自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体はいつのまにか最強になっていたようです〜

ねっとり

番外編②:王国と王女④

「なんだてめーは。死にたくなかったらさっさとーー」
「お前らはバカか?俺が見過ごすわけないだろ」

 ケイドが威勢良く吠えた男の頬を殴る。
 一発で男は吹き飛び、何本かの樹にあたり気絶した。
 残った男達が一歩下がる。

 すぐにケイドが他の男の腹に一撃をかます。
 重い拳が腹に衝撃を与え、一瞬で意識を刈り取る。
 その男がいる倒れる前に、残り男たちに蹴りをかました。

「ウゴッ」「へゲッ」「グハッ」

 その言葉が、彼らの最後の言葉となった。

 サラは目の前の男に改めて惚れた。
 拳を構えてから制圧するまで3秒とかかっていないだろう。
 流れる水のようにケイドが動き、殴る音は一回しか聞こえなかった。
 さらに羽織っていたマントをサラにかける気遣いまでしてくる。

「リム、もう目を開けていいぞ」
「はーい!」
「リ、リムさ……ん?」

 サラの記憶にあったリムとは違った。
 ケイドと一緒にいたリムは、年齢以上に大人びていて悔しいが勝てないとまで思わされた相手だ。
 しかし今一緒にいるリムはさらに若返っている。
 どう見ても10歳前後だ。

「ケイドー?何すればいいー?」
「まずはお嬢さんの手当だな。回復魔法は覚えてるか?」
「うんー!この前も復習したよ!」

 リムが胸を張るとサラに近付いてきた。
 両手をサラの肩に乗せ、目を瞑り魔法を唱える。
 暖かい感覚がサラを包み込み、先程までの痛みや怪我などがみるみる治っていく。

 その間ケイドはノビた男たちを手際よく縛っていった。
 師団長の股間部分にはそのへんの葉っぱを巻きつけ見えないようにする。
 男達を一箇所に集め終わる頃には、サラの傷も治っていた。

「なんだ野盗にしてはいい鎧着てんなぁ」
「お願いです!ケイド様!街を助けてください!!」
「えっ?」

 ケイドが困惑した顔を見せる。
 サラは藁にもすがる思いでケイドに抱きついた。
 いや、もしかしたら計算だったかもしれない。
 その姿を見たリムのほっぺが膨らんでいる。

「ちょちょちょまてまてまて。何が起きてるんだ?」
「スタンピートです!街の西部が襲われています」
「あー、だから会わなかったのか……」

 サラを引き離したケイドがリムの機嫌を取るように頭をポンポンする。
 リムもそれで機嫌が治ると扱いを知っているのだ。
 ケイドはサラをお姫様抱っこすると、リムに話しかけた。

「えっ?えっ?」
「リム、走るぞ」
「わーい!走るのすきー!」

 急に抱きかかえられて困惑気味の表情をしたサラを置いて会話している。
 次の瞬間には2人が走り出した。
 木の間を縫うように駆け抜けていく。
 その早さに驚いたサラは、振り落とされまいと必死にケイドを掴んでいた。




 スタンピート討伐司令部は混乱していた。
 軍団長は倒れ、サラも師団長もいなくなっている。
 一部の人間からは見捨てられたかとの声も上がっていた。

 戦える兵士も、もう少ない。
 今は冒険者達がオーガの群れを相手にしているが、いつまで持つか。
 回復魔法をかけ続けているが、残りの魔力も空に近い状態だ。

 軍団長はまだかろうじて意識はあるものの、傷が深く息をするのもままならない。
 誰もがこの討伐戦失敗が見えてきた。
 もし援軍がやって来たとしても遅いだろう。
 さらにジェネラルオーガだ。
 勝てるはずがない。

 しかしその混乱の中にケイド達は現れた。
 サラを司令部の椅子に座らせると、倒れている軍団長に近寄る。
 ケイドはリムに回復魔法を指示すると、広範囲魔法を展開した。

「うぅ……こ、これは……」
「軍団長!!」

 軍団長が目を覚ました。
 周りの刺された兵士たちも目を覚まし、現状を確認する。
 サラも嬉し涙を目に溜めながら口を開いた。

「英雄が……英雄が来てくださいました!」
「おぉ!」

 感嘆の声を上げた軍団長の目がリムとケイドを捉える。
 特にケイドへ目線を移した時やや怪訝な顔をした。
 何処かで見たことのあるような顔……
 その視線に気付いたケイドが軽くあしらうように手を振った。

「とりあえず話は後だ。魔物の状況は?」
「はっ!現在ほぼ目の前まで来ております。サザンクロスが足止めをしておりますが、時間の問題かと……」
「わかった。リム、これ飲んどけ」
「あい!」

 兵士からの報告を短く返事したケイド。
 懐から薬を取り出し、リムに手渡した。
 ガラス瓶に入った黄金色の液体。
 リムが封を開けると、一気に飲み干した。

「ん、あまーい!」

 その言葉に兵士が困惑する。
 普通回復薬などは苦いのが定番だ。
 しかも青や緑などは見たことがあるが、黄金色など聞いたことがない。
 1人の兵士が思い当たったのか、言葉を漏らした。

「まさか『虹鳥の蜜』……!?」
「う、嘘だろ?」
「それじゃ家が買えちまうよ」
「でも黄金色で甘いなど……」
「伝説級だぞ!?」

 ざわざわと騒ぐ兵士たちを軍団長が一喝すると収まった。
 小さく咳払いをすると、改めて軍団長が口を開く。

「英雄殿。力を貸して頂けませんでしょうか」
「もちろん。この街『エルダー』は俺たちにとっても大事な場所なんだ。
 あと……みんなは怪我人の救護をして全員下がってくれ。俺とリムでなんとかなるさ」
「ま、まさか!敵はオーガの群れ!さらに1000匹とオーガジェネラルまでいますぞ!」

 軍団長が驚きのあまり声を荒げた。
 だがケイドはそれに小さく頷くだけで答える。
 リムの頭をポンポンと叩くと戦場へ向かい始めた。

 ケイドが司令部から出て行こうとする。
 心配そうな目でサラが見つめているが、ケイドは振り返らない。
 しかし、サラの心を読んだかのように右手を挙げた。

「戦勝祝いに美味い酒を頼むぞ!……お嬢ちゃん」
「また後でねー!」

 司令部から出たケイド達は、真っ直ぐに魔物の群れへと突っ込んでいった。



 ーーーーーーーーーー

 兵士①の証言。

「いやぁ……天使が現れたのかと思ったね。

 俺は最前線にいて、サザンクロス達と魔物相手にしてたんだが……オーガには苦戦してた。

 しかもあいつらはいつもと違うんだよ。

 なんつーかな、目が血走ってて体全体も赤くてさ。

 腕の一振りで3人ぐらい飛ばされたんだ。

 ありゃ絶望しかない。

 もう死んだと思ったよ。

 全員俺と同じ顔さ。

 けどな、そこに現れたんだよ!天使が!!

 おっさんと2人で俺たちと魔物の間に降って来たんだ。

 そのおっさんがなんかしたとたんに魔物達が吹っ飛んだ。

 嘘じゃねーぞ!?

 文字通り吹っ飛んだんだよ!!

 魔物も一二歩後ずさりしてな。

 そしたら緑髪の天使か俺たちに微笑んだんだ。

 暖かい光が俺達を包んで傷を癒してくれた。

 可愛い声でな、『大丈夫ですよ』なんてな。

 神はいたんだ。ありゃ神が使わしてくれた天使だ。

 間違いない」




 ーーーーーーーーーー

 兵士②の証言。

「すげーんだよ!

 おっさんが凄かったんだよ!!

 いきなり登場してズバーンだぜ!?

 いやズバババーンかもしんねぇ!!

 いやだから凄かったんだって!!

 しかもズバババーンからズゴーン!!ってな!!

 やべーだろ!?

 わかるか!?その凄さ!!

 ただのおっさんがバシューンとかスドーンとか!!

 ズバンズバンやってたんだって!!

 俺たちもぶわーって癒されるし!!

 もうな、かっこよすぎんだよ!!

 すげーんだって!!

 あーあ、俺もあんだけ強くなんねーかなぁ」



 ーーーーーーーーーー

 サザンクロスリーダーの証言。

「あれは子連れおっさん冒険者だろう?

 噂では知ってたさ。

 でも子供を戦場に連れてくるのはよくないな。

 と言いたいが……彼らは僕らを数段凌駕していた。

 回復魔法に攻撃魔法。

 その両方を使う女の子。

 そして肉弾戦闘なら誰も勝てないだろうおっさん。

 彼らには頭が上がらないよ。

 僕たちのピンチを救ってくれただけじゃない。

 街を、国を救った英雄だね。

 彼の戦闘を邪魔しないように周りの雑魚を倒してただけだけどさ。

 あの戦闘は美しかった。

 踊るように敵をなぎ倒し、綺麗な鮮血が舞う。

 ジェネラルオーガも一撃だったよ。

 振りかぶった斧よりも先におっさんの拳がジェネラルオーガに届いた。

 一瞬だよ。わかるかい?一瞬で撃破したんだ。

 逃げ惑う魔物達を女の子の広範囲魔法で殲滅。

 ものの数分の出来事さ。

 この討伐戦最大功労者は彼らにあげてくれ。

 僕らはまだまだ修行させてもらうよ」



 ◇


 ケイドが戦場に向かって数十分後。
 そこには完成と雄叫びが舞い上がっていた。

 敵のスタンピートは壊滅。
 散り散りに逃げた魔物もいるが量は多くない。
 主力だと思われるオーガ部隊は全滅。
 ジェネラルオーガの首が掲げられている。

 絶望しかなかった戦場がひっくり返った。
 それでも傷跡は残っている。
 サラが連れてきた兵士は半分以下になっていた。
 その一人一人をサラが読み上げ追悼を捧げる。
 勇敢な兵士達によってこの国と街、民は守られたと。

 そして盛大な宴が行われた。
 街にある酒や食料を後先考えずに放出した。
 久々に街全体が活気溢れる夜を迎えている。
 ある者は泥酔し、ある者は死者に祈りを捧げ、ある者は戦闘の凄さを自慢した。
 勝利の喜びと死者の弔いに、街の広場には大きな焚き火がくべられる。
 辛い1日だったが、それが今終わったのだ。

 次の日も街には笑顔が溢れていた。
 サラ達は周辺の魔物を狩るための部隊編成と討伐で忙しく動く。
 司令部では軍団長も周辺の街への通達や早馬で王国へ報告などを指示。
 やる事は大量にある。

 気絶していた師団長達は、縛られたまま夜のうちに連れてこられた。
 貴族部隊として編成されていた兵士も何人か投降している。
 王女誘拐未遂は斬首にするべきだが、今はそんな暇はない。
 師団長とともに牢へと投獄された。

「な、なんでですかっ!」

 そんな折に、街の会議室でサラの言葉が響いた。
 その場にいるには街長と軍団長、サラとケイドとリム。
 その他にも数名の兵士と冒険者がいる。
 叫ぶと同時に机を叩いたせいで、何枚かの羊皮紙が舞った。

 サラの目は驚愕と共にケイドへと向けられていた。
 周りもケイドとサラへ半分半分目線が送られている。
 ケイドはなんでもないような顔をしながらサラに向かって口を開いた。

「俺はもう平和に暮らしたいんだ。王国とか関係なくな。
 授与式なんてされたら俺もリムも勧誘が酷くなる。
 だから俺は王国には行けないよ」
「でも……それでも……」
「なぁに。困った時は呼んでくれればいい」

 ケイドの笑顔がサラに突き刺さる。
 多分ケイドには何を言っても動かないだろう。
 諦めたような悲しい笑顔をサラが浮かべた。

「わかりました……後はスタンピート発生場所へ赴き、ダンジョンコアの破壊ですね」
「あぁそれは終わってる」
「は?」

 スタンピートはダンジョンからあふれ出した魔物の集合体だ。
 たとえその軍団を倒したとしても、ダンジョンがある限りまたいつ発生するかわからない。
 こんな場所にあるダンジョンであれば、冒険者も少ないので魔物の間引きも出来ないだろう。
 その場合はダンジョンコアを破壊して大元を断ち切るのだ。
 だが、口では簡単だがダンジョンコアを守るダンジョンマスターの存在も忘れてはいけない。
 大きな場所であれば、Aランク冒険者パーティーを3組ほど集めないと倒せない場合もある。
 それをケイドは倒し終わってると言い放ったのだ。

「もうあのダンジョンは大丈夫だ。帰り道に会えるかと思ったが八合わなくてな」
「リムもケイドも真っ直ぐ帰って来たのー!」

 スタンピートが発生したのはすぐに街へ報告が入った。
 ケイドも長年の経験から、スタンピートが危ない事は知っている。
 すぐにリムと家を飛び出しダンジョンへ向かった。
 しかし行く途中も帰る途中も魔物の軍勢には合わなかった。
 ケイドは来たから北西に向かい、魔物は西から南東の街へ向かったので入れ違ったのだろう。
 だがその入れ違いによりサラは救われたのだ。

「ケイドおじさまは全てが規格外ですね……」
「ま、俺は平穏な日常を暮らしたいんだ。すまんな」
「いえ。国に帰ったら私、絶対にこの国を平穏で誰でも笑顔になれるようにします」

 サラの目には覚悟の炎が宿った。
 これから王国に帰るとまた別の戦いが待っている。
 国をもっと豊かにするために、サラは決意を新たに国へと帰還するのであった。

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