異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

異世界人の目覚め 〜ようこそ異世界へ!〜

 バタン
 扉が閉まる音が聞こえたと同時に、俺の意識は暗闇の中から復活した。
徐々に目をあけると、全く知らない天井が見える。
白くて…ではなく、木目調のシンプルな天井。
 その天井からは電灯のようなものがぶら下がっている。ここで薬品の匂いがすれば
俺は小説で幾度となく読んだ、気がついたら病院だった…っていう認識になるのだが
今、この場で匂いが漂っているのは柑橘系の甘くもスッキリしたような匂いだった。
(いっそのこと、病院にいた方が気が楽だったんだけどな…)
 そう思わずにはいられなかった。
 まず、自分が今置かれている現状を理解するために身体を起こす。
今寝ているのはベッドだ。当たり前といえば当たり前なのだが、俺が意識を失った時のことを考えると当たり前という言葉からはかけ離れている現状。
 そんな状態でも、なぜか俺は冷静でいることができた。
まずこうして生きている事が確認できたからだろうか?生きていれば何とかなる。っていうのが親父の口癖だった。


 次に、自分の状態。
これは意識が無くなる前に俺が着ていた服となんら変わりない。
靴もそのまま履いたままだ。
手に持っていたマテバは近くの小さい木の丸テーブルに置かれていたが、腰のホルスターにささっていたナインはそのままだ。
 ただ、あの時一緒に持ってきていたXM8が入ったケースと、メンテナンスグッズが入ったケースが見当たらない。もしかしたら別の場所か…もしくは無くなったか…。


 ベッドから抜け出し、大きく伸びをする。
つづいて、あたりの様子を見渡す。
木造建築だろうか。壁一面は木で出来ており部屋の中心部にはテーブルが有り椅子が三つほど置いてある。
キッチンのような場所もあり、鍋とポッドが置いてありまだ湯気を発してた。
クローゼット等もあるが、特別目につくようなものはなかった。
というよりも…なさすぎる。
テレビなども無ければ、DVDデッキのようなものもない。
 電球や電気の供給源になり得るものも、見当たらない。その代わりに燭台や電灯のようなものがあるのだろうか
(どんだけ古い家だよ…、そもそもここは日本なのかぁ…?)
 右手で頭をガシガシと掻きながらため息混じりに思う。
 家の中を散策していると、俺が寝ていたちょうど足元にXM8とメンテナンスグッズが入ったケースが置いてあった。
 安堵の息をし、中身の確認もすぐに行う。
どちらも全て揃っている。なにか無くなっていたり、足りなかったりすることも無く。
ひとまずそれらを、マテバが置いてある丸テーブルの上に積み上げて置くことにした。
 …さて
やることが無くなった
もう一度、自分が置かれている状況を確認する


 最初は、廃墟の中に白い扉があった。
その白い扉を開き、眩しいぐらいの光を受けているときに
後ろから、“誰か”に押された
 それが誰なのかは皆目見当もつかない。そんな陰湿な事をするような知り合いは俺に居なかったはずだし、なによりあの場には誰も居なかったはずだから。
 その後起きたら知らない場所。見覚えがないこの場所に居る。
持ってきていた物は全て揃っている。服や身につけていたものも全て。
ただスマホは意識を失う前に落としてしまっていたようで、手元にはなかった。
 ケースが綺麗に置かれていたことや、ベッドの上で寝ていたことから
誰かがここまで俺を連れてきてくれたことになる。
今のご時世にこんな優しくしてくれる人がいるとは…少し驚きだ。
 家主は今は不在。起きる前に聞こえた扉が閉まる音は家主がここを出て行った音だろうと推測される。
テレビやエアコンと言ったものがないことを考えると、俺はかなりの田舎町か何処かに居るのかもしれない。


 あと…限りなく0に近いが考えられるとすれば…全く別の世界か。
俺はミリオタ兼アニオタのオタクだ。
そんなオタクの拙い想像を膨らませると出てくるのが、別の世界。いわゆる”異世界“
日本はアメリカと言った国が無い、むしろ地球が存在していないのかもしれない。
 現実世界とは全く別の世界。
大抵そんな世界にくる“主人公”達は、かなり強力な能力や天才じみた事を成し遂げている。
小説やアニメを見るたびに、今自分がいる日常を捨ててでも一度行ってみたい…
 俺も、自分を変えてみたい…なんて思ってたが…
もし、ここが本当に異世界だとしたら…。俺はもっと強くなれるだろうか
 母が言っていた、強い子になれるだろうか


「あ、起きた。起きたよ。」
「あ、ほんとだ。ほんとだ。」
「こんにちは、こんにちは。」
「聞こえるかな?聞こえるないかな?」
 考えにふけっていると、突然として子供のような幼い声が二つ、頭上からする
驚きのあまり一度固まってしまったが、後ろに後退をしすぐさまホルスターにささっていたナインを取り出し構える
 リアサイト(照準器)を使い声が聞こえた方に照準を合わせる
「だっ…誰だ!」
 恐怖と焦燥感から声がうわずり、照準もブレブレになってしまうが俺はいつでも撃てるようにセーフティを解除する。
「あぶない、あぶないよ」
「何もしないよ?何もしないよ?」
 照準を合わせながら、声がする方を注視してみると
そこには、ふわふわと浮かぶ光の球が二つ。
片方は淡い緑色に光っており、もう片方は淡い黄色で光を放ち続けいた。


「…?お、お前ら…い、いや…君達が話しかけてるのかな…?」
 恐る恐る光る球体に話しかけると、球体は嬉しさを表すかのように光の明度を強める
「聞こえた?聞こえたの?」
「すごいね!すごいね!」
「「ぼくたちの声が聞こえてるね!」」
 わーいとはしゃぐように感じるその球体に毒気を抜かれ、俺はそっとナインにセーフティをかけ
ホルスターへとしまった。
 そして驚きのあまり深く考えられなかったが、光の球体が俺に話しかける。そんなことが現実で起こるわけがない。
…一番可能性として低かったが…これは…


「ね、ねぇ。君達一つ聞いてもいいかな…?」
 俺の推測が、考えがあたっているのかどうか
その答えを導き出す為に俺は、光の球体に声をかけた
「大丈夫!大丈夫だよ!」
「なにかな?なにかな?」
ぴかぴかと光を放つ球体に問いかけた
この子たちの正体が…もし…そうなら
そうだったとしたならば…俺はどうやら───
「君達は…、一体なんなんだい…?」
 より一層、光を強くした球体が答える
「答える、答えるよ!」
「僕たちね、僕たちね」
 ゴクリと、口の中に溜まった唾を飲み込む
「「小精霊って言うんだよ!」」






 ────異世界に来てしまったらしい。

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