長日月の守護者

嘉禄(かろく)

守護者の目覚め

学校に着いて千歳と分かれてから自分の教室に行く。
俺のいるクラスは所謂特進というやつで、秀才ばかりが集められている。
名門から平民…と言うと今の時代では語弊があるが、まあ一般階級の者も入り乱れていた。
周りがいつも通り騒いでいる中、俺は自分の机につくと荷物を置いて本を開いた。

…人と話す必要なんてない、寄ってこない向こうが悪いんだ。

誰に問われた訳でもなく少しむすっとしながら本を読み進めていると馴染みのある声が聞こえてきてすぐに肩を組まれた。


「よー環、また1人でむっすーとして本読んでんのか」
「…ほっとけ、悠弥はるみ


この見るからにチャラそうなやつは松平悠弥、徳川将軍家の家系で松平家次期当主でもある。


「そんなんじゃいつまでもぼっちで浮くだけだぞ?
井伊家の名が泣くなー」
「くっ…」


それを言われると弱いが、俺は特に周囲と馴れ合うつもりは無い。
俺がつい唇を噛み締めると、悠弥は他のやつに呼ばれて離れていった。
…ごく稀にあいつみたいに交流が出来たらいいなと思うこともあるが、まあ今のところ無くても不自由していないから問題ない。そうだ問題ない。

そう言い聞かせていたら先生が来て授業が始まった。
いつも通りちゃんと授業を受けて、終わって悠弥に絡まれつつ帰った。

少し疲れたな、と思いつつ本邸に入ろうとして俺はふと足を止めた。

…今、宝物庫の方で人影が見えた気が…誰かいるのか?

そう思いつつ宝物庫に近づく。
そういえば、おじい様が宝物庫に1度は行ってみろみたいなことも言っていたな…興味はあったけど1度も行ったことなかった。

この際だ、行ってみよう。

ということで俺は重厚な木の扉に手をかけ頑張って開いた。
中は真っ暗だが、定期的に掃除をしているのか埃っぽくはなかった。


「…誰かいるのか?」


声を出しながら進むが答える声はない、さっきの人影はやっぱり気のせいか…そう思って宝物をまじまじ見ようとしたら奥の方で物音がした。
驚いた俺は足音をつい消して奥へと進む。

最奥に着いたが誰も見当たらない。
肩を竦めて戻ろうとすると、突然足元を何かが走って扉に一直線に向かった。あれは…


「…なんだ、猫か。驚かすな…」


溜息をついて俺も出口へ向かう、すると横に立てかけてあった木の板が倒れてきた。
猫が走り去ったことでバランスを崩したのか、全て俺に降り掛かってくる。
咄嗟に腕で顔を庇ったが、すぐに来ると思った衝撃は来なかった。

恐る恐る目を開くと、何かが俺を庇っていた。
黒い着物、履いているのは足袋…?

おずおず見上げると、暗闇の中輝く金色の瞳と目が合った。


「…俺を呼んだのは…目覚めさせたのは貴方か?」
「…お前は一体、誰だ…?」


そう問いかけると、扉が開いて風が吹き込む。
どうやら倒れてきた板から守ってくれたらしい、足元には木が散らばっていた。
俺の無事を確認したのか、抱きしめていた腕を離す。
先程までは暗くて分からなかったが、その者は灰色の髪を持っていた。

こいつ、人間なのか…?
そもそも気配全く感じなかったし、どこに忍んでどこから現れた…?

俺が目を白黒させているとその者は俺の前に膝をついた。

「…俺は、井伊家に伝わる刀からなる…名前は無い。
だが、貴方を守る…その為に俺はここにいる。貴方が俺を呼び起こした、貴方が消滅するまでお傍に…」


…そう言われても、俺は話についていけず暫くその光景をぽかんとして見つめていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品