異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

三十四話

 やっと帰れる。


 そう思っていたのだが、王都に戻るとすぐにライツから呼び出しがかかった。


 「ハヤトよ、先日はご苦労じゃった」


 「王様もよき出会いがあってなによりです」


 「…それがじゃな」


 「どうかなさいましたか?」


 一応ここは謁見の間なので言葉遣いには気を付けている。


 「…実はな、ミリアがな、ああ、ミリアというのは余が出会った運命の女性の名なのだが、美しくてな。それに田舎育ちとは思えんほどの優雅さじゃ…」


 ノロケが始まったよ。
 こいつ、だいぶヤラれてるな。
 国政しろ、仕事しろと言ってやりたい。


 「それで、ミリアさんがどうしたのですか?」


 「うむ、余が王であることに驚いて萎縮してしまってな。なかなか心を開いてくれん」


 「ライツ、それは努力不足です!!折角いい人と出会えたんだからもっと積極的にいくべきです!!」


 俺はまたもやドスを効かせた声で怒鳴ってしまった。
 ライツの器量が狭かったら、俺の首は5つほど転がっていることだろう。


 「…そうじゃな。余は弱気になっておった。感謝するぞ、ハヤト!」


 ライツの雰囲気が一段と明るくなった気がした。
 まぁ、威厳はだだ下がりだが…。


 なお、俺とライツの会話中、周囲は呆れた表情を崩すことはなかった。


 


 「さて、本日ハヤトを呼び出した訳じゃが…」


 えっ、さっきのが本題じゃないの?
 また厄介事がくるのかと身構えた時。


 「此度の活躍を鑑みて貴族に任じようと思うがどうじゃろ?」


 はい?


 「俺、いや自分は冒険者ですよ」


 「じゃからの、街を統治してもらおうと思うのじゃが」


 「いやいやいや、それこそ冒険者にやらせることじゃないでしょ?!」


 「うん?今も実質ほとんどの街の管理はギルドに一任しておるぞ?こちらから派遣した街の長官は監査役とは名ばかりのお飾りじゃからの」


 はははっ、と笑うライツ。
 ホント、王家はなんで続いているんだろう?


 「まぁ、余らは1000年続いておる血筋くらいしか取り柄がないからの~」


 あまり、しゃしゃり出ない王の方が国は収まるのかもしれない。
 サボっているだけとも言えるが…。


 「では、俺もお飾りということでしょうか?」


 「まぁ、その辺りは一度行ってみるがいい。現地の者との顔合わせも必要じゃろうしの」


 「…分かりました」


 俺は仕事は全て丸投げするつもりで返事した。


 「給金は出るから、冒険の足しにせい」


 「ありがとうございます!!」


 それを先に言って欲しかった。


 「余からは以上じゃが、ハヤトは何か願いはあるか?」


 願い、か。


 「では王様、境界都市での滞在権を下さい。あれがないと境界都市に入れないと聞きました」


 「…そうか、あそこへ行くか。ハヤトよ」


 「…はい」


 やけに神妙そうな顔をするライツ。


 「死ぬでないぞ。ハヤトとはまたオセロもしたいしの」 


 「…分かりました」


 なんだろう、やっぱり不能のことなんか放っておこうかな。
 ともすれば一生童貞か…。
 やっぱり、行こう、境界都市に。


 こうして決意を新たにハヤトは王城を後にする。
 境界都市の滞在権は一応三枚貰っておいた。


 

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