ブルーハーツの祓魔師

ノベルバユーザー188301

■ 0 1 ■










大抵の人は作り話だろうと言うが、

この世には悪魔が存在する。












「お兄ちゃん勉強サボっちゃだめだからね!」

「わかってるよ志舞しまちゃん、いってらっしゃい」




毎朝小学生の可愛い妹を学校まで送る。
それから俺の朝は始まるのだ。



「はぁ…なんて可愛いんだ…」

「独り言は心で喋れ、おはよう志信しの



妹の志舞が柔らかなツインテールを
ぴょんぴょんと揺らし、校舎へ走っていく背中を
見つめながらこちらを振り向かないと分かって
いながらも手を振り続け見送っていたところ、
彼は俺の頬を突いた。



「おはよう螢生けい。肘でほっぺつつくのは
 痛いからやめてほしいなぁ」

「まぁお前のシスコンぶりも
 今に知った事じゃないからな。」

「んー、そんなこと言ってると螢生に悪魔
 取り憑かせちゃうからね」

「それは勘弁して欲しいが、もしそんな事が

 あったらお前は俺ん家の教会出入り禁止だ」


そう言って首にかけた十字架のネックレスを
チラつかせた。


「えぇ、それは困るよ〜」



彼は ふかし 螢生けい
俺と同じ高校1年生で、幼稚園からの親友だ。

仲が良すぎるせいか、気が合いすぎるせいか、
今まで1度も喧嘩したことがない。

彼の家は教会で、父の慶汰けいたさんは神父さん。
神父さんは悪魔祓いに使う道具に特殊な御守り
効果を付けて道具を造ってくれる。

そしてその道具を有効的に使って悪魔を祓うのが
先祖代々祓魔師エクソシストをしている俺の家だ。



「螢生ちゃん1限目なーに〜」

「ちゃん付けはやめてくれ、鳥肌が立つ。物理」


こんな感じに、何だかんだ優しい。


席に着くと同時にHRホームルームの鐘が鳴る。
教室の黒板側の引き戸をカラカラと開けて入って
来たのは担任の茅場かやば先生。


「おはようみんな。隣のクラスの 朝香あさか ゆず が
 今日から復帰するみたいだ。声掛けてやれな〜」


前の席に座っている螢生の肩をシャープペンで
つんつんと突く。

「先生の話を聞け」といいつつ俺の方を
振り返る螢生。


「朝香ってだれ?」

「ああ、入学式早々車と衝突して入院してた
 らしい。隣のB組の女子だ、肩ぐらいの髪の」

「へぇ、詳しいね。好きなの?」

「アホか」


螢生はそう言ってぷいっと前を向いた。

今は6月だから… 1ヶ月ちょっと入院してたのか。
てことは入学式来れてないからまだ友達いないのかな。
そんなことを考えながら指でペンを回す。

…あ、前より上達したかも←


「蒼崎、ペン回しより1限目の小テストの
 勉強をしたらどうだ」


茅場先生の呆れた声に肩がびくりと反応し、
それと同時にクラスでみんなの笑い声が響いた。










「今日はお前の悪魔一緒じゃないのか」

「悪魔って言わないの!友達だよ」


放課後、俺も螢生も帰宅部で授業が終わると
颯爽と帰路につく。


「マルコーは今日は散歩日和だ〜って言って
 お出かけしちゃったよ」

「悪魔にも〇〇日和って概念があるのか」

「そうみたい。この前は急にショートケーキが
 食べたいから買ってこいって怒られちゃった」

「不思議なもんだな」


マルコーというのは、俺が中学2年生の時に
召喚した悪魔 マルコシアス。

見た目は羽根が生えた狼みたいな感じで怖いけど
絶対に嘘はつかない良い悪魔だ。


「今日も21時にいつもの場所でいいか」

「うん、でも螢生は祓魔師じゃないから一緒
 じゃなくていいのに」

「父さんを継がなきゃないからな。お前がどんな
 武器なら使いやすいかとか見ておきたいんだ」

「とか言いつつ毎日一緒に来てくれるよね〜
 そんなに大事な親友が心配?♡」

「やめてくれ、また鳥肌が立ちそうだ」

「ひどい!」



こんな会話は日常茶飯事。
2人で笑いながら冗談を言うのが楽しいのだ。



「そういえば最近は悪魔あんまりいないな」

「あれ?見えるようになったの?」

「いや、前まではうっすら気配を感じるくらい
 だったんだが…最近は全く感じないんだ」

「まぁ確かに最近見ないかも」

「それはそれでお前の仕事が減って良かったな」

「ハハ、ずっと出てこなくてもいいんだけどね」








「お兄ちゃん何時にお外いくの?」

「21時前くらいかな。その時にはもう
 志舞ちゃんは寝てなきゃね」

「じゃあ今日は志舞と一緒にお風呂はいろうよ〜」


妹の志舞は頬を膨らませて太ももに
しがみついた。
可愛い妹にこうもされては断ることは不可能だ。


「しょうがないな〜、じゃあお兄ちゃんの
 背中綺麗に洗ってね」

「あいあいさー!任せて!」








春といっても、夜の外はまだ冷える。
弟の志穏しおんは、背中の弓矢をしゃかしゃかと
鳴らし歩きながら、膨れっ面で俺を横目に見た。


「なんかあった?」

「兄貴が志舞と風呂はいるから」

「うん、志舞可愛かったよ」

「うるさい」


3人兄妹で女の子は志舞だけ。
たぶん志穏も志舞とお風呂入りたかったのかな←

少し冷たい風が頬を掠める。
それと同時にお風呂上りで冷えた身体は
身震いをした。布で隠していた背中の刀が
ズシリと重く感じる。


「なんだ、風呂入ってから来たのか?」

「あ、螢生」


志穏は螢生に「こんばんは」と言って、「兄貴
バカだから、妹が可愛すぎて一緒に入ったみたい
 っす」と笑った。


「だ、だって断れないじゃん!」

「お前のシスコンぶりには呆れるよ」


そう言ったあと、「弟の志穏はしっかりしてる
のにな」と余計な一言を加えた螢生。


「てか兄貴、マルコーは?」

「なんか朝から散歩するって行ったきり
 帰ってこないんだよね」


すっかりマルコーを忘れていた。まぁマルコーが
いる方が心強いけど、たまには大丈夫かな。


「まぁでもアイツいつも高みの見物してた
 だけだからな、大丈夫じゃね?」

「そうだな、志信も今日からひとり立ちってことで」



そう言ってふたりが俺を笑った瞬間だった。



「シノ!伏せろ!!」

「へぁ…!?」


聞き慣れた声に反応し、俺と同時に螢生、志穏も
瞬時に地面へと伏せた。


「マルコー!」


パッと顔を上げると右から左へと、視界の端へ
巨大な蛇の尾が飛び走った。


「うわ…ッ!」

「シノ!頭を上げるのが早い!」

「来るの遅いよマルコー!」


「伏せろ」と叫んだのは大きな翼に蛇の尾、
黒い狼の悪魔、マルコーだった。
マルコーは俺の横に立つと、螢生と志穏に
頭を上げさせた。


「アイツはファミリアだ。そんなに強くはない」


ファミリア=使い魔 だ。
マルコーは螢生の服の襟を噛むと、一気に
近くの民家の屋根へ黒い翼を広げて飛び移った。


「シノ、螢生に伝えろ。ここで結界をはって
 じっとしていろとな」

「螢生!マルコーが結界はって静かにしてろ
 だって!!」

「マルコーが!?お、おう…?」


螢生は屋根の上でネックレスの十字架を握り
その場で結界をはる。
マルコーはそれを確認してからすぐに俺と志穏の
隣へ飛び降りた。


「あれって…」


志穏がそう言うと、マルコーは再び口を開いた。


「蛇の使い魔だ。巨大だが元はただの蛇に過ぎん」


全長10m程はあろう大蛇は尾を振り回し、地面の
コンクリートを威嚇するように叩き割りながら
こちらを睨み続ける。


「え、元々は蛇っていっても…デカすぎ…」

「怖気付いたのかシノ」

「ちが…!…もう、蛇なんか1発だもんね」


とか言いつつも、巨大すぎる蛇は少し怖い。
“元は蛇” そう自分に言い聞かせながら、背中の
布に巻かれた刀を取り出し、切先を大蛇へ向ける。


「うおおぉぉぉっ!」


後ろから聞こえた声は弟の志穏のものだった。
同時に銀色の矢が頬を掠め、大蛇の額へと
直撃した。


「あ…ああーー!!」

「兄ちゃんは遅いんだよ刀だから。俺と同じ
 弓矢にしたら?」


悲鳴にも似た声を上げた大蛇は、その場で力を
なくし地面へと倒れ込む。
よく見ると、先程まで大蛇と言われていた蛇が
30cmほどの小さな蛇に変わっていた。


「…これが元の姿か」


マルコーはそう言って蛇の元へ近寄ると、
道路の隅に前足で穴を掘り始めた。


「…埋めようか」


そう言って俺もマルコーの隣で、土を掘り始める。
悪魔にされたからといって、元は野生で生きて
いた蛇なのだ。とむらうのは当然。

その場で膝を付き、埋葬された蛇へ手を合わせた。







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