錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

決戦14

 忘れていない。捨ててなどいない。その思いはこの胸に。その絆は魂に。今もこうして刻んでいるから――二人は出会い、聖治は涙を流しているのだから。

「うっ、う、ううぁ!」

 聖治は自分でも分からない涙を流し続けている。そんな彼を抱き締めながら、魔来名まきなは、少しだけ表情が和らいだ――

 僅かばかりの時間が経過する。聖治は泣き声を殺そうと必死に耐えながら、魔来名まきなからの抱擁を抵抗することなく受けている。

 だが、急に突き放された。

「うわ!」

 聖治は転び尻餅をつく。突き放す気配がなく、不意打ちだったためモロに地面にぶつけてしまった。聖治は尻をさすりながら睨み上げる。

「なにをすん……だ……」

 しかし、怒りは途中で消え、目の前の現実に声を失う。

 魔来名まきなの背中に、槍が突き刺さっていたのだ。空から降ってきたのか、真っ直ぐと魔来名まきなを貫通している。

 魔来名まきなは震える両足で立ち続け、槍を伝って地面に滴る自分の血を見つめていた。その視線がゆっくりと上がり、聖治の方向を見る。

 だが、聖治を見ておらずもっと奥を睨み付けていた。聖治は魔来名まきなの視線を追って振り返る。

 そこには、黒の外套姿をした者が立っていた。屋上のふちに立ち、両手を下にぶら下げている。気配は希薄なものの、内に宿る強大な力をひしひしと感じる。

「グレゴリウス……」 

 呟く魔来名まきなに、聖治はようやく理解する。

(こいつが、グレゴリウス? 魔卿まきょう騎士団現団長の?)

 同時に察する。魔来名まきなを貫いている長槍はこの男が放ち、本来ならば、自分が刺されていたことを。

 尻餅を付いている聖治を挟みながら、魔来名まきなとグレゴリウスは対峙する。魔来名まきなは痛みに耐えながら睨み上げるが、グレゴリウスは平然と立っていた。

「あの場所からは、離れられないと言っていたと思うが……?」

「間違いではない。部屋、正確には剣から距離が離れると私の存在は希薄になり最悪消滅する。ここにいることも、限界に近い」

「そうまでして、俺を完成させたかったか?」

「残念だ、魔来名まきな。私は君に期待していたのだが……」

 二人の会話はそこで終わり、魔来名まきなは自身を貫く槍を見つめる。すると両手で握り締め、抜き始めたのだ。

「お、おい!」

 聖治はようやく起き上がり、槍を引き抜く魔来名まきなを見つめる。槍が抜かれる度、傷口から血が勢いよく零れる。

 魔来名まきなは長槍を抜き終わり、大きく息を吐いた。常人では想像すら出来ない痛みを無言で耐え、魔来名まきなは槍を地面に突き刺す。

 そして、地面に落ちていた天黒魔あくまを手元に戻して鞘に入れると、聖治に投げ渡したのだ。

「うわ、と!」

 いきなり放り渡される天黒魔あくまをなんとか受け止めるも、聖治は混乱しながら魔来名まきなを見た。

「おい、どういうつもりだ?」

「……団長の座は、くれてやる……」

 魔来名まきなは聖治を見ておらず槍を支えに立っている。すると槍を持ち上げ、矛先をグレゴリウスに向けた。血は今も流れ続け顔色は悪い。

 だが、残された気力で闘志を奮い立たし、魔来名まきなはグレゴリウスに挑む気だった。たどたどしい足並みで歩き出し、聖治の横を通り過ぎる。

「おい待てよ!」

 聖治は魔来名まきなの背中姿に向けすかさず声を掛ける。今の魔来名まきなは立っているのがやっとの重傷だ。聖治に体を斬られ、グレゴリウスには腹に穴をあけられた。

 戦うどころではない。けれど魔来名まきなは歩みを進めていく。聖治は胸に熱い気持ちが宿り、咄嗟に吠えた。

「待てよ兄さん!」

 魔来名まきなの、足が止まった。

 魔来名まきなは足を止めたまま微動だにしなかった。だが少しだけ首を動かすと、聖治に向けてこう言った。

「……お前にも、守るものができたんだな」

 その顔は――笑っていた。

 魔来名まきなは正面を向いた。槍を握る両手に今一度力を込め、瞳に炎が灯る。

 そして、魔来名まきなは走り出した。全身からくる痛みを押し殺し、一歩一歩を踏み締めて、魔卿まきょう騎士団団長、グレゴリウスへと特攻する。

「それがお前の選択か。魔来名まきな

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