異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

ゴブリンとの対決 命のやりとり〜イノシシを添えて〜

 アリシア平原
一面に広がる草原は圧巻の一言だ。
昔家族で出かけためちゃくちゃに広い公園の草原エリアを思い出させるほどのものだ
 舗装がされている道が街から草原の真ん中を通っている。
舗装されている、とは言うが俺が居た世界のようにアスファルトで固められていたりするものではなく、草を刈り土をならしただけの言ってしまえば粗末な道だ。
 ただ、そんな道でもこの異世界では重宝される歩きやすい道になってる。
 そんな道を三人でてくてくと歩いて洞窟へと向かう。


 一応俺が前に立ち、その数歩後ろに二人が続く。
 魔物が出た際は私が前に出るよぉ〜とリーシャは言っていたが、とりあえず自分一人で対処できる事はしていこうと思う。
 クエスト内容にあったゴブリンはアリシア平原にある洞窟の中に住み込み、冒険者や行商人を襲ったりして繁殖を繰り返している。
 その洞窟がある場所まで、後少しのところまで来て居るのだが───


「リョウ!リトルボアの顔を狙って撃って!」
 現在俺は魔物と遭遇していた。
 リトルボアと呼ばれたソイツはそのままイノシシのような姿をしている。
小さい猪という意味合いの言葉をそのまま具現化させたような姿だった。
 ただ、普通の猪と違うのは口元から生える二本の螺旋状に伸びた牙が二つと
額に突き刺さって居るようにも見える角がはえている事だ。
 リトルボアは平原を歩いて居た俺たちに向かって突進をしてきた。
アリアが魔物の情報を俺にくれ、リーシャが戦ってみたら?と軽い感じで言ってきたので、今俺はリトルボアと対峙しているような状態だ
 次の突進に向け、地面を後ろ足で蹴り上げるような動作をしているのが現在だ。
リーシャの言葉にしたがい、俺は弓を取り出し弦に弓矢をセットしそのまま力一杯引きしぼる。
 照準器がない分銃より的に合わせにくいが、アーチェリーをしていたときのことを思い出しながら照準を合わせる。


 そこまでの準備が遅かったせいで、リトルボアの突進の準備ができてしまった。
「リョウさん!避けてください!突進が来ます!」
 アリアの注意の声が聞こえてくると同時に、リトルボアはそのまま俺に突進をしてくる。
鋭い牙と額の角が俺に向かってどんどん近づき、俺は自分の心拍数がやばいぐらいに上がっているのを感じ取っていた。
「リョウさん!もう横に避けてください!次のタイミングで弓で攻撃しましょう!?」
 アリアさんが心配をしてくれてそんな声をかけて来てくれるが俺はそれでも動かない。
 あと数秒でリトルボアが俺の体を貫く───
といったタイミングで俺は弓を射る。
 風を切る音と共に放たれた弓矢は寸分の違いもなくリトルボアに当たる。
リトルボアの────心臓があるであろう場所にだ。
プギィイイと、リトルボアの叫びが聞こえると同時に、リトルボアの身体は地へと伏せた。


 その姿を見届けた後、上がりきった心拍数を抑えるために俺は一つ深呼吸をする。
平原がもたらす新鮮な空気が俺の肺の中を通るの感じ、気分を落ち着かせる。
「すご…」
「的確に魔石の位置を…?」
 後ろからそのような声が聞こえてくるのを感じ、顔をそちらに向け笑顔を作る
「すいません、お二人とも心配をおかけしました。でも大丈夫でしたよ!」
「す、凄いじゃんリョウ!本当に弓を初めて使ったとは思えないぐらいの腕前だよ!アリアなんか目じゃないねぇ!」
「ほ、本当に凄いんですね。リョウさん…?魔石の位置は最初から狙って居たのですか?」
「ありがとう、リーシャ。そんなに褒められると少し恥ずかしいな…。え、っと魔石ですか?すみません、僕は心臓の部分を狙って撃ったつもりだったんですが…」
 魔石という新しい言葉が出てきたな。
多分、魔法が関係してくるようなものなんだろうけど…
「魔石というのは、魔物の体内の中で生成される、魔力の塊のようなものです。私たちが日常的に使う様なもので、魔物から取れるものの中では一番価値が高いものなのですが…、っとと、それとは別で魔石は魔物にとって心臓部のようなものなんです。それを砕かれたり、抜き取られたりすると大抵の魔物は倒れるんですよ」
 魔石というのが魔物の心臓のことなのか…、全く知らなかったけど奇しくも俺が狙ったのがその魔石のある部分だったって事か。
 ただ、いまのアリアの話の中で一つ気になるというか、大事な部分が
魔石は高く売れる。後は魔物の一部もお金に換金できると言うことだ。
 つまり、俺はいま一番高く売れる魔石を射抜いてしまった…
俺はがっくりと膝をついて悲しみに暮れた。
 急にそんな行動を起こしたため、リーシャがたいそう驚いていたが今はそれどころではない。
「一番価値が高いところを…俺は…」
「あ〜あ、アリアが余計なこと言うからだよぉ〜?」
「えとえと…あの、リョウさん!でも的確にその場所を狙うのは中々出来ないことですし…し、しかも先ほどの状態であれば魔石を狙えてなければリョウさんが突進されていました!で、ですので…そんなに気に病むことではないかと…それに、リトルボアの魔石はそこまで高くありませんので…」
「あ、リトルボアのはそんなになんですね。だったらいいです!」
 そこまで価値があるものじゃないなら気にしなくていいか、という気持ちになった。
隣では、安心したかのようにほっと息を吐くアリア。
いつまでもくよくよしてても仕方ないしな。次からは気をつけよう。
 知らないのは罪ではない、知ろうとしないのが罪なのだってな。


「アリアさん、リトルボアはどの部分が買い取っていただけるんですか?」
「あ、えっとですね、リトルボアは牙と角、一応毛皮も売れますが…そこまででもないので牙と角でいいと思います」
「リョウ〜、私のナイフ貸してあげる〜!」
「わかりました、やってみますね。 ありがとうリーシャ借りるね?」
 リーシャからナイフを受け取り、リトルボアに近く。
 解体…というのは初めてする作業になるが、近所のおっさんが猟師をしていたこともあり解体に抵抗は特にないので、早速取り掛かることにする。
 まずは牙、まずはリトルボアの下顎部分を切り取り口ごと取り外す。ナイフがいいのかリトルボアが柔らかいのかはわからないが、サクサクと刃が進む。
 外した下顎部分の牙が生えている場所にナイフを入れ、牙に傷をつけないように牙の形通りに刃を入れていく。それを二つし終えたら牙は完了だ。
 同じ手順で角も処理をし、牙と角を手に入れた。
「こんな感じでいいんですかね?」
 切り取った角と牙をリーシャたちに見せる、角や牙には多少の肉は付いているが傷は付いていない…と思いたい。
「ん〜…、うん!最初にしては上手いね!上出来だと思う〜」
「ほんとですね。十分だと思います」
 二人の感想を聞き、大丈夫そうだったので、腰につけたポーチ(サバゲーの際にマガジンなどを入れておく為の小さな袋)に詰め込む。素材はギルドで買い取ってくれる…だった気がするな。
「すいません、お待たせしました。洞窟に向かいましょうか!」
 二人は小さく頷き、歩き始める。


 それから程なくして、道の外れ…岩が連なってる場所に目的の場所を発見した。
 あそこだよ、とリーシャが言う場所をよくみてみると岩と岩の間に穴が出来ており、そこがゴブリンの住処となっているようだ。
「えっと…すいません、こういった場合はどのようにして進むのがいいのでしょうか?」
 穴に向かいながら、アリアとリーシャに質問をする
「ん〜…ゴブリン穴の中にいくつか道を作って、巣のようにして暮らしてるから…少なくても10体以上はいると思った方がいいかなぁ〜…その場合だとぉ…音とかを立てて外におびき出して、一体一体倒すっていうのが普通だと思うよぉ〜」
「アリアのいう通りですね。ゴブリンは知能が低いので外で物音を立てれば出てくるはずですよ」「わかりました。それで行きますね…ではお二人は申し訳ございませんが先ほどのようにお願いします…、お二人が居てくれているって言うだけで僕は安心できます。本当に、ありがとうございます」
 今一度、お礼を二人に言うと二人は笑顔を見せてくれた。
よし、と一度自分を奮い立たせてから洞窟の中を覗く
 中は薄暗く、奥までは見えない。
 光がなければ進むことも難しいだろう…、見える範囲のギリギリの場所で二手にわかれているのがわかったが、その先以上は暗闇で見えない。
 二人に向けて軽く頷くと、俺は洞窟の入り口で見つけた手頃な石を拾い、洞窟の壁部分に思いっきり投げつける。
 石と石がぶつかり合う音が洞窟の中に広がるのを確認してから、俺は入り口から数メートル下がりいつでも射る事が出来るように構える。
 先ほどのリーシャの話からすると、10体以上のゴブリンがこの洞窟の中に生息している。
一体一体出て来てくれればそれでいいが、多分そういかない時もあるだろう。
その時のための対処方法も考えておかなければならない。
どのような攻撃をするのか、どのような行動を起こすのか、こちらはまだ確認できていないのだから。
ゴブリンがどのタイミングで来るかもわからないので、弓を引き絞ったまま俺はいる。
 数秒ほどの静寂が訪れた後、洞窟内からドタドタと何かが掛けてくる音が響く。
来るべき敵に備え、照準を洞窟入り口に合わせその時をまつ。
 そして、ソイツは出てきた。
長く尖った耳に、醜悪な見た目。緑色の体色。
そして手には木を削って作られたであろう、棍棒のようなものが握られている。
間違いない。こいつが“ゴブリン”だ。
「グギャ?ギィギギグ!」
 何かを騒ぎ立てているゴブリンに向かって、弓矢を放つ
風を切りながら、俺からゴブリンに向かい一本の矢が向かっていく。
その矢は多少のズレは生じたが、ゴブリンの頭部に深く突き刺さる。
「グゲェ!」
 醜い声をあげながらゴブリンはその場で倒れ動かなくなる。
当たった箇所から血が流れ、ゴブリンの下を赤く染め上げていく。
 まずは一匹だ。
 次のゴブリンが来る前に、急いで弓矢をセットし引き絞る。
「いいよぉ〜リョウ!その調子ぃ〜」
「お上手ですリョウさん!何体か同時に出て来るかもしれませんので気をつけて下さい!」
 二人からの称賛を頂いたが、俺は気を緩めずに次のゴブリンに備えて待つ。
ただその間に一点確認したいことが…
「アリアさんすいません!仮に、ゴブリンが複数体出てきたとして、その場合はどのように戦闘をすれば宜しいですか!」
「まずは今の要領で一体を倒します!その後、数メートル後退し、次の標的を狙います!
 その間に仮に接近され攻撃をされそうになった場合は、まずは棍棒を避けて下さい!その後に数メートル後退し、弓で攻撃です!」
「了解しました!」
「リョウ〜!もし危ない時は私がすぐに援護行くからねぇ〜?」
「ありがとうリーシャ!」
 その後、すぐにゴブリンがもう一体出てくる。
 身体が全て洞窟の外に出た瞬間に、頭を狙って弓矢を放つ。
狙いが外れてしまい、右目に矢が突き刺さり、ゴブリンが叫び声をあげる
「グギャァァアアァァアア!」
 強烈な痛みからか、慌てふためくゴブリンにもう一度弓矢を放ち、今度は胴体部分を狙いトドメを刺す。
 これで二体目いいペースで倒せているのでは無いだろうか?
内心、少し恐怖を抱いていたがこの程度であればなんとかなりそうだ。
気持ちはすこし晴れたが、まだ戦闘は終わっていない、もう一度弓を引き絞り次のゴブリンを待つ。
 すると、ゴブリンの叫び声を聞きつけた中のゴブリンが複数で洞窟の外へとやってきた。
 その数…5体。
 数の多さに驚いてしまったが、まずは先程アリアから教えてもらった通り、一体目に照準を合わせ放つ。
胴体の心臓があるであろう部分に弓矢が深く刺さり、そのまま倒れる。
洞窟の入り口はすでに3体のゴブリンの死体があり、その下は血の池と化していた。
仲間がやられたことに腹を立てたゴブリンが、俺の方に向き直り棍棒を手にし走ってくる。
 ただ、人間の子供ぐらいの身長しかないゴブリン。
そこまで早く走ることはできないようで、俺がいる場所まで来るのにまだ時間がかかりそうだ。
そこで俺はすぐさま数メートル後退をし、二体目のゴブリンに照準を合わせ放つ
 しかし、その弓矢は胴体や頭に当たることはなく、ゴブリンの脛のあたりに刺さった。
もう一本の矢を取り出してトドメを刺そうとするが、脛に当たったことにより上手く立てなくなったゴブリンはその場で倒れている。悲痛な叫び声をあげていて非常にやかましいがとりあえずは大丈夫だろう。
 残りは三体だ。


 一本の矢は弓にセットし、もう一本は口に咥える。
一度後退をしようと試みるが、既に一体のゴブリンが俺の近くまで来ていた。
仲間を倒され、傷つけられた怒りを叫び声に変え棍棒を振り回す。
 俺のすぐ目の前まで来ると、走って来た勢いを乗せ、棍棒を振り下ろす。
ゴブリンの足が遅かったため、威力もそこまでじゃないだろうとたかをくくったのが悪かった。
 ゴブリンの膂力は人間の大人ほどあり、その膂力を乗せた棍棒が俺の頭を潰そうとしていたのだ。やばい…そう思い後ずさりすると、震えていた足が何かに躓き俺はそのまま後ろに倒れた。
 だがそのおかげで、頭を狙っていた棍棒は俺の開いている両足の間に打ち付けられた。
棍棒が当たりすこし抉られた地面が、ゴブリンの力がどれほどのものかを語っていた。


───俺は、勘違いをしていた。
ゲームなどとは違い、これは今の俺の現実だ。
異世界という場所に来て、俺はなんでもできるとたかをくくっていたが、実際は一人の人間でしかない。
俺がしていたサバゲーなどの様に、命の危険がない“遊び”ではないのだ。
今行われているのは───命のやりとりだ。
 勝てば生きる。負ければ死ぬ。
甘い考えていた自分を戒めるように、奥歯を噛みしめる。
目の前で、当たらなかった事を不思議に思い首を傾げているゴブリンを睨みつける。
三体のゴブリンを倒したことにより生まれていた余裕や短絡的な考えを無くし、もう一度気合いを入れ直す。
 俺はコイツらを絶対に────殺す。

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