錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

安神此方3

 聖治から離れた此方こなたは独り言のように話し出した。窓から覗く三階の景色を見ながら、昔の自分を思い出しているようだった。

「私はお姉さんだから、しっかりしていなくちゃ駄目だって。それを重荷に感じたことはなかったし、それが当たり前だと思ってた。でも――」

 遠くを見つめる此方こなたの横顔は棘のない澄んだものだった。ワインレッドの髪がさらりと揺れる。

「妹っていうのも、悪くないのかな……」

 呟きは静かだった。その言葉には大切な意味が隠されていた気がするが、あいにく聖治には気が付かなかった。

「だけど、私は日向ひなたのお姉さんだから。だから、しっかりしないと」

「それでいいのか?」

「うん。もう、大丈夫だから……」

 宣誓は呟きのようだったけれど、強い意思で言われた言葉なんだと聖治は自然と分かった。

日向ひなたは私が守らなくちゃいけないの。日向ひなたは、私にとって特別だから」

「それは妹だからか?」

「それもあるけど……」

 此方こなたは壁際まで寄ると背を預けた。それから天井へと視線を移した後、俯いて瞳を閉じた。

「私が意識をもった時、そこは孤児院の中だった。両親は事故で亡くなり親戚もいない。それがそこにいる理由だった。だけど本当の理由は違う。いつかこの街で殺し合いをするために私はいるんだって。それがいつ始まるのか分からないだけに怖かった。明日かもしれない。今日かもしれない。そう思うと、部屋から出るのも恐かった」

 此方こなたが語る様子に動揺はない。ただ淡々と過去の自分を語っている。けれど、その内容は見た目通りのものじゃない。実際にはとても辛かったはずだ。

「だけど、そんな私に日向ひなたは優しく接してくれた」

 此方こなたが小さく笑った気がした。

「いつか殺し合うことが決まっているのに。姉妹なんて名ばかりで、結局は他人の私に。あの子は姉だと慕ってくれたの。私はそんな目で見られなくて、殺し合いの相手としか思えなかった。だからその度に邪険じゃけんにして悪口を言った。ひどいこともした。なのに、あの子は笑って近寄ってくるのよ。私を、お姉ちゃんと呼んで……」

 思い出の中で此方こなた日向ひなたを見ている。その時の笑顔を思い出している。思い出の中で大切に留めてある気持ちに、瞼の間から涙が零れた。

「毎日が怖くて辛かった。だけど、毎日接してくれるあの子に私の心は徐々に変わっていったの。いつか、私とあの子は本当の姉妹のようになっていた。あの子は、私の心を救ってくれた。感謝しているの。とても」

 安心と温もりで出来たような優しい口調で此方こなたはそう言った。たとえホムンクルスという他人でも、聖治には此方こなた日向ひなたの本当の姉なんだと思えた。

「ねえ、日向ひなたになにか買ってあげたいの。それで喜んでくれれば元気にもなると思うし。こんな時にわがままだと分かってはいるんだけど」

「いや、いいさ。どの道日向ひなたが苦しんでいるのに連れ回すなんてこと出来ないさ」

「うん、ありがと」

 そう言った時、此方こなたの表情がニコっと笑った。

「…………」

(可愛い)

 聖治は、はじめてギャップ萌というのを知った。

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