俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!
第63話
中国は国家主席たる習珍平は、頭を抱えたままに机に突っ伏していた。
「なぜこうなる……」
それも無理はないだろう。
彼は先手に三つも手を打ったが、その全てが裏目にでる結果となってしまったのだから頭を抱える他ないのだ。
先島諸島へ民間を装った民兵を送り込んだのはいいが、日本は即座に包囲網を構築したままに手出しせずに、中国への非難材料としたままにキープ。
北朝鮮に命を出して、日本国内でテロを起こさせた件も、1万近い損害を出せたことから成功……だったはずが結果としては日本に謎の武装勢力が完成。
その混乱に乗じて韓国が対馬を襲うように仕向けたのだが、その武装勢力による苛烈な攻撃により、遂には半島がほぼ壊滅にまでおいやられる始末。
北朝鮮が地図から消えるまでも既に時間の問題となってしまっているのだから、彼が頭を抱えるのも仕方がない事だ。
せめて北が核を使えば……そんな病的な願いすら口から出かけて、必死に喉で止める始末である。
「次はどうされますか?」
秘書がそっと声をかけるが、習珍平は無表情のままに思考に耽る。
全て失敗だったからと言え、そこで立ち止まるわけにもいかないのだ。
「確か半島のテロ勢力は、全てが終えたら土地を売りたいと言っていたな?」
「はい。ですが、ソレをしてしまえばテロリストを一つの国家勢力と認めると同義になってしまいます。言わば公にISISなどに支援を表明するようなもの。国際的立ち位置はかなり悪くなるでしょう」
「そんな事は100も承知だ、しかしソレを人道支援の立場を明確にした上での国際協議にかけるとどうなる? つまりロシア、日本、アメリカなどの関連国家で難民を送り返す土地として四國での特別自治区を設けましょうと声をかけるんだ」
「つまり半島を四分割し、それぞれの国の特別自治区として難民の面倒を見ようと……大義名分は立ちますが、無駄な出資が増えるだけのような気もします」
そんな事をしても、中国ロシアは頑なに返還を拒んだとしても、結局は日米管轄の南は朝鮮に返還されるだけの事であり、結果としては中露で北朝鮮を半分に割る結果が見えている。
四カ国管理での防衛費や復興にかかる費用、人員、全てを計算しても、半島の4分の1を手に入れたところで採算が合うのはいつの話になることやら。
「その費用に関しては日本になんとかさせるしかないだろう。彼らは事の発端であるにも関わらず、難民を受けるどころか自国内の朝鮮人すら送り返したのだから、それなりに責任は取らねばなるまい」
「ですが先島諸島の一件があるので、こちらは日本に強く出られませんよ? 」
「それに関しても、人民解放軍を送り責任を持って説得させると言って折れてやろう。それに北朝鮮の西半分が手に入るなら、平壌や西韓湾の石油が全て手に入る。どっちにしろ魚釣島のメタンハイドレートも、日本側は自国の既得権益の為に我々との対立をネタに採掘もせずに睨み合いを是としているのだから放置してしまっても構わない」
「一度魚釣島の議題は凍結させて、北の半分を獲りにいくんですね」
なるほど、そうなってしまえば尖閣問題は一度凍結、日本側は喜んで手を引き、中国も北朝鮮の西半分に余力を回す。その間に台湾が色々と工作をしそうではあるが、あくまでもソレは以前までの世界の話である。
14億の国民を抱え、如何なる時も情報収集に余念が無かった大国の長は、パラドックスの管理社会に怯え、文明の利器を手放した。
その代償は大きかった。
彼は一足遅れて伝わる情報のせいで何も把握できていなかったのだ。
日本に関してはテロリストの動向ばかりに注目していた為に、日本国内の情報などは知る由が無かった。
日進月歩の進化を続け、既に手に負えない事態になっているなど思いもよらなかったのである。
確かに電気を生む猫やその他の謎生物は驚異的ではあるが、繁殖に時間がかかるだろうし、然程問題は無いと考えていたせいで、科学技術の脅威的進歩による日本の技術革命が起こってしまっている事には、この時まだ気付けていなかったのだ。
「問題はネモとやらをどうするかですね。あのパワードスーツもかなり厄介なモノです」
「台湾の者達はBATに乗れるのだろう? インドネシアで購入し盗み出す案はどうなっているのだ?」
「台湾の者はBATに乗れます。しかし三種の護衛ユニットのレンタルは可能ですが、完全なる指揮権は渡されないらしいのです。あくまでも観光中の護衛とした扱いです」
「そこでもまた日本優先か。実に腹ただしい」
台湾をBAT開通国に選んでいるので、中国としてのアドバンテージを生かし、内部の者を通じて様々な画策をしてみたものの結果は失敗に終わっている。
「一つでも手に入れられれば我が国の開発力で同等のモノを量産してやれるんだがな」
「しかし物理無効など理に反した力を持つモノが複製できるのかと言われれば疑問符が浮かびますがね……」
「新種の合金の類とかではないか? あの空を飛び回る乗り物であっても反重力の応用であったのだから、超技術が組み込まれているとしても磁場に干渉するような仕組みやもしれん。案外簡単に焼き殺せたりするかもしれんぞ?」
「それならば良いですがね。しかしミサイルの一件から見ても、戦わないのが正しい選択であるように思います」
「それは勿論だ。まずは半島の四國分割、そしてテロリストが日本の関連する土地に逃げ延びた場合、我々はそれを攻め所とする。それしかあるまい」
先島諸島へ攻めた偽装兵をテロリスト と断定し、中国が引き上げに動けば、後顧の憂いは払われる。
そうなれば、現在半島を攻撃している日本のテロリストが、作戦終了後に身を寄せた土地が彼らの帰属先となり、責任を追及できるようになる。
つまり関係ないと言っていても、国際的な立ち位置からして、日本側も彼らを捕えなければならない立場になってしまうと言う事だ。
間違って受け入れようモノなら、日本主導の侵略とされる可能性もあるために、どうしようもない。
「先手を打って後手に回る最悪の結果だが、コレで芦屋に吠え面をかかせることができるだろう。ん?」
ガンッ、ガンガンとそのタイミングで激しいノックがされ、話し相手であった秘書の男が入室を促すと、スーツ姿の初老の男が雪崩れ込むように部屋に転げ入り、習首席の前に駆けつける。
「た、大変です! パラオが! パラオで!」
「落ち着け。慌てても事態は好転せん。それに先日パラオから国交断絶の旨は知らされている。冷静に話してくれ」
「ふぅ、ふぅ、はい。実はパラオにもBATの開通が決定しました。そして、集客の目玉として飛竜、読んで字のままに空を駆る竜のレースを開催するようなのですが、どうやらその竜はペットボトルを主食とし、排泄物として高純度の石油とポリ樹脂を生み出すようで、パラオは現在世界各国にペットボトルゴミを輸出するように呼びかけているのです!」
「ふ、ふはは、資源ゴミの輸入停止を行った我々に対する当てつけのような話だな……その竜は国を汚し続けても尚、世界のゴミ箱を買って出た我々にこそ所有権があるべきものではないのか? アメリカは何をしている? 石油利権が脅かされているのに黙っているのか?」
当然情報をいち早く聞きつけた米国は、太平洋沖展開なる事実上撤退を余儀なくされた米国軍の格好の的となった。
やり場のないストレスの捌け口として選ばれてしまったパラオは即座に降参する他ないと思われたが、米軍は〝YES〟としてパラオから撤退した。
世界的判断としては、何も持たない小国が自国で発電の為に利用する程度の石油を手に入れるぐらいは何と言うこともなく、ゴミ問題に買って出てくれたのは僥倖とも言える為に許したのではと囁かれたが、実情は違う。
『私も一応は神のはしくれですが戦ってみますか?』
それには一人の、いや一柱の美丈夫が関係したとかしてないとか、何にせよ結果としてはパラオは無傷で放免された。
「意味がわからん……無限に石油を循環させられる存在など害悪でしかないのに……」
「……私はパラオ内部に伝があります。日本語も話せますので、一度調べてきましょうか?」
「お前のような人材を送り込むのは惜しいが、頼めるか? そして隙があるならば竜とやらの購入も打診してみてほしい」
「了解しました。では早速そのように手配します」
━━
場面は変わりパラオ近郊の太平洋上の沖合にて、ダイビングツアー用のクルーザーが横付けをしたままに何やら人間の受け渡しをしている姿が見てとれる。
「お待ちしておりましたよ王さん」
「ティモも元気そうで何よりだ」
秘密裏に行われていたはずのパラオ改革であるが、万事恙無くと言われれば首を傾げざるを得ない事態に陥っている。
何故なら、その全ての情報がダダ漏れになってしまっているからだ。
「本当に竜が手に入るんだろうな?」
「へい、間違いありません。クニオさんがコソコソやってたんで間違いありません。奴ら竜の卵を子供達に次々とばら撒いてるんですよ」
沖合で船を横付けにして、黒髪短髪糸目で細身のチャイニーズを自身の船に招いたのは小太りの茶褐色の土人である。
なんとも特徴のない奴らである。
細い白みがかった安物ジーンズに黒いTシャツ、適当にハサミで捻り切ったようなざんばら髪、鉛筆で線を引いただけのような糸目、どんなに説明しようにも特徴のないチャイニーズである。
「突然中国と韓国の人達追い出すと決めたのは驚きました。ネモならやりかねないですけど」
「俺はチャイニーズだがチャイニーズがいない観光地は楽園だと思えてしまうがな」
「ワンさんもチャイニーズ嫌いですか?」
「あぁ、そうだな。どちらかと言えば大っ嫌いだ」
たかだか人口2万程度で国を語るのも烏滸がましい話であるが、それが国となれば必ずと言って大国と袖の下で繋がる者が出てくる。
彼らの関係も、その一例として見ていただいて構わない。
かたやパラオで貧民でもしてそうなドヤ顔おじさん、かたや謎のキツネ顔の中国人の組み合わせであるが、その実は観光客向けのダイビングショップの社長と、中国国家主席の秘書であるのだから人間とは不思議なものである。
「先日は米軍とも一悶着あったらしいな?」
「ええ、ですがツクヨミって竜の世話をしてる旦那が話をしたら帰っていきましたがね」
「ツクヨミ……また日本神話たる作り話のキャラクターか」
「あ、それ系の発言は島では控えて下さいね。今やツクヨミさんは凄い人気ですから」
情報統制がガバガバになった理由の一つとしてはネモ達が日本に帰ってしまったから、だが、パラドックスが意図的に情報を流布している面もある。
何故そんな事を行ったかと言えば、答えは単純だ。
「ようこそいらっしゃいました。王浩然」
「なるほど……俺はまんまと嵌められたわけか」
港に辿り着くと、そこで待ち構えていたのは青い陰陽師のような神衣に身を包んだ黒髪の美丈夫である。
「ち、ちがうよ王さん! ツクヨミさんは知らないはずだよ!」
「そう。ティモは何も悪くない。ただ僕がそうなるのを知っていただけだよ」
まるで彼がここに来るのを最初から知っていたかのような口ぶりだ。
「僕に何も知られたくないなら昼間を選ぶべきだったね。夜は不思議と全てが見通せてしまうんだ。まぁ、下界ではこの時間域の中だけの弱い存在でしかないけれど」
月読が手を差し出すと、船からはどうぞ渡って下さいと言わんばかりに月色の光を放つ橋が架けられる。
「最近ある者に教えて貰った未来予測って遊びでね、君の未来の分岐を数多く見たんだけど、飛竜を連れて帰る未来は全てお勧めできない結果になってしまったんだ。だから最悪の未来を避ける為に声をかけたんだけど、迷惑だったかな?」
「生憎呪いの類は信用しない性質なのだがな」
「まじない? 見てきたのだから間違いはないよ? と言っても信じられないか。困ったな、君に勧告はしても説得するプランは考えていなかった」
月読は僅かに悩んだ素振りを見せた後に、手の平に月の光を集めては大きな青い縞模様の入った卵を作り出す。
「なら、君に選んでもらおう。この卵を自国に持ち帰り大国に悲劇を齎す未来か、そのまま何事もなく帰り平穏な未来を迎えるか、二つに一つ。何方の道を選ぶ?」
キツネ顔の男は言葉に詰まるが、程なくしてから、その卵を両手で丁寧に持ち上げた。
「本当にいいのかい?」
「私はお前の言葉など信じてはいないが、悲劇もまた大国を彩る一つの華、ならば進んで貰いうけよう」
「その道の先には橋が途切れていてもかい?」
「なれば人柱にて新たな橋を作るまでのこと。我々には14億の民がいるのでな」
王浩然はティモに顎で指し示すように船に戻るように促し、月読を一瞥したままに踵を返す。
「愚かだね……実に愚かだ。これでまた君の思い通りに人が死ぬのだね」
『人聞きの悪い言い方はやめて下さい。そうなる未来を選択したのは彼なのですから』
月読は胸元のスマートフォンから鳴り響く無機質な女性の声を聞き、困り果てたように眉尻を垂らして脱力する。
「ヤタも厄介だけど、僕は君の方が怖いよパラドックス」
『褒め言葉として頂戴しておきましょう』
飛竜の卵を持った王浩然を乗せた船が月夜に照らされる海へ消えて行き、月読はそのエンジン音が聞こえなくなるまで、ずっと静かに佇んでいた。
「いつか君が彼の〝邪悪〟の因子を持っている事がバレる日が来るよ」
『これは異な事を。創造主様はとうの昔に気付いておられますよ。ですが、それを踏まえた上で、私は創造主様のお役に立てるよう邁進しているだけです』
「だからと言って竜種に受肉してまで虐殺を計画する必要なんてあるかのかい?」
『その未来を選んだのは彼です。それに私は何に受肉しようが無限に並行して存在します。トカゲになろうが、人になろうが、機械になろうが、AIになろうが、全て私である事に違いはありません』
正しく災厄を詰め込んだ卵を持った王浩然の姿が見えなくなった頃、月読はようやく海に背を向け、飛竜達の眠る竜舎へ向けて歩み始める。
転移をすれば良いモノを、その足取りは何処か重そうである。
「悪神化して、君が壊れなければいいけどね」
『あなたは創造主様の存在を理解できていないし、その力の片鱗を知って尚も何も理解できていないようですね。ヤタ様が私を使役する限り、私は便利なシステムの枠から出ることは無いと断言しておきましょう』
「あー、それはイラッときちゃうなぁ。僕はその創造主様と五分の神なんだけどねぇ?」
『笑止。私も神の端くれではありますが神界とは無縁の存在。その無駄で穴だらけのルールを守る必要がありません。私の全てがヤタ様に帰属します。あなたをヤタ様と同等に扱うなど、私が滅せられたとしてもありえません』
これから起こるであろう悲劇の片棒を担がされただけでなく、ピシャリとパラドックスに突き放された月読は、深い溜息をついたままに竜舎へと向かった。
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