな。かなり怪しい依頼だったんだがかなり高額な報酬で前払いだったから――。とにかく今日はお疲れ様」
「お疲れ様です。ところで日払いなんですか?」
「バイトはそうだ。仕事がある時は一日一万で報酬が良い場合はボーナスも出る。まぁ実際は一万から税金やら何やらを引いて手取りは八千円程だ。今日は報酬が良かったから一人二万だそんで手取りは一万七千円だ。今日はゆっくり休んでくれ」
「「お疲れ様です」」
今日は本当に最悪な日だったな――。
切り替えていこう。早く仲間荘に帰って飯食いてぇ。
部長や桜井さんが書いた小説を読めるし自分でも書いてみたいっていう気持ちにもなる。
「じゃあ今日はこれでおしまい。また明日ね」
岸谷先生がHRの終わりを告げると生徒は部活に行ったりバイトへ行ったり友達とおしゃべりしたりしている。
「亮君、行こ」
「ごめん桜井さん、今日はバイトなんだ」
「そうなんだ――。分かった。じゃあ頑張ってね。また明日!」
「うん。ばいばい」
今日から伯父さんの紹介で入った何でも屋のバイトが始まる。
何でも屋っていう位だから何でもするんだろうけど何をするのか良く分かっていない。
一度面接で社長に会ったけど良い人そうだったし心配はいらないかな。
五時からバイトだから今から自転車ですぐに向かう。
会社は小手指駅から自転車で五分ほどの場所にある。
古ぼけた築年数五十年はいってるのではないかと思うくらいのボロさで二階の窓には『片平万屋』と書かれている。
こ、ここだよな?
面接は伯父さんの家でやったから会社に来たのは今日が初めてだ。
「失礼しまーす」
ビルの二階の一室に意を決して入った。
すると女性が近寄ってきて俺を舐めまわすように見てきた。
「お客様ですか? 何かご依頼でも?」
「あ、いえ、違います。今日からお世話になります南亮です。よろしくお願いします」
深く頭を下げた。
初回の挨拶は完ぺきだ――。ところが。
「何だ、客じゃないのね。今社長たち仕事で出払ってるから待ってて。君の席は用意されてるから。そこよ」
何か冷たい態度だな――。
案内された席は窓際の狭い机だった。でもしっかりした机でよく教室で先生が使っているような机だ。
「ちょっと来て」
女性は俺が座るとすぐに俺を呼んだ。
「これに着替えて頂戴。ここの制服だから。私は片平万屋の経理兼事務をしています根岸美咲です。あなたの事は社長から聞いてるわ。まぁ社長が帰ってくるまでコーヒーでも飲んで待ってて頂戴。コーヒーは飲み放題だから」
「あ、分かりました。これからよろしくお願いします」
それから五分ほどで俺のコーヒータイムは終わりを告げた。
「帰ったぞー」
事務所のドアが開き、三人の男性が入ってきた。
一人は社長の片平さんだ。
「お、もう来てたか。すまんな待たせてしまって。紹介しよう。こいつは椎羅雄大、ここの社員だ。そんでこいつは吉平吉平。名前と苗字が同じだ。笑っちゃうだろ? まぁ吉平はバイトで大学四年生だったな。で、皆、こいつは今日からうちで働く南亮だ。高校一年生だ。よろしくやってくれ」
「よ、よろしくお願いします!」
「「よろしくっす」」
吉平さんも椎羅さんも人が良さそうで良かった。でも椎羅さんは少し顔が怖い――。
「早速だが亮、今日から現場に出てもらう。ゴミ屋敷の掃除だ。今日中にやらなきゃいけないんだ。もう五時半だからすぐに行かないといけない。椎羅と吉平と亮で行ってくれ」
俺たち三人は返事をしてすぐに荷物をレンタルのトラックに積んで乗り、出発した。
「亮だっけ?」
運転をしている椎羅さんが聞いてきた。
そうですと答えると続けてこう聞いてきた。
「何でうちに来たの? コンビニのバイトとかすれば良かったんじゃない? うちは結構きついんだよ? 社員バイト含めて現場に出られるのは亮含めて四人しかいないしな」
「実は高校入ったらバイトするって決めてたんですけどそれを伯父さんに話したら片平社長を紹介してもらったんです。ここがどういう仕事をするのか聞いてなかったんですけど――」
「社長も罪な人だな~。高校生にはきついと思うぜ」
「頑張ります!」
そうこう話している間に現場のゴミ屋敷に到着した。
椎羅さんは車を止められる場所を探してくると言って俺と吉平さんを下して走って行った。
「臭うな」
吉平さんがポツリとこぼした。
「確かに臭いますね。平屋建てだし家もそんなに大きくないから時間はあまり掛からないですよね?」
俺がそう聞くと吉平さんはうーんと唸って首を傾げた。
「どうだろうな。ゴミの量にもよるからな。あ、椎羅さんが来た」
「悪い、待たせたな。十時までには終わらせるぞ!」
「「はい!」」
こうして俺は意を決して家の中に入った。
中に入ってまず、鼻を突く刺激臭がたちこめた。
何だこの臭いは――。酷すぎるぞ――。
「亮、つっ立ってないでさっさと始めるぞ!」
「す、すみません!」
玄関のごみを片付け始めた。
玄関のごみはさほど多くなく、三人で十五分ほどで終わった。
「中に行くぞ!」
椎羅さんの掛け声で玄関から中へと踏み出した。異臭が凄い。
俺と吉平さんは二人でリビングの片付けを始めた。
椎羅さんは一人でキッチンの片付けをしている。
しかしごみの量が半端じゃないぞ――。
俺は腕まくりをして一層ペースを上げた。
次々とごみを袋に投げ入れ、ペースを上げていくと椎羅さんがいるキッチンの方で短い悲鳴が聞こえた。
俺と吉平さんはすぐにキッチンへ駆け込んだ。
「椎羅さんどうしたんですか?」
椎羅さんに声を掛けると椎羅さんは震える指をキッチンの奥の風呂場に指した。
吉平さんと俺は首を傾げながら風呂場へ向かった。
――嘘だろ……。
手首を切った女性が裸で湯船に浸かっている。その周りにはハエやらなんやらの虫が多く飛び回っていた。
一目で死んでいると分かった。
「亮、警察に電話だ」
吉平さんは冷静に俺に命じた。
しかし俺の耳に吉平さんの声は入ってこない。
いや、入っているのだが体が受け付けない。
この家に入ってきてからの刺激臭はこれだったんだ。
俺には両親がいない。事故で死んだ。俺を残して。きっともっと生きたかったんだと思う。俺の、息子の成長を傍で見たかったはずだ。なのに死んでしまった。
しかし目の前にいる女性は違う。自分で命を絶ったのだ。許せるはずがない。きっと辛かったんだろう。でも生きたくても生きられない人はたくさんいるのに自分から命を投げ出すなんて――。
「亮! 警察に電話しろ!」
吉平さんが俺の肩を揺すって俺を現実に戻した。
「あ、はい」
この女性はまだ二十代だろうか、化粧はしているが若い。
湯船が真っ赤に染まっている。
俺はため息をつきながら警察に連絡した。
五分ほどで警察が到着した。
その頃には腰が抜けた椎羅さんも元に戻っていた。
しかしこの場にいる三人ともショックでまともに事情聴取を受けられずにいた。
それはそうだろう。死体をこの目で見てしまったんだから。
「では今日はこの辺にしましょう。今日はゆっくり休んでください。明日また御社へお伺いしてお話をお聞きしますのでよろしくお願いします」
制服警官と椎羅さんがやり取りしている間俺と吉平さんは家の外で一服していた。勿論俺は煙草はすっていない。
「帰ろう」
椎羅さんが警官から解放され、車で戻ってきた。
三人車に乗り、走り出した。
でも何か引っかかるな――。
普通自殺しようとする人が化粧なんかするか? いや、するかもしれない。
俺は両親の分まで生きると決めたから自殺しようとする人の気持ちなんて分からない。分かりたくもない。
「お帰り。大変だったな。今日は上がっていいぞ。亮、吉平ちょっと来い」
会社に戻り、社長に出迎えられいきなり呼ばれた。
「大変だったな。今日は色を付けといたから。おいしいものでも食べて今日のことは忘れてくれ。すまなかったな。かなり怪しい依頼だったんだがかなり高額な報酬で前払いだったから――。とにかく今日はお疲れ様」
「お疲れ様です。ところで日払いなんですか?」
「バイトはそうだ。仕事がある時は一日一万で報酬が良い場合はボーナスも出る。まぁ実際は一万から税金やら何やらを引いて手取りは八千円程だ。今日は報酬が良かったから一人二万だそんで手取りは一万七千円だ。今日はゆっくり休んでくれ」
「「お疲れ様です」」
今日は本当に最悪な日だったな――。
切り替えていこう。早く仲間荘に帰って飯食いてぇ。
「現代ドラマ」の人気作品
書籍化作品
-
-
35
-
-
1359
-
-
89
-
-
140
-
-
6
-
-
17
-
-
238
-
-
125
-
-
93
コメント