錬成七剣神(セブンスソード)
始まりの場所1
夕日の空は赤味を帯び夏の空に浮かぶ大きな雲は燃えているように漂っている。
だが、空とは無縁な場所には意味のないことだった。
水門市中心部、そこにこの街一番の高層ビルがある。観光からホテル、アミューズメント、漁業関連に至るまでを受け持つ複合企業。
 戦後の高度経済成長期から急激に発展した水門市を代表する企業本社。
 水門市民ならば誰しもが知る会社であるが、しかし、そのビルには一部の人間しか知らない秘密の場所があった。
地下三階までしかないビルの、更に地下。そこにあるはずのない空間がある。
薄暗く静かな場所はワンフロア並みの広さがある。物はほとんど置いてない。電気は通っておらず、地面はコンクリートで施工され一面には巨大な魔法陣が刻まれている。
 壁面には火を灯す台が等間隔に設置されており、薄青い炎が闇色の空間を照らしていた。
人気も音も、風すらも存在しない、あるはずのない場所。ここは眠っているように動的なものがない。だがそれもそのはず。ここは時が止まっているのだ。
それを象徴するかのように、空間の奥には石細工で出来た台があり、その上に一本の剣が刺さっていた。まるで王を選定する伝説の剣のように。
 この剣には威厳と貫録があり、こうして置いてあるだけでも威光を放っている。
これこそが、かつて剣聖と謳われ魔卿騎士団歴代最強と言われた男が振るった剣。
 今は亡き団長、グレゴリウス・レウス・ギルバートの愛剣であった。
そこへ魔来名は現れた。死が横たわるような雰囲気に畏縮することなく堂々と。目つきも足取りも変わることなく、魔来名は団長の居所へと訪れていた。
空間の真ん中にまで歩くと立ち止まり、正面に置かれている剣を見つめる。すると闇を照らしていた青い灯火が突如炎上した。
 火柱が立ち上がり、この空間を最大にまで照らし出す。
そして奉り上げられた超剣の下、人の形をしたものが現れた。
黒の外套姿。フードの下は暗くて見えない。背格好は魔来名と同じくらいで高い部類だ。佇立する姿は徒手空拳であり両手は下げている。
「……お前が、グレゴリウスか?」
「如何にも」
魔来名の問いに男は答える。声からして年齢は三十代中頃から後半といったところか。ただ、低い声音からは活気を感じない。まるで――
「……そうか。まるで死人だ」
「だろうな」
魔来名は他愛もない会話をしながらも男を注視し続けていた。胸に湧き上がる思いがそうさせる。
(……こいつ)
魔来名は初めて、本能的に警戒していた。戦闘相手として理性的に警戒するのではなく、心からの警戒。魔来名をしてそうさせるほど目の前の相手は尋常ではなかった。
これまで魔来名が戦ってきた魔卿騎士団幹部の者たち。
 そのどれもが達人であったが、そんな彼らが凡夫にさえ思える。
 かつて実力の半分以下の亡霊にも勝てないとエルターを蔑んだ
魔来名だが、実物を目にした今となっては蔑視の念はない。半分以下の亡霊と見比べても、彼らはどうだ。
 その半分? いや、二割。否、一割あるかどうか。もし生前のグレゴリウスならば五分あればいいところ。
そして、魔来名は思い知る。もし、この男が生きていれば、どれほどの怪物だったかと。
(……これが)
これが、魔卿騎士団団長。そして、世界最強の秘密結社ゼクシズの一員。世界すら支配出来ると言われる三人の構成員。
天上アンデルセン。
魔帝ソロモン。
そして最後の一人、剣聖グレゴリウスなのだと。
「私の前に来たということは、儀式は完了した、と思ったが、まだ完成はしていないようだな」
「貴様こそ、何故錬成七剣神など始めた。貴様は死んだが、こうして存在している。代わりがいなければお前の魂を器に与えれば良かったのではないか?」
「それは不可能だ。私の魂はすでに冥界へと消えてしまった。私は魂ではなく、残留思念なのだ。想いが形と思考を持っただけの影に過ぎん。影は本体の真似は出来るが、本体にはなれんのだ」
グレゴリウスの声に悲嘆の念はない。単調に語る仕草には感情の起伏が見られなかった。
「質問に答えてもらおう、魔堂魔来名。何故、ここに来た」
だが、空とは無縁な場所には意味のないことだった。
水門市中心部、そこにこの街一番の高層ビルがある。観光からホテル、アミューズメント、漁業関連に至るまでを受け持つ複合企業。
 戦後の高度経済成長期から急激に発展した水門市を代表する企業本社。
 水門市民ならば誰しもが知る会社であるが、しかし、そのビルには一部の人間しか知らない秘密の場所があった。
地下三階までしかないビルの、更に地下。そこにあるはずのない空間がある。
薄暗く静かな場所はワンフロア並みの広さがある。物はほとんど置いてない。電気は通っておらず、地面はコンクリートで施工され一面には巨大な魔法陣が刻まれている。
 壁面には火を灯す台が等間隔に設置されており、薄青い炎が闇色の空間を照らしていた。
人気も音も、風すらも存在しない、あるはずのない場所。ここは眠っているように動的なものがない。だがそれもそのはず。ここは時が止まっているのだ。
それを象徴するかのように、空間の奥には石細工で出来た台があり、その上に一本の剣が刺さっていた。まるで王を選定する伝説の剣のように。
 この剣には威厳と貫録があり、こうして置いてあるだけでも威光を放っている。
これこそが、かつて剣聖と謳われ魔卿騎士団歴代最強と言われた男が振るった剣。
 今は亡き団長、グレゴリウス・レウス・ギルバートの愛剣であった。
そこへ魔来名は現れた。死が横たわるような雰囲気に畏縮することなく堂々と。目つきも足取りも変わることなく、魔来名は団長の居所へと訪れていた。
空間の真ん中にまで歩くと立ち止まり、正面に置かれている剣を見つめる。すると闇を照らしていた青い灯火が突如炎上した。
 火柱が立ち上がり、この空間を最大にまで照らし出す。
そして奉り上げられた超剣の下、人の形をしたものが現れた。
黒の外套姿。フードの下は暗くて見えない。背格好は魔来名と同じくらいで高い部類だ。佇立する姿は徒手空拳であり両手は下げている。
「……お前が、グレゴリウスか?」
「如何にも」
魔来名の問いに男は答える。声からして年齢は三十代中頃から後半といったところか。ただ、低い声音からは活気を感じない。まるで――
「……そうか。まるで死人だ」
「だろうな」
魔来名は他愛もない会話をしながらも男を注視し続けていた。胸に湧き上がる思いがそうさせる。
(……こいつ)
魔来名は初めて、本能的に警戒していた。戦闘相手として理性的に警戒するのではなく、心からの警戒。魔来名をしてそうさせるほど目の前の相手は尋常ではなかった。
これまで魔来名が戦ってきた魔卿騎士団幹部の者たち。
 そのどれもが達人であったが、そんな彼らが凡夫にさえ思える。
 かつて実力の半分以下の亡霊にも勝てないとエルターを蔑んだ
魔来名だが、実物を目にした今となっては蔑視の念はない。半分以下の亡霊と見比べても、彼らはどうだ。
 その半分? いや、二割。否、一割あるかどうか。もし生前のグレゴリウスならば五分あればいいところ。
そして、魔来名は思い知る。もし、この男が生きていれば、どれほどの怪物だったかと。
(……これが)
これが、魔卿騎士団団長。そして、世界最強の秘密結社ゼクシズの一員。世界すら支配出来ると言われる三人の構成員。
天上アンデルセン。
魔帝ソロモン。
そして最後の一人、剣聖グレゴリウスなのだと。
「私の前に来たということは、儀式は完了した、と思ったが、まだ完成はしていないようだな」
「貴様こそ、何故錬成七剣神など始めた。貴様は死んだが、こうして存在している。代わりがいなければお前の魂を器に与えれば良かったのではないか?」
「それは不可能だ。私の魂はすでに冥界へと消えてしまった。私は魂ではなく、残留思念なのだ。想いが形と思考を持っただけの影に過ぎん。影は本体の真似は出来るが、本体にはなれんのだ」
グレゴリウスの声に悲嘆の念はない。単調に語る仕草には感情の起伏が見られなかった。
「質問に答えてもらおう、魔堂魔来名。何故、ここに来た」
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