私は綺麗じゃありません。
2
夢を見た。懐かしい、優しい、今よりまだ幸せだった頃の夢を。
「…、こんなとこで寝てると風邪引くぞ?」
優しい彼は、心配そうにこちらを覗き込みながら上着を掛けてくれる。
壊れた幸せが戻ることは、無い。
✢✢✢✢✢
優しく髪を梳かれる感覚に意識が浮上する。
「ああ、起きた?どこか辛いところは無い?」
「…はい」
眠る前に居た女性ではなく、天使の如く美しい男性。白銀の髪にアイスブルーの瞳を優しく細めながら、こちらを覗き込んでいた。
「……ここ、は?」
渡されたレモン水で喉を潤しながら尋ねると、少し言い辛そうにしながらも口を開く。
「アルブヘルト王国騎士団の救護室。君は魔の森で保護されて、立場上下手な教会へ運ぶことも出来ずここに入れられた」
アルブヘルト王国は今では休戦協定を結んでいるため争いこそ無いが、数年ほど前まで長年争い続けた敵国。そんな国に敵国の次期トップの婚約者を適当な所に置いておけるはずもなく。捨て置かれなかっただけましと思えるほどだ。
「承知しました。この部屋の外へは出ないように致しますので」
「うん、そうしてくれると助かるよ。お手洗いやお風呂は奥の扉で、食事も一日三食しっかり出るから、着替えなんかも派手なものは無理でもそれなりの物を用意するから」
至れり尽くせりの現状に思わず目を瞬かせながら、騙しているようで申し訳なくなる。
「あの、私は既に婚約者の地位を剥奪の上国外追放にされました。ですのでそこまでしていただく程の価値は私にはありません」
真っ直ぐ、瞳を逸らさないように気を付けながら言葉を紡ぐと、彼は笑みを深める。
「うん、合格」
「え?」
思いがけない言葉に声を漏らすと、彼は優しく頭を撫でてきた。
「大丈夫。君の現状も調べ済みだし、その上でこの対応だ。まあ、重要人物であるのは変わりないから、どうしてもこの扱いが嫌なら、俺の婚約者になるって手もあるよ?」
「婚約者?」
「そ、名乗り遅れたけど俺はリドル・ネオ・ライヤート。ライヤート公爵の時期当主で国王の甥っ子。俺の婚約者なら色々とうるさいこと言われないよ?」
「ですが、今の私には貴方に相応しい地位はありません」
一番の問題はそこである。話し自体はとても美味しい。というか此方には利しか無い。しかし、現実に引き受けるとしても私自身の地位が無い上に、婚約者に捨てられ国外追放までされた傷物である。周りが認めるはずも無い。
「それに、リドル様程の方であるなら縁談などいくらでもあると思います。いくら哀れと言ってもこんな化け物と婚約なんて、後々後悔しますよ」
もうあんな事になるのは懲り懲りだ。またあんな目を向けられるくらいなら、再度魔の森に潜って魔獣の餌になった方が何倍もマシなように思えた。
「自己認識が低い。君は自分の価値を正しく理解出来ていないし、ネガティブなその思考は『謙虚』という枠をとうに越している。適度な謙虚さは美徳だけど、君のそれは美徳でもなんでもないただの嫌味に聞こえてくる。
そんなに自分に自身がないのは多分、周りの環境も影響しているんだろうから責めるつもりは無いけど、少しは自身を持って、周りに目を向けてみると良い。俺は君のその髪も瞳も好きだし、とても綺麗だと思うから」
「っ!?」
言われ慣れない言葉に頭に血が登り、顔が必要以上に熱を持ってくる。
「わた、私は綺麗じゃないです。自分でもこんな色、好きじゃないですから」
兄の様な亜麻色の髪だったら、あの子のような琥珀色の瞳だったら、皆にもう少し愛してもらえたのかも知れないと、未来は変わったかも知れないと何度も思った。
「そう」
一段低くなった声に背筋が冷えるような感覚を覚える。
それはそれは綺麗な笑顔の天使様は、魔王様にジョブチェンジなさってました。
「…、こんなとこで寝てると風邪引くぞ?」
優しい彼は、心配そうにこちらを覗き込みながら上着を掛けてくれる。
壊れた幸せが戻ることは、無い。
✢✢✢✢✢
優しく髪を梳かれる感覚に意識が浮上する。
「ああ、起きた?どこか辛いところは無い?」
「…はい」
眠る前に居た女性ではなく、天使の如く美しい男性。白銀の髪にアイスブルーの瞳を優しく細めながら、こちらを覗き込んでいた。
「……ここ、は?」
渡されたレモン水で喉を潤しながら尋ねると、少し言い辛そうにしながらも口を開く。
「アルブヘルト王国騎士団の救護室。君は魔の森で保護されて、立場上下手な教会へ運ぶことも出来ずここに入れられた」
アルブヘルト王国は今では休戦協定を結んでいるため争いこそ無いが、数年ほど前まで長年争い続けた敵国。そんな国に敵国の次期トップの婚約者を適当な所に置いておけるはずもなく。捨て置かれなかっただけましと思えるほどだ。
「承知しました。この部屋の外へは出ないように致しますので」
「うん、そうしてくれると助かるよ。お手洗いやお風呂は奥の扉で、食事も一日三食しっかり出るから、着替えなんかも派手なものは無理でもそれなりの物を用意するから」
至れり尽くせりの現状に思わず目を瞬かせながら、騙しているようで申し訳なくなる。
「あの、私は既に婚約者の地位を剥奪の上国外追放にされました。ですのでそこまでしていただく程の価値は私にはありません」
真っ直ぐ、瞳を逸らさないように気を付けながら言葉を紡ぐと、彼は笑みを深める。
「うん、合格」
「え?」
思いがけない言葉に声を漏らすと、彼は優しく頭を撫でてきた。
「大丈夫。君の現状も調べ済みだし、その上でこの対応だ。まあ、重要人物であるのは変わりないから、どうしてもこの扱いが嫌なら、俺の婚約者になるって手もあるよ?」
「婚約者?」
「そ、名乗り遅れたけど俺はリドル・ネオ・ライヤート。ライヤート公爵の時期当主で国王の甥っ子。俺の婚約者なら色々とうるさいこと言われないよ?」
「ですが、今の私には貴方に相応しい地位はありません」
一番の問題はそこである。話し自体はとても美味しい。というか此方には利しか無い。しかし、現実に引き受けるとしても私自身の地位が無い上に、婚約者に捨てられ国外追放までされた傷物である。周りが認めるはずも無い。
「それに、リドル様程の方であるなら縁談などいくらでもあると思います。いくら哀れと言ってもこんな化け物と婚約なんて、後々後悔しますよ」
もうあんな事になるのは懲り懲りだ。またあんな目を向けられるくらいなら、再度魔の森に潜って魔獣の餌になった方が何倍もマシなように思えた。
「自己認識が低い。君は自分の価値を正しく理解出来ていないし、ネガティブなその思考は『謙虚』という枠をとうに越している。適度な謙虚さは美徳だけど、君のそれは美徳でもなんでもないただの嫌味に聞こえてくる。
そんなに自分に自身がないのは多分、周りの環境も影響しているんだろうから責めるつもりは無いけど、少しは自身を持って、周りに目を向けてみると良い。俺は君のその髪も瞳も好きだし、とても綺麗だと思うから」
「っ!?」
言われ慣れない言葉に頭に血が登り、顔が必要以上に熱を持ってくる。
「わた、私は綺麗じゃないです。自分でもこんな色、好きじゃないですから」
兄の様な亜麻色の髪だったら、あの子のような琥珀色の瞳だったら、皆にもう少し愛してもらえたのかも知れないと、未来は変わったかも知れないと何度も思った。
「そう」
一段低くなった声に背筋が冷えるような感覚を覚える。
それはそれは綺麗な笑顔の天使様は、魔王様にジョブチェンジなさってました。
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