自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体はいつのまにか最強になっていたようです〜

ねっとり

第9話:くすぐりってのは脇の下だけじゃねぇ。顎の下も足の裏も太ももでも効果があるんだぜ?

 俺達は宿に到着した。

 部屋は相部屋。1年以上一緒に寝ていたんだから、もう恥じらいなどはない。

 2人で中に入り、荷物を降ろして背伸びをする。

「よっこらせっ……ふぁぁぁぁ!」

「ほんとケイドっておじさんみたいね」

 リムが俺が伸びてる姿を見ながら笑っている。

 ……うん、慣れてるから大丈夫だ。

 確かにもう30代後半だが、心は10代だ。

 いや言いすぎたな。20代だ。

 だからまだ俺は若いと思ってる。

 俺が若いと思ってれば若いんだ。問題はない。

「リムも戻ったらどうだ?」

「うーん、もう出かけないの?」

「明日のために夕飯と買い物まではとりあえずまったりだな」

「はーい」

 リムが返事をすると何かを詠唱する。

 見る見る姿が小さくなっていき、出会った時と同じ背丈まで縮んだ。

 その分服がぶかぶかになっており、透き通るように綺麗な肌がチラチラと見えてくる。

「ふー!らくちんらくちん」

「相変わらず面白いな」

 リムの生態系は不思議だ。

 食事もあまり必要としていないが(ここはあのじーさんも同じだ)、睡眠だけは貪る。

 俺の隣で寝るのが一番好きだそうだ。

 だが、俺にロリな趣味はない。

 リムの寝顔は確かに可愛いが、安心して眠るがいい。

 大丈夫だ。うん、大丈夫だ。

「さてと、持ってきた服に着替えよっと」

 ぶかぶかな服をおもむろに脱ぎ出したリム。

 まだ成長期を迎えていない体が俺の目の前に現れ……いやちょっと待て。

「待て待て待て!俺が後ろを向くからその間に着替えなさい!」

「全く。ケイドは恥ずかしがりやさんなんだから!」

「リムの羞恥心のなさにビックリしてるんだよ!」




 結局リムはその日大きくなることはなかった。

 2人で手を繋いで飯を食いにいき、肩車をしてお店を周り、おんぶしていたら寝た。

 これが子供を持つ親の気持ちか……いや彼女すらいねーけど。

 まぁ何にせよスヤスヤ寝てくれるのは安心感がある。


 俺は宿に戻るとベッドにリムを寝かせて、この旅の目的を思い出していた。

 片手には買ってきた酒。

 窓の外から景色を眺めながら飲む酒はまた格別だ。

 ……まぁ目の前壁なんだけどな。


 色々あったなぁ。

 俺はあいつらに追い出されたんだ。

 復讐……いやそんなちっちゃいことは気にしてない。

 むしろあいつらがいたから俺は限界突破したんだ。

 まぁなんだ。まだまだ大人として教えたかったことはいっぱいあったが、もう会うこともないだろう。

 辞めだ辞め。考えるだけでめんどくさくなる。


 じーさんが俺を送り出す時にリムを任せてきた。

 なんでも世界を回らせて欲しいと。

 俺も自分の居場所を作るために旅をしようとしてたところだ。

 1人よりは2人の方が盛り上がる。

 二つ返事で快諾した。


 だがそのついでに頼まれたこともある。

 封印された八柱を助けて欲しいと。

 俺なんかがそんな大役を任されていいのかと考えたが、この1年で強くなったはずだ。

 リムとの組手は殆ど勝てるようになったが、じーさん相手は無理だった。

 あのじーさん只者じゃねぇ。

 どんな動きをしても避けやがる。

 じーさんが助けに行けばいいかと思ったが、その場所から動けないらしい。

 八柱とはいえ出来ないこともあるもんだ。

「むぅー。食べられないよぉ……」

 リムは夢でも飯を食ってるのか?

 ……可愛い寝言じゃないか。

 この笑顔を守るのが今の俺の役目だ。

 出来ることならなんでもしよう。

 命の恩人でもあるしな。


 しかしリムが選んだクエストがまさかアーヘンの洞窟とはな。

 じーさんから言われてた最初の封印場所だ。

 アーヘンの洞窟は地下10階からなる大洞窟。

 登場する魔物も強くて並みの冒険者じゃ役にたたねぇ。

 ま、俺たちならなんとかなるだろ。


 今回の封印されてる奴はなんて言ったかな……。

 確か『ゼイトス』だったか?

 じーさんの名前も『ウバシャス』とかカッコいい名前だった。

 教えてもらったのは『ゼイトス』と『ギア』ってのが封印されている場所。

 後は自分で探してくれってよ。

 ま、俺にかかれば全員見つけ出せるけどな!

「ケイドー?寝ないのー?」

 リムが起きた。

 外から見える空はもう真っ暗で、時間で言ったら深夜に差し掛かっている。

 俺がリムの頭を撫でると、リムは俺の寝る場所を開けてくれた。

「ありがとうなリム」

「えへへー。ケイド大好きだよー」

 いつも通りリムが俺にくっついて来る。

 顔を肩に埋めて体を丸くし、熟睡する体制だ。

 俺はリムの頭を撫でながら呟いた。

「おやすみ、リム」

「うん。おやすみー」



 ◇



 次の日、朝はリムを起こすところから始める。

 最近の俺は朝が早い。

 たまに日の出と共に起きてしまうことがあるぐらいだ。

 この天使のような寝顔を起こすのはいささか気がひけるが仕方ない。

 優しく揺らして起こすことにしよう。

「リム?朝だよ」

「んんー?あとちょっと……」

 まぁいつも通りの反応だ。

 その間に俺は着替えと持ち物の確認をする。

 たっぷり時間が経ったあと、もう一度起こす。

「リム?置いてっちゃうよ?」

「やだー!ケイド置いてくのは嫌だー!」

 寝ぼけ眼で俺に抱きついて来る。

 この言葉は何故か効果抜群で、修行時代にも何度かお世話になった。

 元々置いて行く気などないが、リムを起こすには最適なセリフ。

 上半身を起こしたリムの頭を撫でる。

 顔が緩みっぱなしのリムをベッドから持ち上げて床に下ろすと、そのまま着替えを促した。


 今日はさっそく洞窟へ向かう。

 リムの着替えが終わったら準備をしに行こう。

 回復魔法はリムがある程度使えるため、アーヘン洞窟に出て来る魔物の毒を中和するポーションを何本か買っておけば大丈夫だ。

 王都は何度か来たこともあるので場所も分かる。

 買い物ついでに朝食を取るのもいいだろう。

「ケイドー?頭入らないー」

 振り向くとリムが袖を通す場所に頭を突っ込んでいる。

 まだ脳みそは寝ているらしい。

 苦笑しながら場所を変えてやると、スポンと頭が出てきた。

「えへへー。ケイドすごーい」

「全く。今度から起こす時にくすぐってすぐ目を覚まさせるか?」

「あ!えっちケイドだ!おじいさまに言ってやろー!」

 両手を上げて指をワキワキしたのが間違いか。

 たしかにこれではただの変態にしか見えない。

 大丈夫だとは思うが、万が一じーさんにバレたら俺は……。

 考えるだけでも恐ろしい。

 一度リムをくすぐり地獄へ招待した時なんて…………ダメだ。思い出すことを拒否してやがる。

「はいはい。とりあえず朝飯食ったら洞窟へ行くぞ」

「あーい」




 簡単な朝食をとった後、俺たちは商店街で必要なものの準備を進めた。

 しかし金に限度があるため必要最低限だけだ。

 地下10階の最下層まで行くなら食料も持っていった方がいいだろう。

 宿泊する場合のために魔物避けの簡易結界を張れる道具も必要だ。

 寝床としてはテントを張ればある程度地面の冷たさを回避できる。必要だな。

 後は火だ。火を起こすための薪も必要になるだろう。

 確か記憶では洞窟内に木材は殆ど無かったはず。

 松明がわりにもなる事を考えれば買いだな。

 おっと、今日は回復ポーションの安売りか。

 普段はこんな値段じゃ買えないからな。これも買いだ。



 ……あぁ俺はバカだ。

 気付いたら両手いっぱいに荷物を抱えてる。

 じーさんから貰った選別も、もう心もとなくなっちまった……。

「ケイド凄いね?そんなに荷物あっても簡単に持っちゃう」

「ははっ!俺は力持ちだからな!」

 まぁ俺にかかればこの程度の荷物は朝飯前だ。

 朝飯食って力も漲ってるからな。

 とりあえず背中に背負うスタイルで洞窟に向かうのがいいだろう。

 道具屋で大きめの麻袋を買って荷物を詰めて行く。

 何とか入ったが、俺の背中ぐらいあるんじゃねーのか?この量。

「よしリム、出発だ!」

「おー!」

 俺たちは王都を出て、アーヘンの洞窟へと向かった。

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