俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!

慈桜

第31話



 赤鳥居の出現の影響で、公道としての役割を果たさなくなった久屋大通は、例によって機動隊と自衛隊がバリケードを築いているが、その周囲は日を増すごとに様変わりしている。

 赤鳥居の両サイドに広がる大通り公園には祭りの出店が立ち並び、道路にすら連日人がごった返しになっている。
 その中でも、特に人の注目を集めているのは、金髪の細身の少年と、彼を撮影する金髪坊主のおデブちゃんである。

「さーさー! 我らが神様ネモ様のお友達であられるアマテラス様の創造なされた世界を一目見てみたいかた!  エアタクシーの予約が取れなかったからと諦めてはいませんか?! なんともったいない! 世間様には空賊なんぞと呼ばれておりますが、我々は向こうの世界を熟知しており、更には空の旅も誰より慣れています!! 一日ご案内でまだ知られていないレアスポットの紹介まで入れて、なんと15万円、たったの15万円で未知を知れるぅぅ!!」

 実にわかりやすい。
 持つものが持たざるもの願いを叶える代わりに正当な対価を要求する。
 それが些かボッタクリでも需要と供給のバランスが取れていれば商売は成立する。

 ネモに飛行バイクを貰ってから、何かと話題に上がるナナオと玉ちゃんは、エアタクシー事業を仲間内で真似て、白タク行為をしながらに荒稼ぎをしているのだ。

「すたーばーすとすとりーむ!!」

「痛い痛い! やめろってホタル! しかも技名がダサい!!」

 外国人観光客相手に商売が順調で笑いが止まらないナナオの足をおもちゃの剣でビシバシと叩く幼女の姿がある。
 黒く腰までの長く柔らかく細い髪を揺らす小学校低学年であろう幼女は、何を隠そうナナオの妹である。

 彼女の通う小学校は都心から離れているのだが、学校が終わるとバスに乗り込み兄の元に訪れる凄まじい行動力がある。
 危険極まりない行動ではあるが、鍵っ子のホタルは誰もいない家に帰って母親の帰りを待つよりも、大好きな兄や玉ちゃんと遊べる方がいいので、勉強よりも頑張って名古屋の街への行き方や道を覚えたのである。

 今では彼女も仲間内では有名になってしまい、空賊の者達が送り迎えをしていたりするのだが、それは彼女の名誉の為にも伏せておこう。

「3人家族だわ。玉ちゃん指名だって」

「はぁ。わかったわかった」

 そもそも彼らが空賊と呼ばれ始めたのは、とある出来事がキッカケとされている。
 それが赤鳥居が出来た直後の合同バーベキューである。

 果てなく自由に飛べる空の中、一団は入り組んだ渓谷を発見し、どこの誰かが言ったひょんな一言から事態は急変する。

『ここでレースして一番になった奴がリーダーってのはどうよ?』

 お遊びサークルが組織に変わる瞬間とは、案外単純なものである。

 誰かがリーダーを求めたのは何故か。
 答えは簡単で、この仲良しグループが無くなってしまうことを皆が恐れたのだ。
 丁度ネモの動画では海外の王族が飛行バイクを80億の大金で購入した回が投下されており、一定数の飛行バイクユーザーが販売を視野に動き始めていた時期である。

 大金が欲しい、手放したくない、もう二度と手に入らないかも、でも80億あれば……なまじっか自由意志が認められてしまう環境下、皆の心の奥底には、導いてくれる者、引き止めてくれる存在を求めていたのだ。

 その後、ブッチギリで勝利を収めたナナオがリーダーとなり組織が完成したのだ。

『まず、俺たちの行動理念をはっきりさせておくよぉん。ひとぉつ! ネモ様は神! これ絶対な! そしてふたぁつ! 陰ながらにネモ様の手伝いが出来そうなら率先してやること! そしてみっつ!これ一番大事な! このバイクや車を絶対の相棒として手放さないこと! そして、共に空を駆る仲間をめちゃくちゃ大切にすること! 以上!!」

 実に少年らしく、自身が主役と信じて疑わない発言であるが、不思議と彼の言葉には力があった。
 そして、その宣言を境に、彼らの在り方が変わり始めた。

 それがバイク狩り、車狩りである。

 SNSなどで情報を事細かに精査し、バイクや車を手放そうとしている奴らを襲い、その車両を没収し始めたのである。

 単純に愛知県に存在する飛行車48台のうち、33台が彼らの管轄下にあると言えば、その凄まじさがわかるだろうか? 彼らは直接的ではなく、数の暴力で車輌を悉く没収し、新たに仲間へ与えることで、更に結束を固めたのである。

『おー、お前ら頑張ってるな。ちょっとだけ改造してやろうか?』

 そして遂にはその活動をネモ自身が応援してしまったのだから激化したのは言うまでもない。
 いつしか彼らはネモ公認の強奪行為を行う賊として認知されて、現在では空賊と呼ばれるまでになった。

 実際はそれをしても余りあるほどに四六時中ネモの雑用に動き回っているのだが、彼らの行動理念であるから伏せておこう。

 以上の出来事から、ネットなどでは飛行ユニットを所持している者の総称が空賊となっていった経緯があるのだ。

「これで今日も売り上げ500万到達だな。けど、こんなに売り上げて純利が200しかないのがキツイぞぉい」

「このまま行けば今月6千万は残るじゃん。どうせ学校への寄付金でしょ? 気持ちがこもってればいくらでもいいんじゃないの」

「いんや、もし俺が不慮の事故で死んじゃって、ホタルがこの学校の生徒になったって考えたら、俺たちの寄付でおかずが一品増えるだけでも全然違う! やっぱ少しでも美味しいご飯を食べてもらいたいっしょ?  じゃあお兄マン頑張る! てなわけよ」

 ピンク色に塗ったバイクに跨っている女の子はあちゃーと頭を抑えており、よくわかっていないホタルもあちゃーと真似をしている。

「にいちゃん! がんばれっ!」

「うんうん、頑張るよ。最低でもコイツをくれた恩返しはしないとね」

 ナナオは優しく笑って相棒の飛行バイクをポンっと叩く。
 ヤンキー的な雰囲気の癖に、めちゃくちゃ律儀な奴である。
 誰もが神のきまぐれを享受し、それが然も当たり前かのように振舞っているが、彼は常に感謝を忘れない。

 親友が働いている深夜のコンビニで、
 こっそりと拝借したアイスを食べていた彼は虚ろう毎日に辟易としていたのはつい先日なのだ。

『とりあえず風になってこい』

 つまらないただ生きている日々は空から降ってきた男によってぶち壊された。まさしく神の降臨。その突然の一言から、全てが変わった。

 彼の心の声を借りるならば、無色無音の日々が突如として鮮明に色付いて、パンクロックが鳴り止まないジェットコースターのような毎日に変わった、と言ったところか。

 幼き頃、父親がよくギターで弾いていた一昔前の最高にカッコいいパンクロック、それは今も彼の頭の中で鳴り響いていることだろう。

 全てが順風満帆、仲間は仕事やバイトを辞めても、今の方が稼ぎはいいし、何より安全な隠れ家すら提供されているので、飛行ユニットにイタズラをされる心配もない。
 教員のアルバイトをさせられるのは面倒極まりないが、それもネモの為だと思えば誤差の範囲内である。

「ナナオ大変だ! 玉ちゃんが! 玉ちゃんが中国人に刺された!!」

 しかし、アクシデントとは総じて突然に巻き起こる物である。

「お兄ちゃん……」

 ホタルは一瞬で只事ではない空気を読みとり、ナナオのジーンズを握りしめ心配そうに兄を見上げるが、彼は奥歯を噛み締めながらにも冷静に状況を整理し始める。

「玉ちゃんは?」

「雪美達が医務室に連れ込んだ、妖精達はかなり危ないけど必ず助けるって言ってくれてる」

「その中国人は?」

「玉ちゃんの車を奪って逃げてる。だけど、流星が追いかけてっちまったんだ」

「おいー、流星はまだ中学生だぞ」

 世界で初めて飛行バイクをネモから貰い、即座に逮捕没収されてしまった岡本流星こと通称鼻くそは、ナナオ達と出会い、再び空の世界に舞い戻っていた。

 仲間にして欲しいとの直談判に、ナナオは中学生には過ぎた代物だと一蹴するが、ネモに空の虜にされた被害者として、特別に飛行バイクを与えていたのだ。

 任務は観光案内の護衛、護衛とは言っても、何か問題があった場合に早急に対応する為に、車一台につきアシスタントとしてバイクが一台随伴する形であり、それは客が怪我をしたり、運転手が体調不良になった場合のサブであり、本来の護衛とは大きく異なる立ち回りである。

 そのはずが運転手が客に刺され、車輌を奪われ、更には武器を持っているだろう相手を、中学生の流星が一人で相手にしている。

 予想以上の最悪の事態にナナオは思わず舌打ちをしてしまう。

「なんで流星の補助に入らなかったんだ」

「すまん。流星が玉ちゃんのところに早くと言い残したので、何かあったのかと玉ちゃん達がいた場所に向かったら血だらけで倒れてて……それで」

「大体わかった。うん、どう考えても流星を助けに行くべきだな。八木ちゃん、全員に警戒態勢とらせて赤鳥居の出口固めて! お前らは一緒にきてくれ」

「ナナオ、一応は中国人達は北に向かって逃げたのはわかってる。参考になるかどうかわからないけど、流星を頼む」

「ふぅ……オケよーん。ホタルの事頼んだよ」

 ナナオと共に10台の飛行バイクが機械音を響かせながら飛び立つと、目にも止まらぬ速さで赤鳥居の中へと消えて行った。

 まるで戦場にでも向かうかのように意気揚々と出陣したのはいいが、事態は呆気なく収束する。

 飛行ユニットを自国へ持ち帰らんとした旅行客を装った工作員は、程なくして赤鳥居から名古屋の街に飛び出し、ナナオの指示通りに門の周囲を固めていた空賊にいとも容易く組み伏せられてしまったのだ。

 接触状態からの反重力コアの発動により、連結フィールドを創り出し、強制的に落とす方法であえなく御用。
 何台もが囲んでしまえば、反重力コアの数が圧倒的に多くなるので、一台の車では何もできずに制御を失う。

 全てが丸く収まったと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。

 下手人は引き渡しからの強制帰国となったが、中国政府は事の顛末を聞き受けた後に、国民を一方的に罪人扱いする謂れは無く、厳戒態勢で調査中のはずの異界に民間人が自由に行き来できている状況に対して、諸外国を欺き、日本国が異界を独占している事に他ならないと非難した。

 日本政府もこれに反論したが、一体何がどうなってそうなったのか皆目検討もつかないが、韓国政府より赤鳥居の向こう側の異界は、我が国の起源である事が発覚したので直ちに引き渡すこととの声明があげられた。

 韓国に関しては即座に無視をする方向で固まったが、中国政府は平和裏に解決する為に一度日中会談を開きたいとの申し出をしてきたので、日本政府はこれを了承。

 予備期間を設けずに異例中の異例として即座に会談準備へと移行した。

「手荒な切っ掛け作りをして申し訳なかった」

 会談で先に握手を求めたのはピッチリ横分け鼻デカ兄さんの中国国家主席である習珍平である。

「普通に交渉してくれればいいものを」

 その手を呆れながらに握り返すは日本国総理大臣、芦屋万次郎だ。

 ポーズとしての握手を終え、略式的な世界平和に向けての国交の在り方などの言葉を交わすと、残されるは本題である。

「貿易戦争の一件で不用意に近づくわけにはいかなかったのだよ。日本に非がある状況下を作り出さねば、ね」

「此方に非があるとは思っておりませんが、いいでしょう。先ずは要件を聞かせて貰いましょうか」

「では、彼の地に大使館の設置を急いで頂きたい」

「なるほど。しかし困りましたね、確かに我が国は彼方の地に関して、無主地先占による領有化を行なってはおりますが、疫病や危険生物の有無を現在も調査中です。空賊による無断進行こそあれ、並行して厳戒態勢を敷いており、その通達は諸外国にも行っている。おや? 付け入る隙がない、何故貴国はそんなにも強気なのかな?」

 半笑いで少し馬鹿にしたように言葉を返すと、習主席は冷たい目線のままに小さく溜息を吐き出す。

「そのような建前は必要ない。米国に利益を独占させぬ為にも、引いては同じ亜細亜の国としても、日本の身に余る案件に助け舟を出してやっていると何故わからない? 米国など同盟国とは名ばかり、先の大戦の戦勝国なだけで、いざ我々と戦争になれば即座に梯子を外すぞ? 日本人も黄色人種、どれだけ猿真似をしようとも白人にはなれないと何度言えば理解するんだ?」

「別に我々は白人になりたいわけではございませんよ。ただ、赤化するぐらいなら少し特亜とは距離を置きたい。ビジネスライクな付き合いに留めたいと言えばわかりやすいでしょうか? 双方に利益があるwin-winであれば構いませんが、貴国はどうにも勝ち抜こうとしすぎるからいけませんな」

「負けを享受し続けた結果が、世界の奴隷工場であったのだから、強者となった今、強者らしい振る舞いをするのは当然だと思うがね?」

「その強国となった現在も途上国の蜜を吸おうと画策している国の主席とはとても思えない発言でございますね」

 意外とバチバチの殴り合いである。
 それもそのはずで、今の日本にはそれだけ強気に出れる程の材料が揃い切っているのだ。
 頭痛の種となっている尖閣、竹島、北方領土など耳垢程度にしか感じない広大で豊かな土地、それどころか惑星一つを丸々自国へと編入し、更には見た目は外国人だが、やたらと日本を好んでいる正しく神と言える男が、次から次へと利益を齎してくれている。

 強気にこそ出れても、弱気の外交などする理由もないのだ。

「さぁ、どうされますか。武力行使や違法船団の送り込みなどで脅しますか? 国家ぐるみで反日活動を行なってのガス抜きなんかもありましたなぁ」

「何故……何故未だ強気に出れる? 技術も経済も国力も何もかもが我が国が上となった。確かにこうなったのも日本の存在が大きいかもしれん、恥ずかしながらにも近代化へ助力したと言われれば否定はしない。それに反して日本は既に風前の灯、好景気と言っておきながらに広がる一方的な格差社会、少子高齢化に付け加えた大規模な人口減少、主要産業は周辺諸国に根こそぎ奪われ、今や残るのは先進国の肩書きとくだらないプライドだけだろう? 愛国ポルノに浸って現実逃避するのは構わないが、そろそろ脚元を見直してはどうかね?」

「あちゃー、これは痛いところを突かれましたな。ですがそれは数ヶ月前のお話です。無限の電力、超技術、無病息災に不老、更には新惑星。日出ずる小日本は日統べる大日本となった。それが全てです」

「この場で不用意な発言をするのは感心しない。捉え方によっては軍国主義に戻すと言っているようにも聞こえる。そうなってしまえば我々は大国の責務として隣人を捻り潰さねばならなくなることを努努忘れないでいただきたい」

 中国側は散々にカマシをいれたが、日本側は素知らぬ顔で受け流し、結論としては双方に非があり、今後は空賊の取り締まりなどを強化し、中国人観光客を向こう側へ連れて行かぬようにとの約束のみで話は固まった。

 イコール、空賊は白タク業務を行う際に、武器を隠し持っていないかのボディチェックをする項目が増えただけとの結末に落ち着いた。

「へぇ……お前刺されたのに肉減ってないじゃん」

「てめぇ……見舞いに来た癖に上等な口切りやがるじゃねぇか。アイスのお土産無かったら殺してるとこだぞ」

「よろしいクソデブ。今すぐ消してやる」

 全回復してアイスを食べながらに、いつも通りに白タク業務をする玉ちゃんもネモの姿が見れたのは、事件の翌日のことであった。

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