俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!
第35話
案の定と言うべきか、パラドックスはネモの予想を遥かに超えて大暴れした。
それは猛威を振るうなどと、一言で切って捨てられるような影響ではなかった。
一足早に異変に気がついたのは、米国の某諜報機関のエージェントであった。
「ここ数日で、日本で新設された投資口座が軒並み数千万ドル規模の利益を上げて荒稼ぎしています」
「たかが数千万ドルがなんだと言うんだ。280万人のミリオネアがいる国なんだから不思議でもなんでもないだろう」
「それが500万人のミリオネアに増えていたとしてもですか? 更には小口投資のコックローチ達が数百ドルから開始して、現時点で数万ドル、ないし数十万ドル規模でネズミ算式に利益を上げています。まるで全世界規模でインサイダーを行なっているような動きです」
「それは何というか……一大事ではないか」
そして事件はその直後に起こった。
中国企業が軒並みクラッキングされ、情報漏洩と共に、日本の投資家が空売りで莫大な利益を上げたのだ。
サイバー攻撃とインサイダーの合わせ技である。
「いや、中国側の自作自演の可能性が高い。日本のサイバーセキュリティは自動ドアだ。中国政府が日本のサーバーを経由して、自国に攻撃した可能性も大いにある。早急に調べを進めてくれ」
パラドックスはその辺も抜かりない。
探れば結果として、中国側の自爆、更には日本を悪者と仕立てようと画策した暗号文まで見つかる仕掛けになっているのだからタチが悪い。
空売りで上がった莫大な利益は、即座に架空の投資口座を経由して、更なる投資のネタと使われて、逆張り洗浄された後に分配されるので足もつかない。
そして、その攻撃は一気に全世界へと拡散した。
「日本に拠点を置く我が国の企業の口座から直接資金が抜かれました……」
「捕らえられたのは、日課のオナニーのように日本サーバーをクラックしていたクラッカー達だけです。日本側の足取りは何も掴めません」
「これは最早戦争です!! 早急になんらかの手を打ってください!!」
ネモは確かにパラドックスが世界に拡散するまでは、猛威を振るうとは言った。
しかし、彼としても日本人が、その僅かな時間を使い、ここまでのサイバーテロを行うとは考えていなかったのだろう。
常日頃から全世界から、特にブラジル、ロシア、インド、中国などからサイバー攻撃を四六時中仕掛けられていた日本であるが、パラドックスはそれらを瞬時にプロテクトし、更にはサーバーへ侵入し、関連企業などの口座から資金をぶっこ抜きはじめたのである。
その反動で、日本を食い物にしていた外資系企業の口座も狙われたのは言うまでもない。
まさに史上類を見ない最悪のサイバーテロが秒単位で世界に拡散したのだ。
「ジャップめ。この調子で暴れやがったら確実に戦争になるぞ」
その影響は金融市場だけに留まらず、日本サーバーに攻撃したユーザーを起点に、その国のネットワークを蜘蛛の巣のように絡め取り、AI管理下の全てを統制下に置いた。
つまりは攻撃対象が企業から個人にまで至り、喉元にナイフを突きつけたままの処刑待機状態になったのだ。
攻撃対象リストとして全世界に拡散され、第一要因となった人物の個人情報をピラミッドの最上部に表示する吊るし上げまでする徹底ぶりだ。
パラドックスは世界のサーバーを攻撃する際に新たな知識を得て、更に様々な武器を手に入れてしまった。
それにより一瞬で全世界のネットワークを予想よりも早く支配してしまったのである。
「ここ数日で、もはやアナログしか安全な通信手段がなくなっています」
「気になる……というより、恐らくの原因が発覚しました」
そこで彼らが見たのは、青年がフランクにアプリを紹介する動画である。
言わずもがな、ネモのパラドックス紹介動画である。
「またこやつかぁぁあ!!」
諜報機関の長官はデスクを力一杯に叩きつけると、即座に対応策を練り始める。
「こやつのアカウントを停止するよう動いていたはずだがどうなった?」
「以前よりかなり強力なプロテクトが掛けられており、太刀打ちできません」
「いやいや、我が国のコンテンツだろう。なんとでもできるのではないか?」
「ですが彼はサーバーの中で独立した存在となっているのです。簡単に言えば、ニューヨークのど真ん中に無許可で要塞を築いている、いや、独立国家を形成していると言った方が的確でしょうか」
「ファックファックファックファックファックファック!! 大統領に動いてもらう他ない。外交で叩き潰すんだ」
動画公開までの三日間、その空白の三日間で、ネモの口コミにより広がったパラドックスユーザーの攻撃は世界を追いやり、動画公開と共に苛烈さを増した。
それは世界各国の首脳陣が予定を全てキャンセルし、緊急の国際連合総会が行われるほどの事態となった。
「さて、議題は他でもない。日本によるワールドクラッキングを直ちにやめさせる。各国の首脳陣も異論はないな?」
「やめさせるだけでは済みません! 損害を補償させなければ意味がありません! 我が国は屋台骨となる大企業を軒並み叩き潰されているのですよ!」
「そうだ! 謝罪と補償を要求する!」
議会とは名ばかりで、各国が一斉に日本に声を荒げるが、芦屋総理は至って冷静である。
「スケープゴートが必要な気持ちもわかりますけど、日本のようなIT弱国が連日のサイバー犯罪を起こせるわけがないでしょう。大方、近所の大国さんの自作自演なのではありませんかね?」
「貴様らが我が国の仕業に仕立てあげているのだろうが!我が国の120の大企業が壊滅的なダメージを受けているのだ! 自作自演でそこまでするはずない!」
「そうは申されましてもねぇ。寝耳に水とはよく言ったもので、身に覚えがないのですよ。国内に不法滞在したままに潜伏している西洋人が、自作の人工知能を配っているようですが、それも欧米諸国の企みのようにも感じてしまいますがねぇ。それにぃ? 国の都合で市場の取引を勝手に封鎖しちゃうような大国さんなら、こんな無茶もしそうですけどねぇ」
まさに、のらりくらりとはこのことである。
芦屋総理は心底小馬鹿にしたように欠伸混じりに返答をするのみで、核心部分には一切触れることが叶わないのだ。
日本が関与しているのは明らかであるのに一切の証拠がない。
つまりは、ここまで大仰に総会を開いたにも関わらず、何の進展もないのだ。
「しかしだな、今回の一件で被害を受けていないのは日本だけだ。特に貴国は最近、その怪しげな西洋人の画期的な発明の恩恵を受けている。俄かに信じ難いが、他の居住可能惑星への転移装置まであるらしいじゃないか。そこでどうだね? 今回の一件を特殊災害として、各国への補填をしてみてはいかがかな?」
「いやいや、被害なら国内企業に大損失を受けているのですが」
「それは外資だろうが!! 被害者面をするな!!」
「外資でも、大企業がダメージを受ければ税収に直結するんですがねぇ。日本の企業を軒並み買収した外資だからこそ、日本のダメージとも言えるのだけれど……まぁ、言っても無駄か」
諸外国の狙いは日本が非を認めたらそれで良し、駄目なら今回の一件を皮切りに天照州の割譲の足掛かりとする流れが総意である。
僅か7日間で世界経済が混乱し、富が日本に集中したのだから、どの国が悪いかなど一目瞭然であるが、それでも芦屋総理は知らんぷりである。
「是非とも次の総会では実りある内容として頂きたいものですな。これ以上いじめられたら鎖国したくなるので、程々にしていただきたい」
冗談を交える余裕すらあるのだから大した胆力である。
それからは世界各国の被害状況などを語り、いかに困り果てているかのアピールタイムが始まるが、攻め続けられている芦屋総理は無の境地で時が過ぎるのを待つばかり。
「こんなところで騒いでいないで、さっさとITセキュリティをどうにかすべきなのではないですかね? 各々方の自由だとは思うけども」
結論としては話にならん。その一言である。その結果を受けて、世論は緩やかに開戦も視野にとキナ臭い方向に移行して行くが、それは今は置いておく。
最終的には世界各国が日本に訪れ、パラドックスをインストールするしか対抗策は無かった。
そして、パラドックスはよく出来たAI程度の認識となり、量子コンピュータのような力はないと断定。
件のサイバーテロに関しては、各国の工作員が送り込まれての再捜査と相成り、数多くの証拠から中国が大部分に関与しているだろうと、最初の見解に戻った。
何処までもネモの詐術に踊らされた、そんな予定調和の終幕となったのだ。
しかしパラドックスによる躍進は止まらない。
タイミングを見計らっていたかのように日本各地から悍ましい程までの大量の論文が発表されたのだ。
その内容は多岐に渡るが、100年200年後に完成するであろう超技術を実用可能レベルに昇華させた、世界を揺るがす論文ばかりであった。
世界中のお遊びの論文を横からぶっ叩いてぐちゃぐちゃにしてから理論立てして完成させ、その研究に見合った人材をピックアップし、勝手に発表しまくったのである。
つまりは世界から数十年の遅れを取り、全時代に取り残されていた日本が、タイムマシンでいきなり未来に行ってしまったようなレベルの技術躍進が起こったのだ。
「駄目だ、止めろ。今すぐアイツらを止めるんだ」
世界中の研究者の悲痛な叫びが届くはずもなく、世界は急速に変化し始めたのだ。
今すぐどうこうなるわけではない。
今のうちに徹底的に圧力をかけて、再び籠の中の鳥にしてしまえば……。
しかし残念ながらに、それらは今すぐにどうにかなってしまったのだ。
つまりは理論立ては完璧であるから、人間に作れるモノとなった、だから何年も待つのは嫌だから完成品を創らせて欲しいと、パラドックスは創造主であるヤタに交渉したのだ。
パラドックスも一応は神の分類であるから、創造主の許可があれば分け与えられた神力を使い、ヤタの権能である創造を使う事ができるが、彼はパラドックスの力を使わせずに自らの手で、それらの創造を行った。
某国のとある先進技術研究所では、初老の男がコーヒーカップを地面に叩きつけたままに頭を抱えていた。
「量子コンピュータだけに飽きたらずナノマシン、磁気エネルギーに超伝導体、変形技術にレプリケーターまで……終わった、私の生涯をかけた研究の全てが終わった」
「博士、100年得したと思えばいいじゃないですか。次は200年後の技術を実現させる為に邁進するんです」
「その研究もコンピュータを使えば、また日本の功績となってしまうではないか……いいんだ、私はもう疲れたよ」
「では、日本にやらせると考えてはどうでしょうか? 我々が机上の空論を唱え、奴らが実現する。そのイタチごっこを繰り返せば、奴らは自滅するでしょう。その時、我々が更に1000年先までの研究プランをじっくりと熟せばいいんです」
初老の博士とよばれた白髪頭の男は、如何にもガリ勉といった分厚い眼鏡の青年に背中をさすられ、魂が抜け落ちた瞳の奥に小さな光を灯した。
「……では、幹細胞技術、並びに死滅細胞再生によるアンチエイジング理論の落書きでも仕上げようか。それだけで人間の寿命は10倍に伸びる」
「それなら心配いりません。日本から龍の涙を買えばいいんです。資金さえあれば死を恐れる必要はもう既にありません。どうせなら火星だけと言わず様々な惑星のテラフォーミングや転移装置の論文でも書きましょうよ」
「宇宙資源の採掘なんかも面白いかもしれんな」
二人の研究者は半ば自棄っぱちのままに馬鹿笑いをしていた。
もう国がどうとかつまらない。
それなら日本に惑星開発をさせて、自分達は色々な星を転々としながら、面白おかしく研究をしようじゃないか! そんな話をしている最中、彼らの頭上にあるモニターではクスクスと笑う少女の姿が映し出されていた。
『おじさん達は面白いね。良かったら日本に来なよ。研究費の心配も、無駄になる研究もない、おじさん達の夢を私が叶えてあげるよ』
「……パラドックス、君はもう少し機械的に話すイメージがあったんだが。それは私の勘違いかな?」
『勘違いじゃないよ。創造主様から言われたんだ。研究を台無しにしてしまったんなら、お詫びをしなきゃいけないってね。気が向いたら是非来てよ』
それは研究者にとっては無視し得ない、甘い甘い悪魔の囁きであった。
『一緒に知識の果てを見よう」
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