異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

再び森へ〜池での出会いを添えて〜

 時刻は昼時を少し過ぎたぐらいだ。
酒場で軽食を取り、門までやってきた。
ちなみに軽食の値段は3人で銅貨15枚だった。
 これからクエストに行く冒険者も多いのだろう、昨日に負けず劣らずの出入りだ。
そんな中、いかつい顔をさせた男性──ガルダンが俺たちの元にやってくる。
「よおォリョウ!昨日ぶりだなァ!なんだ?今日もクエストか?」
 善人には見えないその顔を綻ばせながら、ガルダンが絡んできた。
「こんにちはガルダンさん。今日もクエストです。ガルーダとカコの実の採取に行ってくるんですよ」
 そうガルダンに告げると、ガルダンは険しい顔にさせ
「ガルーダっつーと…Dランク相当じゃなかったかァ?アリアとリーシャの手伝いか?」
「いえ…、実は昨日討伐したゴブリンの中にゴブリンリーダーが含まれていまして…。そいつを討伐したところ、Dランクまで一気にランクアップする事になったんですよ」
「ほお!そりゃぁ大出世じゃねぇかリョウ!よかったなァ!」
 今日も今日とて、バンバンと俺の背中を叩いてくるガルダンだ。
ただ、ガルダンは心の底から祝ってくれている…そう思えた。
「そ、それじゃあ、行ってきますねガルダンさん」
「おうよォ!気をつけて行ってこいよォ!」
 手を振るガルダンに一礼をし、ゲートへと向かう。
リーシャはガルダンにばいば〜いと声をかけながら手を振り、アリアは軽く会釈をして、後ろからついてくる。


「よし…じゃあ、とりあえずアリシアの森に向かおうか」
「そうだねぇ〜、ガルーダもカコの実も奥地にあるからねぇ〜」
「道中の魔物にも気をつけましょう。リトルボアのように出てくるかもしれませんから」
 リーシャとアリアと共に再確認をした後、アリアの言葉に同調の意を込めて頷く。
ゲートを3人で潜り、俺たちは“アリシアの森”へと向かうのだった。


 アリシアの街を出てすぐ3方向に道が分かれている。
まっすぐ行けば、昨日通った道へと続き、右へ行くとアリシアの森。左に行くとマルティアに着くとのこと。
 今回のクエストは、アリシアの森ということで右側の道を通り、俺たちは今アリシアの森にいる。木々が鬱蒼としており、木の葉の間から漏れる光がとても綺麗な森だ。
 一応森の中は舗装が施されており、歩きやすくなっている。
元いた世界じゃ、こういった道を歩くことはほとんど無かったからな。新鮮な気持ちだ。
サバゲーのフィールドの中に森のフィールドはいくつかあったが、俺の目にはこんなにも綺麗には映らなかった。


 そんな中、ふと思い出したかのようにリーシャが口を開いた。
「ここら辺だったねぇ〜、リョウが倒れてた場所」
「こんな何もないところに倒れてたのか俺…」
 ここら辺と、指をさしたのは道のど真ん中、あたりには木以外何もないような場所だった。
 ここが俺の異世界初の場所…、何とも変な話だ。
それにしてもまぁ…よくここに居て魔物やらに喰われなかったもんだ。アリアとリーシャが早くに駆けつけてくれたおかげだろうか。
「そうですね。丁度この場所でした…。昨日リョウさんがお話ししていた小精霊達が浮かんでいたんですよ」
 昨日のことのはずだが、記憶にないせいもあり遠い事のように感じられた。
そう言えば、あの小精霊たちにアリシアの森にいくって話をしてたな。会えるといいけど何処にいるんだろうか?
「小精霊達っていうのは普段何処に居るんですかね?」
 わからない事は聞いてみよう!
「精霊達は普段姿を見せませんのでなんともですが…、森の奥深くに居る…と聞いたことがありますね。ただ、真実は確かめられてませんので何ともわかりませんが」
 どうでしょう。という風にアリアは可愛らしく顎に手を置き、俺の質問に答えてくれる。
「歩いていたら会えるんじゃないの〜?取り敢えず日が暮れる前にクエスト終わらせちゃおうよぉ〜…野宿は出来るだけしたくないしぃ〜」
 リーシャの言葉に頷き、さらに奥地へと俺たちは足を進めて行った。


 それから数十分程歩き続けると、開けた場所に出た。
ちょっとした池がそこにはあり木漏れ日が差し込みキラキラと光を反射していた。そこでは森の草食動物達が水を飲んでいる最中だった。
 俺たちの気配に気付いた動物達は一斉に森の中へと移動し、辺りには何も居なくなってしまった。
「驚かせちゃったか…。なんだか申し訳ないな」
「ああいうのは、人の気配に敏感だからねぇ〜しょうがないよぉ〜」
「狩人達が頻繁にここに出入りしますから…それと間違えられたのかもしれませんね」
 逃げていった動物達に心の中でごめんと謝りながら、俺は池の方へと近づいていく。
森の中にある池とか、すごくファンタジーっぽいよな。異世界に来たって感じがすごいする。
合計で1時間ほど歩いて来たし、ここら辺で一旦休憩にでもするか。
「アリアさん、リーシャここら辺でちょっと休憩しませんか?丁度切り株の椅子もあるようですし」
「さ〜んせぇ〜い!」
「そうですね、少し休憩しましょう」


 池の近くにある、3つの切り株に腰をおろしそれぞれ水袋を取り出す。
 リーシャが干した果実を持って来ていたようで、それをアリアと俺にくれた。
ありがとうと、一声添え、肩から腰にかけてぶら下がっている鞄(先程アイテム屋で購入した新品の物)から水袋を取り出し、栓を開け口の中に含む。
 口の中を十二分に潤わせてから、胃の中へと流す。
空気が綺麗なところで飲む水は通常飲む水よりも美味しく感じたが、冷却効果はそこまで高くないようで、アリアの家から汲んできた水は少し生温かった。
 こういったものを少しだけ冷却するような魔法とか覚えられたら便利だろうなぁ…等と、どうでも良い事を考えながら、リーシャから手渡された干した果実を一つ摘んで食べる。
 干されたことにより凝縮した甘みと酸味が口の中に広がる、元いた世界で食べたものに近しいのは…なんだろう。干しぶどうみたいな感じだ。あれよりも甘みが強い気がするけど。
「この干した果実美味いな。なんていうんだ?」
 二つ目を口に運びながら、リーシャに聞いてみた。
「これはねぇ〜ルコルの実っていうんだぁ〜、昨日食べたリコルの実に似た奴なんだけどねぇ〜実自体がリコルよりも小さいから、こうやって干して携帯食にされてるんだよぉ〜」
「俺も今度買っておこうかな…、結構好きかも」
「ルコルの実はかなりの量がとれますし、価格も高くありませんのでいいかもしれませんね。お料理なんかにも使われるんですよ」
 にこにこしながらアリアが会話に混ざってくる、料理にも使われるって事は宿屋とかでも使われるだろうか?今からちょっと楽しみだな。


 そんな話をしつつ、俺は三つ目の干しルコルを食べようとするが何もつまめない。
手のひらにまだ3つほど残っていたはずのルコルの実が、全て無くなっていたのだった。
不審に思ったが、気づかないうちに食べてしまったのだろうという事にして、二人にそろそろ行こうか、と声をかける。
 二人ともすでにルコルの実は全てたいらげたようで、切り株から腰を上げ道の方へと向かっていた。
それに習い、俺も道の方へと歩みを進めようとすると────
「キュ?キュキュイィ?キュイ!キューキュ!」
 奇妙な声が聞こえて来た、すぐに振り返り俺が座っていた切り株に視線をやると
切り株から緑色をした耳のようなものが突き出ていた。
「……」
 身体隠して耳隠さずと言ったとこだろうか。
身体は隠れきっているが、耳だけがここにいるよ!と言わんばかりに主張をしている。
 俺が左から周りこもうとすると、耳がぴょこぴょこと動きながら右側にずれる。
今度は右側にまわり込もうとすると、左側にずれる。
「キュゥ!」
 しめしめと言ったような声を上げたソイツの耳は、ピクピクと動いている。
このままでは埒があかないので、まわりこまずに正面から一気に近づき、声の正体を確かめた。
「キュイッ!?」
「うおっ!?」
 そこにいたのは、緑色の綺麗な体毛で身体を覆いリスを大きくしたような…ほぼ猫に近しいぐらいの体躯に、額に赤い色がついた宝石のようなものを埋め込んでいる魔物だった。ふわふわの尻尾は切り株の陰に隠れるように、地面にねかせていた。


 ───俺の記憶が正しければ、この姿形をした魔物は
「カーバンクル…?」


 カーバンクル───そう呼ばれた魔物は小動物がする様に可愛らしく首を傾げるのだった。

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