異世界転移〜イージーモードには棘がある〜 

夕張 タツト

二十九話

 マジでした。
 リアの言ってたことマジでした。


 神話の話に嘘はない。
 てか、嘘もどうもない。ほぼ作り話なのだから。
 それは分かっていた。
 だが、虚飾の中に隠された真実のみ拾ったところ、どうやらリアの話は真実であるようだ。
 少なくとも、論理的におかしな部分は見当たらなかった。


 あのあと、境界都市ができる前の事柄を書いた歴史書も読んだが、魔族のことは何一つ書いていなかった。


 「…境界都市、か」


 最近、何度も頭の中を流れる単語だ。
 同時に、「不能の治療」という単語も流れるが…。


 気づくと外は夜の帳に包まれようとしていた。
 係員に本を返し、図書館を出る。
 結局、一日使ってしまったが予想の遥か上をいく成果だった。
 これは広く伝えるべきかもしれないが難しいかもしれない。
 この世界の人々は多かれ少なかれ”魔族”という存在に嫌悪感を抱いている。
 俺は地球から来たし、出会った魔族といえば俺の”不能”を暴露した奴だけだしな。
 うん、その点じゃ敵意あるな!!
 よし、魔族は殲滅や!!


 長くお勉強したことで変なテンションになっているが、気にせず王都市街を歩く。
 どうしてもキョロキョロしてしまい、いかにもお上りさんだ。


 宿にたどり着くと、即座にタオルと飲み物を渡される。
 どうやら幹部クラスになるとマネージャー(男)がつくらしい。
 俺も夢見たな、後輩に飲み物渡されて、頑張って、応援してます、とか言われたかったな…。


 「ハヤト、何遠い目してるの?」


 「お、レイラか……」


 「あれ~どうしたの?」


 俺は不覚にもしばし呆然としてしまった。
 レイラは美しく着飾っていたのだ。
 ゆったりとしたシャツの上にフリルをあしらえたパーカーっぽいものを羽織っている。 
 個人的には健康的な脚があらわな短パンは高評価だ。
 全体的に落ち着いた色合いがレイラの空色の髪を映えさせている。


 「い、いや、その服買ったのか?」


 「そうだよ、王都でも人気の店で新調したんだから!」


 「に、似合ってるよ」


 「うんうん。最初に言えばなお良かったね」


 「何様だよ?」 


 「レイラちゃんだよ!」


 俺は苦笑し、軽口を交わす。
 なんやかんやでこういう会話は安らぐ。


 「そういや、セレナさんは?」


 「うん?セレナは後ろに…あっ、隠れてるよ!ちょっと連れてくるね」


 レイラが駆け足で奥に入っていく。
 あの忙しなさは変わることはないだろう。


 「セレナ、ハヤトに見せるために買ったんでしょ?」
 「そうだが…これはやはり…」
 「っもう、ここまで来て何言ってるの?!」


 向こうでガヤガヤやってるが何か問題でも起きたのだろうか。


 俺は席を立ち声の元へ向かう。


 「もう、速く行った!」


 レイラの声が聞こえたと思ったらセレナさんが飛び出してきた。
 俺はなんとかセレナさんの肩を支え、その場に踏みとどまる。
 その際、どこがとは言わないが、凝視してしまったのは仕方ないだろう。
 だって…。


 「セレナさん、それは…」


 「き、今日買ったものだ。気分にあてられ、ついな。断じて私の趣味などではないぞ」


 「…はぁ」


 俺はなんか早口で言ってるセレナさんの言葉は聞き流していた。
 いや、聞き流されていた、というべきか。
 それほどまでにこの眼の前の美女に見とれていた。
 レイラとは反対に明るい色合いをした服装だ。
 だが、それよりもブラウスのような清楚な服なのだが、肩の部分はレースになっており、胸元はVネックで、まぁ、その、セレナさんの母性が分かる。
 しかも下はスカートときた!!
 これはもう女神じゃなかろうか。
 俺は転移して初めて女神と対面したのだ。


 「…なんか言え」
 セレナさんが仏頂面で見上げてくる。


 てか、未だ抱きついたままだった。
 俺は手を離し、少し距離を取る。
 全体が見えるちょうどいい位置に立った。


 「綺麗です」


 「…そうか」


 セレナは頬を染める。
 後ろでレイラはうんうんと頷いており、お姉さん感を出している。
 ハヤトは今にも祈りを捧げそうな程心酔した表情で見とれている。
 ギルドの宿はさながらハネムーンのような空気に包まれていたという。


 それから一時間ほど経って、ハヤトたちが食事を摂っていたところ。


 「お食事中失礼します!!」


 なんか憲兵ぽいのが入ってきた。


 「…なんでしょうか?」


 今、俺は目の前の肉にかぶりつきたいのだが…。
 早くしないとレイラに全部持っていかれてしまう。


 「っは!王より明日、参上せよ、との下知が」


 「登場日は明後日のはずでは?」


 「いえ、その、王が階段を中止なさいまして…」


 「…相手は?」


 なんとなく興味本位で聞いてしまった。
 男爵とかだろうけど。


 「…財務大臣です」


 「なにやってんですか!!」


 財務大臣とは国の金庫番だ。
 裁量次第で国の荒廃が決まると言っても過言ではない。
 その会談をすっぽかすとは…。


 セレナさんといい、この国の人はもっと仕事した方がいいんじゃなかろうか。


 「とにかく、分かりました、とお伝え下さい。夜遅くお疲れ様です」


 俺はみるみる表情が落ちていった使者を労い、食事を再開する。


 「…一応聞くが、レイラ、そこにあった肉は?」


 「うん?もう食べたよ?」


 でしょうね、こんちくしょー!!


 俺は残った食べ物をかき込んだ。
 食事は戦争である。






 

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