俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!
第55話
現在の日本は少子高齢化の心配など一切無くなり、ある意味で人材の宝庫とも言える状況になっている。
ネモが齎らした若返りの妙薬、龍の涙に関しては、設置当初は爆発的な賑わいを見せたが、国より年金受給40年ルールなどが発表され、龍の彫刻も国の管理となって以来は、利用者数も緩やかに減少していたのだが、今回のテロ事件により、若返りを希望するものが激増した。
それは偏に戦う理由が出来たからに他ならない。
より若く、より優れた肉体で。
特殊作戦群発足から14年の月日が経つが、その14年前に事故死と処理され、海外の作戦に参加し続けていた五人の戦士がいる。
彼らは常に死と隣り合わせの過酷な戦場を乗り越え10年に及ぶ任務の完遂と共に帰国。
新たな戸籍を手に入れて、40代半ばにして十二分過ぎる額面の年金暮らしを約束されていた。
しかし4年間の嘘のような平穏が過ぎ去る頃、兵士と言えど人殺しに安寧の時は存在しないと嘲笑うかのような悪夢の報せに男達は絶望した。
テロのニュースでの被害者に、かつての家族の名前を見つけてしまったのだ。
同じ部隊での事故死扱いの為、年に一度遺族での集まりを開いていた際の凶事、喫茶店にダンプカーが突っ込み全員即死である。
国の為、そして家族の為、全てを犠牲にし、己が信念を貫き戦場を駆けた仕打ちが、コレである。
男達が再び修羅の道へ戻ると覚悟を決めるまで、そう時間は必要としなかった。
「こんなのがあったなら中東の作戦も楽勝だったな」
「兵器満載の空飛ぶパワードスーツと25歳の身体ってのは恐ろしい」
「寄る年波に勝ててしまったか」
「自分なんて足の指生えて来ましたからね」
「韓国は大まかな部分だけやって、後は自分達だけで北に行きましょうか」
中身は見えないが、彼らは25歳の身体にまで若返らせ、更には護衛ユニットを三種融合で纏い、何やら木箱を運びながらに談笑をしている。
全身メタリックで翼の生えた変態にしか見えないが、その箱から取り出される白い物体は凶悪の一言に尽きる。
その周囲には死屍累々の軍人が転がっているのが見て取れるが、彼らの視界には何も写っていないかのように自然なままである。
「茜ちゃんとやらがC4持って来たのは驚きだが、やっぱり足りねぇな」
「民間人が戦地でC4パクって来たんだから文句なしでしょ」
木箱はどうやら爆薬であり、男達はお喋りをしながらもテキパキとなんやらの仕掛けをしている。
その横では鷹型護衛ユニットを切り離してアサルトライフルと二点から敵を待ち構えている者もいる。
「早くしてくんないかなぁ!! 次から次へと湧いてくるんだけどなぁ!!」
ズダッ、ズドドドド!と振動と共に炸裂音が響き渡り、直後にはその数倍の弾丸が周囲を突き抜けて行くが、なんら気にした様子もなく一人一人確実に丁寧に片付けて行く。
「誘爆したらどうすんだ。もっと離れてドンパチしろい」
「カッチーン。これ通常の作戦なら君達20回は死んでるんだけどなぁ」
「おいおい、上官に向かって君達とはなんだこら」
「その上官とやらは14年前に死んだはずなんだけどなぁ? つかコラってなんだオラァ!!」
喧嘩するほど仲がいいとは良く聞くが、戦地で交戦中にそのまま殴り合いってのは宜しくない。
「おいおい、勘弁してくれよ」
「ほっとけほっとけ」
鷹型ユニットを切り離し、次から次へと湧いてくる敵勢を昏倒させている間に残りの3名で作業を続け、遂には戦闘ヘリまで送り込まれる事態に発展する。
「準備できたぞ!! ヘリを落とせ!」
機関銃を乱発されるが、変幻自在の飛行速度にヘリは対応できず、遂には小型ミサイルを撃ち込もうとするが、既にパワードスーツの男達は機体に取りついてしまっている。
「じゃあペラ潰すぞぉ」
「うわっ、ごめん!! 尾翼折れちまった!!」
彼らは任務がてらに、物のついでと言わんばかりにヘリの尾翼とプロペラを即座に破壊し、容易くヘリを墜落させた。
「さぁて、次は何しようかぁ」
その時は誰も気がついていなかった。
半島側は勿論、対馬防衛に集まった日本の皆ですらも。
一人で二百人とまでされる特殊作戦群、そんな彼らの中で特に優秀であった者達が10年の実戦経験を経て、更には護衛ユニットなど無敵のパワードスーツを手に入れた恐ろしさを、この時はまだ誰も知る由が無かった。
━━
対馬防衛で睨み合いが続く中、マイペースに飛行ユニットに跨りながら空を舞い、カメラに向かってニコニコしている少年がいる。
「どもー。勝手にネ申すちゃんねるのナナオです。今日は対馬防衛の撮影に来ちゃいました。まずね、フェアプレー精神って事で、対馬に来ていた観光客の人達は船で国に帰って貰って、しばらく寄り付かないように注意喚起をしたとの事です。おっ!! ちょうど融合ユニットの偵察隊が帰ってきたんでインタビューしてみようっ!」
翼を広げたパワードスーツの編隊に金髪キノコのナナオが突っ込み、空中強制インタビューが開始される。
「ヘイ! そこのメタルソルジャーたちぃ! 偵察に行った結果を報告してくれぇい」
「む? うん、釜山に潜水艦やイージス艦が集まっていた。パラドックスがハックしてくれてるから、電子制御で照準合わせての攻撃なんかの心配はないみたいだが、マニュアルならミサイルなんかも撃てるみたいだから今後は警戒が必要だ」
「えー! パラドックスぅ? そのままそいつらって自沈させられないの?」
『可能でしたと過去形で答える他ありません。攻撃動作に入れば自沈させるつもりでしたが、全てを手動に切り替えているので、現時点では港に浮かぶ固定砲台の扱いです』
「じゃあ撃たれたらなす術なしか……」
『いえ、なす術はいくらでもあります』
ナナオが悲しそうにガックシと肩を落とすが、パラドックスは食い気味にそれを否定する。
『まず上空に鷹型ユニットを複数配置しており、現在尚も継続して警戒させています。ですので、ミサイルが発射されれば、鷹型ユニットがミサイルを反重力フィールドに巻き込んだまま発射した艦船を爆破してもよし、上空にて爆破してもよし、更には心核をパージしておけば、同一個体の再生も可能。つまりなんでも御座れです』
「いや、それもそうだが、鷹を殺さなくても狼型の物理無効を使えばいいから、融合ユニットを纏っている俺達なら安全に処理もできる。俺たちが警戒しなきゃいけないのは、俺たちの安全じゃなくて、やけっぱちで本土を狙われないかってところだ」
「なるほど。なんか心配して損した気分」
「まぁ、そう言ってくれるな。一応は、今集まってきてる分に関しては対策はして来たんだ。お前の仲間の茜ちゃんから素晴らしい差し入れがあったからな。パラドックス、もういいぞ」
男の言葉と同時に、心なしか水平線の向こうで何かが光ったように感じたナナオは不思議そうに首を傾げるが、まさにこれが開戦の狼煙になるとは思ってもみなかっただろう。
「対策って何したの?」
「爆破した」
「え? 爆破?」
「あぁ、巡洋艦1隻と護衛艦2隻に潜水艦1隻。数少ないC4で如何に誘爆させるかがミソだったが上手くいったようだ。だが、次からは容易に接近してこないだろうから、この手が通じるのも今回のみ、次からは徹夜でミサイルの警戒に当たらなくちゃな」
パワードスーツの男はそう言い残したままにナナオの背中をポンポンと叩き、仲間と合流して飛んで行ってしまう。
「ナニモンなんだよ、さっきのおっさん」
「元自衛隊とかじゃね?」
「やっと喋ったな玉ちゃん」
「まじめに撮影してんだよ」
━━
そして更には地上も大盛り上がりだ、
「ご覧下さい。パワードスーツに身を包んだテロリスト集団が数万規模で続々と此処対馬に集まっております!」
報道クルーの目前では周囲一帯を埋め尽くすメタリックな軍団が所狭しと溢れかえっているのが見て取れる。
しかしマスコミさんも、よくこんな血の気の多い連中にテロリストなんて言えるもんだ。
興奮しているから、一歩間違えれば攻撃されてしまいそうなものであるが。
「おいー! どうすんだよパラ子ぉ! なんかみんな血生臭くなってんじゃねぇかよぉー!」
『戦いとは常に二手三手先を読んで行うものだ』
「そんな話聞いてねぇよオラァ!!」
「まぁまぁ御二方、喧嘩はよして落ち着いて下さい」
その熱気と喧騒は、神の嘆きすら容易く打ち消してしまう。
「いやだー! もうこんなのやめさせろよぉう……」
アレックスが必死に宥めるも、ネモは地べたに仰向けになりジタバタとしながら駄々を捏ねるが、それでどうにかなるはずもない。
今回ばかりは被害が出過ぎたのである。
『ここは皆に任せて大丈夫です。食料調達をスムーズに行う為にもターミナルタワー建造と貨物車両の導入を推奨します』
「まぁ、それぐらいはやるけどさ。パラ子も色々やるのは構わないけど、極力血生臭いのはやめてくれよ」
『問題ありません。創造主様の権能に影響を及ぼさない範囲に抑えております』
「いや、そう言う事じゃなくて、同じ人間なんだから話したら分かり合えたりするかもじゃん?」
『70年対話をした結果がこれです』
流石にネモも諦めたようで、対馬にターミナルタワーを建て、貨物列車型のユニットを準備した後に、溜息を吐き出して対馬を後にした。
━━
対馬防衛戦、後にこの名で銘打ち語られる日韓の民間での抗争は、実に呆気ない終わりを見せる。
イージス艦2隻に潜水艦1隻を爆破された韓国側は、怒りに任せて爆撃機を対馬に派遣するが、航空自衛隊のスクランブル発進により撤退を余儀なくされ、次にミサイル攻撃を行おうと艦船を展開するが、此方も日本側がイージス艦を展開し防衛姿勢を見せた為に平行線のままとなった。
つまりは民間船を装っての対馬侵攻以外に手段は残されておらず、フェリーや漁船などの民間船にて対馬へ向かったが、融合ユニットを纏った数万の日本人が待ってましたと言わんばかりに攻め入り、武器弾薬を奪い取っては船を人員ごと沈没させる狂気を見せた。
まるで飴玉に群がる蟻のようである。
韓国政府は直ちに日本政府へ非難声明を出すが、遺憾砲と早急に対処するとの口約束のみで受け流した。
しかし事態は刻一刻と深刻さを増し、時既に遅しと言わぬばかりに、対馬防衛隊は怒り冷めやらぬまま暴徒と化し、1万の守備隊を残したまま、釜山へ乗り込んでいた。
「オラオラオラオラ! 死に去らせクソがぁ!!」
ギュウォウォンと電子音にも似た反重力フィールドと推進装置の呻きに風切り音が重なった歪な音が街を埋め尽くし、車を掴んでは上空へ舞い上がり、地上へ次々と投げ捨てては延々と爆発音が響き続ける。
「燃えろ燃えろぉ!! あはははは!!」
地上からは韓国陸軍が休む間もなく銃声を搔き鳴らし続けてはいるが、狼型ユニットの効果である物理無効と恐慌効果のせいで、攻撃が当たれば恐慌状態に陥り、糞尿垂れ流しのままに倒れていく。
正しく、成す術なしである。
ビルが崩壊し、家屋が炎上しても尚攻撃は熱を増して行く。
まるで小さな子供が怪獣気分のままに、ジオラマの街を好き勝手に壊して回っているかのようだ。
それ程までに現実味がない。
破壊と殺戮。
クライムゲームで何人殺せるかを試しているのかと錯覚する程に、淡々と目に映る全てを壊して行く。
彼らが通り過ぎる先には、街は跡形もなく消え、地平線まで埋め尽くす火の海のみが残るだけであった。
「いやぁ……ミサイル諸共死んでやろうかってつもりで暴れてたんだけど」
「ちょっと強すぎたな、コレ」
PTSD不可避な暴れ方をしていた日本側の多くは、殺す覚悟と共に死ぬ覚悟もしていたのだが、護衛ユニットがあまりに万能過ぎて、結果として被害を出さずままに大都市を一つ燃やしきるまでの事をしてしまったことに後悔する者もチラホラと現れていた。
「はは……どうでもいいけどな。俺はもう地獄に落ちるまでとことんやってやる」
「ははは、地獄行きは確定しただろうけどなぁ」
だからと言っても、ここで立ち止まる事も出来なかった。
家族を恋人を友人を恩師を、それぞれ大切な者を理不尽に奪われ、立ち止まる事が出来なくなってしまったまま復讐に突き進んだ結果、彼らは既に復讐の連鎖に巻きつかれ、底なしの泥沼に首まで浸かってしまったのだ。
どれだけ殺しても想い人が生き返るわけでもないし、喜ぶわけでもない。
泣き寝入りするか戦うか、彼らは単純な二択で、もしかすると楽な方を選んだのかも知れない。
どうしようもない怒りと悲しみに押し潰されるぐらいなら、自棄になって暴れてやった方がマシだと思ったのかも知れない。
それが自身を悪鬼羅刹に落とす決断であったとしても。
「貴様ら小難しく考えすぎだ。死は神が等しく与えたもうた真の愛だ。やがて糞袋は土へ帰り新縁を芽吹き数万数億の命の糧となる。貴様らの死の執行は愛の代行だ。胸を張って殺せ、少なくともオレはお前達を愛深き清廉潔白な戦士であると断言してやろう」
「茜ちゃん、あざーっす!!」
「うぉー!! 茜ちゃんキタテンション上がるこれ!!」
釜山、鎮海、馬山、蔚山を燃やし、大邱侵攻に合わせて、彼女が本格参戦した事により、バラけ始めていた日本側は更に一つにまとまっていくが、それはまだ後の話。
「さぁ!! 燃やせ!! お前達の悪意の全てをオレが肯定してやる!!」
戦いの中でしか己の価値を見出せない人間は少なからずとも一定数は存在する。
現代においては異質な存在でしかないが、彼女もそちら側の人間であるのは間違いない。
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