俺、元日本人のガチ神だけどY◯uTuberになるね!

慈桜

第11話 やっぱり琵琶湖だよね。



 はい、ネモでーす。こんにちは。
 ちょっとね、この一週間仕事に追われてました。うん。
 あの田邊夫妻の若返りをしてから、息子さん夫婦からの派生と、奥さんのご近所ネットワークからの派生で、毎日ひっきりなしにアンチエイジングとシェイプアップの施術やりまくってました。

 もう、いいやぁー! って感じで荒稼ぎしてたんだけど、やっぱ人の口に戸は立てられないってのはよく言ったもので、噂が噂を呼んで、遂にはヨウツベの方もかなり話題になってしまったのである。

 祝、チャンネル登録1万2000人到達です。

 連日兎我野町のうさぎとか道頓堀の鯉とかの話題がテレビで放送されてて、タイミングよく俺の動画を見つけたマニアックな人達が神格化したらしい。
 道頓堀に関しては一切動画あげてないんだけどね。

 そしたら板ちゃんねるにもスレが立ったりし始めたので、若返りの薬と痩せ薬を落とす龍の彫刻を鴨川にデーンと作って滋賀県に逃げてきた。
 念!願! の! 琵琶湖です!
 いや、コレもう海っすやん。
 対岸みえないんだけど。

 ネットではスマホ3台を駆使して、和歌山での目撃情報を集めてるから、まだ滋賀を楽しんでいても大丈夫だろう。
 念の為にガチガチの変装グッズも買い集めたから、簡単には見つからないと思うぜ。

「あぁ、死ぬほど落ち着く」

 しかし水辺ってのは気持ちいいなぁ。
 ただゆっくり湖畔の公園を歩いているだけなのに、心が洗われて行く気がする。多分これガッツリ他の神の管理地だと思うんだ。聖地って言えばわかりやすいかな? 神の気配独特の癒しがある。

 見つかったら殴られそうだけど、俺はおもいっきり人間になりすましてるから早々バレないから心配ナッシング。

 てか等間隔にブラックバス回収の生簀とかゴミ箱があるんだけど、なんで?
 ちょっとネットでポチッとなしてみようか。

「外来生物法と、リリース禁止……」

 つまり琵琶湖に生息する日本の固有種が食べられすぎて絶滅しかけてるからブラックバスの駆除をしてるってことね。
 でも、それに反してバス釣りが観光資源にもなってるって感じか。

 国の税金で駆除の援助金も出てるのに、成果が見られないから癒着とかもあるんじゃないかって疑われているらしい。

 うーん、まぁ、日本全国で3番目の赤字県だったのに、バス駆除いっぱい億の援助が出るようになってから黒転して高層マンションぼんぼん建つようになったら、そりゃ勘繰るよね。

 解決策としては、纏めて捕まえて池原ダムや七色ダムのようなバス釣りのメッカと言われるような所に逃がしてしまう方法が思いついたけど、それをやってしまうと観光客が激減する。
 釣り客から漁業権五百円徴収するだけでもかなりの収益になると見込まれる程に釣り人がいるなら、相乗効果での周辺店舗等に齎す経済効果は小さくないだろうな。

 でも釣り人のマナーが悪くてゴミが増えていたり、立ち入り禁止の住宅街に忍び込んで釣りをする者などもいて、周辺住民の不満は常に爆発してるらしい。

 海外のいくつかの国では普通に食されていたりするブラックバスやブルーギルであるが、日本人はゲームフィッシュとしての感覚が強く、食べる事には忌避感があるらしいので水産資源としての扱いも難しく、近年ではペットフードなどに転用されていたりもするらしいけど、廃棄数はそれを圧倒的に上回っている。

 つまり解決方法としては、ゲームフィッシュとしても優秀でブラックバスとブルーギルのみを捕食対象とする、非常に美味な魚を放流すればいいわけだよな?
 なんだ、簡単じゃないか。

 デザインフォーマットに利用するのは、俺の世界で普通に食されている赤目ハタ、レッドアイ・グルーパーと呼ばれる淡水ハタである。
 見た目としてはスズキ目ハタ科、海外ではジャイアントグルーパーやゴリアテグルーパー、日本では横綱ハタやタマカイなどと呼ばれる種に近い。
 て言うかそれらを参考にデザインした魚だ。

 岩に擬態する迷彩色で、宝石のような赤い瞳が特徴的な淡水魚である。
 その身は極上で、俺の世界でも赤目ハタが釣れたぞ! となれば、お祭り騒ぎになったりもする。

 この種の食性をブラックバス、ブルーギルのみに設定し、バス釣りの人、所謂バサー達のヒットしたバスに襲いかかる赤目ハタに興奮と感動を覚えて、赤目ハタフィッシィングに移行していけば、琵琶湖の外来種問題は容易く解決するはずだ。

 では、啓蒙活動がてらに動画を投稿しよう。
 釣り具を買いに行くのは面倒なので、今回はこの場で創造させていただく。
 土地にお金を落とす意味でも、なるべく創造は使わないでおこうなんて、マイルールを最近作っておきながら速攻で破っていくスタイル。
 ルールと約束は破るためにあるってヤツですね。
 全部守らなきゃなら神戸のストリートからやり直しである。

 明らかに場違いな、ガッチガチのグルーパー装備ですが、こうでもしないとヘシ折られそうなのでご勘弁願いたい。

 釣り具の準備が整ったら、大中小の赤目ハタを大量にクリエイト放流していきます。
 この魔法陣から魚がギュンギュン飛び出ていく様は最高の背徳感である。
 いいのかな、やっちゃうの? やっちったぁー! みたいな。
 地球にいない生物を垂れ流しにするのは謎の快感があるので好きです。
 イクッ! て感じ。ちがうな、すまん。

 設定としては成魚3,000匹、中位10,000匹、稚魚10万匹を放流したので、きっと琵琶湖に君臨してくれると思う。少ないかな?

 さて、撮影開始です。

「はい! ということでね、本日は琵琶湖は比叡山坂本にバスフィッシングに来てみました! どんどんパフパフ。臨時収入があったので、釣具屋さんで一番高い竿とリールを買った結果、カジキマグロでも釣るのかって装備になってしまいましたけど、そこは気にせずにバス釣りの方を楽しんで行きたいと思います。釣れるといいなー」

 って言っても、俺釣りとかうますぎるから速攻釣れますけどね。
 なんてったって見ようと思えば水の中
 全て見渡せるし、ルアーを一時的にリアルな魚に変換したり、酷い時は魚の思考を乗っ取って食性のスイッチを入れたりもしちゃうからね、もはや釣り神と言っても過言ではない。

「はぁ、やっぱそう簡単には……おっほぉ!!」

 わざとらしいよね、知ってます。
 でもビギナーズラックって事にしておけば全てが丸く収まります。
 ホールインワン詐欺の話ではありません。
 本来なら竿さばきでエラ洗いなんてさせないけど、今回は動画の為にエラ洗いをさせて、まずはブラックバスの魚影を確認させる。

「キター! ハーモニカ食いですよ! 口にルアーが真横にがふって! 大きかったっすよ! 見ましたよね?!」

 なんて言った矢先です。
 水面に巨大な隕石でも落ちたんじゃないかってぐらいのボイル。所謂捕食が起こります。
 はい、大混乱です。犬の散歩してるおじいちゃんも足を止めて愕然としております。

「ちょ、あはは! なにこれ!!」

 まるで根掛かり。地球を釣ってしまったんじゃないかと思わせる程にビクともしない手応え。
 特大リールのドラグがギュルンギュルンと糸を出していく。

 俺は臍の上に竿のケツを当てて、超究極リンボーダンス状態で踏ん張る事しかできない。

「に、にいちゃん! 大丈夫か! いけるか?!」

「ジイちゃん! 前から竿押して、俺の方に!!」

「わわわ、わかった! まかせほ!」

 まかせ【ほ】て。笑わせないでくれ。
 引きずり込まれそうになっていたが、ジジイが助けてくれた事によって、なんとか竿を立てておく事に成功。
 これバス竿だったら多分粉々になるんじゃないかな。
 その前にラインが切れるか。

「うぎぎぎ、ハァハァ」

「これなんじゃあ! サメか? サメがおるんか!?」

「ハタだよハタ! 赤目ハタ!!」

「んお?! ワシかなり長く住んどるけど聞いた事もないっ、ぐぐ、ぬおぉ!」

 危なかった。ちょっと気を抜いたらジジイと二人で落水オープンナイスインとなるところだった。
 赤目ハタの引きが凄いのはわかってるけど、今回の奴はかなりの大物っぽい。

 こいつらは疲れやすいのが唯一の欠点であるから、ある程度我慢し続けたら諦めたりするのに、こいつは全然諦めてくれない。

 ジジイのパピヨンが横でキャンキャン吠え続けてるけど、もうラインが僅かにしか残されてないギリギリの状態で、ふわっと手応えが軽くなる。

 キタ。

 第一次侵攻である。
 赤目ハタは引っ張られる事にイライラし、その犯人を食らってやろうと、此方にゆっくりと攻めにくるのだ。

 この間に一気にラインを巻き取る。
 ヨボヨボのハゲ散らかしたジジイも大興奮で唾を撒き散らしている。

 なんだよ、そのすげぇ眉毛。村山越えしてんじゃねぇかって村山って誰だったっけ?

「まけぇぇぇ!!」

「うぉぉおおりゃあ!!」

 だが、赤目ハタは気がつく。
 この引っ張る力の犯人は水の中にはいない!! 陸地にあげられるなどあってはならない。

 そして第二次引き相撲に移行。
 再び我慢の時間が訪れるが、もはや初っ端の体力は残っていない。
 チート使いたいけど、ここは神の気配ビンビンだから人間の力で戦うしかない。

「ジイさん! あいつ弱ってる! あとちょっとだ!!」

「心配すんなー! 最後まで付き合うてやるわい!!」

 それから、どれぐらい戦ってただろう。
 多分余裕で1時間は過ぎたと思う。
 途中バサーのお兄さんや、地元の人たちも来てくれて、竿持ちを代わってくれたりしつつ、全身が産まれたての子鹿のようにガクブルになったところで、ようやく赤目ハタはその姿を現した。

 しかし本番はここからである。
 赤目ハタは網にいれようとするとめちゃくちゃ暴れるので、姿が見えると同時に水の中に飛び込み、背後からエラの中に腕を突っ込んで抑えこみながらにナイフで締めなければならないのだ。

「うおおおおお!! やったぞぉ!」

「まだです!! 竿を立てておいてください!!」

 背後から抑え込んでナイフでエラを強引に切ると、真っ赤な血が透明な湖を赤く染めていく。
 そしてプカプカと横面に浮かびながら、ゆっくりとしかエラ呼吸しなくなれば、此方の完全勝利である。

「ありがとうございます! 俺たちの勝ちです!!」

 爆発的な歓声が巻き起こったのは言うまでもない。
 80kgから120kgで成体とされる赤目ハタであるが、冗談半分に200kgクラスを数匹放っていたのだが、そのうちの一匹が釣れてしまったようだ。
 そら、こんだけ苦しめられるはずだ。

「皆さん! 手伝ってくれたお礼です。赤目ハタは伝説の淡水魚で、その味は淡水の宝石と呼ばれる程です。是非とも皆で食べましょう!」

「あんちゃん、それならウチに来ぃな!これでも漁師の家やし、包丁やらなんやら揃ってるわ!」

 祭りである。
 なんせ200kgの巨体だ。
 この角刈りマッチョのキョウイチさんは、終盤赤目ハタとタイマンを張り続けてくれた猛者である。
 彼が一声かければ、周辺住民もわらわらと湧きはじめ、遂には大宴会へと発展する。

 魚拓をとって大拍手の中で一気にさばき、刺身に寿司に煮付けにあら炊きとできる料理はなんでも試す。
 熟成させてもうまいが、赤目ハタは釣りたてでもビビるほどうまい。
 キャンキャン吠えながらに応援してくれていたパピヨン君も、うまうまとご満悦の様子である。

 さて、酒もたらふく飲んだし、腹も膨れたところで本題である。

「赤目の一つはキョウイチさんが食べてください。問題はもう一つをジイさんかオギさんのどちらが食べるかです」

「ん? この目ん玉うまいんか?」

「ええ、めちゃくちゃおいしいです。めちゃくちゃおいしいですし、食べたらめちゃくちゃモテるようになります」

「がはは! なんじゃいそれ! じゃあネモが食え! お前が釣ったんやから」

「いや、自分は肝を食べちゃったからダメなんです。肝と目玉を食べたら、お腹を下しちゃうんですよ」

「ほーん、じゃあどないする? せやけどオギ君はあかんわ! 途中でへこたれて屁ぇこきやがったからな! アレのせいで腰抜けそうになったからな」

 この赤目の目玉は味は勿論抜群であるが、簡単に言うと魅力のステータス値を上げるブースター能力もあるので、高額で取り引きされたりするのだが、俺としては、この世のモノとは思えない美味を是非とも戦友達に味わって頂きたい。

「じゃあ、仲良く四人で分けやせんか? 俺も屁をこいたんは悪いおもてまっけど、見てください。もう左手動きません」

 バサーのオギ君がプルプルと震える左手を差し出して、俺にも食べる権利があると主張する。
 しかし名案である。ここまで大きい目玉なら、四人でも十分にわけられる。
 他の人達も食べたいと主張したが、これは釣った者達の戦利品である。

「じゃあ四人でわけましょう」

 そして、目玉をくり抜いて炭焼きにする。赤い宝石は徐々に焼けては膜を張ってトマトのような物体になる。

「「「「いただきます!」」」」

 本来は俺はキモ刺をちゅるっといったので食べてはならないが、腹を下す覚悟で行くので真似はしないでくださいねとテーブルにつく。

 見た目はトマトでも味はトマトなど比にならない。
 口に含んだ瞬間は無味無臭、しかし舌に旨味が広がったと感じた瞬間に全身に銅鑼を鳴らしたような旨味の振動が走る。
 その旨味は頭の先からやがて爪先まで響き、再び口の中から胃の中まで美味が広がる。

「じゅるっ、うおっ、やば! よだれとまらん」

 そして、赤目の目ん玉名物のよだれである。
 あまりの美味さに脳が追いつかず、手にある赤目を見て、まだこんなにもこの味を楽しめるのかと思うとよだれが止まらなくなるのである。

「ビールで流し込んでください! 口がリセットされて同じ旨味が味わえますから! てか赤目食ったら水でも美味くなるんですけどね」

 もう、脳が信号を間違って、何食っても美味いが広がるのである。
 俺たち四人はビールの500を一瞬で飲み干して、よだれを拭いながらに、二口目に移行。

 そして全員が目を見開く。

 そう、俺は嘘をついたのだ。
 赤目は食べれば食べるほどさらなる高みへと誘ってくれる。
 しかし、そのまま連続して食べれば、僅かに旨味が増して行く感覚しか味わえないが、一度水分を摂取してリセットしてしまえば再び全身に電撃がはしるのである。

 そして、皆がやっとそこで気がつく。

 何故四人で分けようなんて言ってしまったのだろうかと。

「こりゃ、あれじゃな。生きてきた中で一番美味いとはこの事じゃな」

「くそっ、釣りてぇけど、一人じゃ無理だ」

「ごねて良かった。この味を知らずに死ぬわけにはいきやせんな」

 うん、ここまでワンセットで動画投稿したら赤目ハタ釣りも流行るだろう。

「これ目玉の核は削ったら綺麗な宝石になるんで、良かったらキョウイチさんの娘さん達にあげてください」

「いいのか? 」

「ええ、ジイさんと二人だけだった時に、もう諦めて竿捨てようかって言ってた矢先のキョウイチさんでしたから、この赤目ハタはキョウイチさん有りきと言っても過言じゃないです」

 美味いし金になると知れば、きっと釣り人達は赤目ハタに移行してくれと思うけど……結果はいかに。

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