錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

幹部戦半蔵5

「絶対命中、か。思ったより悪い能力ではなかったな」

「……当然だ。彼女もまた、我らと同じく極めし者の一人だ」

「そうか、ならば伝えろ。あいつのもとへは俺が連れて行ってやる」

 二人のやり取りの末、魔来名まきなは腰を落とし柄に手を添えた。それは居合の構え。殺害を決意した必殺の体現である。

 魔来名の構えから半蔵も察し投擲ではなく斬撃の構えを取る。もとより投擲では敵わない。

 絶対命中の敵を倒す方法。それは、当てられる前に当てること。魔来名まきながさきほど行った理屈そのままに、半蔵はんぞうも術式を組んでいく。

 魔来名まきなの絶対命中の有効範囲は天黒魔あくまの届く距離まで。間合いにいる敵に向かって天黒魔あくまを抜ければそれは回避も防御も許さず理屈すら無視して絶対に命中する。 

 しかし、逆から言えば抜く前までは無防備だ。半蔵はんぞうがつけ入る隙はそこしかない。

 二人は構え対する。まるで時代劇の場面のように。もしくは夕日を背にした西部劇のガンマンか。

 静けさは緊張となり、緊張は集中となった。両者は己を高めに高め、この勝負に最後の一撃を決めてみせんと誓う。

 魔来名まきなは精神統一し、半蔵はんぞう乾坤一擲けんこんいってきを覚悟する。そして、両者の殺意が閃いた。

「絶技絶閃――」

「瞬、光、烈、斬――」

 二人の詠唱は同時に始まり同時に終わる。駆け出すための一歩も同時。そして、互いの技が重なった。

「「――刹那せつな斬り!」」

 少数においてゼロに近い単位。その刹那せつなの時間に行動を可能として二人は突撃する。勝負は一瞬、決着の時は光よりも早くに付いていた。

 今や二人の立ち位置は逆転しており、駆け出す前の相手の位置に立っていた。正面を向き合うのではなく、互いに背中を見せている。

 二人は交差した。互いの殺意と技をぶつけ合い、両者の一撃が交わった時、決着は付いていた。
 無言で佇む魔来名まきなの首筋から血が垂れた。

 元より全身傷だらけの魔来名まきなだが、ここにきて新たな傷が加わったのだ。あと一ミリでも深く切られていれば動脈に達し死んでいた。

 半蔵はんぞうも殺す気だった。そうでなければ倒せないと、この勝負に全てを賭けて挑んだのだ。

 それが、元部もとべ半蔵はんぞうという男の、戦士としての性だったのかもしれない。

 そこへ、背中を向けたまま魔来名まきなは声を掛け、おもむろに納刀した。

「俺たちの勝敗が、結局は得物(えもの)の長さで決まるとは間抜けな決着だったな」

「……いや、そうとも限らん。お前は新たな団長となるべく生まれた男。この結果も、その定め……、故かもしれん」

 そう言って、半蔵はんぞうは片膝を付いた。肩から斜め右に斬られた大きな傷を片手で押さえながら。痛みに表情は引きつるものの、それでも半蔵はんぞうは満足気に小さく笑う。

魔来名まきな。完全体を目指せ……。お前が、団長だ。それで、私も報われる……」

 大きく切り開かれた傷口から大量の血液が零れ出し、それは致死量に達しようとしていた。

 それを半蔵はんぞうも分かっているのか、己の死を悟った男は安らかな表情で、夜天を仰いだ。

魔卿まきょう騎士団に、栄光を……」

 そして、半蔵はんぞうは倒れる。魔来名まきなは音で半蔵はんぞうの死を把握し、その後に片膝を付いた。

 半蔵はんぞうの意識のある内にしなかったのは半蔵はんぞうに対する矜持だ。それで半蔵はんぞうも納得して逝けたのだろう。

「く……」

 しかしやせ我慢もここで限界だ。魔来名まきな辛勝しんしょうしたものの重傷だ。流した血の量も多い。次第には目眩すら感じていた。

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