リーンカーネーション 小学生に戻ったおれ
土曜の午後
土曜の午後
約束通り2時に天野さんの家へ行くと天野さんと一緒に彼女のお母さんが出迎えてくれたので俺は驚いていた。てっきり天野さん一人だと思っていたのだお母さんの登場に思わず親子丼?なんてあほなことを思ってはみたものも現実としてはありえない話だ。さてと現実に戻ると彼女のお母さんは興味津々で俺を見ている。それに反するように天野さんはなんで出てくるのと困ったような表情を浮かべていた。
「いらっしゃい。娘の恵子がいつもお世話になって、あ・・・そうそう・・・恵子を助けてくれたんだって?本当にありがとう。けど、思ったより可愛いのね。佐藤君って・・」
「お母さん・・・やめてよ」
そう言っている天野さんを力ずくでどけた彼女の母は話をつづけた。結構強引な母親だなぁと見ていると次から次へと矢継ぎ早に学校のことやソフトなど、色々と話を聞いてくる。しばらくして、戸惑っている俺にようやく気付いたかのように
「あら!ごめんなさい。立ち話もなんでしょうから。お上がり下さい」
かなり立ち話をしたんだけどと思いつつ、横で天野さんがごめんね話好きなのと言っていた。こうして、連れてこられたのはキッチンだった。この時代は、キッチンとリビングと水回りが一階にあって、2回は寝室というのが家の定番。中には小さな応接間のある家もあったけど、そんな家は少なく、天野さんの家はどちらかというといい方だった。キッチンにはテーブルがあり、定番の白いテーブルクロス。勧められるままに座ると、天野さんは、いかにも手作りという感じのクッキーを乗せたお皿を持ってきて俺の真向かいに座った。すると彼女の母が、紅茶を入れてくれた。すると
「恵子ったら、今日は佐藤君が来るからって、珍しく自分でクッキー焼いたのよ」
それを聞いた瞬間、天野さんは顔を真っ赤にして叫んだ。
「お母さん!!」
「あらお邪魔だったかしら・・・いいわよ。お邪魔虫は消えます」
少しすねた表情を浮かべキッチンを後にしたのだった。
「もうっ・・・」
天野さんは振り返った
「ごめんね。お母さん・・いつもああなんだ」
「いいじゃないか、気さくなお母さんで」
「そう?」
俺は、目の前のクッキーを手にした
「いただきます」
口に入れるまでじっと見ている彼女、多分、おいしい?と聞いてくるはずだ。俺は、彼女の視線に気づいたふりをして、手を止める
「どうしたの」
「なんでもない」
ふっと彼女が視線を逸らしたが直ぐ俺の方を見た時に、クッキーをほおばった。そして、むしゃむしゃとしながら
「う・・・うまい!!」
そう言うと彼女の笑みがこぼれていた。そして、
「本当!!うれしい・・・まずいと言われたらどうしようかと思ってたの」
「いやいや・・・本当においしいよ」
すると彼女は俺の手を取って
「ありがとう・・・」
ぎゅぎゅーーっと握ってくれた時だった。彼女の母親が現れたのだった
「恵子、ちょっと・・・」
「・・・・」
「あら・・・お取込み中?」
その言葉に俺はむせてしまった。
「げほげほげほ・・・」
天野さんは慌てて背中を叩きに来てくれた。
「大丈夫?」
「だ・・だいじょうぶ・・げほげほ・・・」
そんな俺たちを見て
「仲いいのね。二人・・・本当にお邪魔だったみたいね」
そういって、キッチンを出ようとした時
「あ・・・お母さんは、今から買い物に出かけるから、帰りは夕方になるんだけど」
そして、再び俺たちに近づいて来て交互に指をさしてぐっと睨んできた。
「いちゃつくのはいいけど、この年で間違いだけはおこさないように・・・」
しばらく睨んだかと思うとにっこりと笑って
「まだ、小学生だものね・・・あるわけないか・・だいたい、今言ったことの意味も知らないわよね・・・じゃ・・・行ってくるわ」
ケタケタケタと笑いながら、母親は家を出て行ったのだった。取り残された俺達、彼女が言った間違いだけはという言葉の意味を残念ながら知っている。お互いちらちらと視線を交差させると顔を真っ赤にさせて、俯いてしまったのだった。
「とりあえず、お茶にしようよ」
「うん・・」
少し重苦しい空気が俺たちの間に流れた。それは、天野さんがその言葉の意味を知っていて、少なくとも俺を男として見ている証拠だ。この間の銭湯で遊び半分とは言え彼女の前では射精もしているので、俺がそういうことをできることはわかっているようだった。
再び向かい合って座っている。お茶をのんでいると話が弾まない。こんな緊張している天野さんを見るのは初めてだ。本当にカチコチになっている。そう思うとほほえましく思えて来て俺の顔がほころんできた。
「何笑っているのよ」
俺の笑顔を見た瞬間、彼女も恥ずかしそうな笑顔を見せた。
「天野こそ、何笑っているんだ」
「え・・・そ・・・それは・・」
「ははは」
「もうっ!!おかあさんのせいよ。何もかも!!」
「何もかも?」
「えっ?」
「どうしたの?」
「あ・・本当に、こんなんじゃなかったんだから!!」
「ま・・いいじゃん、今日はありがとう」
「私こそ・・・ちょっとテレビでも見ない?」
「そうしようか・・・」
こうしてリビングへ行くと彼女はあるものを指さした。
「これなんだ!!」
それは、ビデオデッキだった。ビデオデッキが出たてのこの時代、これほど珍しいものはない。
「この間のカンフー映画録画してあるんだ、一緒に見ない?」
「いいよ」
カンフー映画、このころのに流行ったもので、どちらかというと女の子たちは、恋愛映画を見るんだけど、活発な少女だった彼女はカンフー映画が好きなようだった。そして、ビデオを再生するとそこには若い男性といかにも人妻ですといったエプロンをした女性が出て来て、天野さんが驚いた。
「あれ?おかしい」
と言った瞬間、テレビからは
「奥さん!!好きです」
「だ・・ダメよ」
「愛してます」
そう言って画面の中で抵抗している女性を抱き締めて、無理矢理キス
「い・・いや」
一旦は、顔を離した途端、その男はじっと奥さんの顔を見つめていると奥さんも目を潤ませている。
「本気なんです」
そして、再びキスをして、そのままベットへとシーンが続いていると横で
「ゴクリ」
生唾を飲む音がした。その音に彼女を見るとじっとテレビを見入っている。そのまま、テレビでは、キスをした二人が体を触り合っていたんだけど、俺の視線に気付いて慌てて
「わーー!!」
とビデオを消して、テープを取り出すとそこには、”団地妻 堕ちた楽園”と書かれてあった。
「何よ!!これ!!」
そう言うとビデオを置いてあるところにしまって、恵子用と書かれたビデオを出してきた。すると
「さっきのはなし・・・へへへ・・」
「内緒にしとくよ」
「もう・・」
でも心ここにあらずといったような目をしている。だから、ビデオをセットしている時にお尻を触ったら
「きゃっ!!」
驚いてビクッとした。そして、両手でお尻を隠して真っ赤な顔をして俺のじっと見つめる
「へへへ・・・」
「もうっ・・エロエロ大魔神が出てきた・・」
再生されたビデオは、カンフー映画でワンチャワンチャカワンチャカと言った感じで話が進んでいるが俺たちはそれどころではなかった。そんなBGMが流れる中、天野さんは俺をじっと見つめている。そして、俺が近づいていくとそっと目を瞑った。その瞬間だった
「ただいま!!」
お母さんがの声が玄関から聞こえてきた。びくっとなった俺たちは、慌ててテレビに向かって仲良く二人で座った。
「あれ?いないの?・・」
リビングにやってきたお母さんが俺たちを見つけた。
「あら・・いるじゃない・・・」
そう言って俺たちを見るや否や何か感づいたらしい。直ぐに娘に近づいて、肘をつついた。
「ふーん・・そうなの・・・」
「な・・何よ」
「キスしたでしょ」
ぼそりと彼女の耳元で囁いたようだったというより俺にもきこえているんだけど、次の瞬間、ボン!!と既に赤かった彼女の顔がさらに真っ赤になっていた。
「し・・してないわよ!!」
「ふーん・・・」
結局、ビデオが終わって、俺は帰ることになった。
「お邪魔しました」
するとお母さんが
「いいのよ。いつでも来てね。今度は邪魔しないから」
「おかあさん!!」
「さようなら・・・天野さん バイバイ」
そう言って、家をでようとするとお母さんが
「恵子何やっているのよ。途中まで送りなさいよ」
「え?」
「ささ・・早く!!」
空が赤くなり始めた頃、二人でしばらく無言で歩くと誰もいないところで、ふと俺の頬にキスをしてきた。
「私、佐藤君のこと好きになっちゃったみたい」
赤い夕焼けがはにかんでいる彼女の顔を真っ赤にして見せていた。
俺は思わず可愛さ100%の彼女を抱きしめてしまった。しかし、残念なことに俺の方が背が低いので俺の方が抱きしめれている感じと言った方が正しい。お互い抱きしめ合うという至福の時間と思いきや彼女はあることを思い出したのだ。
「けど・・・だめなんだよね。これって・・・」
俺の頬に彼女の涙が濡れてきた。
「友達を裏切るんだよね。これって・・」
震える彼女の抱きしめる力が強くなってきている。
「これって・・・これって・・」
「どうしたの」
「どうしたのって、私、太田さんを裏切ってしまうのよ」
「どうして?」
「どうしてって、太田さん、あなたのことが好きなよ」
「だから?」
「だからって、佐藤君、大丈夫?」
「俺、今知ったからそのこと」
「もう・・・これだから男の子は困るんだよね。私たちの中では、太田さんが佐藤君事が好きで、私たちは、佐藤君へ手を出したらイケナイって決まりがあるのよ」
「そうなんだ。でも、君が俺を好きになることはいけないことではないよね」
「何言っているのよ!!私が太田さんから貴方を奪い取ることになるのよ。そんなことできるわけないじゃない。やっぱ・・好きになるんじゃなかった・・・」
「独り占めしなければ、好きになってもいいんじゃないの。俺は、太田さん一人の物じゃないんだし」
その言葉を聞いて不思議そうな顔をしている。理解していないようだった。
「天野さんが俺のことが好きなのは事実、太田さんが俺が好きなのも事実だとしたら、俺は二人の内一人を選ばないといけないんだけど、俺にはそんなことはできない」
その言葉にシュンとなる天野さん
「私が好きになったばっかりに・・太田さんまで・・・」
彼女の肩を掴んで
「そんなにがっかりしないでよ。素直に太田さんに俺を好きだと言いなよ。そして、俺にどちらか択ぶことになるとすると俺は二人とも選んであげるから」
「どういう意味よ」
「だって、二人とも大事な人なんだから」
「・・・」
「それに、そうすると今まで通りにこんなことも出来るし」
俺は、彼女のお尻に手を回した。
「やん・・・」
慌てて少し離れると
「出たなエロエロ大魔神」
「どうする?」
すると彼女の顔に笑みがこぼれてきたんで、お返しに頬へキッスをした。
「えっ?」
「さっきのお返し、じゃぁ・・・今日はありがとう・・・バイバイ」
彼女はキスされた頬を抑えながら俺に手を振っていた。
「バイバイ・・」
こうして土曜の午後の出来事は終わってしまった。この後、天野さんはお母さんに根掘り葉掘り聞かれたのは言うまでもない。
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