俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!

慈桜

第28.8話



 子供達との約束の決済をして、バスに詰め込んで行くとあっという間ににいっぱいになってしまい、あぶれた子達はルーフの上に乗ってしまっている。

 そんな様子を見ていた大人達は、いよいよ俺が人攫いだと勘繰り始めたようで、次から次へと人が集まり、中には物騒な武器をチラつかせている輩もいる。

 流石狭い領土に1億7千万の人口を擁し、若い世代が多い事から、アジア一の経済成長が見込めると呼び声が高いフィリピンである。
 大統領が覚醒剤撲滅でポン中ってコトにしときゃ人殺しオールマイティってノリのキチガイだから、皆さま殺す気満々で来ておりますので、バスごと転移しちゃいます。

 靴磨きの少年は戻ってきてないけど、もしや彼が大人達に俺を襲わせて、大金をせしめてしまおうと画策したのかな? それだったら悲しいけど、それもまたビジネス、いや金儲けのやり方の形かもしれないな。

 転移した先では自衛官がいつも通りにズビシッと敬礼してくるので、俺もズビシッと返すと、何故か子供達もズビシッと敬礼する、謎の一体感が生まれた瞬間だ。

「悪いけど、ナナオ達に連絡して、この子達の住居の振り分けを頼んでおいてくれないか? 」

「了解しました」

「バスは後で取りにくるから、ここに置いといてくれ」

 別にいらないんだけどね。あった方が雰囲気でるじゃん? あ、人攫いのバスだ! って感じで。
 そのうち世界中で有名になったりして。鈍色の空飛ぶバスにご注意を、その男人攫いにつき……みたいな。

 さて、靴磨きの少年は悪者じゃなかったと仮定して、俺を襲おうとしていた男達の対処をしよう。
 素手で殴ってしまうと木っ端微塵に消滅してしまいそうなので、ピコピコハンマーを用意して不殺を付与する。

 エルフ達が使ってる不殺の弓矢と同じだね、その弓の攻撃に起因するダメージは全て死に直結しない、謎の属性だ。

「つまり」

「いたぞぉンゲラっ!!」

 掬い上げるように打ち上げて吹き飛んで行ったとしても、人様の家の屋根に頭から突き刺さっても、瀕死にはなりえど、死にはしない。

 つまり、やりたい放題である。

「うわぁぁああ!! バケモンだ!!」

「やかまこい!」

 俺も正直こんな事したくない。
 だけど純然たる殺意と悪意に晒されて、何もせずに温順しくしているなんてできません。

「ひぃぃ!! やめてぇ!!」

「オラっ! こいよ! お前らの唯一の神様に救いを求めてご覧なさいよぉ!」

 ほら、◯◯無双ってあるでしょ? アレだよね。ピコピコハンマー持って、ガッチガチにバフがけして、ぐるぐるーって回ったら『それ一時期JKとかで流行ったやつやん!』 って飛び方する。

 地面ぶっ叩いてリアルにやってもいいけど、挽肉になりそうだから控えるよ。

「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」

 人が倒れて行くにつれて、銃を使う奴なんかにも活躍の場がやってくるけど、活躍はさせません。

「常に俺のターン」

「私のターンはいつ」

 ふんっ!! エアケイだよね、脳天から叩き込んでからのバックハンドでドーン。
 二回しばいて、にしばき君。違うな、二回シコって……やめておこう。

 現場は死屍累々のオッさん達の亡骸(死んでないけど)で埋め尽くされたので、俺のヘイトバーはオールクリア、目の前ではガクブルの土管オカンがいます。

「どうして置いて行ったのですか」

「ごめんよ。でも、ほら戻ってきたじゃん」

 土管の奥で子供達を抱き寄せて土管オカンがプルプル震えている。
 少し悪いことをしてしまったと反省。

「銃を持ってる人が沢山……怖かった」

「大丈夫大丈夫。けど、まってて、人探さなきゃだから」

「あ、伝言を頼まれてるの。ゲニって名前の靴磨きの少年から」

「あ、探してるのそいつ。なんだって?」

「ハッピーランドに行くから、戻りは遅くなるけど、確実に行くから待ってて欲しいって」

 どうやら俺の下衆の勘繰りは外れて、靴磨きの少年は本気で子供を集めに行ったようだ。
 ハッピーランドってのはトンド地区と呼ばれるマニラ最大のスラムだ。
 俺が見る数少ないテレビ番組の一つ、深夜のクレイジーな番組で度々紹介されるゴミ山のスラムがそこだ。
 ここが済んだら立ち寄ってみようかと思っていたが、靴磨きの少年が先回りしてくれるとは。

「フィリピンの大人は警察ですら全員詐欺師とタカリなのに、子供がこんなにしっかりとしてるとはな」

「大人もちゃんとしている人はいるわ」

 そう言いながらお前も身を守る為に、流れるように嘘ついてたけどな!

 しかし、このまま数キロも離れた郊外に出た靴磨きの少年を待つのも退屈だな。
 瀕死のオッさん達を道の端に寄せて並べておこうか。元日本人として整理整頓は美徳とする他あるまい。

「なにをしてるの、それ」

「念動力でテキパキ並べていくだけの簡単なお仕事です」

 正確には念動力ではなく対象を紐付けして設定した場所に移動させるオートメーションを一瞬で組んだだけなんだけど、細かく説明するのもめんどうだから念動力って事にしておきます。
 念動力だと置く時に神経集中しなきゃだし、下手したら置いた勢いで死んじゃう奴もいるかもしれないしな。

 散々暴れておいてアレだけど、極力殺しはしたくないのだよ。

 靴磨きの少年と春を売っていた少女と合流できたらインドネシアにでも行こうかな。
 フィリピンの南はセブ島ぐらいまではギリギリ安全かもしれないけど、それより南下するとイスラムテロ集団が国を築いていて、拉致やテロが絶え間なく起こってるようだし、攻撃されたらメテオストライクしちゃいそうだから避けるべきだろう。

 このままフィリピン編を頑張ってたら、完全にフィリピン学校になっちゃいそうだしね。マジで子供大国だわ。
 約束のネバーランドはここか。

 一通りオッさん連中を並べ終わると、満を持してポリスメンが到着しました。皆さんナイス武装で御座います。

「ヘイユー! ドンムーブ!!」

「マミったろかコリャああ!!」

 第二次ピコピコハンマー戦争の開始に御座候。銃弾を乱れ撃たれましては、なんの意味もなくに地面に散る鉛玉を見て、恐怖からかオートマティックの連打が止まらないが、そんなの小島さん。

 次は掃除の大変さも考えて、遠目に見えるビルに突き刺さるようにフルスイングで打ち抜きます。

 ピコピコハンマーがペキョっと小さな音を鳴らし、俺の前身の筋肉が唸りを上げると同時に、神気で筋骨隆々な巨人を創り出し、我が身に宿す。
 パワーは数千数万と瞬発的に爆上げされ、チュインっと甲高い音と共に、一足遅れたソニックブームを残しながらに吹き飛んでいく。

「たーまやー!」

 コースはいい感じだ。
 これは人間バッティングセンター、フィリピンポリスメンがビルの窓を突き破ってオフィスに入ればホームラン。
 実にシンプル、それでいて中々難しい。

「クソっ! 右に逸れたか!」

 それからしばらくはリアル人間砲台だ。最後は警察が本気で走って逃げ回る事態に陥ったけど、次から次へと応援が来るから球数には問題なし。

「バッティングセンターなら結構お金かかるけど、フィリピンならタダですむねぇ」

「く、くるな。やめ、ひっ! 」

「よっしゃ、いいコース! クソっ!! 空中でもがいたら空気抵抗で逸れるんだっつの」

 当たりそうで当たらないのは手足が悪い。権能が悪戯じゃなかった頃なら平気で手足捥いじゃうけど、今はそんな時代じゃないんだよねぇ。

「弾切れか、お? きた。キターー! まさかの戦車! お前ら逃げろぉ!!」

 三時間ぐらい一心不乱にバッティングに磨きをかけてたら、何を思ったのか軍隊来ちゃいました。
 それでもなお、ピコピコハンマーで立ち向かう俺、プライスレス。
 これは中々いい動画のネタになるのではないでしょうか。
 頭のカメラでしか撮れてないのが悲しいけどね。

【視覚転移】で速攻切迫、まず一人を打ち上げると同時に戦車の蓋を蹴り潰す。

「あは、チャオ」

 襟首掴んで速攻ゴッチャ!引っこ抜いてから、そのままカキーン!!

「お、ライナー性!! あいつ足クロスして腕畳んでやがる!! 優秀! 極めて優!!」

 グワッシャーンと破砕音と共に、ようやっとビルの窓を突き破る事に成功。
 彼はきっとアメコミのスーパーヒーロの戦闘を肌身に感じたはずだ。

「おっ、打撃スキル来てる。どっちかっつーとスペルキャスターなのに脳筋スキルとか熱い!」

「貴様ぁぁあ!!」

 今更マシンガン乱射されてもねぇ。
 ちょっとコツを覚えたのでサクサク行くよ。一度強引に座らせて、襟首を掴んでヒョイっと投げる、そのまま腰の回転を生かして右足を踏み込んでから、背中の強打のインパクトからスライドさせて腰で振り抜く。

 チュインに付け加えボンっと鈍い音が混ざりボチュンっと謎の音のままにライナー性の軌道、いける!!

「あかーん!! 暴れんなボケェ!」

 やっぱ手をバタバタさせたりするとスライスするんだよな。修行が足りん。
 神気の量を増やして筋肉量を魔人クラスにしてみるか? でも不殺の壁越えて死んじゃったら嫌だしな。

 球はまだまだある。
 俺は努力家である事を示さねばなるまい。

「おらぁ、豆鉄砲撃ってないでいいから並べぇ」

 なんて良心的なバッティングセンターであろうか。
 こんなにも打たせてくれているのに、まだまだ追加の球を寄越してくれるとは……フィリピンの優しさ舐めてたな。

「ね、ねぇ、お兄ちゃん」

「おお、いつぞやのラッキーガール」

「うん、あのね、兵隊さん達も怖がってるから、もうやめてあげよ?」

「そうか、時間制限タイプの打ちっぱなしだったわけか」

 兵隊達が遠い目をして、発射台に並び始めてから、しばし時は流れ、空も万色を隠す青藍に染まり上がっている。
 そろそろ閉店の頃合いというわけか。

「ラッキーガールは友達を集められたかい?」

「うん、大人達が日本はお金持ちの国だから、それが本当ならみんな連れて行ってあげなさいって、手伝ってくれたんだ!」

 彼女が指差す先は、再び100名を優に越える集団があった。
 この子の稼ぎは一体幾らになるのだろうか。

「行っていい?」

「どうぞ行ってください」

 兵隊さんもハウスキーパーのように礼儀正しく見送ってくれたので、子供達の集計に入ると、なんと126人。
 先ほどの143人に切迫する人数だ。

 このままだとガチでピーナ学校になりそうな気がして来たので他の国でも頑張ろうと密かに誓う。

「125人だから、一人50十500の5000の500500の6千、んで25の6250ペソだな、ほれ」

「うん。じゃあ、そのお金は、こっちに残る兄弟達に渡すね、渡していい?」

「いいけど、大金持って歩いたら危ないだ」

「大丈夫、みんな見送りにきてくれてるから」

 どうやらすっかり背景と化した野次馬だったが、今回の野次馬はこの子達の親とか兄弟達だったようである。

「お金持ちになったら、みんなを助けに帰ってくるからね! それまで元気でいてね!」

 ラッキーガールちゃんが若い男にお金を渡している姿を見て、中々に胸にくるものがあったので、1000ペソ100枚の帯付きの束を渡す。
 10万ペソでも27万円である。
 彼らにとっては大金でも、俺にとってはほんの僅かな金銭だ。

「大切に育てます。これはほんの気持ちなんで、みんなで何かの役に立たせてください」

「ありがとうございます、ありがとうございます」

 涙ってずるいよな。それが嬉しい涙でも悲しい涙でも、こちらも泣きたくなってしまうんだから。

「ふぅ……感動のお別れをジャマしてごめん。時間がかかったけど、連れてきたよ」

 そして真打ちは遅れてやってくるとはこの事か……靴磨きの少年が、ザッと見ただけでも500名以上の子供を連れてきやがった。

「嘘はつかない。全部で623人連れてきた。中には世話が必要な赤ちゃんが46人もいるから、それは報酬を削ってもいい」

「いや、出すよ。俺も約束は守りたいしな」

 31150ペソ、日本円で大体6万5千円くらいを少年に渡すと、彼も靴磨きの道具箱の底に溜めた金銭と共に、見送りに来た女性にそのまま渡した。

「全部で10万に届かないぐらいある。俺はあなたが嫌いだけれど、あなたに賢く産んでもらえて感謝してる。スラムのみんなで、これを元手にビジネスをしてみて。俺は大人になったら一度ここに帰ってくる。その時、今と変わらない生活なら、縁を切る。でも、何かを変えることができたら、俺はこの何倍ものお金をまたスラムに投資する。だから、どうか、どうか……元気で」

「バカねゲニ。泣いたらカッコつけたのが台無しじゃない」

 親子のハグを見たら、何故か俺も普通に泣けてきた。
 別に理解があるなら連れて行ってもいいのに。
 でも、そうなると見送りきているここの大人を全員連れて行くことになるのは気まずい。

 ポケットの中には、残り19万ペソぐらい。大方40万円ちょいぐらいか。
 ちょっと暴れすぎたから、フィリピンには暫く来ないだろうし、ゲニのお母さんに渡してしまおう。

「こう言ってはなんですが、きっと彼は名の通り天才です。ジーニアスの意味で付けたのではないとしても、そう思わせる程には、ね」

「こ、こんなに」

 ポケットの中のお金を全てゲニの母親に渡すと、驚きながらに返そうとしてくるが、手を重ねて握りしめるように促す。

「皆も聞いていたでしょう。ゲニが隠しながらに稼いでいたお金と、併せて10万、そして私から20万、で約30万ペソぐらいになります。ゲニが願うように、皆でこのお金を元手にビジネスをやってみてください。しかし治安の悪いこのフィリピンで、そんな大金があると知られれば彼女の身に危険が及ぶ可能性もあります。ですから」

 サクッとリストを開いてフォーマットを表示、コピーペーストで新規ページにゲニの母親の守護を設定し召喚陣を開く。

 顕現するは黄金と白銀の全身鎧に身を包み、2mはあろうか身の丈と同等の紅く禍々しい大剣を背負う派手なヤツ。

「ヤタ!貴様……」

 召喚したのはファーディナンド、そう往年の名ディフェンダーってなんでやねん。
 聖騎士ファーディナンド、俺がぶっ殺して〝創造〟の権能を奪ってやった女神に仕えた四聖人の一人で、めちゃくちゃ強かったからオリジナルは俺のコレクションにして、それを媒体にして思考共有を持つホムンクルスに仕立てたんだよね。

 本物の強さには遠く及ばないけど、普通のホムンクルスの限界は楽勝で越えてるし、ゴミ溜まりのスラムで守護騎士とか御誂え向きな嫌がらせでしょ?
 それにこいつの性格なら、直ぐにみんなを安心させられるしな。

 白銀の牛の角が生えたヘルムを外して出てくるのは燃え盛るような赤い髪ともみあげ顎まで繋がる同色の髭を短く切り揃え、鋭い眼光の中に金色の虹彩が宿る、いかにも最強の騎士団長といった聖人が出てくる。

「じゃあお前はこのゴミ溜めで、そこの奥さんを守護する騎士になるんだよ」

「貴様どこまで我を侮辱すれば気が済むのだ……」

「あっそ、じゃあ、守んなくていいよ」

 普通にファイアーボールを100個浮かべます。もう本当に普通の火の玉ね。
 これを何の耐性も無い普通の人にぶつけたら、一気に燃え広がって一瞬で消し炭になります。

 でも、ファーディナンドがいれば大丈夫。
 背中の剣を抜くまでも無く、全方向から襲いくる火の玉を腕の一振りだけで掻き消しちゃいます。

「ぶふっ、そうだよねぇ、お前はいつもそう。セリカの世界でもホムラの世界でも俺の世界でも、書かれた設定のままに亜人の国を!魔族の子供を!そして売春宿を守る聖騎士さんだぁ! あはは!」

「きぃぃさぁぁまぁぁあ!!」

 ほぼオリジナルと同等に再現してるのに、同じ強さにならないんだよなぁ。
 本来ならコイツが剣を抜いて一振りしたなら、山脈が焼け溶ける程の炎が、触れた万物をノータイムで灰燼に帰するんだけど、今抜かれても親指と人差し指でバッチリキャッチングーできちゃうよね。

「じゃあ、後は頑張りたまえ。ディフェンダーのファーディナンド君」

 まぁ、ここまでの余興を見せておけば、ゲニのママからお金を奪おうなんて考えないだろ。
 フィリピンで30万ペソって、下手したら生き死にの話になるかもしんないからね、一応の予防線ってことで。

「魔物を置いて怖がられるよりはいいよね」

 さぁ、さっさと子供達を連れていって、通販で大量の布団を買ってあげようじゃないか。







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