私は綺麗じゃありません。
森に捨てられた令嬢1
「君、ガリガリだけど大丈夫?」
耳に気持ちのいい低さの声に瞼を上げるが、視界がぼやけていて声の主の髪が日の光でキラキラしていることと魔法力がとても大きく温かい光を放っていることしかわからない。
「…綺麗…」
息と一緒に漏れた声は驚くほど掠れていて、それと同時に空腹と疲労がドッと襲ってくる。
私は薄れゆく意識の中で大きく響く自分のお腹の音を聞いた気がした。
✢✢✢✢✢
「魔の森で女の子を拾ったぁ?!しかもあの魔王s…じゃなくて悪m…でもなくて、リドが献身的に見舞いって… 夢?悪夢?それともドッキリですか?」
王城の一角、騎士の詰め所で魔法騎士団団長が自分の金髪をぐしゃぐしゃと掻き乱し騒いでいた。
「って!?いきなり叩くなよ!アル!」
「あ、すみません。夢と現実の区別のつけ方ってこれくらいしか思いつかなかったんで」
口では痛いと言いながらもまったく痛がっている様子もなく温くなったお茶を一息に飲み干す。
「で?その子は今どうしてるの?あと、保護されたときの様子と外見」
「彼女は只今リドの邸にて食事と寝床を与えられているはずです。というかリドが離しませんでした。他は資料にまとめてこちらに」
「ありがとう、じゃあ一旦下がっていいよあとは随時こっちから指示出すから」
お辞儀をして退出していった部下を見送り、机の資料に目を通す。
「オレンジに近い金髪に同じ色の瞳…か、やっぱり彼女だよね。まあ、リドが気に入ったなら好都合かな?何とか彼女にはこの国に留まってもらわないと」
資料を机に放り出し新しい紅茶を淹れてもらう為に呼び鈴に手を伸ばした。
✢✢✢✢✢
卒業パーティーというめでたい場は、とある一人の生徒が入場した事で先程までの賑やかな空間が一転、誰も物音一つ立てない異様な空間になっていた。
「貴様は未来の王妃に手をかけただけでなく国家の転覆まで謀った!常ならば問答無用で一族郎党処刑台行きだが彼女の慈悲で貴様の国外追放で勘弁してやる!何も持たずさっさとこの国を出て行け!どこぞで野垂れ死にでもすればいいさっ!」
婚約者はそう言って蔑むような瞳を向ける。
「私、行けない事って分かってたんです。だけどどうしてもこの気持ちを止められなくて、そうしたら嫉妬したのか泥水を掛けられたり……。貴女にはもっと相応しい場所がある筈です!だから、この国でない別の場所でやり直して下さい!」
全く身に覚えのない罪状、あるはずのない証拠。唖然として婚約者の後ろに何人かの国の重役の子息たちに庇われ、涙ながらに私に訴える少女の口元に一瞬浮かんだ残酷な笑みに嵌められたのだと理解するがもう遅い。彼は、彼らは聞く耳を持たず。会場中の人々さえも小声で囁きあいながら冷たい視線を向けてくる。
「貴様みたいな見た目だけでなく性格まで醜い奴と結婚なんてしなくてよかったよ。私の新しい婚約者の慈悲に感謝するんだな!この赤目のバケモノが!」
『赤目のバケモノ』それは幼い頃婚約者自身が付けてから私の『名前』になった。
別段真っ赤な目をしてるとかそう言うわけではないが、髪と同じオレンジがかった金の瞳は光の加減によって赤く見えるそうで、貴族は私の事をいつからか『赤目のバケモノ』と呼ぶようになった。
「今すぐここから立ち去れ、お前のような者の居場所などこの国にはもう存在しない!」
そう言って手に持っていた乾杯用の飲み物をゆっくりと頭の上で傾け、空になったグラスを新しいものに変えると出口に示す。
「承知致しました。失礼いたします」
頭が冷えるのを感じながらなんの感情ものせずに静かに腰を折り礼をする。両親が嘆くであろう事は分かっていても、それ以外の選択肢は用意されていなかった。
「このっバケモノが!息子だけでなく地位や財、信用までも私から奪うつもりかっ!」
バチンッと頬を打たれ頭の中に穏やかな笑みを浮かべた大好きな兄の顔が浮かぶ。
まだ幼い頃、落馬した私を庇って逝ってしまった兄は唯一私のことをバケモノ扱いせず妹として扱ってくれた優しい人だった。
「早く出てって!貴女の顔なんか見たくもないわ!この疫病神!私の息子を返して!貴女なんか産まなきゃよかった!そんな醜い姿を晒すくらいなら産まれてこなければよかったのよ!」
母はそう言ってメイドに私のドレスを脱がせるとボロボロのドレスを着せ馬車に乗せる。
国境まで三日、水も与えられず馬車を進め国境の外、隣国との境にある森の入り口に放り出された。
森は暗く、しかし食べられそうな物は見つからず二日水を飲みながら何とか生き延びてはいたが三日目、家を追い出されて六日目には空腹と脱水症状で意識が朦朧として遂に力尽きた。
✢✢✢✢✢
次に目を覚ましたとき、私は薬品の匂いと真っ白な天井の見える世界に居た。見覚えの無い天井にかぎ慣れない匂い。森で倒れた所までは覚えているが、五感が夢ではないと訴えているので現実であろう事は分かる。しかし、ここが何処なのかまでは分かるはずもなく、動かない体を叱咤し何とかベッドから這い出るが、力が入らずその場でへたり込んでしまう。
「あら、起きましたか?」
ベッドを囲っていたカーテンが音を立てて開き、柔らかい印象の女性が顔を出す。
女性に軽々と抱え上げられ、そのままベッドへ戻されてしまう。
「まだ寝ていて下さいね。人を呼んできますから」
毛布を首まで引き上げ優しく頭を撫でてから再度カーテンの向こう側へ去って行く。
人に撫でれたのはいつ以来だろう。と考えながら再度深い眠りの世界に旅立っていった。
耳に気持ちのいい低さの声に瞼を上げるが、視界がぼやけていて声の主の髪が日の光でキラキラしていることと魔法力がとても大きく温かい光を放っていることしかわからない。
「…綺麗…」
息と一緒に漏れた声は驚くほど掠れていて、それと同時に空腹と疲労がドッと襲ってくる。
私は薄れゆく意識の中で大きく響く自分のお腹の音を聞いた気がした。
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「魔の森で女の子を拾ったぁ?!しかもあの魔王s…じゃなくて悪m…でもなくて、リドが献身的に見舞いって… 夢?悪夢?それともドッキリですか?」
王城の一角、騎士の詰め所で魔法騎士団団長が自分の金髪をぐしゃぐしゃと掻き乱し騒いでいた。
「って!?いきなり叩くなよ!アル!」
「あ、すみません。夢と現実の区別のつけ方ってこれくらいしか思いつかなかったんで」
口では痛いと言いながらもまったく痛がっている様子もなく温くなったお茶を一息に飲み干す。
「で?その子は今どうしてるの?あと、保護されたときの様子と外見」
「彼女は只今リドの邸にて食事と寝床を与えられているはずです。というかリドが離しませんでした。他は資料にまとめてこちらに」
「ありがとう、じゃあ一旦下がっていいよあとは随時こっちから指示出すから」
お辞儀をして退出していった部下を見送り、机の資料に目を通す。
「オレンジに近い金髪に同じ色の瞳…か、やっぱり彼女だよね。まあ、リドが気に入ったなら好都合かな?何とか彼女にはこの国に留まってもらわないと」
資料を机に放り出し新しい紅茶を淹れてもらう為に呼び鈴に手を伸ばした。
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卒業パーティーというめでたい場は、とある一人の生徒が入場した事で先程までの賑やかな空間が一転、誰も物音一つ立てない異様な空間になっていた。
「貴様は未来の王妃に手をかけただけでなく国家の転覆まで謀った!常ならば問答無用で一族郎党処刑台行きだが彼女の慈悲で貴様の国外追放で勘弁してやる!何も持たずさっさとこの国を出て行け!どこぞで野垂れ死にでもすればいいさっ!」
婚約者はそう言って蔑むような瞳を向ける。
「私、行けない事って分かってたんです。だけどどうしてもこの気持ちを止められなくて、そうしたら嫉妬したのか泥水を掛けられたり……。貴女にはもっと相応しい場所がある筈です!だから、この国でない別の場所でやり直して下さい!」
全く身に覚えのない罪状、あるはずのない証拠。唖然として婚約者の後ろに何人かの国の重役の子息たちに庇われ、涙ながらに私に訴える少女の口元に一瞬浮かんだ残酷な笑みに嵌められたのだと理解するがもう遅い。彼は、彼らは聞く耳を持たず。会場中の人々さえも小声で囁きあいながら冷たい視線を向けてくる。
「貴様みたいな見た目だけでなく性格まで醜い奴と結婚なんてしなくてよかったよ。私の新しい婚約者の慈悲に感謝するんだな!この赤目のバケモノが!」
『赤目のバケモノ』それは幼い頃婚約者自身が付けてから私の『名前』になった。
別段真っ赤な目をしてるとかそう言うわけではないが、髪と同じオレンジがかった金の瞳は光の加減によって赤く見えるそうで、貴族は私の事をいつからか『赤目のバケモノ』と呼ぶようになった。
「今すぐここから立ち去れ、お前のような者の居場所などこの国にはもう存在しない!」
そう言って手に持っていた乾杯用の飲み物をゆっくりと頭の上で傾け、空になったグラスを新しいものに変えると出口に示す。
「承知致しました。失礼いたします」
頭が冷えるのを感じながらなんの感情ものせずに静かに腰を折り礼をする。両親が嘆くであろう事は分かっていても、それ以外の選択肢は用意されていなかった。
「このっバケモノが!息子だけでなく地位や財、信用までも私から奪うつもりかっ!」
バチンッと頬を打たれ頭の中に穏やかな笑みを浮かべた大好きな兄の顔が浮かぶ。
まだ幼い頃、落馬した私を庇って逝ってしまった兄は唯一私のことをバケモノ扱いせず妹として扱ってくれた優しい人だった。
「早く出てって!貴女の顔なんか見たくもないわ!この疫病神!私の息子を返して!貴女なんか産まなきゃよかった!そんな醜い姿を晒すくらいなら産まれてこなければよかったのよ!」
母はそう言ってメイドに私のドレスを脱がせるとボロボロのドレスを着せ馬車に乗せる。
国境まで三日、水も与えられず馬車を進め国境の外、隣国との境にある森の入り口に放り出された。
森は暗く、しかし食べられそうな物は見つからず二日水を飲みながら何とか生き延びてはいたが三日目、家を追い出されて六日目には空腹と脱水症状で意識が朦朧として遂に力尽きた。
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次に目を覚ましたとき、私は薬品の匂いと真っ白な天井の見える世界に居た。見覚えの無い天井にかぎ慣れない匂い。森で倒れた所までは覚えているが、五感が夢ではないと訴えているので現実であろう事は分かる。しかし、ここが何処なのかまでは分かるはずもなく、動かない体を叱咤し何とかベッドから這い出るが、力が入らずその場でへたり込んでしまう。
「あら、起きましたか?」
ベッドを囲っていたカーテンが音を立てて開き、柔らかい印象の女性が顔を出す。
女性に軽々と抱え上げられ、そのままベッドへ戻されてしまう。
「まだ寝ていて下さいね。人を呼んできますから」
毛布を首まで引き上げ優しく頭を撫でてから再度カーテンの向こう側へ去って行く。
人に撫でれたのはいつ以来だろう。と考えながら再度深い眠りの世界に旅立っていった。
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