錬成七剣神(セブンスソード)

奏せいや

再会2

 女は魔来名まきなに歩み寄る。あの時と同じように。

「私のことも……」

 そして、女は伸ばした手を魔来名まきなの胸に当てた。そこに込められた膨大な感情と受ける感慨。それはまるで――六十年ぶりに再会した恋人のような。

「…………」

 魔来名まきなは答えない。無言のまま見下ろし続ける。というよりも、分からない。女の言動一切が。故に、答える言葉を持たない。

「……お前は誰だ?」

 思い出すもなにも魔来名まきなは知らない。そのため女について質問していた。しかし、これも本当なら不要なこと。魔来名まきならしからぬ行為だった。

 魔来名まきなの質問をどう受け取ったのか。女の表情は明らかに落ち込んでいた。

「……佐城さじょう香織かおり。それが、今の私の名前」

「今?」

「本当の名前は、あなたに思い出して欲しい……」

 目を伏せながら言う佐城さじょう魔来名まきなは怪訝な視線を送るが、意を決め口にした。

「生憎だが、お前の言っていることは初めから何も分からん。それと、俺の名前は魔来名まきな正一まさかずという名ではない。その名で俺をもう呼ぶな。不愉快だ」

 佐城さじょうの言葉を両断する。悲しそうに視線を下げる女性を哀れだとは思うが戯言に付き合わされるつもりはない。

「違う! あなたは正一まさかずよ! 私たちには前世がある。かつてのあなたのことを私は知っているの。だから言える。今のあなたは間違っている! 
 あなたはセブンスソードなんかをする人じゃない! 殺し合いを平気でする人じゃない! あなたが殺そうとしている人の中には――」

 佐城さじょうは胸に手を当て魔来名まきなに言い寄る。必死に魔来名まきなを見上げ、眼差しは懸命だった。

「かつての、弟さんもいるのよ!?」

「……弟?」

 佐城さじょうの言葉に魔来名まきなの眉が動く。スパーダを作る工程上、自分たちに前世があることは魔来名まきなも知っていた。それを気にしたことはなかったが。

「思い出した!?」

 魔来名まきなからの返事に目の前の女性、佐城さじょうは期待を抱いた目を向けてくる。弟というキーワードをきっかけに前世の記憶が思い出されるのではないかと思ったのだろう。

 自分の瞳を覗く目に一層力が入っている。

「フッ。かつての弟、か」

「そうよ! あなたには弟がいて、彼を守るために――」

「関係ないな」

「え?」

 しかし、彼女が抱いた期待を魔来名(まきな)は一蹴する。

「誰であろうが俺の成すべきことに変わりはない。目の前の敵を斬り、俺が最強となるだけだ」

「そんな……」

 彼女は顔面を蒼白そうはくさせて一歩足を退いていた。目の前にいる男の発言が、信じられないように。

「弟を、斬る……?」

「そうだ。それに、俺に前世など関係ない」

「……違う! 関係ないことない! あなたはそんな人じゃなかったはずよ! ううん、昔のあなたは、弟を守るために戦っていた。そのために命まで賭けた。
 あなたは忘れているだけで、大切な気持ちがあるはず。あなたは絶対に斬ってはならない。もし殺してしまったら、あなたが後悔するわ!」

「後悔だと? くだらない。俺の目的はただ一つ。力を手に入れることだ。俺は変わらん。このセブンスソードで力を手に入れてみせる」

「違うのよ、正一まさかずさ――」

 魔来名まきなの変わらぬ決意に佐城さじょうが足を踏み込みながら叫ぼうとする。だが、言われるより前に魔来名まきな天黒魔あくまを抜き、佐城さじょうの首筋に当てた。

「その名で呼ぶなと言ったはずだ。三度目はない。次は斬る」

 魔来名まきなが放つ冷酷な眼光。底冷えする殺意と共に、魔来名まきな佐城さじょうを睨む。

 しかし、それでも佐城さじょうは退かなかった。気丈に立ち続け、魔来名まきなの視線から逸らさない。強い意思を宿した眼差しを魔来名まきなに送り続けている。

(こいつ……)

 その頑なまでの姿勢。ここに来たということは殺されてもおかしくはなく、死ぬ覚悟で臨んでいるのは察して余りある。意志が、無形の強さが魔来名まきなに押し寄せる。

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