異世界物語〜銃を添えて〜

八橋響

意識が落ちる前に

「───あ──た───大─夫──、
 声が聞こえたきがした。
それは、優しくて。心地よくて。
とうの昔に聞けなくなってしまった母の声と凄く似ていた。
 少しだけ瞼を開けるが、目が霞んで何も見えない。 かろうじて感じ取れたのは、人型の何かが近くにいることだけだ


 母は2年前に亡くなった。


 急病を患った母だったが、病床に伏せて居ても明るく元気に振舞って居た。
そんなに明るく振る舞えるはずがないほどの、大きな病気なのに。
俺たち家族に心配を、辛い思いをさせないようにと。自分が一番辛いはずなのに
病気が治る見込みはほぼないと、医者から告げられ、それでも1%の確率にかけて
 病気が治りますように、と俺は祈った
俺の願いも神は聞き届けずに、母の容態が急激に悪くなった。


 学校を早退し、いち早く母の元に駆け寄ると母は息も絶え絶えの中、口を開いた
「亮…。貴方は強い子だから……。優しくて…頼りになる…自慢の……自慢の息子だから……お母さんが…居なくなっても…頑張るんだよ…?妹と……お父さんのこと……よろしくね…?」
 その言葉を残し、母は息を引き取った。
そこから、母の葬儀はすぐに行われたが何故か俺は涙が出なかった。
実感が湧かなかったんだ。
母が死んだというその実感が。重い事実が受け止め切れなかったんだ。
 それは今も同じで…まだ乗り越えられて居ないのかもしれない。
だからこの声を聞いてここまで俺は揺れて、母のことを思い出したんだと思う。


「───とり──ず──、──リア──の家──こぼう」
 先程とは別の声が聞こえてくる。
心に溜まる、負の感情が晴れないまま、何も口に出せないまま俺は意識を失った。

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