全財産百兆円の男

星河☆

プライベートジェットを買う!?

 七月に入り蝉も泣き始めた頃、亨は会社でデスクワークをしていた。




 「西田、白石さんを呼んでくれ」
 亨が西田にそう言うと西田は返事をして内線をかけた。


 「会長がお呼びです」
 電話を切った西田は元いた位置に戻った。






 五分程経ち、白石がノックして会長室に入ってきた。


「お呼びでしょうか、会長」
「はい。西田とも相談したんだが俺は代表取締役会長を退いて顧問職を新たに作ろうと思う。俺は顧問になって白石さんは代表取締役会長に就任してもらいたいと思ってます」
「どうしたんですか急に」
「ずっと会長としてやってきたけど最近投資家としての行動が忙しくて。だからこの会社を白石さんに譲ろうと思って」
「そうなんですか――。では早急に臨時株主総会を開きますね」
「お願いします」
「では私は失礼します」
「ご苦労様です」
 白石は会長室を出ていった。
 「会長、宜しかったんでしょうか」
 西田は当初亨が会長職を退く事に反対だった。
 それを何とか亨が説得し、今に至る。


「良いんだよ。まぁ株主総会で反対されるかもしれないけどな」
「私は会長に着いていきます」
「ありがたやー」
 亨は残りのデスクワークをこなし、家に帰った。








「おかえりなさいませ」
「ただいま。橋本、今日の飯は和食で頼むよ」
「かしこまりました。西岡さんにお伝えします」
 亨は自分の部屋に行きテレビを付けた。
 夕方のニュースがやっている。
 エヴォリーは毎日見ている夕方のニュースだ。






 暫くするとドアがノックされた。
 亨が返事をすると西田が入ってきた。


「失礼します。会長、今プライベートジェットの営業の方が来ていますが追い返しましょうか?」
「こっちは疲れてんだよ。追い返え――。ちょっと待てよ……。プライベートジェットか。リビングに入れろ」
「かしこまりました。お通しします」
 亨は部屋着に着替えていたが、スーツに着替えて五分程でリビングに下りていった。




 亨がリビングに行くと一人の男が座っていた。
 亨を見ると男は立ち上がって一礼した。
 「はじめまして。私株式会社ジェインボー社の営業担当の加味重行と申します。この度はお忙しい中お話を聞いて頂けるという事で誠にありがとうございます」
 加味が挨拶し、亨に名刺を渡すと亨も挨拶をして投資家として活動する時に使う名刺を渡した。


「プライベートジェットの営業って大変じゃないですか?」
「大変な事はありますが正直なところ富裕層を狙っているので成功する事が多いですね」
「そうなんですか。橋本! お茶はまだか!」
「お気になさらずに!」
 加味はそう言って走ってお茶を持ってきた橋本に頭を下げた。


 「お時間がもったいないですから本題に入らせて頂きますね」
 加味はそう言って資料を取り出し、亨に渡した。
 「その資料を見て何か聞きたい事はありませんか?」
 亨は資料を見ながらうーんと唸り、加味に聞いた。


「パイロットやフライトアテンダントの給料は幾らほど払えばいいんですか?」
「相場ですが、パイロットは年間二千万から二千五百万程。フライトアテンダントは四百から五百万程ですね」
「なるほど。どういった機種や値段何ですか?」
「甲斐様にお勧めなのはガルフストリームG550でございます。お値段は五十二億八千五百万円です。座席数は十四席から十八席です」
「ふーん。結構安いんですね」
「これを安いと思われる甲斐様はやはり大物ですね」
「そんな事ないですよ」
 二人は笑いながら会話している。








 「じゃあガルフストリームを購入する方向でお願いします」
 亨がそう言うと加味は驚いた顔で言った。


「即決された方は初めてです」
「俺は優柔不断は大嫌いなんですよ」
「そうですか。では必要な書類は後日お持ち致しますのでそれまでに駐機する空港をお考え下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
「ではお忙しい中ありがとうございました」
 加味は頭を下げて帰っていった。




 「お疲れ様です。夕飯の準備が出来ました」
 橋本がお茶を下げにやってきた。


「じゃあ飯の時間にするかな」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
「頼むよ」
 亨はネクタイを緩めてタバコを吸い始めた。
 「なぁ西田、ジェット機どう思う? 今更だけど」
 亨は後ろに立っている西田に聞いた。


「会長が良いと思われるなら良いんじゃないですか」
「何だよ冷たいな」
「お待たせ致しました」
「おぉ、サンキュー」
 橋本が食事を運んできた。
 メニューはアジの開きとお新香、味噌汁だ。
 「いただきます」
 亨は両手を合わせ、食事を始めた。












 「ごちそうさまでした」
 亨はそう言うと薬を飲んでタバコに火を付けた。


「会長、初めての原稿は一週間後に上げないといけません」
「あぁ、分かってるよ」
 これは佐藤から依頼された週刊文秋での連載記事の事だ。
 隔週連載になる。










 自分の部屋に戻った亨はパソコンで原稿を書いている。
 スムージーを飲みながら原稿を書いている亨だったがすぐに眠くなり、ベッドに行った。










 翌日――。
 アラームで目を覚ました亨はタバコに火を付けた。
 次にテレビを付け、朝のニュースを見ている。








 タバコを吸い終えた亨は朝食を食べにリビングに向かった。




「何で休みの日を合わしてくれないのよ! これじゃあデートもまともに行けないじゃない!」
「落ち着けよ。しょうがないだろ。ご主人様には毎日ご飯を作らなきゃいけないんだから」
「でも――」
 鹿島と西岡が口論していた。


「お前ら何やってんだ?」
「あ、ご主人様、おはようございます」
「おはようございます。すぐに朝食の準備を致しますので少々お待ち下さい」
「そんな事よりお前ら付き合ってたのか?」
「あ、はい――。でも西岡さんは休みが取れないので中々デートに行けないんです」
「そっか――。ちょっと橋本呼んでくれるか」
「分かりました」
 亨は何故か橋本を呼んでくれと言った。






「お呼びでしょうか」
「あぁ、お前料理作れるか?」
「はい? え、えぇ作れない事はないですけど――」
「だったら西岡が休みの日はお前が作ってくれ」
「かしこまりました」
「西岡、お前は明日休みだ」
「本当にありがとうございます」
 亨の気遣いに西岡は深々と頭を下げた。
 「しっかりデートを楽しんでこい」
 亨は笑いながら言うと西岡も笑った。




 「いただきます」
 亨は朝食を食べ始めた。
 今日の朝食は麦米に味噌汁、鮭の照り焼きだ。










 「ごちそうさまでした」
 亨は両手を合わせ、食べ終えると薬を飲んだ。
 亨は薬を飲むとタバコに火を付けた。


「会長、先程白石さんから連絡があり、臨時株主総会は来週の金曜日になりました」
「おぉ、分かった。サンキューな」
「失礼します」
「おぉ」
 タバコを吸いながら天井を見上げている亨は会長職を辞められるのか気が気じゃなかった。














 亨は自分の部屋に戻り、パソコンで株価を調べ始めた。
 タバコを吸いながら株価を見ていた。
















 株価を見終わった亨はテレビを付け、お昼のワイドショーを見ている。
 するとドアがノックされた。


「はーい」
「橋本でございます。御昼食の準備が出来ました」
「分かった」
 亨はテレビを消し、リビングに下りて行った。




 「今日の昼飯は何かな~」
 亨は腹を空かせると何故か上機嫌になる。
 テーブルにはオムレツとフレッシュマリネサラダが置かれていた。
 「おー、美味そう。いただきます」
 両手を合わせ、食べ始めた。








 「ごちそうさまでした」
 亨は両手を合わせ、食べ終えた。
 そして薬を飲んでタバコを吸い始めた。
















 そして一週間後――。
 臨時株主総会がやってきた。
 「社長の白石でございます。本日はお忙しい中お集まり頂き誠にありがとうございます。定款第五条の定めによりまして私が議長を務めさせて頂きます。本日の議案は一つだけです。では――。議案の第一号議案の審議に移らせて頂きます。お手元の書類三頁をご覧下さい。決議事項の第一号議案の内容をご説明申し上げます。代表取締役会長の解任案でございます。お手元の書類四頁をご覧下さい」
 臨時株主総会が始まった。
 亨は会長席で腕を組んで目を瞑っている。








 「まずはご質問はございませんか?」
 白石が株主に聞いた。
 すると数名の株主が手を挙げた。
 まずは白石が一人を指名し、株主番号と名前を聞き、質問を聞いた。
 「会長に質問します。何故今会長を辞職されるのですか?」
 するとずっと目を瞑っていた亨が立ち上がり、答えた。
 「これは会社が出来た頃からこの時期に辞めようと考えていました。私をご存知の方は知っていると思いますが、私は投資家として活動しています。なのでそろそろ会社の経営から手を引いて投資家に専念したいと思っております」
 これを聞いた株主たちは腕を組んで悩み始めた。




 「他にご質問はございませんか?」
 誰も手を挙げなかった。
 「では採決に入ります。会長の解任に賛成の方は挙手をお願いします」
 五名が手を挙げた。
 「では解任に反対の方は挙手をお願いします」
 残り全て二十五名が手を挙げた。
 この瞬間亨は深くため息をつき、立ち上がって頭を下げた。
 これにより亨は会長職にとどまる事が決まった。

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