自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体はいつのまにか最強になっていたようです〜

ねっとり

第13話:見たくもない現実ってのは存在してる。それに立ち向かうのを勇気と言うのか?俺なら見ないね

 それから……俺たちは長い間旅をし続けた。

 ギアの元へ向かい、今回も封印を守っている魔物を倒すことによって救出することが出来た。

 さらに俺たちは旅を続けた。

 封印されていた八柱のうち7人までは解放し、残る柱はあと1人まで来た。

 しかし、その度にリムが人からかけ離れていく。

 普段の姿なら可愛い娘にようだが、戦闘が始まると一変。

 この俺でも一瞬引いてしまうぐらい強くなっていた。


 俺もだいぶ強くなった。

 八柱を解放した時にそこで修行をつけてもらうようにしていたんだ。

 相変わらずじーさん達には勝てない。

 だが魔物との戦闘をすると強くなっているのがわかった。


 八柱は本当に突拍子も無いところにいた事もあったなぁ。

 洞窟の奥なんてのは優しい方だったよ。

 一度砂漠のど真ん中なんて言われた時は死ぬかと思った。

 もちろん俺のことだ。

 水と食料を大量に持って歩いてたからリムを心配させることはしていない。

 しかし、魔法で出した水ってのは本当に不思議だ。

 最初はあまり美味しくはなかったが、飲めば飲むほど美味くなっていく。

 なんか俺自身の味覚が変わったのかもしれない。


 話がそれたな。元に戻そう。

 俺たちは八柱の内7人までは出会う事が出来た。

 確か名前は……。

 ゼイトスとウバシャス、ギアは最初の方で助けたな。

 あとは『エファゾフ』、『ルスト』、『ファルフェイ』、『グーゼット』だ。

 なんつーか珍しい名前だよな。

 俺もよく覚えていたよ。

 残る1人は魔大陸の一番奥で封印されているらしい。名前は『ウート』。

 あまり行きたく無い場所だ。

 なんでかって?

 ……ザブラ達もいるって聞いてるからだよ。


 だが行かないわけにはいかない。

 俺は恩をしっかりと返す男だ。

 リムとの旅も楽しいし、万が一あいつらに会っても問題はないだろう。

 会っても……うん、問題ないな。



 という事で俺たちは今魔大陸にいる。

 この先の塔の頂上に最後の八柱『ウート』が封印されている。

 まずはどんな魔物が出るのかを調べるために、街中で情報集めだ。


 魔大陸とはいえ人間も多くいる。

 魔王が蔓延っていて、魔大陸の住人全員が敵対しているかといえばそうでもないらしい。

 中にはアイテムの価格をボッタクられたなんて話も聞くが、俺はその道のプロだ。

 高い安い物がいい悪いの判別はお手の物さ。


 この頃のリムは基本的に幼女体型で過ごしている。

 あまり大人の自分の姿が好きじゃないらしい。

 戦闘時のリムは神々しくも禍々しくも見える。

 そんな姿が嫌で、普段からいつもの体型だ。


「ケイドー?今日はどうするのー?」

「今日は街に出て情報集めだ。一番いいのは……やはり酒場だな」


 情報を集めるには昔から酒場と相場は決まっている。

 どんなに小さい街でも酒場は必ずあるし、色んな人間が酒に酔ってペラペラと喋ってるものだ。


 俺たちは宿を取ると荷物を置き、早速食事がてら酒場へ向かった。

 そこそこ広い酒場には所狭しと冒険者などが盛り上がっている。

 席に通され食事と酒を頼むと周りの声に耳を傾けた。


「この辺も物騒になって来たなぁ」

「まったくだ。なんでも魔王がこっちに来てるらしいじゃねーか」


 いきなりビンゴだ。

 この辺に魔王が来てるなんて初耳だし、それなら気をつけることに越したことはない。

 さらに情報がないか聞き耳を立てたがすぐに話題が変わっちまった。

 次の話を探そう。


「そういえばこの先の『プロテオンの塔』ってあるだろ?なんか魔物の強さが殆どSランクに分類されてるらしいぜ」


 おっと、またビンゴだ。

 まぁ俺たちにかかればSランクでも問題はない。

 むしろSランクしかいないなら余裕で踏破出来るだろう。

 もっと話を盗むために聞き耳をたて続ける。

 冒険者ギルドでもプロテオンの塔関連のクエストが多いらしい。

 Sランクの魔物だけあり、報酬も高い。

 ついでにクエストを受けていけば、いい小遣い稼ぎにもなるな。

 今回も問題なく終わりそうだ。




 ……終わる?

 そうか、じーさんに頼まれた旅が終わるのか。

 つまりもうリムと旅をする事は出来ないのか?

 この楽しい旅が終わってしまうのか?

 …………いやいやいや、何を考えてるんだ俺は。

 腐りそうになってた所を救われたのは、じーさんとリムのおかげだ。

 その2人への恩返しに、この旅をするって決めたんじゃ無いか。

 多少の寂しさはあるが……まぁそうだな。

 こればっかりは仕方ない。リムはもう十分に世界を見たと言っても問題ないだろう。

 俺から離れても生きていける。さらにあのじーさんもいるんだ。

 また1人になるのは……ええいやめだやめ!

 こんなしおらしいのは俺じゃ無い!


「けぇいどぉー」

 ん?なんだ?リムの口調が崩れて………あああああ!

「リム!俺の飲み物飲んだのか!?」


 俺の目の前にあった葡萄酒が消えてる!

 確かにそこまで苦くないから飲みやすいかもしれないが、それでも俺のは酒だとわかってるだろうが!!

 あぁこんなに顔も赤くなって!

 ほっぺたが机に張り付いてるじゃないか!


「えぇー。りむわかんないぃぃ」

「……うん。わかったわかった。俺が悪かったな」


 俺が注意もせず放置しておいたのも原因だ。

 流石にリムを怒るのは可哀想だし、何より俺が怒りたくない。

 仕方ねぇ。今日はここでお開きにして宿へ戻るか。

 俺は店員を呼び会計をすると、スライムのようにふにふにになったリムをおんぶした。

 首をコクンコクンさせているので、眠気と戦っているのだろう。

 だがこうなったリムはすぐに寝る。

 この2年程でリムの行動パターンは把握済みだ。



 俺が酒場を出ようと席から歩き始めた時、あまり聞きたくない声の持ち主達から話しかけられた。

「あれ?おっさんじゃん。何してんの?」

「うわー、最悪なの見た」

「……キモいです」

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