全財産百兆円の男

星河☆

亨の休日

 「会長、次は会議です。まず一つ目の会議は第三会議室で行われます」
 西田がそう言うとタバコを吸いながら亨は分かったと返事した。


「ちゃんとして下さいよ」
「分かってるよ」
 西田はたまに厳しくなる。










 「それでは第四期決算発表を行います。司会進行は経理部部長の芳賀新之助が行います。よろしくお願いします」
 芳賀が頭を下げると会議は始まった。




 「まずは第四期の利益について話したいと思います。第四期の総合決算は三億六千万円の黒字で銀行に返す借金の額は一億五千万円です。質問はありますか?」
 芳賀が聞くと亨が手を挙げた。


「会長、どうぞ」
「銀行からの融資額は残り幾ら何だ?」
「はい。残り八億二千八百万円です」
「分かった。だが今期だけの決算だけじゃなく今季の総決算はどのくらいなんだ?」
「総決算は十三億五千万円の黒字です」
「だったら全て返してしまえば良いじゃないか」
「しかし銀行との取り決めもありますし――」
「それだったら俺が直接銀行に行って話をしてくるよ。この後は会議一個入ってるけど銀行に行く時間あるよな西田」
「はい。会議を欠席されればあります」
「そういう事だから俺はここで抜けさせてもらいます」
 亨がそう言うと一同立ち上がって礼をした。




「行くぞ西田」
「御意」
「御意はやめろ」
「すみません。ふざけてしまいました」
「まぁお前の親父ギャグよりは面白かったけどな」
 西田はたまに親父ギャグを言う。




 TKが取引している銀行は東京中央銀行だ。
 西田が運転をして三十分ほどで銀行に着く。
 その間に亨は電話で銀行の頭取に話を付け、アポを取った。






 「いらっしゃいませ」
 東京中央銀行の本店に入ると銀行員が頭を下げて出迎えた。


「桜井さんと話をしたいんですが」
「桜井頭取ですか?」
「はい」
「失礼ですがお名前は?」
「甲斐亨です」
「失礼しました。伺っております。こちらへどうぞ」
 この銀行の頭取は桜井順行だ。




 「こちらでございます」
 銀行員がノックするとどうぞという声が聞こえた。


「失礼します。甲斐亨様がお見えになりました」
「お久しぶりです。桜井さん」
「これはこれは甲斐様。お久しぶりです。どうぞこちらへ」
 銀行員は下がり、亨と西田、桜井は頭取室の真ん中のソファーに座った。


 「それではこの度のお話というのはどういったお話でしょうか?」
 桜井が恐る恐る聞いてきた。


「今回伺ったのは残りの融資金を一括で返金したいと思いまして」
「一括ですか――。本来ならば嬉しい事なんでしょうけどこちらは銀行で商売でもある訳で、金利で生活してるんです。なので一括での返金というのはちょっと――」
「そうは言いましてもこちらにも事情がありますのでね。これからも東京中央銀行さんと仲良くしていきたいと思っていますので――。しかし今回このまま一括で返金を飲めないというならこれで東京中央銀行さんとはおしまいにしようと考えています」
「うーん――。しかし――。私だけでは判断できないので一度時間を頂けないでしょうか?」
「分かりました。一週間お待ちします」
「ありがとうございます」
 亨と西田は桜井に見送られ、車で去っていった。




 「会長、このまま自宅で宜しいですか?」
 西田が運転しながら聞いた。
 「あぁ、構わない」
 亨はそう言ってタバコを吸い始めた。








 一時間程で亨の自宅に着いた。
 亨の自宅はいわゆる大豪邸で地上三階建て、地下二階の家だ。
 約千坪の大きな敷地で延べ床面積は約五百坪だ。




「ただいまー」
「おかえりなさいませ」
 執事とメイド合計八人が頭を下げて出迎えた。


「お疲れ様です。夕食出来ていますが先にお風呂になさいますか?」
「先に風呂入るよ」
「かしこまりました」
 メイドの一人、早坂桜が言った。
 亨は先に風呂を選択し、着替えを持って風呂へ向かった。






 「あー。極楽極楽」
 風呂は十畳程あり、湯船は金色をしていて足はゆったりと伸ばせるほどの大きさだ。
 今日のお湯は冷え性に効く効能の湯だ。






 風呂から上がった亨はそのままリビングに向かった。
 「お食事になさいますか?」
 メイドの鹿島優がそう聞くと亨は頷いて食事をした。
 今日のメニューは黒毛和牛のハンバーグとアボカドのサラダ、味噌汁だ。
 意外と質素かと思いきや黒毛和牛という高級肉を使っている。








 食事を終え、自室に戻ろうとした亨にメイド長の橋本愛華が声をかけた。


「ご主人様、ワインはお持ちしますか?」
「あぁ、頼むよ。リースリングね」
「かしこまりました。すぐにお持ち致します」
 亨は自分の部屋に行き、ソファーに座ってテレビを付けた。
 亨の部屋は三十畳ある。
 ベッドはキングサイズだ。


 二分程してドアがノックされた。
 亨が返事をすると橋本が入ってきてリースリングのワインを持ってきた。


「お待たせ致しました。リースリングのワインでございます」
「ありがとう」
「では失礼します」
 橋本は亨の部屋から出ていった。


 「そうだ、株価見とかないとな」
 亨はそう言ってパソコンを開いた。
 亨が所有している企業の株は約三億株持っている。
 その中でも大企業は約千社程。


 所有している株価を確認し、西田を呼んだ。




「お呼びでしょうか?」
「この桜が丘社の株なんだけどな、これ以上上がるかな?」
 株式会社桜が丘とはIT企業だ。
 今の株価は一株四万六千円。
 ストップ高を何度も記録している企業だ。


「この企業は何度もストップ高を記録していますのでまだまだ伸びしろがあるかと思います。しかしこの企業は良くない噂もあります。なので下がらない今のうちに売却してしまった方が良いのではないでしょうか?」
「そうか。お前がそう言うならそうしよう」
 亨はそう言うとパソコンをいじって売却した。
 今は午後八時なので正式な売却は明日の午前九時になる。




 「悪かったな呼び出して。もう下がって良いぞ」
 亨が西田にそう言うと西田は頭を下げて部屋を出ていった。
 亨は明日は休みだ。
 とは言っても会社に行かない時はほとんど休みだが。
 しかし家で株価の確認をしているという点では仕事をしていると言ってもいいかもしれない。








 翌日。


 コンコン――。


「はーい」
「橋本でございます。お食事の準備が出来ました」
「分かった」
 亨は今のノックで目が覚めた。
 亨はタバコを取り出し、吸い始めた。
 ベッドで寝ながらタバコを吸っている亨は五メートル程離れているテレビを付けた。
 朝のニュースがやっていた。
 朝のニュースを見ながらタバコを吸っていると再びドアがノックされた。


「はい」
「西田でございます。少し宜しいでしょうか?」
「どうした?」
 西田が亨の部屋に入ってくると亨のベッドの横にやってきて話し始めた。


「桜が丘社が昨日会長が売却した株についてお話をしたいと言っています」
「何で?」
「会長は桜が丘社の株を三千株お持ちでしたので全株売るとなると一億三千八百万円となりますので桜が丘社にとっては相当痛手になると思われます。なので売却を思い留まってもらおうと思っているのかもしれません」
「何じゃそりゃ。良くない噂があるんだろ?」
「はい。確かな情報筋からの情報です」
「じゃあ無視しろ」
「かしこまりました。失礼します」
 西田が部屋から出る頃にはタバコも吸い終えていた。






 一階に降りてきた亨はリビングに行って朝食を食べようとしていた。
 テーブルにはフレンチトーストとスクランブルエッグ、スムージーが用意されている。
 シェフは専属でいるのだ。
 亨は逆流性食道炎を患っていてあまり多い食事は摂れない。


 「いただきます」
 しっかり両手を合わせ、食事を始めた。










 食事を終え、スムージーをゆっくり飲んでいると亨に西田が近づいていった。


「会長、桜が丘社の桜ケ丘社長がお話をしたいそうです」
「は? 何でだよ。勿論断っただろ?」
「はい。一応。しかしあの様子だとまた連絡してくるかもしれません」
「面倒だなー」
「どうしますか?」
「西田が行ってこい」
「私がですか? 構いませんが何を言えば宜しいでしょうか?」
「良くない噂を突き付けて大人しくさせろ」
「かしこまりました。では話を付けてきます」
「頼むぞ」
「はい」
 亨はスムージーを飲み終え、橋本を呼んだ。


「お呼びでしょうか?」
「足が疲れてるからいつもの整体師の先生呼んで」
「かしこまりました。何時頃お呼びしますか?」
「十時頃でいいや」
「分かりました」
 亨は自室に戻り、テレビを付けながらパソコンで株価をチェックしていた。


 「プナソニックは十二万六千円か――。株主優待持ってれば良い事あるからそのままにしておくか」
 亨は株価をチェックしながらバナナオーレを飲んでいた。












 二時間程経ち、亨の部屋に整体師の中妻茂がやって来た。


「甲斐さんこんにちは。いつものマッサージで良いですか?」
「中妻先生、よろしくお願いします」
 その後亨は足裏のつぼマッサージをしてもらった。


 中妻は日本で有名な整体師で予約が三カ月待ちだが亨は特別でいつでも出張してくれる。
 勿論馬鹿高いが……。


 九十分コースをやってもらい、十五万を払って終わった。


「先生、またよろしくお願いしますね」
「いつでも呼んで下さいね。ではまた」
 亨の休日はいつもこんな感じだ。
 株価をチェックし、マッサージをしてもらい、テレビを見たり土日だったら競馬場に行ったりとしている。

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