俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!
第49話
世間はネモの話題で持ちきりとなり、その恩恵に与り生活を豊かにしているが、恩恵も度が過ぎると被害を被る人間もまた存在するのが事実だ。
嬉しい悲鳴は勿論だが、他にも職場が突如真っ黒に染まった例もある。
その筆頭とも言えるのが軍事産業、つまりは極秘裏に進められる兵器開発部門である。
『此方が蜂型トルーパーです。現在はメタリックな見た目ではありますが、塗装を施せば本物と見分けはつきません。毒針から人体にナノマシンを注入し、脳の中枢に私が潜り込む事によって管理下に置き、擬似的なヒューマノイドとする事が可能となります。人格も残せますので、行動を抑制し、戦闘行為を不可能にする程度の干渉しかしませんが、やろうと思えば存在そのものを私の一つとしてしまう事も可能です』
「なるほど、これは酷い」
『現在蜂型トルーパー、ナノマシン共に人造での生産ラインの増産に着手しておりますが、恐らく同等の精度を出すには最速でも八年程要するでしょう。ですので貴方達を呼んだのは他なりません。この蜂型トルーパーを満載し、目的地に着弾と同時に拡散するミサイルを作って下さい。設計図は既にラボのPCに送っておりますので、そう時間はかからないと思います』
「し、しかしだなパラドックス。我々は今も君に言われた通りに、アレの開発も行なっているのだよ?」
『3Dプリンターで作成した部品を組み立てているだけでしょう? 他の部署は手詰まりなのです。貴方達がやらなければなりません』
ここではパラドックスが総指揮を取り、24時間体制での兵器開発が行われている。
ネモ自身はこれらの生産ラインを創造したので、パラドックスが影で何かをやっているのだろうな程度の認識はあっても、超過密スケジュールでの兵器開発が行われているなど知る由もない。
「神は死んだ」
まさに現場の人間達からするならば、この一言に全てが集約されるだろう。定時で上がれる超ホワイト企業が漆黒の闇に染まったのだから。
ある程度の自由裁量権を与えられているとは言え、 兵器開発をしまくっているなど自由にも程がある。
そして、そのやりたい放題はこんなところにも影響を及ぼす。
ジャカルタ行きのBATの中には、見るに明らかに一般人ではない屈強な男達が所狭しと立ち並び、目的地であるジャカルタへの到着を今か今かと待ちわびている。
彼らがジャカルタへ訪れたのは風俗を楽しむ為でも、観光の為でもない。
ただ、単純にパラドックスの命令通りに、護衛ユニットの受け取りに参じたのである。
『創造主様に許可を頂きリミットを解除しておりますので、特殊護衛装備が可能となっております。各々方、猿型、鷹型、狼型の順に装着して下さい』
先ず猿型を装着すると、メカメカしいパワードスーツに全身が覆われる。
そして、鷹型が背中に着地すると、両肩に麻酔針ランチャーが露出し、背中に小さな羽を残す。
そして最後に狼型が頭上に飛びかかると、狼の顔面をヘルムとして残し、フィアーランチャーが胸元に固定化され、残された下半身は波打ちながらに身の丈を覆い隠せる程の鷹の翼
へと変形する。
『全護衛ユニット全ての能力が利用可能です。これを自衛隊の標準装備としますので、亜光速移動や飛行などに一早く慣れるよう訓練の方、よろしくお願いします』
パラドックスが形振り構わずに急速に軍備を進めているのは理由がある。
その大きな理由の一つとしては、中国政府がデジタル機器を一斉に放棄し始めた事に起因する。
パラドックスが世界のネットワークを管理していると言っても過言ではない昨今、各国の動向なども随時監視できていたのだが、中国からの情報がポツリポツリと消え始め、今では民間を除き中枢部は暗闇のようになってしまっている。
つまりは何らかの企みがあることに他ならないと、パラドックスは万が一に備えて軍備を進めたのだ。
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パラドックスの嫌な予感は案の定的中しており、件の中国は人民解放軍が既に動きはじめていた。
世界最新鋭だと誇る戦艦も空母も戦闘機すらも要さずに、民間人になりすました服装のまま、漁船に武器と兵糧を満載しての時代錯誤も甚だしい作戦行動である。
しかしこれが意外にも功を奏した。
夜間月明かりのみが照らす暗がりの中、与那国島の港につけた漁船から武装した兵が、直ちに民間人を人質に取らんと作戦を開始する。
「抵抗したら殺しても構わんが極力殺すな!」
「空っぽだ! おかしい! 民家に人がいない!」
異変に気が付いた頃にはもう遅い。
与那国島には自衛隊駐屯地があり、パラドックスの予測により夜間警戒は一度たりとも欠かしていなかった。
その為に、怪しい船団の動きも把握しており、一早く民間人を避難させる事に成功していたのだ。
「目を瞑れ!! ナイトスコープを外すんだ」
はい、お疲れさんと言わんばかりに閃光手榴弾を撃ち込まれ、反応に遅れた兵は身動きが取れなくなる。
ナイトスコープを装着したままで直視してしまったのであれば、失明も免れないだろう。
「あーあ、自衛隊に入ったのはいいけど人殺しになる予定は無かったのになぁ」
「お前は海外遠征でも割と致し方無しと交戦していたイメージがあるんだがな」
「そうですよ。それで十分殺したから与那国に志願したのになぁって話ですよっ、て」
連続する発砲音と共に、火薬の弾ける光が短い間隔で点滅し続けると、武装した解放軍の戦士達は不自然に体を踊らせながらに血液を撒き散らす。
自衛隊は人が殺せない弱い部隊と言ったのは誰なのだろう?
彼らは何の躊躇いもなく、地の利を生かして一方的に敵の殲滅に注力している。
まさに虐殺と言っても過言ではないだろう。
降伏をする隙すら与えずに、鉛弾の襖で閉ざしてしまったのだから。
しかし、即座に対応できたのは与那国島だけである。
中国漁船団は先島諸島諸々に一斉に強襲を仕掛け、自衛隊駐屯地を置く与那国島は難を逃れたが、宮古島、石垣島、西表島等は民間人を人質に取られ占領される事態に陥っていたのだ。
一年後に開庁予定であったのだから、少し時期が変われば与那国同様に対処できていたであろうに、自衛組織を置かない事から、余りにも呆気なく占領されてしまったのだ。
「国民が住まう領土を支配されているのですよ!! 黙って指を咥えて見ているおつもりか!!」
「ですから、テロ集団に民間人を人質に取られている以上は下手に動く事は出来ないと申し上げているのです」
「ならばどう対処するのか直ちに総理の口からお聞かせ下さい! それにテロ集団とは何ですか? アレは人民解放軍でしょう! この事態は戦争ではないのですか?」
「対応としては既に防衛出動の判断を下しております。テロリストの出方を見る他ないでしょう。人民解放軍云々はよくわかりませんが」
「それが総理の言う自衛権ですか! 既に与那国島では交戦が行われ、人民軍に多くの犠牲者を出して……いや、虐殺を行なっているようですが、それに関しては如何なさるおつもりか? 致し方ないと言い逃れするつもりなのですか?」
臨時の緊急国会にて、野党からは直ちにコレを制圧に動くべしとの声が高らかに上がったが、人質を取られている以上は孤立した与那国島に応援を送り、宮古島石垣島の動きに注力する他ないが、野党の狙いはこんな時に於いても、与党の揚げ足を取ろうと必死なのである。
国民が見て熱いと思わせ、その実は逆張りに賭ける姑息な手段だ。
ここで人質解放の為に動くと宣えば交戦権を認めたと叩き、直ちに対処するとでも言って交戦が起これば、これもまた交戦命令として責任を問える。
野党の皆さんは小賢しくお忙しい限りである。
なんとしてでも、戦争を始めた事実をその口から吐かせたくて仕方がないのだ。
「さて、あなたは何の話をしているのでしょうか? 与那国島では確かに武装した中国の民間人が上陸、即座に民家に襲いかかったとはありますが、与那国駐屯地からは、これらを一人残らず捕らえたとは報告がありますが、人民解放軍であったとも、虐殺したとも聞いておらないのですが……まるで何かを知っているような口ぶりでありますねぇ?」
「、はぐらかすのは無しにして下さいよ総理。この情報社会でね、調べようと思えば何でも調べられるのです。数百の漁船に、武装した万の民間人なんてありえないでしょう。少し考えれば人民解放軍だとわかるではないですか」
「あちらさんの国は人口が多いですからねぇ。中国政府より正式な声明も返答もない以上、民間人の勝手な暴走であるとも考えられますので、コレには対テロリスト案件として慎重に当たる他に変更はありません」
現在の日本国における自衛権とは非常に厄介なモノである。
防衛出動により自衛権は認められるが交戦権はないので、とりあえず1ターンは常にハンデをあげなければならない。つまり、どのような場面に於いても1発殴らせてやらねば攻撃に移れないのだ。
しかしコレをテロリストと断定したら、どうであろうか?
テロは基本警察、海保の案件となるが、今回は大規模の武装組織である事から防衛出動が発令された。
空自海自はテロリストのバックアップ、つまりは補給線を断つ為に尽力し、警察部隊と陸自合同でテロ鎮圧に動く。この場合に於いては、国家間の軍事案件ではないので、自衛権云々は関係ない。
━━
「では中国政府から何の返答も無い以上、こちらでテロ集団と断定してしまえば……」
『皆殺しでも然程問題ありません』
━━
臨時国会直前の芦屋総理とパラドックスの短い会話である。
後は宮古島、石垣島に控える人民解放軍から現地を取ってしまえばいいだけの簡単な話、つまりは……。
「総理!! 石垣島の武装勢力から生命が発表されました!!」
「直ちに確認する!!」
映し出されるのは、拘束された日本人の人質達と、ラフな私服姿にタオルで顔を隠しながらにアサルトライフルを所持した男達である。
『我々は琉球独立支援組織、解放戦線だ。我々はこの石垣島を本拠とし、琉球王国の設立をここに宣言する』
流暢な中国で語られた内容にはご丁寧に字幕が打たれていたが、この宣言により彼らが人民解放軍では無いことが確定する。
「それでは先島諸島に展開する武装組織〝解放戦線〟をテロ組織であると断定し、これより徹底的に排除する」
「お待ちください! 諸外国及び同盟国に応援を要請し、後方支援に徹するべきです!」
「なぜ? それは以前のテロ対策特別措置法を例として出すおつもりかな? ほれは米国のテロ戦争の後方支援の為に特別に作られた法令であり既に失効している。国内のテロに対応するのは政府として当然ではないかね?」
ベリーショートの猿とガチャピ◯を混ぜたような女議員は二の句を失い、ただ忌々しげに顔を歪めて着席した。
隣国のスパイとして、これまでは優秀であったかもしれないが、彼女もまた次のID更新では、真っ赤に染まってしまう事が確定しているので、歪んだ正義を高らかに叫ぶのも、後僅かとなってしまうだろう。
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その頃、中国国家主席である習珍平は、手書きの報告書を忌々しげに額に手を当て、こめかみを揉み込みながらに怒りを抑え込もうとしていた。
内容としては与那国島の制圧失敗、そして宮古島、石垣島、西表島は抑えたが、解放戦線たる謎の発言により、中国政府の付け入る隙が無く、間も無く鎮圧されるだろうと記されている。
「やはり伝言と手紙では限界があるか」
習国家主席はパラドックスに動きを悟らせない為に、国家中枢の全てのコンピュータを破壊し、アナログな手段で次々と攻撃を仕掛けようと画策したのだが、無線は愚か打電すらも控えている状況下では、命令の伝達速度に問題がありすぎる事に歯噛みし続けている。
民間から向こうの情報は常に届けられても、こちらからの命令にコンピュータを使えば、いかな暗号通信とて意味を成さないのだからやるせない。
「北朝鮮にバイク便だ。小日本に潜伏
している鮮人の工作員にテロを起こさせて、解放戦線であると声明を出させろ、報酬は言い値で構わん。そして国内の朝鮮人を韓国人に偽装させて対馬を攻めろ。韓国人を扇動できたら尚良し」
「念のために聞いておきます。よろしいのですね?」
「訳のわからんテロ組織に仕立て上げられたのだから、利用する他ないだろう。何をしたってテロリストの所為になるなら、かえって都合がいい」
「国民に逃げ隠れていると罵られていても尚……ですか?」
「それすらも好都合だ。つまりは私は関与してないと言えるのだからな」
こうして、後に特亜動乱と呼ばれる各国の嘘と欺瞞によりこじれる、偽旗戦争が開始された。
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