全財産百兆円の男
入院
「会長、大丈夫ですか?」
西田が病室に入ってきて亨に聞いた。
「あぁ。今は落ち着いている。すまないな、いきなり倒れたんだってな」
「はい。先生から病状を聞いてきました。狭心症だそうです」
「狭心症か――。三十代でなるものなのか?」
「現になっているんですから」
「だな」
亨は三日間昏睡状態だった。
つい先程目覚めて医師からの説明を受けたばかりだった。
病室はVIP専用の個室だ。
病院長が亨の知り合いで用意してくれた。
病室のドアがノックされた。
「どうぞー」
入ってきたのは病院長の重村登一だ。
「重村先生、この度はわざわざ個室を用意して下さってありがとうございます」
「いやいやとんでもない。亨君の為なら何でもするよ。君の主治医は――中村君か。あの先生は腕は確かだから安心してね」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
亨は頭を下げて見送った。
「西田、真奈美には連絡してくれたか?」
亨が西田に聞いた。
「勿論です。運ばれた初日に来たんですが会長がまだ目を覚ましていなかったのでお帰りになりました。先程目を覚ましたと連絡しておきました」
「サンキュー。それとパソコン持ってきてくれ」
「中村先生からは当分休養が必要と言われております」
「だけど」
「ダメです」
「ちぇ。じゃあ株の操作はお前の独断で任せる」
「かしこまりました。会長はゆっくりお休みください。ご両親にも連絡はしてあります」
「分かった。手術いつだっけ?」
「もう終わってますって」
「あれ? そうだっけ?」
するとドアがノックされた。
亨が返事をすると佐藤が入ってきた。
「では私は外で待っています」
西田は気を利かせて出ていった。
「亨大丈夫なの?」
「あぁ。手術もしたし大丈夫だ」
「病名は何だったの?」
「狭心症だってさ」
「若いのに。私の両親に連絡して病院に来てもらう事になったから」
「マジで?」
「マジで。西田さんから聞いたけど三ヶ月は入院って聞いたからさ」
「そっか。碌なもてなしが出来ないのが残念だけど――」
「そんなの気にしなくて良いって。それよりさ――」
「ん?」
亨が聞くと佐藤は顔を赤くして固まった。
「どうしたの?」
「うん。あのさ――。結婚しない?」
「え? 結婚?」
「うん。私亨と常に一緒にいたいし支えたい。亨が良ければ結婚してください」
佐藤は顔を赤くして頭を下げた。
「先に言われちったな。俺で良ければよろしくお願いします。必ず幸せにします」
「うん。よろしくお願いします」
亨は佐藤と握手をした。
「婚姻届は退院してからね」
亨がそう言うと佐藤は笑って頷いた。
すると佐藤の携帯に電話が鳴った。
「お父さんとお母さん病院に着いたって。迎えに行ってくるから待っててね」
「分かった」
佐藤は病室を出ていった。
暫くするとドアがノックされた。
亨が返事をすると佐藤とその両親が入ってきた。
「亨、お父さんとお母さん。お父さん、お母さん、こちらは私と今日婚約した甲斐亨さん」
「真奈美の父の佐藤重明です。さっき真奈美から聞いたけど婚約したんだってね。よく真奈美から話を聞いてるよ。それに亨君は世界的に有名な人だし安心だ」
「ありがとうございます。絶対に真奈美さんを幸せにします」
「うん。それを聞いて安心した」
「真奈美の母の美千代です。よろしく。真奈美がこんな立派な人と結婚するなんて」
「そんな、立派なんかじゃないですよ。立派だったら体壊したりしません」
「ふふ。面白い人ね」
「恐縮です」
亨が最後の言葉を言うと病室にいる四人が爆笑した。
「それじゃあ三ヶ月も入院するの?」
美千代が亨に聞いた。
「はい。退院したら婚姻届出しに行きます」
「そう。それは良かった」
「西田の奴が入院中は仕事一切ダメって言うんで何もする事がないんですよ」
「パソコンもダメなの?」
「西田が禁止だって言うんです」
「それはある意味で大変ねー」
美千代がそう言うと亨は大きくため息をついた。
「西田ー」
亨が西田を呼んだ。
「失礼します」
西田が入ってきた。
「パソコンだけは勘弁してくれない?」
「ダメです」
「それじゃあ逆にストレスになっちゃうよ」
「しかし――」
「西田さん、私がいる時はちゃんと監視しておきますからパソコンだけは勘弁してあげて下さい」
「うぅ――。では先生に確認してきます」
「頼むよー」
「では失礼します」
西田が出ていった。
「真奈美サンキュー。助け舟」
「だって何もできないなんて可哀想だもん」
真奈美がそう言うと美千代が声を出した。
「私たちはこれで失礼するわ」
「わざわざありがとうございました。今度は自宅へ招待します」
「楽しみにしてるわ」
「じゃあな亨君」
「はい。ありがとうございました」
佐藤の両親は出ていった。
「会長、先生からパソコンの許可が得られました」
ドアをノックして入ってきた西田が亨に伝えた。
「おぉそうかそうか。良かったー」
「しかし程々にだそうです」
「分かってるよ。じゃあ持ってきてくれ」
「かしこまりました。行ってきます」
西田はそう言うと出ていった。
「亨、良かったね」
佐藤は笑顔で亨に言った。
「あぁ」
「でも私が見てる限りは程々にしないと許さないからね」
「あ、はい――」
亨は恐縮すると佐藤は不敵な笑みを浮かべた。
「私は今日は帰るね。明日仕事が終わったらまた来るから」
佐藤が立ち上がり、そう言うと亨は頷いた。
「うん。分かった。ありがとう」
「じゃあね」
「ばいばい」
佐藤は病室を出ていった。
コンコン――。
「はーい」
亨が返事をすると西田が入ってきた。
「パソコンとUSB、充電器をお持ちしました」
「サンキュー。助かるよ」
「くれぐれも程々にお願いします」
「わーってるよ。しつこいな」
「では外でお待ちしております」
「いや、帰って良いよ。三ヶ月も休みないのはきついだろ」
「いえ、斉藤と交代で行っておりますので大丈夫です」
「そうか。分かった。交代の時は教えてくれ」
「かしこまりました。失礼します」
西田は頭を下げると病室を出ていった。
亨はパソコンを開き、株価のチェックを行った。
この個室は特別で、Wi-Fiも完備されている。
「会長、交代――」
西田がノックして入ってきたが亨は眠っていた。
「斉藤、明日の十時まで頼んだぞ」
「はい。分かりました。お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ様」
西田は車で亨の家まで帰っていった。
亨の自宅は執事やメイドの寮も完備している。
翌日、看護師の声で目を覚ました。
「お食事ですよ」
「あぁ、ありがとうございます」
「全部食べて下さいね」
「はぁ――」
しかし食事はいつも亨が摂っている食事とは程遠いメニューだった。
「まぁこれが病院食って事か」
亨は看護師が出ていった後そう呟き、食事を始めた。
コンコン――。
「はい」
亨が返事をすると斉藤が入ってきた。
「会長、おはようございます。昨夜挨拶が出来なかったので今させて頂きました」
「おう。ご苦労さん」
「では失礼します」
「あぁ」
亨は食事を平らげ車椅子に移り、病室を出た。
「どうかなさいましたか?」
「ちょっと屋上に行くだけだ」
「では押していきます」
「良いよ。ここにいてくれ」
「分かりました。いってらっしゃい」
亨は車椅子でエレベーターに乗り屋上へ向かった。
屋上に着いた亨はタバコを取り出した。
一応病院内は禁煙となっているが屋上には喫煙所のようなものがある。
亨が行くと既に入院患者らしき数名がタバコを吸っていた。
タバコに火を付け、吸い始めると亨はヤニクラを起こした。
「あんちゃんタバコ吸うの久しぶりなのか?」
タバコを吸っていた老人の一人が亨に声をかけてきた。
「えぇ。三日間昏睡状態で昨日一日吸ってなくて今日やっと吸えるようになったんです」
「そうかそうか。美味しいだろうなー」
「そりゃあもう最高ですよ」
亨が老人たちと話していると後ろに嫌な予感がした。
亨はゆっくり振り向くと斉藤が立っていた。
「会長、タバコは許可されていませんよね?」
「あ、いや、大丈夫かなと思って」
「はぁー。そんな事だろうと思って先生に聞いておきました。タバコは一日に五本までなら良いそうです」
「良かったー。斉藤、お前仕事できんじゃん」
「恐縮です」
こうして亨の入院生活が始まった。
西田が病室に入ってきて亨に聞いた。
「あぁ。今は落ち着いている。すまないな、いきなり倒れたんだってな」
「はい。先生から病状を聞いてきました。狭心症だそうです」
「狭心症か――。三十代でなるものなのか?」
「現になっているんですから」
「だな」
亨は三日間昏睡状態だった。
つい先程目覚めて医師からの説明を受けたばかりだった。
病室はVIP専用の個室だ。
病院長が亨の知り合いで用意してくれた。
病室のドアがノックされた。
「どうぞー」
入ってきたのは病院長の重村登一だ。
「重村先生、この度はわざわざ個室を用意して下さってありがとうございます」
「いやいやとんでもない。亨君の為なら何でもするよ。君の主治医は――中村君か。あの先生は腕は確かだから安心してね」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ私はこれで」
「はい。ありがとうございました」
亨は頭を下げて見送った。
「西田、真奈美には連絡してくれたか?」
亨が西田に聞いた。
「勿論です。運ばれた初日に来たんですが会長がまだ目を覚ましていなかったのでお帰りになりました。先程目を覚ましたと連絡しておきました」
「サンキュー。それとパソコン持ってきてくれ」
「中村先生からは当分休養が必要と言われております」
「だけど」
「ダメです」
「ちぇ。じゃあ株の操作はお前の独断で任せる」
「かしこまりました。会長はゆっくりお休みください。ご両親にも連絡はしてあります」
「分かった。手術いつだっけ?」
「もう終わってますって」
「あれ? そうだっけ?」
するとドアがノックされた。
亨が返事をすると佐藤が入ってきた。
「では私は外で待っています」
西田は気を利かせて出ていった。
「亨大丈夫なの?」
「あぁ。手術もしたし大丈夫だ」
「病名は何だったの?」
「狭心症だってさ」
「若いのに。私の両親に連絡して病院に来てもらう事になったから」
「マジで?」
「マジで。西田さんから聞いたけど三ヶ月は入院って聞いたからさ」
「そっか。碌なもてなしが出来ないのが残念だけど――」
「そんなの気にしなくて良いって。それよりさ――」
「ん?」
亨が聞くと佐藤は顔を赤くして固まった。
「どうしたの?」
「うん。あのさ――。結婚しない?」
「え? 結婚?」
「うん。私亨と常に一緒にいたいし支えたい。亨が良ければ結婚してください」
佐藤は顔を赤くして頭を下げた。
「先に言われちったな。俺で良ければよろしくお願いします。必ず幸せにします」
「うん。よろしくお願いします」
亨は佐藤と握手をした。
「婚姻届は退院してからね」
亨がそう言うと佐藤は笑って頷いた。
すると佐藤の携帯に電話が鳴った。
「お父さんとお母さん病院に着いたって。迎えに行ってくるから待っててね」
「分かった」
佐藤は病室を出ていった。
暫くするとドアがノックされた。
亨が返事をすると佐藤とその両親が入ってきた。
「亨、お父さんとお母さん。お父さん、お母さん、こちらは私と今日婚約した甲斐亨さん」
「真奈美の父の佐藤重明です。さっき真奈美から聞いたけど婚約したんだってね。よく真奈美から話を聞いてるよ。それに亨君は世界的に有名な人だし安心だ」
「ありがとうございます。絶対に真奈美さんを幸せにします」
「うん。それを聞いて安心した」
「真奈美の母の美千代です。よろしく。真奈美がこんな立派な人と結婚するなんて」
「そんな、立派なんかじゃないですよ。立派だったら体壊したりしません」
「ふふ。面白い人ね」
「恐縮です」
亨が最後の言葉を言うと病室にいる四人が爆笑した。
「それじゃあ三ヶ月も入院するの?」
美千代が亨に聞いた。
「はい。退院したら婚姻届出しに行きます」
「そう。それは良かった」
「西田の奴が入院中は仕事一切ダメって言うんで何もする事がないんですよ」
「パソコンもダメなの?」
「西田が禁止だって言うんです」
「それはある意味で大変ねー」
美千代がそう言うと亨は大きくため息をついた。
「西田ー」
亨が西田を呼んだ。
「失礼します」
西田が入ってきた。
「パソコンだけは勘弁してくれない?」
「ダメです」
「それじゃあ逆にストレスになっちゃうよ」
「しかし――」
「西田さん、私がいる時はちゃんと監視しておきますからパソコンだけは勘弁してあげて下さい」
「うぅ――。では先生に確認してきます」
「頼むよー」
「では失礼します」
西田が出ていった。
「真奈美サンキュー。助け舟」
「だって何もできないなんて可哀想だもん」
真奈美がそう言うと美千代が声を出した。
「私たちはこれで失礼するわ」
「わざわざありがとうございました。今度は自宅へ招待します」
「楽しみにしてるわ」
「じゃあな亨君」
「はい。ありがとうございました」
佐藤の両親は出ていった。
「会長、先生からパソコンの許可が得られました」
ドアをノックして入ってきた西田が亨に伝えた。
「おぉそうかそうか。良かったー」
「しかし程々にだそうです」
「分かってるよ。じゃあ持ってきてくれ」
「かしこまりました。行ってきます」
西田はそう言うと出ていった。
「亨、良かったね」
佐藤は笑顔で亨に言った。
「あぁ」
「でも私が見てる限りは程々にしないと許さないからね」
「あ、はい――」
亨は恐縮すると佐藤は不敵な笑みを浮かべた。
「私は今日は帰るね。明日仕事が終わったらまた来るから」
佐藤が立ち上がり、そう言うと亨は頷いた。
「うん。分かった。ありがとう」
「じゃあね」
「ばいばい」
佐藤は病室を出ていった。
コンコン――。
「はーい」
亨が返事をすると西田が入ってきた。
「パソコンとUSB、充電器をお持ちしました」
「サンキュー。助かるよ」
「くれぐれも程々にお願いします」
「わーってるよ。しつこいな」
「では外でお待ちしております」
「いや、帰って良いよ。三ヶ月も休みないのはきついだろ」
「いえ、斉藤と交代で行っておりますので大丈夫です」
「そうか。分かった。交代の時は教えてくれ」
「かしこまりました。失礼します」
西田は頭を下げると病室を出ていった。
亨はパソコンを開き、株価のチェックを行った。
この個室は特別で、Wi-Fiも完備されている。
「会長、交代――」
西田がノックして入ってきたが亨は眠っていた。
「斉藤、明日の十時まで頼んだぞ」
「はい。分かりました。お疲れ様です」
「あぁ、お疲れ様」
西田は車で亨の家まで帰っていった。
亨の自宅は執事やメイドの寮も完備している。
翌日、看護師の声で目を覚ました。
「お食事ですよ」
「あぁ、ありがとうございます」
「全部食べて下さいね」
「はぁ――」
しかし食事はいつも亨が摂っている食事とは程遠いメニューだった。
「まぁこれが病院食って事か」
亨は看護師が出ていった後そう呟き、食事を始めた。
コンコン――。
「はい」
亨が返事をすると斉藤が入ってきた。
「会長、おはようございます。昨夜挨拶が出来なかったので今させて頂きました」
「おう。ご苦労さん」
「では失礼します」
「あぁ」
亨は食事を平らげ車椅子に移り、病室を出た。
「どうかなさいましたか?」
「ちょっと屋上に行くだけだ」
「では押していきます」
「良いよ。ここにいてくれ」
「分かりました。いってらっしゃい」
亨は車椅子でエレベーターに乗り屋上へ向かった。
屋上に着いた亨はタバコを取り出した。
一応病院内は禁煙となっているが屋上には喫煙所のようなものがある。
亨が行くと既に入院患者らしき数名がタバコを吸っていた。
タバコに火を付け、吸い始めると亨はヤニクラを起こした。
「あんちゃんタバコ吸うの久しぶりなのか?」
タバコを吸っていた老人の一人が亨に声をかけてきた。
「えぇ。三日間昏睡状態で昨日一日吸ってなくて今日やっと吸えるようになったんです」
「そうかそうか。美味しいだろうなー」
「そりゃあもう最高ですよ」
亨が老人たちと話していると後ろに嫌な予感がした。
亨はゆっくり振り向くと斉藤が立っていた。
「会長、タバコは許可されていませんよね?」
「あ、いや、大丈夫かなと思って」
「はぁー。そんな事だろうと思って先生に聞いておきました。タバコは一日に五本までなら良いそうです」
「良かったー。斉藤、お前仕事できんじゃん」
「恐縮です」
こうして亨の入院生活が始まった。
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